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幕間 アキラ、火炎ライジャーイエローとなる

これは長門アキラが自分の居た世界で、戦士隊と呼ばれるヒーローであった時の話です。


アキラがライジャーイエローになるまでと、戦士隊内部の戦いの記録。


幕間なのでかなり急ぎ足ですが、いつもより長めです。


地下プロレスで33歳まで全戦無敗を誇り帝王と呼ばれた男、マッスルカイザー長門アキラは、まだ引退を考えてはいなかった。


地下プロレスはただのショーではない。

億単位の金が動くギャンブルであり、時には企業間、組織間、国家間のもめ事を託されて戦うことすらあった。


「アキラよ、よくやってくれた!これで世界情勢はしばらく安泰だろう」

「総理!こんな汗臭い控室までよくいらしてくださいました」

「何を言うか。私もジムで汗を流すのが日課なのだぞ。このくらいの汗のにおいなど」

「総理の汗は国の為の汗ではありませんか」

「いや、健康維持とボケ防止のためだ」

「実際のところは、選挙に出るたびに『世界一強い首脳』と言われ続けるためなのでしょう?」

「違いない。はっはっは」


そう、現在の総理大臣及川おいかわ直礼衛門すぐれもんは79歳という高齢でありながら、武術をたしなみ、その肉体は衰えを見せていなかった。

身長も183センチあり、他国の首脳と並んでもまったく見劣りしない。


「ところで、この後、打ち上げに行かないか?」

「総理、よろしいのですか?」

「はっはっは。この日本を、ひいては世界をも救った英雄が何を遠慮するか」

「それではお言葉に甘えまして」

「うむ、すごく良い肉料理屋があってな、そこの赤身肉が最高なのだ。やはりビルダーは赤身肉だろう?」

「さすが、わかってらっしゃる」

「はっはっは。では行こうか」



地下プロレス闘技場のある新国立競技場の地下から出てきたアキラと総理は二人きりだった。


「総理?SPはどうされました?」

「何を言う、お前ほどの男が付いていて、何を恐れるか」

「さすがに私も弾丸は防げませんが」

「ほう、今日のエレファントマスクとの戦いで客席からの狙撃(・・・・・・・)をかわしてみせたお主がそれを言うか?」

「気づいておられましたか」

「まあ、地下プロレスに卑怯な妨害は付き物だからな。そのくらい察知できるようになるのだろうが。とりあえず、店の外にはSPを配置しておくから大丈夫だ。」

「わかりました。総理の体はこのアキラめがお守りいたします」

「よし!では、うまい肉とおまえの筋肉をさかなに飲もうか」

「はっ!」


2人きりだが、気の合う者同士の楽しい打ち上げとなるはずだった。

店に着いてオーダーが済んだとき、アキラは感じた(・・・)


