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第17話 筋肉ギルドは漢の世界

文章の仕上げをしていたら、つい書き足して凄く長くなってしまいました。

2分割して本日は連続投稿します。


追記

11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。

「そろそろお昼ご飯にしたいのじゃ」

そうシュリナが言った時に向こうからアキラに負けない体つきの男性がやってきた。


「おっ!アキラじゃないか!」

「おう、ガイモス!」

ガイモスはこの町に入る時に世話になった戦士だ。


「「筋肉こころの友よ!!」」

ガシイッと腕と腕をクロスする2人。


「最近の調子はどうだい?」

アキラはビシッ!とフロントダブルバイセップスを決める。


「ちょっと困ったことがあってな!」

ガイモスはバシィッ!とバックダブルバイセップスで答える。


バシィ!

ビビッ!

ズズーン!

ゴゴーン!


「なるほど、それは難儀だな」

「良かったらアキラもギルドに顔を出してくれ」

「ああ、わかった」

「じゃあな、ブラザー」


ガイモスは去って行った。


「カナデさん、今のはいったい?」

「私にもわかりません。奥様?」

「わ、わらわに聞くでない」

『えっとね、ぱあぱは、きんにくで、おしゃべりできるんだってー』

「「え?」」

マーシャとカナデの声がハモる。


『すごいのー。ヒノもおぼえたいのー』

「ヒノはやらなくていいのじゃ」

思わずマッチョなヒノの姿を想像しかけて、慌てて消すシュリナ。


「待たせたな」

「アキラよ、筋肉会話(アレ)はあまり人前でやらないのではなかったのかの?」

「すまん。ところでギルドに行きたいから、先に食事に行ってきてくれるか?」

「ギルドなら一緒に行くのじゃ」

さっとアキラの側に寄るシュリナ。


「いや、いつものギルドじゃない」

「なんじゃ?」


「『筋肉ギルド』だ」


ささっと、シュリナはアキラから離れる。


「いってらっしゃいなのじゃ。さあ、わらわたちは食事に行くのじゃ」

「はーい」

「はい」

『ぱあぱ、またねー』


ヒノが笑顔で手を振り振り去っていくのを、ちょっとさびしい気持ちで見送るアキラ。


「せっかく1人なのだから、筋肉ギルドとやらを堪能してくるとしようか」

気を取り直して筋肉ギルドに向かうアキラ。




「ここか」

筋肉ギルドは大通りから2本ほど中に入ったところにある建物だ。

掲げられている看板が力こぶを作っている腕の「立体看板」のため、誰が見ても筋肉ギルドとわかる。


「入口が二つあるだと?」

だがアキラにはすぐにわかった。自分が入るべき入口は、小さな扉ではなく、大きくて左右に開く扉になっているほうだと。


「はっ!」

アキラは両手を左右の扉にかけて押す。

しかしびくともしない。


「なるほど」

アキラはさらに力を込める。

全身の筋肉に号令をかける。

ぎしぎしと扉がきしみ、ゆっくりと開いていく。


「ぬううううううううーーーーーん!!」

アキラはぐぐぐぐっと力を込める。

全身の筋肉は緊張し服を膨らませる。


「はああっ!!!」


バアーーーン!!!


