表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/38

幕間 長戸アキラ 初めての異世界転移

更新実行押してませんでした。

ごめんなさいm(__)m

長戸アキラが余多(あまた)の戦いを終えて現代(・・)の日本に戻った頃。


ふいに、その足元に魔法陣が浮かぶ。


ひょい


魔法陣が現れて発動するまでコンマ数秒。

それでもアキラは最初から魔法陣が現れるとわかっていたかのように、たやすくかわしてしまう。


ヒューン


魔法陣は消えた。


ギューン


再び魔法陣がアキラの足元に現れた。


しかし、また軽いステップでそれをかわす。

すると魔法陣がアキラの方に向けて移動してくる。


「あの文字が…の部分だけ変わったら魔法陣が動くのか」


アキラは追いかけてくる魔法陣を視界に納めながら懐から形代(かたしろ)を取り出し、両手の指を縦横に走らせ、一瞬で九字を切る。

つい最近まで行っていた平安時代(・・・・)で覚えた陰陽師のスキルだ。


形代はアキラの姿になると、アキラの代わりに魔法陣に捕らえられた。


魔法陣はそこで動きをやめ、光を発して転移を発動したが、人間ではない形代に気付いたのか、転移を中止して魔法陣が消滅した。

役目を終えた形代は紙切れに戻り、アキラはそれを懐にしまう。


「おそらくまた来るな。それまでに…」

アキラは形代が魔法陣から得た情報を筋肉頭脳マッスルブレインで解析していた。


筋肉頭脳マッスルブレインとは筋肉に与えられた情報を、今までの膨大な経験を元に解析を行うことだ。


日本、地球、宇宙、時の彼方においてもその筋肉で戦い抜いてきた彼にとって、異世界の事象であっても解析にそれほどの時間は必要なかった。


「精神防御と身体束縛への対策、呪いへの対応…14式と38式と39式を纏うか。いや、これほどのエネルギーがあるのなら、いっそそれを逆手にとって…」

そして、いくつかの道具と、変わった形状の形代も取り出した。

それは子供が紙遊びで作るような、何人もの紙の人型がずらりと手を繋いでいるものだった。




とある異世界の王国にて。


王はずっと召喚の間で待たされていた。


「宮廷魔導師ゲルビデスよ、いつになったら勇者は召喚できるのだ?」

「王よ、それが、なかなか勇者が捕まらないのです」

出っ歯で腹黒そうな風貌の宮廷魔術師は作業の手を止めずに答える。


「今までの勇者召喚に、そのような障害があったという伝承は無いぞ」

王はたっぷり蓄えたひげをいじりながら、椅子に座っている。

本当はすぐ来るはずであったため、立って待ち構えているつもりだったのだが、なかなか出てこないので椅子を持ってこさせたのだ。


「約100年に1度の魔王国からの宣戦布告。召喚された勇者によって人間の国が勝つのが今までの常だが、今回は二度と魔王国が宣戦布告など出来ぬよう、魔族を殲滅できる力の持ち主を呼べと命じたはず。だが、どうしてこんなに時間がかかるのだ?」

「かの者はその世界で最強ゆえに、異世界転移の魔法陣をも察知してしまうのでしょう。しかし、ご心配はいりませぬ。よし、捕まえた!」

目の前の魔法陣が光り、ゲルビデスはそこに勇者が現れるのを待つ。


ギューーンんん


光が収まっていき、魔法陣が暗い状態に戻る。


「違うだと?」

「どうした?ゲルビデス?」

「今度は身代わりを掴まされましたので、こちらへ引き込む前に転移を解除しました」


異世界転移でこちらの世界に連れてくる魔法陣には莫大な魔力が投じてある。

それは前の大戦から100年近くかけて、「極魔晶石」に溜められたエネルギーだ。


異世界転移儀式を行う際に、そのエネルギーでこちらに連れてくるだけでなく、チート能力も付加するようになっている。

ただ、どんなチート能力になるかは、勇者しだいでまったくわからない。

しかし、戦いの役に立つことだけは間違いないだろう。

今迄がそうだったのだから。


故にうっかり身代わりを呼び込んでしまってはそのエネルギーが無駄になり儀式が台無しになってしまう。


もっともこちらの世界に呼び出さねば全てのエネルギーを使うことは無いので、魔法陣の再起動にはゲルビデスの魔力だけで事足りる。


そして今回の魔法陣はいつもの勇者召喚のものとは違っていた。


極魔晶石のエネルギーが溜まる前に急な魔族の侵攻が有った時、すぐそれなりの勇者を召喚できるように、エネルギーチャージ済みの「準極魔晶石」が常備してあり、今回の召喚の儀式ではそれも同時に使っているのだ。