「これは?」

「どうした?」

「避けようがない遠距離攻撃だと?総理!これはミサイルかもしれません!」

「なんだとっ!」


アキラの筋肉パッシブスキル「ムキムキ」は狙撃を感知する。

しかし、これほど絶望的な感覚は初めてだった。


「どこまで行けばいい?行ける限界は、地下、ビルの屋上、いや、この近くにはたしかあれがっ!」

「何かあるのか?」

「総理!失礼します!」


アキラは総理を肩にかつぎ、店を飛び出す。

ちなみに総理はこの騒動の中でもしっかり代金を机に残していた。


「待て!止まれ!」

SPがアキラを押しとどめようとする。

「お前たち、まだ連絡は来ていないのか?」

「総理、いったい何の事ですか?」


ビービービービー


突然総理とSPの持つ携帯端末が大きな音を上げる。


「この鳴り方は、ミサイル攻撃!」

「やはりな」


既にアキラは走り出していた。

慌ててSPも付いてくる。

少し遅れて、周囲の人々の携帯端末も警報音を鳴らし、パニックに陥っている。


「着弾予測地点は、ここ?!しかも15発?!」

「迎撃しきれないかもしれん」

「俺のムキムキ(カン)では無理だ。着弾まで時間がない。だから帝都銀行に行く」

「一体何のためにですか?」

「そうか。あそこにはアジア1の巨大金庫が有り、核攻撃にも耐えると言われているな」

総理はすぐに気づいたようだ。


「だが、老い先短いわしよりも、お前たちや市民が避難した方が、うっ!」

アキラに当て身をくらわされて、総理は気を失う。


「すみませんが、今の日本に必要なのはあなたなのですよ」


帝都銀行に入ると、すでに行員と居合わせた客たちは金庫の中に入っているところだった。

「人数に余裕はあるのか?総理を頼みたい!」

「総理だと?!」

「大丈夫です、あと5人なら!」

「よし、SPが4人で丁度だな」

「丁度じゃありません!」

「アキラ様こそ、中に入るべきです」

「何を言うか、人の命の重さは同じだ」

「それなら」

「だが俺の体だとお前ら2人分だ。だからお前たちが避難しろ」

「アキラ様!」

「総理を、日本を、頼んだぞ」


そう言って、アキラは外に飛び出した。


「やれることはほとんどない。それならせめて生き残る努力をしてみるか」






やがて自衛隊の迎撃をかいくぐったミサイルは東京に着弾した。





1週間後。


「信じられないですね」

「ええ、まさかあの地獄で生きているとは」

「とは言え、もう死にかけですが」

「総理たっての願いです。絶対に死なせてはいけません」

「わかっています。おそらく彼は我々の組織になくてはならない存在になるはず」

地球・・を侵略から守る、我々『地球戦士隊テラファイターズ』にね」


ん?


「いや、その名前やめようって言ったじゃないですか」

「戦士隊だから、ファイターズだよな?」

「まんま過ぎるじゃないですか」

「素直になんたらレンジャーって言ったほうが理解されやすくありません?」

「いや、個人でも戦い抜けるライダー的要素もあってだな」


んん?


「地球を守るって言っても、賛同している国はまだ少しですよ」

「仕方ない、宇宙からの攻撃を受けたのは日本だけだからな。国によっては地球外の相手と手を結ぶことを考えているところも多いだろう」

「いきなりミサイル打ち込むような相手に何を期待しているんでしょうね?」


俺は…?


「ともあれ、今は日本が中心なのですから、日本独自の名前でいいじゃないですか」

「よし、ここは間を取って『ライジャー』でどうでしょう?」

「日本の戦士隊、『サンライジャー』か」

「うん、いいんじゃないか?」

「いや、『サムライジャー』って方法もあるぞ」

「『サンライジャー』のサンは太陽かもしれないけど、3人っぽいな」

「でもこの筋肉からして、侍じゃないだろ?」

「じゃあ、真っ赤に燃える『火炎ライジャー』は?

「わりとそれっぽく聞こえるな」

「赤ライジャー、紅ライジャー、朱ライジャー、梅ライジャー」

「やめろ、赤系ばかりじゃないか」

「せめて炎色反応言えよ」

「それだ!」


いったいどうして…?