扉を開ききって出たところは、玄関ではなく舞台の上だった。

筋肉ギルド内のおとこたちの目線が集まる。


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


割れるような歓声が上がる。


「何と素晴らしい体だ!ゴリラが華奢(きゃしゃ)に見えるぞ!」

「そのアゲルダ山脈の様な上腕二頭筋はいったいどうやって?」

「ただ大きい筋肉じゃない。強く、しなやかで、可動域まで考えてあるようだぞ」

「何?あの関節のあたりの特殊な筋肉の付け方はそうなのか?」

「ああ、あれこそが伝説の実戦型ビルダーが完成させたと言われる『バトライズ・マッスル』だ」

「いや、似ているが違うぞ。俺は毎日その写し絵を拝んでいるから見間違えるはずがない」

「まさか、我流だと?」

「天才だ、筋肉の天才が降臨したぞ!」


全員でアキラを大歓迎である。



「登録に来たのだが」

「ようこそ、筋肉ギルドへ!」

受付嬢ならぬ受付おとこがリラックスポーズで立って受付をしていた。


「ガイモスに聞いてきたのだが、ここはすごいな」

ギルド内に居る全員が筋肉を愛しているのが分かる。


「ああ。だが君は特に筋肉に愛されているな。見ればわかる」

「そうかもしれないな」


無くした体が戻ってきたのだから。



アキラは登録をしてから、ガイモスの言っていたことを聞いてみた。

話をしてくれたのはアキラすら惚れ惚れしそうな肉体美を持つギルドマスターだ。


「そうだ。プロテインポーションがかなりの品薄になって、手に入らないという状態でな」

「それは大変だな」

「いくら大変と言っても、君が異世界でしてきた苦労ほどではないだろうがね」


筋肉ギルドで発行される筋肉漢証(マッチョマンカード)にも冒険者証と同じく世界を救ったというZが表示される。

ただ、それが楽々と成し遂げられたものではないということを、ギルドマスターはアキラの筋肉から感じ取っていた。


『筋肉は口より己を語る』という筋肉業界の格言通りだ。


「ああ、だから俺の世界とこの前の世界でのプロテインを持っていたのだが、それも切らしてしまった」

「何か、プロテインポーションかそれに代わるものを大量に作る方法を知らないか?この町に居た作り手は、結婚して他の町に行ってしまったのだ」


この町の筋肉漢(マッチョメン)率は他の町より高い。

そのため慢性的なプロテイン不足が起こっているのだ。


「こういうものなら、多少は供給できるが」

アキラはシュリナが作ってくれたプロテインクッキーを一袋取り出した。


「ちょっといいか?」

「ああ、食べてみてくれ」

「………なんだこれは?!このプロテインの質と量!そしてなにより、うまいだと?!」

「俺の奥さんが作ったものだ」

「そうか。やはり理解のある妻の存在はかかせぬよな」

ビルダーにとって、自分の食事管理をしてもらえる伴侶の存在程ありがたいものはない。


「だが、そんなに多くは供給できないと言うことか」

「いや、できないこともない。だが、俺たちがいつまでここに居るか保証できない」

「そうだな。それなら頼みたい仕事がある」

「俺にできることなら」

「Zが4つもついている漢だ。いや、それ以前にその見事な筋肉であれば間違いは無いだろう?」

そう言ってにやりとわらうギルドマスター。


「プロテインの含有率が高く、そのまま食べても並のプロテインポーション並の成分が摂取できるという、そんな果物がなる樹がある」

「ほう」

「しかもドライフルーツにすると、プロテインの質が上級のプロテインポーション並になると」

「それは興味深い話だな」

アキラは今までに様々な所に行ったが、そんな不思議な果物の話など聞いたことは無かった。


「そこでだ、その樹をまるごと手に入れてほしいのだ」

「たやすくは手に入るまい」

「ああ。その樹を守っているのはとても強い古龍で、その果物を食べているせいもあって体は頑健で、ほとんどの攻撃が通らないそうだ」

「ほほう」

「その古龍が人間の姿になった時は、一見細身の男性になるのだが、その筋肉の強さたるや、一撃で山をも消し飛ばすと言われている。


そういえば以前に会ったギルザーブ殿の筋肉も、細身ながら素晴らしかったなとアキラは思い出していた。


「その古龍はどこにいるんだ?」

「ドラゴン山だ」

「なにっ?」


どこかで聞いたような話だったと思ったら、そのままだった。


「そこの古龍を倒す必要はない。彼は温厚で、我々がよほどの間違いをしない限り怒ることもない。だが、対等な話し相手にはなってくれないのだ。そこで、アキラの筋肉を見込んで頼む。その古龍に頼んで、樹をわけてもらってはくれぬか?古龍が必要な物が有ると言えば、できるかぎり都合しよう」

「それなら、たぶん大丈夫だ」

「おお、すごい自信だな」

「いや、そうじゃない」

「?」

「俺は今、その古龍ギルザーブ・シュタリオン殿から、ドラゴン山の管理を任されているのでな」

「なんだとっ!!!うわっ」


どがんっ!!


