第11話 ふたりはプリティな魔法少女
異世界物お約束の街道の盗賊団が登場します。
追記
11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。
夜。皆が寝静まった頃。
アキラたちのところに近づく者たちが居た。
盗賊団である。
「お頭、すごいでしょう?あんな乗り物、見たことありませんぜい」
「確かにな。止まれって言っても跳ね飛ばされてしまいそうだが、夜ならその心配もない」
「これは俺たち『フクロウ団』にしかできねえ狩りですぜ」
「はっはっは、ちげえねえ」
夜行性の獣人族が集まって作った『フクロウ団』は、野営している旅人や隊商を狙って奇襲をかける盗賊団だ。
その能力は夜間での戦いに特化しており、特に今夜のように月の無い闇夜では敵なしであった。
「魔法使いを見つけたら、いつも通り真っ先に潰すぞ」
見張りに見つからないように、技能で隠れて近づく。
かがり火を消す。
明かりをつけられないように、魔法使いから潰す。
そしてパニックに陥る相手を惨殺する。
それがフクロウ団のやり方だった。
「かかれ!」
「ヒャッハー!かがり火は消火だぜ!」
かがり火を消そうとしたところで、全員が気付いた。
乗り物の上に屈強な戦士が立っていたことに。
「誰だ?ああ、盗賊か」
「てめえ、いつの間にそこにいやがった!」
「物音がしたから、出てきただけだ」
「嘘つけ!俺たちは音を消す技能も持っている!気づくわけがねえ!」
「そうか、じゃあ、たぶん夢だったな」
「そんな夢、見るんじゃねー!!」
「さて、それでやるのか?」
「ふ、ふん。そんな強そうななりをしていても、漆黒の闇の中で戦えるかな?」
そう言って、盗賊の一人がかがり火に水魔法をかけて消す。
消す。
消す。
消したい。
消えない。
「何で消えねえんだよっ!」
「それは『厳炎』と言ってな、水くらいでは消えないんだ」
「魔法の炎か!」
「まあ、レベル10だから、頑張って水をかければ消えるだろうが」
「ふざけた奴め。おい!火の上に鉄の楯を乗せろ!」
「ほう、なかなか賢いな。盗賊などしていなければよかったのに」
「賢いから、これまで生き延びてきたんだよ!」
「だが、俺を相手にするのは馬鹿な行為だったな」
「何?」
「たかだが20人で、俺を倒せると思うか?とおっ!」
アキラは飛び上がると、ふわりと砂地に着地した。
見るからに屈強な男が、ほとんど砂煙も上げずに着地するとか、普通ではない。
「こ、こいつただ者じゃねえぞ」
「早く火を消せ!それでこちらが有利になる!」
「お前ら、闇夜で目が見えるのは自分達だけとでも、思っているのか?」
「何?まさか貴様…」
「俺には『夜目』のスキルがある」
「なにっ!」
「しかしレベル1だから、あまり使えん」
「なら言うなよっ!」
「というわけで」
ぱちんとアキラが指を鳴らすと、かがり火が消えた。
「何?自ら消しただと?」
「さあ、真の闇の恐怖を味わうがいい」
そう言うアキラの声が聞こえる。
「恐怖を感じるのはてめえのほうだ!」
「おやびん!」
「おやびんと言うな!お頭だ!」
「真っ暗で何も見えやせん!」
「何?!目が慣れていない…なんだこれは?急に真っ暗になっただと?!」
「さて、ひとりずつ、やるかな」
足音もなく、声だけが近づいてくる。
「や、や、やめろっ!」
ゴキバキ
「ぎゃあああ」
バキベキ
「ぐわああ!!」
そしてあっという間に盗賊たちは全身の骨を折られて壊滅した。
「もういいぞ、シュリナ」
「わかったのじゃ」
列車の窓から顔をのぞかせていたシュリナは魔法を解除し、アキラは再びかがり火を付けた。
「光を遮る闇魔法『ダークミスト』を広域でかけるのがこれほど使えるとは思わなかったのじゃ」
「広域殲滅の魔術師が攻撃魔法以外も広域に使うのは常識なのだがな」
「しかたないのじゃ、広域殲滅型とか言われるから、攻撃系のものにしか使えないと思ったのじゃ」
