第15話 決着と手土産
魔法少女編クライマックスです。
追記
11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。
ゴールドとシルバーの魔力を吸収したタイガーは、現れた時よりも一段と強いオーラを放っていた。
「今度こそ倒すわよ!」
「ええ!」
サニーとフレイムが突撃する。
「児戯」
スッ
タイガーは目の前に手のひらを向ける。
「「きゃああっ」」
タイガーの手の平から特に何が出てきたわけでもないのに、サニーとフレイムは吹き飛ばされてしまう。
「どういうこと?フレイム」
「おそらく純粋な魔力の攻撃だわ」
「わらわたちもやるのじゃ!」
「はい!」
大人びた魔法少女の姿になっているシュリナとカナデがタイガーに両側から向かっていく。
「シャッ!」
タイガーが手を一閃すると、カナデの肩口が切り裂かれる。
「くっ」
「シャアッ!」
さらに一閃し、シュリナの胸のリボンがちぎれとんだ。
「シュリナ!」
思わずアキラが声をあげる。
「無くなったのじゃ…」
「どうした?」
「わらわの胸が無くなったのじゃ!」
シュリナは大きなリボンが無くなって白日の下にさらされた自分の胸の大きさにショックを受けていた。
しかも、それはタイガーの攻撃のせいで無くなったという誤解をしていた。
「返すのじゃ!わらわの胸を!」
「何を言っている?元々まな板だったではないか」
「なんじゃと?ゆるせんのじゃ!」
シュリナは力を溜めて、巨大な三日月型のエネルギーを頭上に作り出す。
「『フリルル・クレシェンド・スラッシャー』じゃ!」
怒りで増幅されたと思われるほどのその三日月形の巨大なカッターがタイガーに襲い掛かる。
だがタイガーは慌てず、剣の形を模した魔法のステッキを取り出す。
「そんなもので受け切れるわけないのじゃ!」
「フリルル・ソードマスター・メタモルフォーゼ」
タイガーは静かに魔法の言葉を紡ぐ。
「二段変身?!」
「そうか!変身時のバリアで身を護って!」
サニーとフレイムは理解しているようだが、シュリナにはわからない。
タイガーがさらなる変身をしているのは見て分かるが、その変身の時に現れるフリルと剣の形をしたアクセサリーがシュリナの必殺技を食い止め、ついには砕いてしまった理由がわからない。
「わらわの必殺技が!」
「多分あれは魔法少女のパワーアップの変身で、その時は無敵にでもなるのだろう」
「ずるいのじゃ!」
そして変身の過程が終わり、タイガーは両腕に剣の形のアクセサリーを取り付けた勇ましい魔法少女の姿に二段変身を遂げていた。
「こうなったら、シュリナたちに二段変身してもらうしかないわ!」
「サニー、それでもまだ変身アイテム自体のエネルギーが足りないわよ!」
二段変身を再度するのに時間はかかるが、最低限のエネルギーはだいたい1時間で溜められる。
しかし時間稼ぎをしようにも、目の前に立っているタイガーの圧倒的オーラを目の当たりにしては、それも無理だろうと思われた。
「もはや、ここまでのようね」
「……」
あきらめの言葉を口にするサニー。無言で立ち尽くすフレイム。
しかし、アキラ達はまだあきらめてはいなかった。
「何か手があるはずだ」
「そうじゃ、あきらめはせんのじゃ」
「どうしましょうか…」
『まあまがヒノをつかって、へんしんできればいいのになー』
ヒノは無邪気にそう言う。
「いや、ヒノは変身アイテムじゃないから無理だ…待てよ?」
「アキラよ!ヒノを変身アイテムに変化させてはならんのじゃ!」
シュリナが素早くヒノのガードに入る。
「やらないし、そんな根本的な性質までは変えられん!」
「エクスカリバーは根本的な性格が変わってしまったではないか」
「まあ、そうだが…よけろ!」
そこにタイガーの手から放たれた高威力の魔力弾が着弾する。
「話し合っている暇がないのじゃ」
「まあ、あの二人がいきなりタイガーにぶちかましたから、あんまりタイガーを責めるわけにもいくまい」