「おい、脳波があるぞ!」

「いつの間に?」

「壊れた体のほとんどを機械化してはいるが、まだ心肺部分しか動いていないはずだぞ」

「なんて生命力だ」


そしてアキラはやっと言葉を口にした。

「俺は、生きているのか?」


「ああ、生きている。ただし、体の90%くらいとんでも無いことになっていたから、我々の技術をつぎ込んで、機械の体に置き換えている」

「まだ調整中で動けないけどな」

「そう…か。なら、調整が済んだら起こしてくれ」


そしてアキラは再び眠りについた。


「すごいな、大物だな」

「これは総理が惚れるわけだ」

「よし、6人目に回す予定だったオプション、こっちに使っていいか?」

「どうせまだ4人しか集まっていないんだ。遠慮するな」





そして1か月後。


アキラは退院した。

厳密に言えば、研究施設から出してもらえたと言うべきだろう。


「新しい体にも少し慣れてきたな」

アキラは以前よりもはるかに細くなった体にグイグイと力を込める。

しかし、機械なので力こぶが出来るわけでもないし、鍛えることもできない。


「いわゆるサイボーグの様なものだから、生身の部分がほとんどないから換装しやすいのは長所だけどな」

アキラの様子を見て、そのボディにフォローを入れるドクターコッペ。

童顔だが45歳の男性研究員だ。


「それで、司令官が俺に話があると?」

「ああ、指令室に連れてこいとのことだ」

そしてドクターコッペはアキラを指令室に案内する。


指令室には司令官と2人の男性、1人の女性が居た。


「良く来てくれた。私が『火炎ライジャー戦士隊』を指揮する司令官、西郷北斗だ」

彼は40歳くらいだが、エリート出身かつ歴戦の猛者の様な風格を漂わせていた。


「俺は『火炎ライジャー戦士隊』のライジャーレッドこと、鷲野わしの隼人はやと。リーダーを務めさせてもらう」

25歳くらいの血気盛んそうな青年がそう言う。


「ぼくは同じくライジャーブルーこと、崎原さきはら栄太えいた。サブリーダーだよ」

レッドと同じくらいの年齢に見えるが、落ち着いた雰囲気の青年がそう言う。


最後は20歳くらいのなかなか綺麗な女性が自己紹介してきた。


「私はライジャーピンクこと宝来ほうらい瑠璃るり。お茶汲みよ」


思わずアキラはぷっと吹き出した。


「あら、怖そうな顔をしているけど、笑うのね」

驚いたような顔をするピンク。


「だろ?見た目で判断したらだめなのさ」

してやったりの顔をしているブルー。

どうやらお茶汲みなどと冗談を言ったのは彼の入れ知恵らしい。


「いらんことをするな。司令官の前だぞ」

レッドは不機嫌そうな顔をしている。


「君には、我々の組織に入ってほしい。できれば戦士隊の方に入ってもらいたいのだが、どうだろうか?」

「戦士隊でなければ?」

「研究の手伝いをしてもらうとか、物資の調達や事務仕事、この基地でやる仕事はたくさんある」

「研究者と兼任できるなら引き受けよう」

アキラの言葉にレッドが再び不機嫌そうな顔になる。


「おいおい、兵器研究の手伝いだぞ。元プロレスラーがやれるわけないだろ」

「いや、彼はこの1ヶ月で研究者に値すると認められた。この前渡した『シュート・ブラスター』は彼が考案したものだ」

「何だって?!」

レッドは「こいつがあれを?」といった目線でアキラを見る。


「動き回れるようになるまで研究所から出れなかったからな。色々見て覚えさせてもらった」

「理解力が尋常じゃないからな。私としては、アキラくんには研究室専任になってほしいくらいですよ」

ドクターコッペはそう言ってアキラのほうを見て微笑む。


「それではアキラくん。君には戦士隊のイエローをしてもらう」

「他の色も選べるのか?」

「おい!レッドは俺のものだぞ!」

もうすでに嫌な奴丸出しのレッドがアキラをにらみつける。


「聞いてみただけだから心配するな」

「おい!リーダーに向かってその口のきき方はなんだよ!」

確かにリーダーではあるが、年齢的にはアキラが上なので、どっちもどっちかもしれない。


「善処する」

「何上から目線なんだよ?!司令官!今から変身ブレス渡すのだろう?それなら、模擬戦出来るよな?」

「かまわんが、武器は?」

「ショック系の武器だけだ」

「なら許可する。アキラ、これがお前の変身ブレスだ」


アキラは司令官から変身用のアイテムであるブレスレット、というか時計のようなものを受け取る。


「コッペ、これは研究室で見たものと同じか」

「でもバージョンは少し古い4.08よ」

「わかった」

アキラはブレスを装着すると、演習センターに向かう。



演習センターは地下でありながら、東京ドームのグラウンドの半分くらいの広さが有り、実戦的な戦闘訓練ができるようになっている。



「行くぜ!『音速変身ソニックチェンジ』!」

レッドは最速で変身するモードを利用してライジャーレッドになると、素早くアキラに向かって突進しながら剣を装備する。


「くらえショックブレード!」

「レッド!アキラはまだ変身していないぞ!」

ブルーは咎めたが、レッドは止まらない。


「敵は待ってくれないぜ!」

「その通りだ。『部分変身パーツチェンジ』」

アキラは慌てずに体の一部だけの変身を行った。