それによりこの魔法陣は勇者を隷属させ、いかなる命令にも従わせることができるといった付加機能を付けた凶悪なものとなっていた。

それだけに失敗は許されない。


「今度こそ…よし…本人だ!来ます!」

「よし!」

王は立ち上がる。


魔法陣が最高の輝きを発し、その光がおさまると、そこには筋肉の化身と思えるような男が立っていた。


ボディビルダーにふさわしいポージングを決めて。


「よ、良く来た、勇者よ」

一瞬気圧されたゲルビデスだが、予定通りの言葉を言う。

「この国は、いや人間の国全ては魔王の国の侵略にさらされておる!その危機を救うための勇者として、お前は呼ばれたのだ!」

「我はこの国を治めるセディヌオス3世。お前の名前は何という?」


「長門アキラだ」

アキラはポージングをやめてリラックスポーズになるがが、そのは変わらない。


「王の御前であるぞ、ひかえぬか!」

ゲルビデスがすごむが、アキラは気にも留めない。


「王か。先に名前を名乗ったから思っていたよりマシなようだが、そもそも俺が誰だか知っているのか?」

「何?」

「俺は筋肉皇帝マッスルカイザー長門アキラ。皇帝が王に平伏すると思っているのか?」

「なっ?!皇帝だと?!」

「そんなっ!」

王とゲルビデスは驚愕した。

ゲルビデスは横に立っている自分の補佐官の女性を見た。

彼女は嘘を見分けるスキルを持っている。

その彼女は静かに頷いた。


「事実の様です」

「なんと…」


実はアキラが皇帝というのは、地下レスリングで無敗故につけられた愛称であり、実際の血筋は皇帝どころか高貴な家柄ですらない。

しかし、嘘はついていない。


アキラは目上の相手に対する敬意は持ち合わせているが、こんなこと・・・・・を企んだ奴らに敬意を払う気は無かった。


「もしかしてかの世界で最強と言うのは、軍を率いて最強という意味かもしれませぬ」

「それではこの者一人では意味がないではないか!」

「その心配はない。俺は一人で十分強い」


ビシッ!!


