第2話 異世界で家族になりました
第2話です。
元勇者は鈍感系ではありませんが、女性に飢えているわけでもありません。
大人な立ち位置を目指しています。
追記
11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。
「って、ここはどこなのじゃ?!」
「少なくともさっきまで居た世界ではない。俺の居た世界でもないな」
「なんじゃと?!」
「そういえば、さっきの子どもがいないな」
「ヒノか?」
「ヒノというのか。そもそも何なんだ、あの子は?」
「それはのう」
シュリナはかくかくしかじかまるまるうまうまと説明する。
「まんまと、してやられたわけか。まあいい。とりあえず、お前を殺さなくて済んだだけでも感謝すべきか」
「おぬしは、わらわを殺す気はなかったのか!?」
「お前個人が悪い奴とは思ってはいない。だが戦争には責任がつきものだ。だから、今の魔王を殺すか異世界に転生させたなら、次は俺自身が同じように責任を取るつもりだった」
「なんじゃと?!」
「人間側の責任を取る奴がいないと、いつまでも戦いが繰り返される。この戦いに勝者があってはいけないんだよ。だからこそ、俺は一人で行動した。こんな勝手な考えに仲間を巻き込めないからな」
「そういうわけじゃったのか」
少しアキラのことを見直すシュリナ。
「まあ、結果的に二人とも異世界に来たのだから、目的は達したと思っていいだろう。向こうではきっと魔王と勇者が相打ちになったとか言って、講和されているだろうさ」
「そうじゃろうか?確かに魔王軍はおぬしと戦って、もう戦争をやる気など毛ほども無くなっているじゃろうが」
「人間側で戦争をする気の奴らはすでに俺が…」
「わ、わ、もう言わなくてもよい!」
アキラの表情を見て恐ろしいことを想像してしまったシュリナは、慌てて話題を替える。
「それよりこの世界には『転生』ではなく『転移』で来たようじゃの」
「そうだな。ヒノに引っ張られたせいだろうが…ヒノは?」
「そういえばおらぬな」
「あのハンマーは転生の力を持っている。だから、どんなに弱く叩いても転移ではなく転生するはずなのだが」
「それならなんでわらわを全力で叩こうとしたのじゃ!」
「全ての責任を取るべき奴を、優しく転生させるわけにいかないだろ?」
「それもそうじゃが、本気で怖かったのじゃ!」
「すまん。悪かった。許してくれ」
「そ、そんなに謝らなくていいのじゃ。そもそも戦争をやめるなんてことを考えもしなかったわらわのせいなのじゃ」
とりあえず、ヒノを探しつつ辺りの探索をする。
ここは山の中で、それなりに開けた場所で凶暴な生き物が居る気配はなかった。
「やっぱりじゃな」
色々あたりを捜している間に、シュリナはステータスを確認していた。
「やはりレベル1のままじゃ。これではゴブリンにも負けるのう」
「戦い方を身につけるまでは、俺が守ってやるよ」
『俺が守ってやるよ』
『俺が守ってやるよ』
『俺が守ってやるよ』
アキラの声がシュリナの頭の中にこだまする。
「プ、プロポーズかの?」
「違う」
「即答かの!」
いくら可愛くても外見は10歳。
33歳のアキラがプロポーズするわけがない。
「こう見えてもハタチじゃ!」
「魔族にしては若いんだな」
「さっきおったリリカとキャビナも同い年じゃぞ」
「話し方で、お前はもっと年上なのかと思ったよ」
「魔王の娘らしい話し方を学ばされてこうなったのじゃ」
そんなことを話しながら、さらに辺りを探す。
「レベル1の索敵スキルではヒノを探せそうにないな」
「わらわに使えるスキルとかあったかのう?」
そう言ってシュリナはステータスを確認する。
名前 シュリナ・フィン・ブラスメイザー
種族 純魔族
レベル 1(呪われているため上昇不可)
体力 13
腕力 11
魔力 25
…
「レベル1にしては一般人よりマシじゃないか?」
「純魔族だから当然なのじゃ!って、なぜわらわのステータスが見えておるのじゃ!?」
「看破スキルだ。レベル1だがお前もレベル1だから見えるんだよ」
…
スキル
闇魔術 レベル1(呪われているため上昇不可)
魅了 レベル1(呪われているため上昇不可)
状態
武器による呪い(神レベル)。
魂牢(五十%)
「呪いが神レベルじゃと?!」