変わったのは右腕だけ。

しかし、レッドが飛び込んでくるのに間に合わせるには十分だった。


「う…ご…」


アキラはレッドの剣をかわしざま、ショック効果を付けた右手をレッドの脇腹に叩きこんでいた。


「ドクターコッペ。レッドの変身ブレスはバージョン4.12だが、このように脇腹の装甲が甘い。特に音速変身では装甲がより薄くなる」

「なるほど」

「司令官、普段は研究室に籠っていて良いだろうか?」

「かまわない」

「ま、待て…」

膝をついたレッドが必死に立ち上がろうとするが、動けない。


「ショック効果は半分にしたが、あと10分は自由に動けないはずだ。もしリベンジしたいなら、研究が終わってからにしてくれ」


アキラはそういうと、ドクターコッペと一緒に立ち去って行った。


「(総理から聞いていたが、恐ろしい傑物だ。性格に難があるレッドが彼との関わりで何か変わってくれればよいが)」

そう思う司令官であった。





あの日、東京を襲ったミサイルは、宇宙から来たものだった。

そして月に基地を構えた異星人たちは、日本に一方的に宣戦布告と降伏勧告をした。


地球の他の国々は静観していた。

アメリカは何かあったら助けると言っていたが、世論に負けてアメリカ軍を日本から引き上げてしまった。


そこで近隣の国が日本に侵攻しようとしたが、宣戦布告をされている日本を横取りして異星人に恨まれるのを畏れ、異星人と協定を結ぼうとしていた。


日本はひそかに準備していた『戦士隊秘密研究所』を基地化して本格稼働。

自衛隊全てを『戦士隊』として最新の変身装備や兵器を与え、日本を守らせることとなった。

その防衛力は、異星人の主力を押し返すほどであった。


その中でも選ばれたエリートだけで組織された『火炎ライジャー戦士隊』は最終的に月の基地へ行き、敵を殲滅するのが目的だ。

いかに「戦わない国家」である日本であっても、終わらない戦争をすることはできない。


「話し合えばわかるはずです」

「そーだそーだ。平和が一番」

「日本は戦争をしてはいけない」

「9条を守れ」

などという意見もあったが、そもそも問答無用で首都にミサイルを撃ち込んでからの宣戦布告をする相手だ。


いかに穏やかな日本人といえども、怒り心頭であり、地球外の相手に限定して、攻めていくことが可能となった。



そして時は流れる。

火炎ライジャー戦士隊は、数多くの異星人を撃退していた。


いくつかの巨大ロボが完成し、それらを搭載して月に行くための戦艦なども完成しつつあった。



そして月での決戦が迫った頃。


「アキラ、これ食べる?」

ピンクはいつものようにアキラの元にカレーを持ってきた。


「またカレーか」

「好きなんでしょ?」

「イエローだから食べているだけだ」

「へへ、ありがと」


アキラは別にカレーが大好きというわけではないし、黄色いヒーローが全てカレー好きでもないのだが、ピンク唯一の得意料理であり、レッドとブルー、あとから増えた仲間たちが食べ飽きてしまったので、いつもアキラが食べるようになったのだ。


「アキラさん、かなり体つきが戻ってきましたね」

カレーを食べているアキラの体を眺めてピンクが言う。

アキラが元の体に近くなるように、自ら体のパーツを開発して換装しているからだ。


「俺の元の体つきを知っているのか?」

「えへへ、地下プロレスの映像、手に入っちゃいました」

そう簡単に手に入れられるものではないはずだが、こういう組織に居る以上、伝手つてが有ったのだろう。


「アキラさん、すごく強くて、かっこよかったです!」

「そうか」

「それにいつも優しいし。あの、私と恋人になりません?」

「断る」

「即答なのっ?!」

「俺の体はほとんどサイボーグだ。俺は恋人とは添い遂げるものだと思っているから、今の自分の体ではそれが出来る気がしない」

「真面目なんだー」

ピンクはフラれたというのに、少しも悲しそうな顔をしていない。


「でも、その理由なら、そのうち何とかなるかな?」

「どういうことだ?」

「アキラの元の体、崩れたビルの下敷きになって、すごい熱を浴びたのに、ほとんどの体組織が無事だったのよ」

「そうか」

「それでね、ドクターコッペとは別に、ドクターコルネがそれを研究してて、そろそろ完成するらしいの」

「何がだ?」


「アキラの元の体のクローン」


「何?!」

さすがのアキラもこれには驚いた。


「途中経過を教えてもらったけど、そのアキラの今の体よりも、今の私たちが変身して着けているスーツよりも、ずっと強い体なんだって。すごいよね!」

「それをどうする気なんだ?」

「もちろんアキラに返すのよ。今のアキラに残っている生身の部分と、新しい体を融合させるのは難しすぎるそうだから、意識だけを新しい体に転送させるとか」

「そんなことができるのか?」

「前に撃ち落とした異星人の船の残骸から見つかった技術だけどね」

「そうか…」


あの体が帰ってくる。

それなら、再びあの筋肉を取り戻すこともできるだろう。

アキラはグッと手を握りしめた。


「へへ、うれしそうね」

「ああ、そうだな。筋肉は俺にとっての最高の相棒だからな」

「それでね、アキラが元の体になったら、その時こそ私と」


ビーッ!ビーッ!ビーッ!