驚きのあまり、後ろにひっくり返って頭部を強打したギルドマスター。

しかしその太い首はびくともしていない。

そしてすぐに起き上がってきて興奮したように言う。


「すごい、すごいぞアキラ!さすが俺が見込んだ筋肉(おとこ)だ!頼む!ぜひその樹を分けてくれ!1本でいいから頼む!」

その樹は大木かつ年中大量の実を付けるため、1本でもかなりのプロテインが得られるのだ。


「わかった。こちらに持ってこられるようなら、持ってくるとしよう」

ビシイッ!とポージングで引き受ける意思を示すアキラ。


「助かるぜ!」

ズバビッと同じくポージングで感謝を伝えるギルドマスター。





アキラは筋肉ギルドを後にすると、シュリナ達が食事をしている店に向かった。


シュリナ達は食事を済ませて、デザートを食べながら談笑しているところだった。


「待たせて済まない。カナデ、実は確認したいことがあるのだが」


アキラはかくかくしかじかきんにくむきむきと説明をする。


「それはマチョの樹ですね。アカマチョ、クロマチョ、シロマチョとあり、それぞれ全く違う見た目の果物がなりますが、どれも良質のプロテインを多く含むのが特徴です」

「その樹を1本でいいからもらえるか?」

「まず、この樹は設定で増やせるのでそれぞれ1本ずつお渡ししても問題ありません」

「おお、それは助かる」

「問題は育てる環境です」


カナデはアキラにだけ見えるように調整したスクリーンを作り出す。


「マチョの樹が育つのに必要な栄養分と条件はこれだけあります。そのためにまず土壌にはこういった土と、周りにここからここまでにこういった植物を植え、さらに下の方には地下水脈が…」


