第19話 立て!レッカイオー!
ヒノがいないので、呪いの効果が消えて、アキラたちが本来の力を出せます。
そして、アキラの世界で使っていたものも出てきます。
追記
11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。
とある世界。
とある国。
とある貴族の屋敷。
そこで身籠っている淑女。
彼女の宿している子どもこそが、ヒノをさらって転生していった一子である。
『なにこれ、胎児の状態から意識とかあるの?普通早くても生まれてからよね?』
一子は真っ暗な中で自分の状況把握だけは出来ていた。
『ヒノくんは私と一緒に生まれて双子になるのかな?幼馴染になるのかな?』
『さあー?』
ふいにヒノの声がした。
『えっ?どこどこ?』
『ここだよ』
近くに居るらしいがよくわからない。
とりあえず、双子になるのではないだろうか?
『ヒノくん、一緒に生まれたら、ずっと一緒だよ』
『えー、ヒノは、ぱあぱとまあまといっしょがいいの』
『この人がママになるのよ』
『ちがうもん。ヒノのまあまは、しゅりなっていうんだよ』
『それ、あの最高神の名前?』
『ちがうよ。あのおねえしゃんは…おなまえしらないの』
『じゃあ、だれよ』
『んとね、まおー』
びくっ!
「あっ!今、お腹の子がなんか動いたわ!」
「元気なお子のようですね」
『何よ、魔王って?本物の魔王?』
『うん。それでぱあぱがゆうしゃなの』
『なによそれ。それで、ヒノくんが生まれたの?』
『これからなのー』
『なに、予約済みだったとか?でも、私と一緒に生まれることになるからね』
『それはいやなのー』
『ふふふ。私たちは「比翼恋隣」でつながっているから、逃げられないのよ』
『ぱあぱ、まあま、たすけてー!』
アキラたちの居る世界にて。
「アキラよ!ヒノはどこへ行ったのじゃ?!実体化して町に行ったのじゃろうか?」
「ヒノがあのリュックを背負ってくれれば位置が分かるのだがな」
「どうしてわかるのじゃ?」
「夕べ、ヒノが買った服がどうなるか調べただろ」
「そうじゃったな」
夕べ、寝る前にヒノが新しい服に着替えて、それから実体化を解いて、また実体化すると服はどうなるのか?という実験をしていた。
結果は、
・ヒノが実体化を解除しても、ヒノの着ている服はそのままである。
・持っている服や荷物は、ヒノが実体化を解除した時に自分の「『異次元箱』のようなものに収納される。ヒノが実体化した時にそれを自由に取り出せる。
・異次元箱の大きさはまだわからない。
といったところだった。
そしてヒノはアキラからもらった「クマさんリュック」を持ったままだ。
あれは式神であり、外にあるならばその位置を主であるアキラに伝えてくる。
迷子防止のために持たせたのだが、ヒノの異次元箱に入っている状態では位置を知らせられない。
「それより気になるのは『魂牢(不在)』というところだ」
「どこかにいったということかの。おお、ヒノ、わらわの何が悪かったのじゃあ」
ぽろぽろと涙を流すシュリナ。
「シュリナが悪いんじゃない。これはきっと何かが起きたんだ。そのヒントはおそらく、女神が持っている」
「なんじゃと?」
「ヒノは女神に、自分の呪いを神レベルにして、俺たちと離れられないようにしてもらったと言っていただろう?」
「そうじゃな」
「それでも離れてしまうということは、神レベルを超えた存在が、呪いを無効にしたからだ」
「神を越えた存在じゃと!」
「だから、女神に聞けばわかるはず」
「だが、どうやって聞くと言うのじゃ?天界の女神と話すことなど無理じゃぞ!」
シュリナはもう落ち着いていられない。
「思い出せ。ヒノが女神のことを初めて話した時のことを」
「あっ!」
ヒノに『めがみのおばしゃん』と言われて、『おばさんじゃありませんっ!』って怒っていた。
その声がアキラとシュリナにも聞こえていた。