星明り程度の光で闇を見通すフクロウ団にとって、光が一切ない本当の闇は見通すことは出来なかった。
「しかし、アキラはすごいのう。どうやって見ていたのじゃ?」
「見てはいない。明るいうちに相手の位置を把握して移動し、相手に触れたことで相手の体勢を把握し、そのまま捕まえて倒しただけだ」
「動いている奴もいたじゃろ?」
「多少の位置の違いなら、気配で分かる」
「さすがなのじゃ」
「さて、こいつらは散々悪事を働いてきたようだが、目的地までに町は無いし、連れて行く必要もないから、縛って街道に放置しておこう。そのうち、誰かが通りがかって捕まえてくれるだろう」
「そうじゃな」
「しかし、うめき声をあげるこいつらの近くで寝るのは気味が悪いからな。とりあえず移動するか」
「ヒノが起きてしまうのじゃ」
「なあに、ゆっくり動かすさ」
「それならいいのじゃ」
そして翌朝。
再び街道を走ることおよそ2時間。
「ここから街道を外れて山道になるな」
「この列車では行けそうにないのじゃ」
「だからこれを使う」
列車を異次元箱にしまい、代わりに取り出したのは小さな乗り物。
いわゆる、人力車である。
「なんなのじゃこれは?」
「これは人力車と言ってな、この座席に乗って、この部分を俺が引いて進む」
「なんだか、わらわばかり楽をして悪いのじゃ」
「俺にとってはトレーニングだからむしろありがたいぞ」
「そう言ってもらえると助かるのじゃ」
「2人乗りだからヒノはシュリナの膝に乗って、いや、ぎりぎり3人でも横に乗れるな」
『まあまのひざがいいのー』
「よしよしよし、さあ、乗るのじゃ」
素早く座って膝をポンポンと叩いてヒノを呼ぶシュリナ。
そして山道を人力車で進むことさらに2時間。
「アキラ、そろそろ休憩するじゃ」
「そうだな。座ってばかりもつらいだろう」
「いや、アキラのために言ったのじゃが、余裕があるのじゃな。アキラ、おやつじゃ」
シュリナは異次元箱からパウンドケーキを取り出すと、それを切り分けて皿に載せ、アキラに手渡す。
「おお、うまそうだな」
「それに合いそうな紅茶をお煎れしました」
「カナデもすまんな」
ぱく
「んっ?おおっ、このケーキはもしや!」
「そうじゃ、『プロテイン』入りじゃ」
「どうやってこれを?」
「お菓子作成の闇魔法がレベル10になって、作れる材料と技能が増えたのじゃ」
「なるほど」
「小麦、大豆、ミルク、卵の成分を選んで入れられるようになっての」
「ん?」
どこかで聞いたことがあるような食べ物の集まりだ。
「あと、エビ、カニ、ピーナツ、そばなんて、よくわからないものもあったのじゃ」
「それは、俺の世界で言うところの、アレルギーの表示品目じゃないか」
「アレルギーってなんじゃ?」
「特定の食べ物を食べると、体を壊す体質の人がいるんだよ」
「なんじゃと!」
「そもそもそれは毒のお菓子を作る闇魔法だからな。まあ、たいていの人には栄養でしかないが」
「アキラは大丈夫かの?」
「もちろん、アレルギーは無いぞ」
「それならよかったのじゃ」
「それにしても、プロテインが小麦や大豆に入っているって、良く知っていたな」
「例のお菓子の本に、筋肉を鍛えている相手を魅了するための菓子として、載っていたのじゃ」
「えらくピンポイントなのが載っているんだな」
「プロテインポーションとやらを売ってしまったじゃろ?何か代わりになるものはないかと思っていたから、丁度よかったのじゃ」
「シュリナ、ありがとう。嬉しいよ」
「妻として、当然の務めなのじゃ」
ふふんと、胸を張るシュリナ。
相変わらず、胸は少ししかないが。
「さて、そろそろ入口が見えてくるか」
すでに地図に書いてある、『入口』まであと少しのところまで来ていた。
「待て!」
凛とした声が響き渡った。
人力車を止めて見ると、目の前に立っていたのは、変わった衣装に身を包んだ二人の少女。
いや、この世界では珍しい衣装かもしれないが、アキラには見覚えがあった。
「太陽の使者、フリルルサニー!」
オレンジ色の魔法少女が叫ぶ!