アキラは再び力強いポージングを決めた。

その圧は周りの城の壁を震わすほどだ。


「な、なるほど。それならば、魔王の国を滅ぼしてはもらえぬか?」

ゲルビデスは相手が皇帝ということもあり、少しへりくだった言い方になっているようだ。


「国を滅ぼす?魔王を倒せばそれでいいのではないか?」

「魔王は100年ごとに人間の国を侵略しにくる!それを止めさせるためには、かの国を根絶やしにしなければならんのだ!」

ゲルビデスはそう力説する。


「それなら魔王の一族だけでもいいのだろう?そうか、魔族を滅ぼして、その土地を奪う気でいるのだな?」

「そんなことは…」

「俺に嘘は通じない」

ギンッ!と鋭い視線で睨みつけられ、腰を抜かすゲルビデス。


「く、おのれ!ならば無理にでも従わせるまで!『ひざまけ』!」

ゲルビデスはアキラにそう命じるが、アキラは微動だにしない。


「馬鹿な?この魔法陣で召喚されれば、精神の支配と肉体の束縛と魂への呪いの効果で命令に逆らえないはず!」

「愚かな。これを見るがいい」


アキラの髪の毛の中から、太い腕の後ろから、厚い胸板を包む服の胸元から、それぞれ5センチから10センチほどの小人が3人出てきた。


これがアキラが持つ九十九の式神であり、それぞれが持つ能力でアキラの精神、肉体、魂を守っていたのだ。


「精霊だと?それで身を守っただと?」

「守っていただけではない。その大きなエネルギーを能力の付与にも転換させてもらった」

「なんだと!」


アキラは束縛や呪いを防ぐだけではせっかくのエネルギーが無駄になると気づき、自分にチート能力を付加させるものに転換したのだ。


「おかげでチート能力は2つ手に入ったようだな」

「い、いったいどんな恐ろしい能力が…」

「補佐官!すぐに解析しろ!」


アキラを見ていた補佐官がアキラをじっと見る。


「武器を変形させる能力と、異次元箱ディメンションボックスの大型化です」

「それだけか?」

「はい」

「その程度なら、恐れるに足りんわ!近衛兵!」

ゲルビデスに呼ばれて王の周りにいた兵だけでなく、扉からも大勢の兵が広間に入ってくる。


「こやつを捕らえよ!隷属の首輪を着けて言うことを聞かせてくれるわ」

「王、そいつはこんなこと言っているが、同じ考えと思っていいのだな?」

「わ、わしは魔族の国を手に入れるまでは考えてはおらなんだ。だ、だがゲルビデスの言うことに間違いは無いはず。これは人間の国のためなのだ」

「情けない王だな」

そしてアキラは右手をゆっくりと上げた。


「何かする気だ!させるな!」

「別にモーションはいらんのだがな。雰囲気、いや様式美だ」


パチン


アキラが指を鳴らすと、周囲のものが全て消えた。

城が、城にある全ての物が、城壁すら消えた。

当然、中に居た者たちは宙に浮かぶことになる。


「な、なんじゃとーっ!」

「王!『浮遊レービテーション』!」

かろうじてゲルビデスが王の落下を食い止めた。

近衛兵の中には身体能力で着地しようとする者や、魔法を使って着地しようとする者や、仲間に助けてもらおうとする者がいた。


しかし、城に仕える者の多くはそういった能力を持たない。

ただ、悲鳴を上げて下に落ちていく。


「はっ!」


アキラは文字通り宙を蹴ると、誰よりも早く着地し、地面に向けて腕を振り下ろした。


「『71式巌砂蟲(がんさちゅう)』重力を喰らえ!」

アキラは式神の力を使って辺りの重力を軽くし、全員がゆっくりと着地するように仕向ける。


「た、助かった」

「なんて力だ」

「これが異世界の勇者…」

「いや、異世界の皇帝らしい」

「なんと!王より上の存在ではないか!」


城の者たちはアキラを畏れ、ゲルビデスも心が折れてしまっていた。


「わしの城は?わしの城は何処にいったのじゃ!」

「異次元箱に格納しただけだ」

「なんだと!」


異次元箱は多くの人が持っているが、その大きさはごく小さい。

リュックくらいの大きさでも大きいと言われ、タンス位も有れば驚かれるほうだ。


しかし王城丸ごととかはありえない。

そもそも異次元箱は性質的に、出入り口は自分の手の届く範囲にしか作れないはず。

だがチート能力となったことで、その条件が緩和されたのだろう。


「さて、話を続けるか」

「すまぬ!悪かった!魔族を全て滅ぼそうなどとは考えぬ!だが、これから魔族に攻められないようにだけはなんとかしたいのだ!」

王は地面に頭を擦り付けてアキラに懇願した。


「王!くっ、この通りだ!」

ゲルビデスも頭を地面につけてアキラに頼む。

王城の全ての者がアキラの前にひれ伏して懇願した。


「最初からそのように言えば良かったものを」


アキラは全員を王城の跡地から退避させると、そこに全てのものを元通りに戻した。


「さて、この大きさなら、あちらの世界のもの・・・・・・・・・も半分は入るな」

アキラはそう言うと、自分の体と元の世界を繋いでいる式神『83式連鎖凧(れんさだこ)』を実体化させた。

この式神が転移前に取り出していた紙細工のようなものの正体で、短時間ではあるが時空間を繋いだままにすることができる式神だ。


そしてアキラは元の世界に置いてある自分の持ち物を次々と異次元箱に格納していった。

もっとも、大きすぎるものや転移前の位置から離れているものについては無理だったが。





「では、行ってくる」

アキラは改めて勇者として王国を出発した。


「他の国も勇者の仲間になるべき者たちを召喚していると思います。普通は彼らとパーティを組むのですが」

「そいつらは全部お役御免だ。勇者パーティは俺一人でいい。そして、責任を取るのも俺一人だ」


アキラはあのあと、この世界の情勢を聞いた上で、どうやってこれから戦争が起こらないようにするかを語っていた。


人間と魔族の間の全ての争いを止めさせ、この戦争を始めた魔王と人間や魔族を無意味に殺した者だけを誅する。

そしてその役割を担った自分自身が最後にこの世界から消えると語ったのだ。


「一人に全て背負わせてしまい申し訳ない」

あれほど魔族を滅ぼすべしと言っていたゲルビデスすらも改心してそう言うほどだった。


「何を言うか。大変なのは戦争が終わってからだ。人間と魔族が仲良くやっていけるよう人間たちの説得を頼むぞ。俺も魔族を説得して回る。まかせろ!」


バシイッ!