「じゃあ、呼ぶのじゃ。女神のおばさん出てくるのじゃ!!」
はぃ
「ん?なんじゃ?空耳かの?」
「いや、俺にも聞こえたぞ。小さい声だが」
「女神よ!ちゃんと返事をするのじゃ!」
はい。その、ごめんなさい。
「聞こえたのじゃ。しかも謝っておるじゃと?」
「これは女神が何かやらかしたな」
はい実は
最高神代理女神エリオスは、かくかくしかじかめがめがうるうると説明をした。
「ヒノが転生者にさらわれたじゃと!」
「神レベルの呪いが、最高神レベルのチートに負けてしまったということか!」
「しかも急がないと、他の世界で生まれてしまうじゃと?それはどこの世界なのじゃ?!」
「それがわかったとして、簡単に行き来できるのか?」
「それなら、どうすればいいのじゃ!」
それでお願いがあるのです。
この世界には天界につながっている塔が有ります。
それの頂上まで来ることが出来れば、最高神の祝福を授けられます。
「最高神の祝福じゃと?」
ヒノとの呪いを神レベルではなく、最高神レベルにします。
「それでは祝福ではなくて呪いじゃが、この際どっちでもいいのじゃ!それでヒノが戻るのじゃな?」
相手と貴殿方の、どちらの力がが強く働くかはわかりません。
「負けるはずはないのじゃ!アキラとわらわの大切な息子なのじゃから!」
「そうだな。よし、行こう。それでその塔はどこに?」
そ、それが
「まさかとんでもない所にあるとか言うのではないじゃろうな?」
いえ、ここから歩いて3日、飛んで8分くらいのところにあるのですが、
「歩いて3日のところを8分とか、いったいどれだけの速さで飛ぶつもりじゃ!」
「ジェット機並みだな」
魂は安定期の胎児に宿ったので、生まれるまでにあと5ヶ月くらいなのです。
「思ったより時間はあるのじゃな」
「もしそな胎児からヒノの魂を抜いたらどうなる?」
胎児は死にます。
「それは母親がかわいそうなのじゃ」
「代わりの魂を入れてあげられないのか?」
それをするには、あと1ヶ月しか猶予が有りません。
魂を入れられる期間というものがありますので。
「急がないといけないのじゃ」
「待て。さっきは『5ヶ月しかない』って意味で言わなかったか?3日で着くところなのに」
「もしかして、すごく高い塔なのかの?」
「天界に届くのならおそらくは」
いえ、エレベーターや転移の魔法陣がありますので、縦方向の移動は楽です。
「なら問題ないのじゃ」
「わかった、守護者がいるのだな?」
そうです。それがすごく強いのですが、私にはそれをどうすることもできません。
「どのくらい強いんだ?」
一番強い相手は古龍の10倍くらいと聞いています。
前の最高神が作った塔なので、私には中のことがよくわからないのです。
「古龍の10倍?そ、それはかなりきついのではないか?」
「1ヶ月か…それならなんとかなるか?」
「勝てるのかの?」
「いや、勝つんだ」
アキラのその力強い言葉に、シュリナはぎゅっと抱きつく。
「さすがわらわの旦那さまじゃ!」
塔の位置はシェルクリド帝国にあるエビール湖の真ん中にあります。
「カナデ、わかるか?」
女神とアキラとシュリナが話している間は、カナデとマーシャはその話が聞こえない。
そこでカナデは主であるアキラと「精神同調」を行い、その考えを読み取り、マーシャにもその内容を伝えていた。
だから、女神の言った等の位置もすぐに調べは付いていた。
「はい。確かに歩くと3日くらいの距離にあります」
「ではさっそく行くのじゃ!」
「準備がいる。とりあえず、女神にはまた声をかけたら返事してもらいたい」
わかりました。
「さて、するべき準備の説明をする。シェルクリド帝国はこの国の隣の国だ。だからそこに行くための用意が必要になる」
「ギルド発行の冒険者証は万国共通なので、それで国境は超えられます」
「よし。それなら主な準備は俺の方だな」
「いったい、何をするのじゃ?」
「塔の守護者に勝つための『武器』を作る」