「おい、それではこの世界に解呪の方法があっても、まず外せないぞ」
「おかしいのじゃ。レベルを下げることと、人の姿にして意思を持たせることに付与できる力のほとんどを使ったから、呪い自体のレベルは低いはずなのじゃ」
レベル1になった解呪では効かないくらいぎりぎり低いレベルの呪いであったはずだが。
「それに魂牢ってなんじゃ?」
「ああそれは、自分の中に魂が封印されている状態だ。転生した時に意識だけ封じられているのが、成長してから出てきたりする、アレだ」
「それは聞いたことあるのじゃ」
「しかしこの場合は…まさか?」
アキラは自分のステータスウィンドウを開けると、状態の項目を表示する。
ちなみにやたら表示されるスキルの項目は非表示である。
「おい!俺のステータスを見てみろ!」
「わらわは看破が無いから見えんのじゃ。ってなんでおぬしのステータスが見えるのじゃ?」
「『ステータス公開』っていう、特定の相手にステータスを公開するスキルだ」
普通はあまり役に立たないが、今回ばかりは役に立ったようだ。
状態
武器による呪い(神レベル)。
魂牢(五十%)
ムキムキ
「見ろ!俺にも同じ魂牢がある!」
「待て、この『ムキムキ』ってなんじゃ?!」
「しかもお前と同じ五十%!つまりこの魂牢と言うのは!」
「わらわの話を聞くのじゃ!状態がムキムキってなんなのじゃ?!」
「ヒノの魂だっ!」
「なんじゃとっ!」
がしっと、アキラの腕をシュリナがつかんだ。
すると、目の前にぼんやりとしたヒノの姿が現れた。
『ぱあぱ、まあま』
「ヒノ?」
「ヒノなのじゃな!」
『あのね、ヒノ、てんせいで、ちーと、もらえるっていわれて』
「転生して、チートをもらえるだと?」
「もしや言ったのは転生の女神かの?」
『めがみの おばしゃんが』
おばさんじゃありませんっ!!!!
アキラとシュリナの頭の中にどこからか声が響いた。
『おねえたんが』
よろしい
「お前も聞こえたか?今の声、女神か」
「こわいのう」
『ヒノ、ずっとぱあぱとまあまといっしょに、いたいっていったの』
「まさか」
『ヒノの、のろいをずーっととけないよーに、してくれるって』
「そのせいかっ!」
「怒るでない!ヒノが泣く!」
「怒ってないが、これではいつまで経っても呪いが解除できないだろ!」
「解呪されたらヒノが消えるかもしれんではないか!」
「それもそうか。それならむしろ良かったと考えるべきか」
「そのかわり、わらわはずっとレベル1でお荷物じゃがの」
「心配するな。俺が鍛えてやる」
「お、お手柔らかに頼むのじゃ」
「どうやら、ヒノの魂は俺たちが半分ずつ持っているようだな」
「すると、ずっとヒノはこのままかの?」
『うんとね、めがみのおねえたんが、ぱあぱとまあまが、けっこんしたら、ヒノがうまれるって』
「「!」」
「わ、わ、わ、わ、わ、わ、わらわにはまだ早いのじゃ。でも、ヒノのためにどうしてもと」
「結魂の儀式か。なるほど、二人の持つ魂を一つにするためには、必要なものを集めないといけないな」
「必要なもの?」
「結魂の指輪を双方がはめて、神への宣生の後、認神により、ヒノが誕生するというわけだ」
「結婚指輪をはめて宣誓して妊娠…(ぼっ!)」
顔が真っ赤になるシュリナ。
「あっ、しまった。またやっちまったな」
分かれた魂を結び付け、生を得ることを宣言し、神によって認められれば、ヒノが生まれることができる。
かつて双子に分かれて転生した女神をひとつに結びつけて誕生させた経験のあるアキラは、先程の説明を双子の少女にして、大きな誤解を生んだ経験があったのだ。
せっかくの経験が活かされていないのは問題だが、そもそも用語が紛らわしい。
「よし、それでは行こうか」
アキラはシュリナの手を取ると、歩き始めた。
「せ、積極的すぎるのじゃ」
「ヒノの話をもっと聞きたいからな。だからこうしないと、ヒノが消えてしまうだろ?人が来たら手を離せばいい」
「わ、わかったのじゃ」
「そうだ、これから一緒に行動するのだから、名前で呼ぶぞ。俺はアキラでいい」
「わ、わらわもシュリナでよいのじゃ」
「よし、行くぞシュリナ。まず結魂指輪を手に入れるぞ」
「アキラは積極的すぎるのじゃー」
読んでいただきありがとうございました。
次の更新は明日、10月13日22時です。