基地内に警報音が鳴り響く。


部屋のスクリーンに司令官の姿が映し出される。


「どうした?」

「すまない、イエロー、ピンク」

司令官は口から血を流していた。


「私の見込み違いだった。最近はリーダーとしての自覚も出て、良いチームになっていたと思っていたのだが」


ドガッ!


司令官が横に吹き飛ばされ、そこに映し出されたのはアキラ。

いや、生身だった頃のアキラだった。


「まさか、アキラの新しい体?」

愕然とするピンク。


「へへっ、分かるか?俺だ。レッドだ。おい、アキラ。俺と勝負しろ。そして死ね」

「何だと?」

「お前はその体のおかげで強かった。俺すら凌ぐほどにな。しかし今、俺は最強の肉体を手に入れた。お前の本当の体を、スーツをも凌ぐ、この鋼の肉体を!うひゃひゃひゃひゃーっ」


アキラは自分の顔と体をしたそいつがもう手遅れなほど狂ってしまったのを感じた。

だが、その演説が終わるまでの時間も惜しいかのように、アキラは変身ブレスを操作して、自分の機械の体の調整を素早く行っていた。


「何をしても無駄だぜ!この研究所は終わりだ!そして、俺は異星人に認めてもらい、この国の新たな王となる!」

「そんなことさせないわ!」

ピンクは変身すると、部屋を飛び出していった。


「ちっ、しまった」

慌てて変身して後を追いかけるが、ピンクに追い付けない。


アキラはレッドに勝てるように戦術を練って変身ブレスを調整したため、走力はピンクよりも遅くなっていた。

しかし、走力を上げてはレッドに勝てない。


「なんとか持ちこたえてくれ!」


元仲間であるピンクをそう簡単に殺しはしないだろう。

そう思っていたのが、アキラの最大の失敗だった。


指令室に着くと、その扉は既に壊れており、入口にブルーが倒れていた。

変身は解除され、首や腕があらぬ方向に曲がっている。

すでに死んでいるのが一目でわかった。



指令室に飛び込んだアキラは、倒れているピンクを見つけると、側に駆け寄った。

ピンクの変身は解除され、口から血を流している。


「アキラ、ごめんなさい。せっかくのアキラの本当の体、あいつに奪われちゃって」

ピンクはそう言って涙を流した。


「あなたが元に戻れたら、恋人同士に…なりたかった…」

もう、取り返しがつかない。

あの時、ピンクを止めていれば。

勝ち負けなど考えずに、走力優先にしていれば。

ピンクは死なずに済んだのだ。


「ははっ、この尻軽女、イエローなんかに懐きやがって。だいたい、ヒロインはレッドのものだって決まってるだろ?だからこいつはヒロインじゃなかった。死んでもかまわないんだよ!」

「貴様…」

アキラの怒りは頂点に達していた。

しかし、その憤怒の形相をみてもレッドはひるまない。


「これが何かわかるか?最新バージョンの変身ブレスだ。最高の肉体に最高の変身。これでお前もおしまいだああっ!!」


そう言うと、レッドは変身ブレスを手首に巻く。


「『超鋼変身ギガメタルチェンジ』!!」


そこに現れたのは、マッチョな体に赤いスーツを纏った破壊の化身。

『ライジャーレッド ギガメタルモード』だ。


ブルーとピンクを素手で倒すほどの肉体を持ちながら、さらに変身までしたレッドはまさに暴虐の化身だった。


「おらあっ!死ねやあ!」

無造作に振り回す腕が指令室の壁をたやすく削り取る。


「くっ」

あの体で変身するところまでは考えていたが、あの新しい変身ブレスの強さが尋常ではない。

まるで、あの筋肉を最大限利用するような…。


「まさか?」

「気づいたか。俺の変身キーを刺しているから赤くなっているが、このブレスは元々お前のために開発されたものだ」

「くっ」

「しかも、これをドクターコルネに作らせたのはピンクなんだぜ。許せないだろ?パワーアップしていいのはレッドだけなんだよ!」

「ピンクが?」

「そうだ、ピンク(そいつ)は踏み潰して、ピンクじゃなくて血の赤に染めてやろう。俺様の色にな!ギャハハハハ!!!」


ガシイ!