「火炎の使者、フリルルフレイム!」
真紅の魔法少女が吠える!
「「二人は無敵!」」
名乗りと共にポーズを取る二人。
「なんだか恰好いいのじゃ」
「そうか、それなら良かった」
あれを恥ずかしがるようでは、魔法少女になれないだろうからな。
「我が国に攻め入ろうとする悪よ!」
「絶対に許しません!」
『え?だめなの?』
ヒノはいつのまにか、二人の目の前にいた。
「こいつ、いつのまに?!」
殺気が無いヒノは、相手に気配を感じさせることなく移動が出来るのだ。
『ねえ、ゆるしてくれないのお?』
ヒノはうるうるとした瞳で二人を見つめる。
「あ、いや、そういうわけでは」
「なに、この可愛い子?もしかして、あの筋肉に誘拐されてきたの?」
「それは俺の子だ」
「わらわの子よ」
「「うそだあああーっ!!」」
「事情はわかりました。シトリーから教えられてきたのですね」
「迷惑なら帰るが」
「いえ、あのシトリーの紹介なら問題ありません。私共が案内いたしましょう」
そう言って行こうとする二人の後ろから、アキラが質問をぶつける。
「ところで、フリルルプリンセスっていうのは」
「シトリー様、ご自分の正体を明かしたんですかっ?!」
「ああ、やっぱりそういう名前の付け方なのか」
「はっ?!まさかカマをかけましたねっ?!」
シトリーの名前を聞いて、急にへりくだってアキラ達を案内しようとしていることから、シトリーはおそらくあの国の偉い人物だと考えられると思った。
そして、シトリーが持っていた魔法のステッキ。
あれはおそらくシトリー自身のものであり、そこには小さな王冠のような文様も付いていたのだ。
「本人が言いたがらなかったから深い話は聞かなかったが、ここまで来たのだから、そろそろ話してもらえないかな?今、何で困っている?」
「とんでもない洞察力のある方に頼んでしまったのですね」
「サニー、もう話した方がいいだろう」
「そうね、フレイム。全てお話します」
『ふーん、やっぱりわるいやつらが、ほかのせかいにいくために、せめてきたんだね』
「やっぱりって、あなた方はそこまで想定していたのですか?!」
『うん。ヒノにもわかったよ』
「なんて賢い子なんでしょう」
なでなでなで
「不思議だわ。この子をなでると、すごく癒される」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「サニー、ずるい。私にも」
なでなでなで
なでなでなで
なでなでなで
「それで、敵の戦力は?」
「今のところ攻時空兵器3体です」
「なんじゃそれは?」
「我々の世界は、異世界から遮断することもできます。しかし、一度つなげた通路は完全にはふさがらず、そこを空間を開きながら攻め入ってくるための兵器なのです」
「大きさは?」
「だいたい、30メタリくらいかと。ああ、多くの世界ではメートル呼ばれる単位です」
「ずいぶん大きいのじゃな」
「それが3体で攻めてきてまだ無事ということは、相手を倒せているのか、それとも行動を邪魔するのにとどまっているのか?」
「どうにか破壊しています。しかしこちらは生身、向こうは機械です。倒しても倒しても新しい兵器が現れ、きりが有りません」
「俺たちがどれほどの役に立てるかわからないが、とりあえず行くとするか」
「はい、シトリー様が見込んだあなた方なら、きっと大丈夫です」
「大変よーっ!!!」
そこにやってきたのは青い服装の魔法少女。
「アクア、どうした?」
「サニー、ミラクリーナが、ミラクリーナが」
「どうした?」
「征服されました」
たぶん次回予告!(なぜ急に?)
ミラクリーナを侵略した予想外の相手とは?!
そして奪われた国を奪還しようとするアキラたち。
「「フリルル・プロミネンス・アロー!!」」
炸裂するサニーとフレイムの合体技!
次回「最凶の魔法少女」
「まさかこれって…」
「俺は変身しないからなっ!」
「あたりまえなのじゃ!」
(注:予告は予想外の展開で一部変更になることがあります)
お読みいただきありがとうございました。
次回は10月23日18時に更新です。