「なによ、私たちが悪いって言うの?」
「サニー落ち着いて!」
「とりあえず二人の二段変身のアイテムを貸してくれ。そして、うおっと」
無数に飛んでくる魔力弾をよけるアキラ。
「落ち着いて話が、うおっと、できん」
「確かに一発一発が必殺の威力ですが、『スケイル・シールド』!」
カナデの目の前に円形の楯が出現し、魔力弾を防ぐ。
「カナデ本来の魔法か?」
「はい、魔法少女になっている間は元の力で、いや、それ以上の力で使えるようです」
「それなら、シュリナ!お前の一番の攻撃力の高い魔法は何だ?」
「今は魔王の剣を使えないから、攻撃力の高い魔法は撃てないのじゃ!」
「魔王の剣が有った時は?」
「必殺の一撃があるのじゃ!」
「よし、カナデ、何とか時間を稼いでくれ。サニーとフレイムは二段変身のアイテムを貸せ」
「何命令しているのよ!」
「サニー、ここは聞きましょう!どちらにしろ私たちでは勝てません!」
アキラは二人から二段変身のアイテムを受けとると、捏ね回し始めた。
その間にカナデが魔力の続く限り何種類もの魔法の楯を展開してみんなを守っていたが、
「アキラ様!申し訳ありません!」
カナデの悲痛な叫びと共に、カナデの展開していたシールドが砕け散る。
そしてその向こうには、5mはある巨大な魔力弾を複数浮かべているタイガーの姿が。
「ドラゴンシールドも使ってしまいました。もう、私では防ぎきれません」
「ならばわらわも手伝うのじゃ」
「奥様の魔法では無理です!」
「大丈夫だ、シュリナ。間に合ったらしい」
「なんじゃと?」
「終わりだ。『フリルル・メガ・プラズマ』!」
タイガーはさらに倍の巨大魔力弾を浮かべ、それをアキラ達に一気に飛ばしてきた。
「『フリルル・ワイド・レーザー』!」
どこからか技名が聞こえ、極太のレーザーがタイガーの巨大魔力弾を薙ぎ払った。
タイガーがレーザーを撃ってきた方を見ると、そこに教会の様な建物が有り、そのてっぺんに腕を組んだ魔法少女が直立していた。
顔には仮面をつけており、誰かはわからない。
「何者?!」
「私は…」
『ふくぎるどますたーのおねーさんだよ』
「そんなはずはないのじゃ。シトリーよりも胸がずっと小さいのじゃ」
それでもシュリナよりまだ大きいが。
「私は、謎の仮面魔法少女!」
「自分で謎と言ったのじゃ!」
「とう!」
シュリナのつっこみを仮面魔法少女は華麗にスルーして、タイガーとアキラたちの間に降り立つ。
「タイガー!平和の象徴であるこの国を奪うなど許されません!」
「何が平和だ。お前たちこそ戦争が大好きなのではないか?」
「好きで戦っているのではありません!タイガー、今こそ正義の鉄槌を受けるがいいわ!」
「やってみろ!」
仮面魔法少女とタイガーの激しい闘いが始まった。パンチ、キック、肘打ち、膝蹴り、胴回し回転蹴り、シャイニングウィザードなど小技大技の応酬が続く。
その激しさに、辺りには地震と思われるほどの衝撃が飛び交っていた。
「二段変身のタイガーを上回るとは。彼女が誰か知っているか、フレイム?」
「いえ、知らない姿だわ」
「さっき、ヒノがシトリーじゃないかって言っていたが?」
「シトリー様でしたら、あのような姿ではないはずですが」
「いや、もし二段変身していたら、姿が変わっているかもしれないぞ」
「シトリー様の二段変身は見たことが有りませんので」
「そんなことより、今のうちに、シュリナ、ヒナ、耳を貸せ」
「わかったのじゃ」
『はーい』
「タイガー・インパクト!」
「プリ…ティ・アタック!」
「今、プリンセスって言いかけなかったか?」
「気のせいよ!」
「やはり、そうなのだな。丁度いい、お前の力も奪ってやろう」
タイガーの体からシュルシュルとリボンが伸びて、仮面魔法少女を拘束する。
「しまった!」
「その力、もらうぞ!」
この相手の力を奪う技は、タイガーが魔法少女になる前から持っていたオリジナルスキル。