足を振り上げたレッドがピンクを踏み潰そうとするのをアキラは必死にこらえた。

しかし、パワーが違いすぎる。


「このままでは、耐えられないか」

「ひーっひっひ。奇跡なんて起こらないぜ!お前はここで死ぬのさ!」

「奇跡に頼ることなどしたことがない」


アキラは防御力が最高になるように肉体とスーツの設定を行っていた。

そのため、レッドの攻撃に耐えられずにひびが入り、ついには壊れた。


指令室の床・・・・・が。


「何っ?!」


指令室の真下は会議室。

そこには既に、通信を受けて準備を済ませたドクターコッペとドクターコルネが待ち構えていた。


アキラはただ変身ブレスの調整をしていたわけではなかった。

同時に二人のドクターに頼みごともしていたのだ。


「アキラくん、新しい体だ!」

コルネの立っている場所に設置してあるのは、精神転送機と、その中で液体に浸かったプロトタイプのアキラの体だ。

アキラは素早くそこに頭を入れると、精神の転送を始める。


「させるかっ!」

レッドが突っ込んで来ようとするが、アキラの首から下が切り離されて、がっちりとレッドを受け止める。


「なっ?!」

その間に、精神の転送が完了し、アキラが容器から出てくる。


「精神の転送は完了したな!これが新しいブレスだ!」

ドクターコッペはたった今調整を済ませたブレスをアキラの腕に取り付ける。


「『雷迅変身ライトニングチェンジ』!」

アキラは黄色い光に包まれ、変身を完了する。

全体のステータスを腕力とスピードに集め、格闘戦に特化させた変身だ。


「ちっ、間に合わなかったか。だが、その体は実験用で廃棄予定だったやつだろ?ゴミが俺に勝てるものかよ!」


燃える拳で殴りかかってくるレッド。


「筋肉はそう使うのではない」

アキラは最低限の動きでかわして、相手の右腕をひねり、ロシアンアームホイップのようにして投げとばす。


「おおっと」

しかしレッドは空中で回転し足から着地する。


「どんな攻撃も俺様にはきかないぜ!奇跡でも起きない限りな!」

「俺は奇跡には頼らない。全て計算して倒す。それこそが筋肉の正しい使い方だ」

「何言ってやがる!こんなもの、適当に腕を振り回すだけで、てめえは血袋みたいになるんだよ!」


でたらめとしか言いようのない攻撃は壁、柱、床を攻撃し破壊していった。


「何もできないのか?へっへっー!助けを呼んだらどうだ?もう誰も来ないだろうけどな」

「レッド、お前はツープラトン攻撃で倒す」

「何だそれは?」

「プロレスで、二人がかりで技をかけることだ」

「へっ、ブラックはどこかに逃げたんだろ?それともどこからか出てきて、俺を倒しに来るのかい?」

レッドのその言葉に返事をすることなく、アキラはブーツに付けられた必殺キックのチャージスイッチをオンにする。


「なるほど、力を全て蹴りに集中させれば、俺を倒せるかもしれない。だが、そんなもの弾き返してやるぜ!」


「……」

アキラは無言のままチャージを続ける。


「じゃあ、こっちから行くぜ!」

レッドはブレスを操作して必殺技モードに切り替える。


「『超鋼弾丸ギガメタルジャケット』だっ!」

レッドの体が超金属の鎧に覆われ、弾丸のごとき速さで突っ込んでくる。


「今だ!」

アキラはその攻撃を寸前でかわすと、唯一鎧を纏っていない頭に向けてカウンターのキックを繰り出した。


「なんてな」

レッドは床に腕を突き刺して自らの突進を急停止させると、蹴りを空振らせて体が泳いだアキラを蹴り飛ばした。


「ぐああああっ!!」

アキラは何枚もの壁を突き破って飛んでいく。

吹き飛ばされた先は演習センターだった。


「わかるか?俺はわざとここへ飛ぶように蹴ったんだぜ」

レッドは得意げに言う。


「お前に煮え湯を飲まされたここで全ての決着をここでつけるためにな!はっはっは!計算して戦うのはこういうことだろ?!ん?」

