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第10話 攻撃力と胸の大きさ(夫婦漫才)

魔法少女の国へ向かうのは、アキラが作った異世界仕様の乗り物です。


追記

11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。

いよいよ出発である。

とはいっても、アキラの異次元箱ディメンションボックスにはすでに多くの遠出用の荷物があるから、必要となるのは替えの下着や食糧くらいであった。


「アキラの異次元箱はどのくらい入るのじゃ?」

「そうだな、王城が入るくらいかな」

「すごすぎるのじゃ。わらわは衣装ダンスくらいで、リリカたちにすごく大きい方だと言われておったのじゃが」


この世界でも前の世界とは変わらず、異次元箱は持っている人はそこそこいるものの、だいたいリュックくらいの大きさが一般的だった。

そして自分の周囲、手の届く範囲くらいにしか取り出せない。

アキラのようにものすごく大きなものを出し入れすること自体不可能なのだ。


「いい考えがあるのじゃ」

「ん?なんだ?」

「高いところに重い物を出現させれば、敵を潰せるのではないかの?」

「そうだな。前の世界では敵に囲まれたときとかにやっていた」

「なんじゃ、せっかく思いついたのにのう」

「だが、今は無理だ」

「どうしてじゃ?」

「異次元箱から出すことで相手を攻撃すると、異次元箱が武器扱いされて壊れるかもしれない」

「なんじゃと!」

「そうでなくとも、武器として使えないから、命中しないと思うぞ」

「残念なのじゃ」

「そういえばヒノは入れるのかな?」

「入れてしまって大丈夫かの?」

「俺の異次元箱は時間が止められるタイプだからな、ヒノには良くないかもしれない」

「それならヒノが大けがした時とかに入れるといいかもしれないのじゃ」

「そうだな、それは臨機応変でいこうか」



4人が町の外に出ると、はるか向こうに目的のハニード山麓が見える。


「ちょっと待つのじゃ。地図ではそれほど遠くに感じなかったのじゃが、すごく遠いのじゃ」

「そうだな」

「馬車がいるのじゃ」

「いや、良い馬の付いた馬車は高いし、維持も大変だ。だからこれで行く」


アキラは異次元箱から大きな四角い箱の様なものを取り出した。

大きさは小屋より大きいくらい。車のタイヤのように4組8つの車輪が付いており、形はやや流線型で色は漆黒。


平たく言えば、アキラの居た世界の電車の先頭車両のようなものだった。


「なんじゃこれは?!」

『なんだかかっこいいのー!」

「…」

相変わらずカナデは口数が少ないが、その表情から驚きが見て取れる。


「これは筋肉で動かす列車。『筋肉列車マッスルトレイン』だ」

「列車とはなんじゃ?」

「俺の世界にあった、一度に大勢の人を輸送するための荷馬車をたくさん連結してある乗り物だ。これは、その先頭の車両をモチーフにしてある」

「アキラの世界はすごいのじゃな」

「アキラ様、これの動力はまさか?」

「そう、俺が中に入って動かす」


アキラは側面のレバーを引くと扉が開き、階段が降りてくる。

それを登って中を見ると、ちょっとした広間の様な作りになっている。


『わーい』

柔らかなソファーで楽しそうに弾むヒノ。

テーブルも上から吊るされた照明もあり、収納棚もある。


「装甲が付いていて、振動もある程度吸収されるから乗り心地はいいぞ」

「すごいのじゃー。あっ、奥にも部屋があるのじゃ」

「ここがトレーニングルーム兼運転室だ」


そこにはジムの様なトレーニング機器が満載だった。


「ここから前が見えるだろう?ここで自転車を漕ぐか、隣のランニングマシーンで走ると、車輪が回って前に進む。操作はそれぞれのハンドルで行う。


「ハンドルとは、これのことかの。これで進む向きを変えられるのじゃな」

「そうだ。そして、他にも筋力を鍛えつつ、エネルギーを溜めることが出来る装置がついている」

「溜めたエネルギーはどうするのじゃ?」

「たくさん溜まれば、誰でもこれを動かすことが出来るようになる」

「わらわにもできるのかの?」

「ああ、そのための運転席は上だ」

見ると側面に梯子はしごが有り、上に登れるようになっている。

「よいしょ、よいしょ、アキラよ、上を見てはならんぞ!」

スカートの中を気にしつつ上るシュリナ。


「うおおおお!すごいのじゃ!」

『ヒノもみたいー!』

シュリナの絶叫を聞いてヒノもするすると登っていく。


『わあ、すごいのすごいのっ!』

ヒナは大興奮である。


「操作方法は行きながら教えてやる。ヒノでも運転できるぞ」

『わーい』

「それにしてはボタンとかレバーが多いのじゃ」

「攻撃ができるようにもなっているからな」

「なんじゃと?」

「だから、これ自体を武器と考えてしまうと、俺とシュリナは操作ができないな」

「それは困るのじゃ」

「丁度、戦闘用の安全装置がついているから、それを切り替えた後はヒノやカナデに頼むことにする。戦闘時の俺はエネルギーの補給に専念、もしくは乗り込もうとしてくる敵の排除。シュリナは自分の魔法でフォローをしてもらう」