それゆえに、魔法少女らしからぬこの技を仮面魔法少女は回避できなかったのが敗因だった。
エネルギーを吸われて、仮面魔法少女の二段変身の証である仮面が砕け散る。
「シトリー様!」
そして魔法少女の衣装がちぎれとび、仮面魔法少女ことシトリーは地面に倒れ伏した。
「シトリーじゃと?それにしては幼い雰囲気じゃが」
「あれが本来の姿で、普段のあれは、変身魔法の姿じゃないのか?」
「どうしてシトリーだけあんな巨乳になるのじゃ。ずるいのじゃ」
それは本当に大人になった時の結果が違うからだろうなどという、空気の読めないことは言わないアキラだった。
「それより、準備はできたぞ」
アキラはクリスタルとハートをあしらった変身アイテムをシュリナに渡す。
「まかせるのじゃ」
シュリナはそれを掲げると、変身の文言を唱える。
「フリルル・クリスタルハート・メタモルフォーゼ!」
「なにっ?!」
シュリナの二段変身の声を聞き、慌てて振り向くがもう遅い。
シュリナはすでに変身シークエンスに入っており、無敵状態だ。
「サニーかフレイムのアイテムか?変身エネルギーはまだ足りないはず!」
「二つのアイテムを合体させてもらった」
「そんなことが?!それでもエネルギーは半分にも満たないはず。変身に失敗するのが見えているぞ!」
「それはどうかな?」
「そもそも、なぜ貴様はそんなに近くに居る?」
タイガーの言うとおり、アキラはシュリナの背中に胸板がくっつくほどそばに立っていた。
「こうするためさ!」
アキラが変身しているシュリナの両方の二の腕を掴むと、そこからシュリナの体に向かってくる変身エネルギー全てを遮断する。
「なにを?!」
「二段変身のエネルギーが足りなければ、ひじまでの変身にすればいいだけのこと」
「これぞ夫婦の共同作業なのじゃ!」
「魔法少女が夫の手助けを受けるとか、ありえないわ!」
いや、タキシー○仮面とかも似たようなものと思うが。
タイガーの叫びをよそに、二段変身が完了する。
シュリナの左手には豪奢なフリルとリボンが、右手には同様のフリルとクリスタルが付いている。
「しかし、そんな不完全な二段変身では、私の動きについてこれまい!」
確かに足の部分の変身が出来ていないからスピードは遅く、そして防御力も低い。
「ヒノ、来い」
『うん!』
ヒノはアキラの元に駆け寄り、シュリナの肩に肩車のような状態で乗せてもらう。
「なんのつもりだ?」
「こうするのじゃ!出でよ!我が愛剣『ルシファーブレード』!!」
ヒノの頭上に禍々しい黒いオーラを纏った剣が姿を現す。
その漏れ出す力だけで常人ならば腰を抜かして漏らすほどだ。
「ヒノ、それを持つのじゃ」
『うん!』
ヒノはそんな恐ろしげな剣を躊躇することなく手にする。
「よし、行くのじゃ!」
ヒノが魔王の剣を掲げ、それを肩車しているシュリナ。
いったいどういう状況なのか、タイガーには把握できない。
そもそも魔法少女に変身していないヒノが、いくらすごい魔王の剣を振り下ろした所で、たいした威力にはならないはずだ。
「応えよルシファーブレード!滅するはフリルルタイガー!」
ブウウウンン
魔王の剣が震えて黒い稲妻を散らし始める。
その剣が放つ力を感じてフリルルタイガーは自分がとんでもない思い違いをしていることに気づいた。
「どうしてそんな力が?ええい『フリルル・タイガー・アロー』きゃっ!」
シュリナの技を妨害しようとしたタイガーが首に何かを感じてひるむ。
見ると、カナデが絵筆のようなものを持って逃げていくところだった。
おそらくそれでタイガーの首筋の肌の見えている部分をくすぐったのだろう。
「いくら防御力が高くても、くすぐったいのは変わらないのですね」
「おのれ!」
「おおっと!そこまでだ」
カナデを追うタイガーの目の前にアキラが立ちはだかる。
上半身は裸である。
「な、何の真似だ!」
「見るがいい、これが!」
アキラはくるっと背中を見せ、ボディビルのポーズを決める。
「バック・ダブルバイセップスだ!」
ムキイ!