レッドは起き上がって、再度キックのエネルギーをチャージしているアキラを見て鼻で笑う。


「さっきチャージしたから、もうほとんどエネルギーは無いだろ?なんなら一発くらいくらってやろうか?」

余裕の表情で近づいてくるレッド。


「俺の計算した行動はまだ全て終わっていない」

「何を?うおっ!」

レッドの足元の地面が盛り上がり、そこから巨大な手が現れてレッドの体を捕まえる。


「イエロー、やったぜ!」

「その声はブラック?!そうか!これはライジャーロボの手か!」

「そうだ」


アキラはここで決着がつくことを想定し、あらかじめライジャーロボに乗ったブラックに演習センターの地面の下に隠れているように頼んであったのだ。

そしてその手の上にアキラを誘導するような位置でエネルギーチャージをしていたのだ。


「こしゃくな!だが、全力を出せばこの手くらい吹き飛ばして…」

「その前にこの蹴りで決着をつける!」

「その威力では通用しないと言ったはずだ!」

「言ったはずだ、ツープラトン・・・・・・だと!」


アキラはチャージを終えて、左手を胸元に、右手を斜め上にかざしてポーズを決めると、地を蹴り宙を舞った。


「行くぜ!元プロ野球選手と元プロレスラーのツープラトンだぜ!」

ブラックの操縦するライジャーロボは投手のように大きく振りかぶった。


「プロ野球選手だと?まさか?や、やめろっ!!!」


「『豪速球ストレート』!」

ライジャーロボに投げられたレッドはものすごい勢いでアキラに向けて飛んでいく。

そこにキックの体勢で飛んでいくアキラ。


「『ライジャー爆炎キィーック』!」

「のがああーっ!!!」


ドガーーーン!!!


アキラのキックはレッドの頭を木端微塵に打ち砕いた。



「貴様の敗因は、筋肉を愛することを知らなかったことだ」




戦いが終わり、変身を解いたアキラは一人たたずんでいた。


「ブルー、ピンク、仇は討ったぞ」

その言葉にこたえるのは、静寂だけだった。



「やったなイエロー!俺たちの勝ちだ!」



「ピンクすまない、俺がもっと早く駆けつけていれば」

アキラの言葉にこたえるピンクはもういない。


「よっしゃー!今日は打ち上げだな」

「ブラック…いい加減にしろ」

アキラは空気が読めずに騒ぐブラックを睨み付ける。


「ひょっ、ちょいちょい、怒るなってイエロー」

「ブルーとピンクが死んだんだぞ」

プルプルとこぶしを震わせるアキラ。


「いや、生きてるぞ」

「なにっ?!」

「おーい!」

向こうから来たのはドクターコッペ。


「ブルーとピンクは無事だ。精神転送機で死にかけの体から意識だけ抜いたからな」

「じゃあ?」

「君のように新しい体を復元したら生き返れる」

「おおおおっ!うおおおっ!博士っ!!」

「こら、泣くな、抱きつくな!痛いいいっ!」




1年後。


元の体を取り戻したアキラたちをリーダーとした、新生『火炎ライジャー戦士隊』は異星人と戦い、月の基地を破壊することに成功した。


そしてそれはまだ戦いの序章に過ぎなかったことを知る。


「地球の火炎ライジャー戦士隊よ。この銀河を救うために力を貸してください」

彼らの前に現れたのは太陽系を含む銀河を統括する星の女王イベルテ。


すでに話は地球規模では済まないものになっていた。


…だが、その話はまたの機会としよう。



アキラとピンクの関係はどうなったかって?


ただの同僚のままだったよ。

アキラにとってピンクは、仲の良い同僚でしかなかったのだから。

愛されても、愛する自信は無いと断ってしまった。


だが、宇宙に飛び出したアキラを好きになる相手は地球人だけじゃなかった。


その話はまたの機会ということで。

お読みいただきありがとうございました。

連休は連続更新します。

次は11月3日18時に更新します。

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