「そんなすごい武器を作れるじゃと!いや、駄目じゃ。武器は持てぬのじゃ」
「そんなことはない」
アキラは異次元箱から剣を取り出すとそれをしっかりと握った。
「武器を持てるじゃと?!」
「呪いが一時的に阻害されている。だから武器も今だけは持てる」
「ヒノとのつながりが切られて悲しいのじゃが、今だけはそれを利用するしかないようじゃな」
悲しそうにしているシュリナの肩にアキラが手を置く。
「それでだ、シュリナは本来のレベルと魔法少女の変身アイテムのレベル上げをしてくれ。呪いが阻害されたせいでレベルは上げられるはずだ」
「わかったのじゃ!」
「マーシャも元の世界でのレベルまで戻っているだろうから、シュリナを手伝ってやってくれ」
「でも、ボクはアキラのおっさんと同じレベルだよな?」
レベル132だったマーシャはちょっと自慢げに言うが、
「いや、俺のレベルは999だ」
「カンストかよっ!本当だ、ボクのレベルが132に戻ってる」
ステータスを確認したマーシャは、改めてアキラの人外っぷりに畏れを抱いた。
「それでも古龍の10倍強い相手に勝てるかどうかはわからない。人間のレベル100と古龍のレベル100は全然違うみたいに、そいつがレベル100でも、人間のレベル1000相当かもしれないからな」
「話がすごすぎてめまいがするのじゃ。わらわがレベル上げをしても意味はあるのじゃろうか?」
「意味はある。相手が何者か分からない以上、様々な攻撃手段を持っておかないといけない。魔法少女は純粋にパワーを上げてくれるだけではなく攻撃手段が多彩だ。シュリナも十分戦力になる」
「それなら頑張るのじゃ!」
と胸を叩くシュリナ。ささやかな胸はそのこぶしをどんと受け止めた。
「カナデはレベル上げをするためにドラゴン山の設定をしてくれ。レベル100以上でも大丈夫だな?」
「はい、もちろんです。お任せください」
ぽよん。
カナデの胸はそのこぶしをやんわりと受け止めた。
「わらわと同じポーズを取るカナデに悪意を感じるのじゃが」
「おくさま、きのせいです」
「棒読みなのじゃ!」
「俺はその『武器』を3週間いや、2週間で作ってみせる。だから、それまで頼むぞ」
「わかったのじゃ!」
「まかせろ!」
「はい、アキラ様!」
打ち合せは終わったが、正直アキラは悩んでいた。
自分の世界から持ち込んだアレを使ってもいいものか。
「いや、今こそ使う時だ。だが…」
この世界できちんと稼動するのだろうか?
エネルギーは足りるのか?
なにより…
「古龍の10倍の強さの相手に勝てるだろうか?」
相手の情報が少なすぎて、まるで考えがまとまらない。
「情報?そうか、情報だ!」
アキラは筋肉ギルドに走った。
「ふうううううんっ!!!!」
アキラは背を使ってギルドの扉を押し開けて、バックダブルバイセップスのポージングで登場する。
「来たぞ、筋肉の皇帝!」
「背中にドラゴンの翼があるぞ!」
「あのケツ、岩も砕きそうだぜ!」
「「「ぐおおおおお!!」」」
「「「おおおおおお!!」」」
歓声を浴びながらアキラはギルドマスターの元に向かった。
「すまないが、頼みたいことがある」
「アキラの頼みなら、たいていの事なら聞くぜ」
ギルドマスターは既に筋肉で感じていた。
アキラが本当に困っているということに。
「実はシェルクリド帝国にあるエビール湖の真ん中にそびえるタワーに登らないといけなくなったのだが、そこにいる守護者の強さがいまいち分からない」
「ふむ」
「聞いた話では古龍の10倍くらい強いらしいが、そもそもどんな相手かもわからないんだ」
「古龍の10倍?!それはまたすごい話だな。神話を超えているんじゃないのか?」
「いや、生きる神話じゃないかな。何しろ塔の建設には神が関わっているらしい」
「なんだと?そうか。それで情報が欲しいと?」
「そうだ。何か少しでも情報が集められればと」
「水臭いぞ、アキラ。ここに居る奴らにとって、アキラは憧れであり恩人だ。アキラのためならなんでもするさ。なあ!」