「さらにモスト・マスキュラー!」
ビシイ!
「さらに、」
「貴様!いいかげんにしろ!」
「アキラよ、よくやったのじゃ。もう準備は済んだのじゃ」
「はっ?しまった!」
タイガーがシュリナの方を見ると、シュリナの肩に居るヒノの持つ剣からは天まで届くほどの黒い稲妻の刀身が現れており、それが振り下ろされてきていた。
「我が世界の繁栄がああああぁぁぁっ」
タイガーの叫び声は黒い稲妻にかき消され、そこには縦に裂かれた地面が残るだけだった。
「やりすぎたかの?」
「いや、見ろ。大丈夫だ」
アキラが指をさした所に、5歳くらいの女の子が下着姿で倒れていた。
「なんじゃ、この子は?」
「タイガーだ」
「なんじゃと?!」
「どうやら、タイガーの真の姿がこれのようだな」
「どうしてみんな変身すると胸が大きくなるのに、わらわだけそうならないのじゃ…」
シュリナが落ち込んでいる間に、アキラはカナデにヒノの着替えを渡して、タイガーの着替えをさせておいた。
ちなみに、同じように下着姿のシトリー、ゴールド、シルバーもサニーたちが協力して服を着せていた。
「それにしてもアキラよ。ヒノが魔王の剣を持っていると、剣と一体化してひとつの武器として扱うことができることに、どうして気づいたのじゃ?」
「ヒノが自分を使って変身したらと言った時にピンと来てな。一体化とまではいかなくても、本来が武器であるヒノを経由して、魔王の剣の力が使えると思ったからな」
「駄目だったらどうしたのじゃ?」
「ヒノにひのきのぼうになってもらい、さっき城の中で使った魔法を撃ってもらうつもりだった。それなら、魔法少女のシュリナが持っている武器が出す魔法だから、先程よりもはるかに強力な魔法になったはずだ」
「なるほど、ちゃんと考えてあるのじゃな」
「それがダメな場合も考えてあったが、それより先にすることがあるぞ」
「なんじゃ?」
「タイガーたちが攻めていた国が、押し返してこちらに来ると思うぞ」
「なんじゃと!?」
アキラの予想通り、ミラクリーナに攻めてきていた国はタイガーたちによって逆襲を受けていたが、タイガーがやられたことに気づいた配下の魔法少女たちは、戦意を喪失して逃げ出してしまったのだ。
「このまま戦うのは難しいだろう」
「何とか時間を稼いで!私たちが二段変身してあいつらを倒すわ!」
「サニー、今までも常時10人以上の魔法少女が交代で守ってきていたのよ。アキラたちだけでは無理だわ」
「じゃあ、どうしろって言うのよ!」
「この世界を切り離すわ」
そう言ったのは、目を覚ましたシトリー(子どもバージョン)だった。
「シトリー様!」
「そんなことをしたら、この国の意義が!」
「今はこの国を建て直すことが先です。王家の私であれば、この世界を今すぐ、他の世界から切り離せます」
「その前に、俺たちは元の世界に帰らせてもらうぞ」
「望むなら、あなたたちが元居た世界にも送れますが」
「その必要はない。それより伝言はないか?」
「ギルドマスターは私のことを知っています。だから、事情の説明をお願いいたします」
「わかった。行くぞ」
「奪った分と借りていた変身アイテムは置いていくが、最初にもらった変身アイテムはいただいてもよいのじゃな?」
「はい、そのつもりでした」
「私は置いていきます。ここの再建に使ってください」
『ヒノも置いていくねー』
「友よ、ここの再建に力を貸してやってくれ」
『まかせておけ』
「そのしゃべるようになった指輪はお持ちいただいても…」
「代わりに、こいつをもらっていくぞ」
「え?構いませんが…」
そしてアキラたちはシトリーの力で元の世界に転送してもらった。
その場所は出発した町のすぐそばだった。
「帰ってこれたな」
「当然なのじゃ」
「さて、ギルドマスターに報告に行く前にやることがある」
アキラは担いでいた少女を下ろすと、その首に異次元箱から取り出した首輪を着けた。
その少女はタイガーだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は11月1日18時更新予定です。