「すごいのじゃ、まるで要塞なのじゃ」

「まあ、ただの盗賊相手なら、降りて戦ったほうが早いけどな」



重さおよそ5トンの車両。

それを動かすためには準備が必要だ。


まず、重すぎて街道を壊しかねない。

柔らかい地面にはまったりする可能性もある。


そこで車両の重さを緩和するための魔道具が付けられている。

それは魔力でもいいが、車両に蓄積されたエネルギーでも作動が出来る。

これにより車両の重さが10分の1以下にできるのだ。


車両を軽くしたら、次にマップを開く。

これも魔道具であり、高速移動をしても先にある人や障害物を見つけて避けることが可能となる。


次にブレーキを解除する。

そして自転車のペダルを漕ぐと進み始めるのだ。

その時速はおよそ30キロ。

一般的な馬車の3倍以上の速さだが、

ゴム製のタイヤだと揺れが少なくて快適だ。


ちなみにゴムタイヤを始めとした多くの部品はアキラの世界で作られたものであり、訳あってアキラはそういう機械類をたくさん持ち歩いている。


アキラが自分の世界を救った話は、そのうち幕間で語ることになるだろう。その時にそういった機械類をなぜ持っているかの話も出るので、お待ちいただきたい。


さて、目的地のハニード山麓まで、この調子なら2日もあれば着くだろう。



「アキラよ」

運転トレーニング中のアキラのところにシュリナがやってきた。

「実はの、お主の意見を聞いておきたいのじゃ」

「どうした?」

「その、わらわは今、こんなに(戦闘力が)貧弱じゃろ?それで、もう少し(レベルアップ)したら、成長の仕方を選べるのじゃ」

自分の体をきゅっと抱きしめるようにしながら言うシュリナ。


「純魔族は(体の)成長の仕方を選べるのか?」

「そうじゃ、今までは父上がおったゆえ、まだわらわは子どものつもりじゃった。だから(能力の)成長はしなくてもよいと思っておったのじゃ」

「(それでこんな体型なのか)。それで?」

「わらわは、このあと、どうしたら良いかの?アキラに決めてほしいのじゃ」

「いや、それは俺が決めることじゃないぞ」

「アキラは(単発攻撃力が)大きい方が好みかの?それとも、今の(広域殲滅型)が好みかの?」

「(胸が)大きいのは嫌いではないが…それに今のって言われてもな(この前、反った時になんとなくわかってはいるが)よくわからないからな」

「そういえば、まだ(広域殲滅魔法を)見せたことは無かったの。それなら、今見せようかの。ここなら(列車の周りに誰も居ないから)邪魔も入らぬ」

「ま、待て、どうした?いつものシュリナらしくないぞ。俺はそんなに(胸を)見たいわけじゃない」

「これからのために、わらわのことを良く知ってもらいたいのじゃ」

「シュリナ…」



「では、外に出てわらわの殲滅魔法を披露して」

「だめだ!こんなところで胸を見せるとかヒノの教育に!」


「「は?」」


「アキラよ。おぬしは何を考えておったのじゃ」

「すまん、忘れてくれ」

「無理じゃ」

「頼む」