「「「「おおおーーーっ!!!!」」」」
すさまじい歓声が上がった。
「すまない。助かる」
筋肉ギルドをあとにしたアキラは、ドラゴン山の火口にやってきた。
ここは噴火こそしていないが、煙が立ち上り、溶岩が見える活火山だ。
「この熱エネルギーを利用しない手は無い。あと必要なのは場所の確保だな」
火口の周りはその熱さの為かほとんど草木は茂っていない。
しかし、溶岩が噴き出したあと固まった岩が雨風で削られたためか、岩と砂利のでこぼこした場所となっていた。
「ここを均すのはそれほど手間が掛るわけではない。だが、雨風を防ぐ建物でないとあれは作れないな」
アキラの作ろうとしているもの。
それは自分の世界で使っていた兵器である。
あまりにも精密かつ巨大なため、大きな屋内が必要なのだ。
「とりあえず、岩を削るか。建物は職人を呼べば出来るか、いや、時間が惜しい」
以前自分が急がなくて仲間を助けられなかったことを思い出す。
「今度は間違えない。最速でヒノを救いに行く。俺の持つ全てのものを使ってでも」
「そこまでいうのなら、どうして一人でかかえこもうとするのじゃ?」
「えっ?!」
いつの間にかシュリナたちがアキラの近くまで来ていた。
「わらわたちに気づかぬとはアキラらしくないのじゃ」
「すまん」
「アキラよ、大きな建物が欲しいなら、どうしてカナデに頼まぬのじゃ?」
「いや、ダンジョンを変形させるのと違って、屋外に建物とか作れないだろうと思ってな」
「馬鹿者!まずは聞いてみるのじゃ。なんでも自分だけで判断するでないわ」
シュリナがぽこんとアキラの胸板を叩く。
「アキラ様、ギルザーブ様が雨の日にお休みになられる建物がこの山から連続した異空間に格納されております」
「そうか!そんなものがあるのか!」
前にここに住んでいるギルザーブが外で眠っているのを見たのと、人間体になった時の屋敷しか見ていなかった為、てっきりギルザーブの巨体が住めるような建物は無いと思い込んでいたのだ。
「ドラゴン山の好きな場所を置換して出現させられます」
「それなら、火口の側に頼む」
現れたのは巨大な犬小屋みたいな建物。
いや、扉がある龍の小屋だ。
「すごい簡素な造りだな」
「建てられる職人が居ませんでしたので、ギルザーブ様がご自身で作られました」
「おお、中は何もないのじゃ!」
シュリナはさっそく大きな扉の横についている人間用の扉を開けて中を覗いていた。
「はい、雨や雪をしのぐためだけのものですので、寝る広さだけで十分なのです」
「この大きさならあれを作ることが出来そうだ」
アキラは異次元箱から、アキラの世界から持ってきた機械類を全て取り出す。
「な、なんなんじゃこれはっ!!」
「すごいです…」
「なんだよこの量…」
シュリナ、カナデ、マーシャは驚きのあまり口を開けたままだ。
そこにあったのは、以前乗った筋肉列車とその後続車両。
そしてクレーンやショベルカーなどの様々な重機だった。
「これはいったいなんなのじゃ?」
「俺がお前の世界に転移するときに持ち出した、俺の世界の乗り物だ」
「ショベルカーだ!ボク、乗って見たかったんだ!」
マーシャの世界には列車や重機はあるらしく、驚くよりもむしろわくわくしている風だ。
「これでどうすると言うのじゃ?タワーへの持ち込みは異次元箱でできたとしても、取り出せるような大きさではあるまい?」
「いや、ダンジョンやタワーによっては中に別世界が広がっているものも多い。元最高神が作ったと言うなら、その可能性が高いと思う」
「それなら、これで中を駆け抜けるわけじゃな」
「それもだが、最大の目的はこれで強い敵を倒すことだ」
「そういえば、筋肉列車には武装があると言っておったの」
「いや、そんなものじゃない」
アキラは筋肉列車に乗ると、その上にある操縦席のスイッチを入れ、いろいろ操作した。
ビューーーーン!
ギューーーーン!