アキラがダブルバイセップスのポージングを行った。


「「「おお!」」」

アキラの頼もしい言葉とポージングに城の者たちが感嘆の声を上げる。


「これを」

王はアキラに英雄の証、聖剣エクスカリバーを託した。

歴代の勇者が使ったものとされ、勇者であっても適格者だと認められなければ鞘から抜けない。


だが、アキラがその剣を受けとると、鞘が勝手に落ちてしまった。


「こ、こんなことがあろうとは」

驚く王。


『勇者アキラよ、我は汝に忠誠を誓うものなり』

「忠誠は要らない。共に戦うのであれば、お前は友だ」

『おお、友よ!共に世界を救おう!』

エクスカリバーから喜びの声が(あふ)れる。


「エクスカリバーの声が聞こえるだと?」

「あれは勇者の心にしか話しかけないのではなかったのか?」

「何という規格外の勇者。この戦争を終わらせ、これからの戦争を無くせるのはアキラ様しかない」

城兵たちはますますアキラに心酔していった。


「アキラ殿」

最後にゲルビデスが聞いてくる。


「なぜ、自ら魔法陣に飛び込み、我々の召喚に応えてくださったのですか?」

ゲルビデスの疑問はもっともだ。

魔法陣を避けることも防ぐことも壊すこともできるアキラが、わざわざ未知の異世界に来る理由がわからない。


「理由ならいくつもある。元ヒーローとして困っている人々を放ってはおけない。異世界という場所に興味があった。そして」


アキラはゆっくりと両腕を上げる。


「筋肉の素晴らしさを広め、異世界の筋肉漢(とも)たちに出会うためだ」


ビシッイイイイッ!


アキラは全身の筋肉を震わせてポーズを取る。


「お、俺も筋肉を付けてみようかな」

「俺も」「俺も」

その筋肉に惚れた王城の兵たちが口々にそう言う。


「そうか!それならばこれをやろう」

アキラは異次元箱から、一冊の本を取り出す。


「これは俺の国の文字が読めない人に筋肉の鍛え方を教えるために作った『筋肉創造図説(マッスルビルダーイラストレーションズ)』だ」

「いただいてもよろしいのか?」

騎士隊長が代表してそれを受け取りに来る


「ああ」

ドサドサドサ


「とりあえず百冊渡そう。役立ててくれ」

「有難うございます!」

騎士隊長は深々と頭を下げた。


「じゃあな」

そしてアキラは旅立った。

振り返らなかったが、その広く力強い背中は王国の人々に勇気と希望を与えていた。





アキラはまず最初に、魔族に攻められているという人間の街を目指した。


そして移動しながら、手持ちのアイテムやスキルがきちんと使えるかどうかのチェックも行っていた。


「元の世界から色々持ってこられたが、この世界は式神が活動するために必要なエネルギーがほぼないのか。ものによっては一度使うとしばらく使えないな」

九十九の式神は九十九神つくもがみになぞらえて、全て特別な物に封じてある。


そして今までに訪れた場所で手に入れたものや、自作の乗り物などがこの世界でどのように使えるか、どのように使うべきかを考えていた。


「オメガエネルギー変換器もきちんと機能しないか」

この装置が働かなくては、アキラの世界から持ってきた乗り物なども動かせない。


「できるかぎりこの世界のアイテムとこの世界で得た能力で戦うとしよう。それがこの世界にあまりひずみを生まない方法だな。だが」


アキラは異次元箱からチェーンの切れたペンダントを取り出して眺める。


「もう二度と過ちは犯さない。必要であれば俺の力を全て使って、今度こそ」



「大切なものを、失ってはならないものを、全て守ってみせる」


アキラは異星の友の形見を握りしめ、そう誓うのだった。

お読みいただきありがとうございました。

次回は11月4日18時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