なかなか育てるのが難しそうだが、一度条件をそろえたらなんとかなりそうだ。


「よし、アイテムボックスでそのエリアごとすくって持っていくとするか」

「それができるのでしたら、それが一番楽です」

「シュリナ、このあと行きたいところはあるか?」

「アキラはドラゴン山に行くのじゃな?それならわらわも行くのじゃ!」

シュリナは町を回るのをやめることになるのに、なぜか目を輝かせていた。


「丁度この変身アイテムのレベル上げをしたいと思っていた所なのじゃ!」


変身アイテムのレベルが上がれば、胸が膨らむのはわずかとひいえ、大人びた姿になれる。

それで、その姿にふさわしい化粧と衣装をして、アキラをまた驚かせてやろう。

シュリナはそう考えていたのだ。


「ところで、カナデよ耳を貸すのじゃ」

「はい、奥様何でございましょう?」

「(ぼそ)胸が大きくなる実がなる樹とかは無いのかの?」

「(ぼそ)ありません」

「即答じゃと!」

「どうしたシュリナ?」

「べ、別に何でもないのじゃ。カナデよ、よくわかったのじゃ」

シュリナは慌ててカナデから離れる。



「じゃあ、さっそく行くか」

「ボクも行かないといけないのか?」

「大丈夫だ、お前を危険な目には遭わせない」

「なめるなよ。ボクは魔法少女に変身しなくても強いんだからな」

ふんと胸を張るマーシャ。


「それなら、マーシャもギルドで登録してから行くか」

「な、な、筋肉ギルドなんて絶対嫌だぞ!」

「そっちじゃない、冒険者ギルドの方だ」

「マーシャよ、常識で考えるのじゃ」

「ちょっと勘違いしただけだっ!」

そう言ってマーシャが両腕を上下にバタバタさせるのをみると、年相応に見えて可愛らしいのだが。




ギルドで登録するときに関係の説明が面倒だったが、とりあえず親戚の子ということにしておいた。

隷属の首輪は見た目ではそれとわからないようになっているため、ただのチョーカーにしか見えないのだ。


「それではカードをえっ?」

いつも受付てくれているエリスがいつものように固まる。


「またなのじゃ」

さすがにシュリナも慣れてしまったようだ。


「ん?何か問題でもあった?」

と首をかしげるマーシャ。


「とりあえず、個室で話そう」

アキラたちが個室に入って待っていると、入ってきたのはギルドマスターだった。


「またZとか、君たちは救世主か英雄の同好会か何かか?しかもZZだぞ」

ギルドマスターも驚くのを通り越して呆れ顔だ。


「魔法少女になってあの世界を他の世界の侵略から守り、あの世界を支配して争いをやめさせたから2回なんだね」

Zの意味を教えられたマーシャはそう分析する。


「経緯はともあれ、(うらや)ましいのう。わらわのランクはなかなか上がらんのじゃ、ほれ」

と自分のカードを取り出すシュリナ。


ミラクリーナでの戦いはギルドの正式な依頼ではなかったので、ギルドマスターに一応の報告はしてあるが、特にランクが上がるような話は無かったのだ。



「ア、アキラよ!」

取り出した自分のカードを見たシュリナはわなわなと震えている。


「どうした?」

「見るのじゃ、わらわのカードを!」

「おおっ!」


そこに記されていたのは「Z」の文字。


「そうか、ミラクリーナという小さな国だったが、あそこは一つの世界だ。それを救ったからだな」

「やったのじゃ、これでアキラやヒノとおそろいなのじゃ!」

小躍りして喜ぶシュリナ。


『ヒノもつぎは、ぱあぱとおなじかずにしたいのー』

「そうじゃな、4つずつじゃな!」

「いや、そんなに世界のピンチには出くわさないと思うぞ」

と言いつつ、このメンバーならまた何かに捲込まれてそうなりかねないと思うアキラ。




「『フリルル・ブラック・スパーク』なのじゃ!」

魔法少女のシュリナがドラゴン山を登りながらモンスターを倒していく。


「『スパイダーテンタクルス』!『生気吸引エナジードレイン』!」

マーシャはアキラに言って作ってもらった、4本の鞭が合わさったようになっている武器をそれぞれ両手に持って、それを自在に操って敵を倒していた。


「マーシャさん、すごいですね」

カナデはマーシャの戦いっぷりに感心する。

「レベル132だからな。当然さ」

ちなみSランクの冒険者のレベルが最低100である。

「でも慣れない武器のせいか、いつもみたいにバシバシ仕留められないなあ」

「それはマーシャのレベルが13だからだぞ」

「え?嘘だろ、おっさん」

アキラの言葉にマーシャは自分のステータスを確認する。


マーシャ

レベル13(隷属による上限指定)


「なんだよこれっ!」

「隷属の首輪には色々なオプションが付いていてな。レベルの上限を俺たちと同じにしてある」

「何でそんな事するんだよっ!」

アキラに食って掛かるマーシャ。


「今朝説明していたように俺とシュリナはヒノと同じレベルになる。カナデも俺と同じだ」

「それでボクも巻き添えにしたのか?」

「そうだ」

「あっさり認めたっ?!」

「実のところはヒノのお手本になってもらうためかな」

「お手本?」

「マーシャはヒノと同じくらいの体つきだからな。その戦いかたを見て、ヒノが学べることは多いと思ったからだ。そのためには、同じレベルのほうが都合がいい。あまりに力が違いすぎてはヒノのお手本にならないからな」

「ボ、ボクなんかがお手本でいいのか?」

『うん、ヒノはマーシャおねえたんのうごきとか、よくみておぼえるの。さっきはこうやって、こうげきをかわしてからこうげきしてたよー』

ヒノはマーシャの真似をしてバックステップしてから、姿勢を低くして突進して槍を真横に払う。


「ヒノ、ボクと武器が違うから、そこは突く方がいい」

『わかったのー』

素直にうなずくヒノ。


「マーシャは槍も使えるのじゃな」

「ボクの世界では『武芸百般極めたるは百獣の王、ひとつ欠けたるは白虎の如し』って言って、ほとんどの武器を使いこなせるボクの事を『白虎』と呼んでたのさ」

「だからフリルルタイガーだったのじゃな」

「まあいい、わかったよ。アキラのおっさん、槍を貸してよ。その方が教えやすいからさ」

「頼むぜ先生」

アキラは異次元箱から槍を取り出すとマーシャに渡した。


「先生か。うん、そうだな。ヒノ、しっかり見て覚えろよ。わからなかったらお姉ちゃん先生が教えてやるからな」

こうしてマーシャの属性、いや役割がひとつ増えたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

次は今夜の21時に更新します。

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