次々と後続車両に明かりがともっていく。
そして、宙に浮いて変形、そして合体を始めた。
「な、なんじゃこれは!」
変形した後続車両は手や足、体のパーツとして組み合わさり、ついには全高30mものロボットが完成した。
「すごいすごい!アニメみたいだ!」
マーシャは大興奮である。
「ゴーレムの一種みたいじゃが、頭が無いのじゃ」
「ああ、頭はこの筋肉列車なんだが、異世界の悪路に対応させたり、動力源をいろいろいじったりしたせいで、今は合体できなくなっている」
「それを合体できるようにするのじゃな?」
「そうだ。あとは動力、動くエネルギーの問題がある。なにしろ、このロボット…こういう機械の巨人を俺の世界ではロボットと言うのだが、これは物質を分解して得られるオメガエネルギーというもので動いていて、そのエネルギーがシュリナの世界では手に入らなかった」
「作ることはできないのかの?」
「物質を分解してオメガエネルギーにするための装置はある。しかし、シュリナの世界でその装置を動かすと、何だかわからないエネルギーに変わってしまうらしく、それを利用することは出来なかった」
「不思議じゃの」
「とりあえず、この世界でオメガエネルギーを作れるか調べて、無理なら電気エネルギーを利用する。魔力を電気に変えるのは難しくないのだが、これだけの物を動かすには相当なエネルギーが必要となる。そこで、この溶岩の熱で発電をして充電しておくつもりだ」
「色々わからんことが多いのじゃが、なんとかなるのじゃな」
「そうだ」
ちなみにこの溶岩発電は、熱を変換する発電機を利用するが、その電力を利用して列車などの修理をする予定でもある。
「アキラのおっちゃん、質問」
マーシャが手を上げる。
「操縦はおっちゃんだけがやるの?レベルが999もあるなら、ボクかカナデが操縦を覚えたほうがいいんじゃないの?」
「マーシャは相変わらず6歳とは思えない賢さだな」
「この力と知識は死んだ両親からもらったんだよ。だから別にボクが賢いわけじゃないからな」
と言いつつもまんざらでもない表情を浮かべるマーシャ。
「列車としての運転やちょっとした兵器ならすぐに理解できると思うが、ロボットを動かす場合の操縦については複雑で、2週間で教えられるかどうかはわからない」
「教えられる時間がないのか、覚えきれないくらい難しい、のどっちなのさ?」
「修理の合間に教えるのでは全部は教えられない。また、全部教えたとしても、2週間でマスターはできないと思うぞ」
「ふーん。マニュアルは?」
「あるにはあるが、日本語、俺の国の言葉で書いてあるぞ」
「ボクの世界には日本語もあるし、ボクはそれの読み書きもできるよ」
「なんだって?!」
驚くアキラ。
「ボクの世界は修羅の世界で、そこに住む人にとっては戦いこそが全てだ。だから、日常生活は異世界から呼び寄せた人たちに頼っていたんだよ。それで色々な文明や言葉が来たからね」
「一度マーシャの世界にも行ってみたいものだな」
「そうだね…でも今はヒノを助けることが先だよ!」
一瞬アキラの言葉で喜びかけたマーシャは、すぐに表情を切り替える。
マーシャという支配者が居なくなった自分の世界が今どうなっているか気になるが、それよりも先にヒノを救うべきだと、マーシャは思ってくれているのだ。
「かなり内容が多いぞ。大丈夫か?」
「ボクの母から受け継いだスキルは『完全記憶倉庫』。記憶するのは食事をするより簡単だよ!」
「すごいな、なんでも覚えられるのか」
「でも欠点があってね、あ、言わなくてもいいか」
「気になるのじゃ」
「仕方ないなあ。えっとね、倉庫って言うだけあって、詰め込むのは簡単だけど、出すのが面倒なんだ。だから日本語を読みたいなら、日本語の記憶を前に持ってこないとだめ」
「どういうことなんじゃ?」
シュリナにはちんぷんかんぷんである。
「うーんとね、倉庫に入れた本を読むための机があると思って。記憶している本を机の上に並べて、そこから引っ張り出して読むことが出来るんだ。だから、全部の記憶の中からあれこれちょっとずつ引き出すとか、比べるとかは苦手なんだよ」
「つまり巨大な図書館だけど、読書スペースが小さいということじゃな」
「なにそれ!すごくわかりやすいじゃないの!うわーなんかくやしいや」
自分がこの中では知識では1番だという自負があったせいか、うまく説明したシュリナに敗北感を感じるマーシャ。
「では、俺がここで作業をして、夕方にでも時間を見つけて操縦を教える。マーシャは手の空いている時にでもマニュアルも読み込んでおいて、分からないところを聞いてくれ」
「アキラ様、それならばいっそ、ここのお屋敷に住まれてはいかがですか?」
カナデが言うのは、人間体のギルザーブが住んでいた屋敷のことだ。
今は、留守番のメイドたち、カナデの妹たちが管理をしている。
「確かにそれはありがたいが、塔の情報を貰うために、時々筋肉ギルドにも顔を出したいからな」
「そんなもの、こちらへ来てもらえばいいのじゃ!」
「そうだよ!往復している時間ももったいないじゃないか。よし、ボクが頼んでくる」
マーシャはすごい勢いで山を駆け下りていった。
筋肉ギルドにて。
「これがアキラのおっさんが言っていた扉か。依頼主はこの横の扉から入ればいいんだな」
マーシャは横の扉を開けて筋肉ギルドに入った。
「うっ」
そこはすごい熱気だった。
マーシャのような幼い女の子には似つかわしくない、漢の世界だった。
「女性のビルダーって、ここにはいないのかな?」
「あらあ、可愛い子ねえん」
居たのは、女性ではなく、オネエのビルダー。
「どうしたの、お嬢ちゃん?相談事なら、あそこで聞いてもらえるわよ。あっ、大したことが無いのなら、アタシが聞いてあげてもいいけど」
すごく人の好いオネエビルダーのようだ。
「実はアキラさんのことで」
「「「「アキラだとっ!!!」」」」
ギルド内の全員がこっちを向いた。
思わず後ずさるマーシャ。
「あ、あの、塔の情報を依頼してあって、その情報を届けてほしいなって。その、今動けないところで作業しているので」
何とか言いたいことを伝えて恐る恐る見ると、
「よし!アキラはどこにいる?これから毎日、筋肉界一の俊足アギロスが伝えに行ってやるぜ!」
ビシイッ!と細マッチョな男がポージングを決める。
「他に困っていることは無いか、あったら教えてくれよ」
「そうだそうだ!俺たちはアキラのおかげで救われたんだからな!」
プロテインの力は偉大なようだ。
「それなら、別にお願いしたいことが…」
マーシャはとあるお願い事をしてみた。
「「「「「まかせろっ!!!」」」」」
ドドドドドドドドドドドド
全員が様々な得意ポーズでそれに応えた。
2週間後。
準備は整った。
シュリナはレベルが112まで上がった。前の世界に居た時よりはるかに強くなっている。
そして魔法少女変身アイテムのレベルは50まで上がり、1年間姿を変えることも可能となった。
マーシャは操縦を完全にマスターした。
カナデはレベルアップの手助けだけでなく、みんなの世話を焼きつつ、旅に必要な物資を調達していた。
そしてアキラは、
「完成だ」
ついに目的のものを完成させていた。
列車がベースであり、手足を重機のパーツに換装もできる全高40mの巨大ロボだ。
「アキラのおっさん」
「なんだ?」
「前から聞きたかったんだけど、このロボットの名前は?」
「無いから付けてくれるか?」
「ボクに嘘は通じないよ」
「なっ?」
おもわず驚きの声を上げるアキラ。
「なんてね。やっぱり嘘か。だってさ、名前を言うのが恥ずかしいから、ずっとロボットとしか言わなかったのだろ?」
「こんな子供に見抜かれるとは…」
「だって、こんなかっこいいロボットに名前が無いとかありえないし」
「そうか、それならかっこいい名前をつけてくれ」
「うん。じゃあ、列車と重機だから、重機は重機械にして、それらの王で、列車重機械王。そこから『列械王』とかどう?」
「どこかで聞いたことあるような気がするが」
脚がもがれたりしないか不安だ。
「なかなかいい響きなのじゃ」
「私も賛成です」
「それならそうしようか」
みんなが気に入ったのならそれで問題は無い。
そして情報もそろった。
あの塔は、やはり中は広大な空間が広がっており、このレッカイオーでも十分に動き回れる大きさが各層にあるらしい。
もし狭かった場合は、塔の外壁にレッカイオーを取りつかせるか、車両ごとに武器化して援護をさせることも考えていた。
だが、これで予定通りに行けそうだ。
帝国の国境までは街道を2日かけて移動する距離だがネオ・マッスルトレインで疾走し、4時間で到着する予定だ。
帝国内に入る国境検問の前後では普通の旅人のふりをして超えるしかない。
あとはなるべく人目に付かないところで高速移動し、なるべく早く湖までたどり着く予定だ。
「アキラっ!大変だっ!」
これから出発というところで、アギロスが飛び込んできた。
「どうした?」
「あの塔が、今まで誰でも自由に登れる塔だったのに、帝国が入場制限をはじめやがった!」
「なんだって!」
「なんじゃと!」
運命はそう簡単に乗り越えさせてくれそうには無かった。
お読みいただきありがとうございました。
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次回の更新は11月9日18時です。