「せっかくだから聞くのじゃ。胸は大きいのと小さいのと、どっちが好きなのじゃ?」

「シュリナならどちらでもいい」

「ずるいのじゃ!こっちが主導権を持っているのに、わらわを照れさせようとかしおって」

「とりあえず、広域殲滅魔法を見せてくれるか?」

「仕方ないのう、わかったのじゃ」


そう言って、シュリナはいそいそと服を脱ぎ始めた。


「ま、待て!何で脱ぐ?!」

「わらわの殲滅魔法は、体の表面に近いところから全方位に照射されるから、上着は邪魔なのじゃ」

そしてシャツ一枚になるシュリナ。もちろん、胸の形は丸わかりである。


「では、見ているのじゃ」


シュリナは背中に鳥のような黒い翼を生やすと、列車から外に出て宙に舞った。

シャツだからよくわかるが、黒い翼はシュリナの背中から直接生えているのではなく、少し離れた空中から生えていた。


「『大いなる闇の威圧グレーターダークプレッシャー』!」


シュリナの周囲に闇が生まれ、それが火花のようにはじけて散った。

しかし、何も起こらない。


「シュリナ、今のは?」

「実は敵が居ないと不発になるのじゃ。本当はこの後、最大100体の相手に対しての直接精神破壊攻撃が行われるのじゃが」

「すごいな、それは。しかも広域殲滅型なのに敵限定だから同士討ちフレンドリーファイアしないのだな」


シュリナはふわりと、アキラの元に戻ってきた。


「でも、今はまだ攻撃力が低くて、当たっても立ちくらみ程度なのじゃ。でも、能力を単体攻撃力特化に変えていくこともできるのじゃ」

「広域殲滅なのは、生まれつきなのか?」

「最初の能力を手に入れるときに選んだのじゃ。でも、これから何度か変えていけるのじゃ」

「何度くらいだ?」

「わからぬのじゃ。父上は7回ほど能力の方向性を選んで、なるべく標準的に強くしていたようなのじゃ」

「つまり、広域殲滅に特化させると、それがものすごく強くなるかもしれないのか」

「そうじゃが、どこまで成長できるかわからないのじゃ。元のレベルは84じゃったけど、能力の方向性を変えられるのは2回しかなかったのじゃ。それに、2回目の時は保留にして、どちらも選んでおらなかったからの」

「レベル84か。それで殲滅特化なら、かなり強いと思うが?」

「レベルが上がっても範囲が広がるだけで、威力を出すには攻撃力特化の方向も選ぶ必要があるのじゃ」

「俺が基本個人特化だからな。できれば広域殲滅のままで、攻撃力だけアイテムで上げるとかの方が良くないか?」

「そのために使っておった魔王の剣が持てなくなったのじゃからな」

「まあ、待て。焦って考えても仕方ない。ゆっくり考えてみよう」

「それもそうじゃの」



シュリナは翼を消して上着を羽織りなおすと、アキラの顔を覗き込んだ。

「ん?何だ?」

「実はの、上着を脱がなくても攻撃対象が減るだけで、技自体は見せられたのじゃ」

「!」


つまり、アキラに自分のありのままを見せたかったということ。


「ば、馬鹿野郎」

「アキラの顔が赤くなるところ、初めて見たのじゃ」

「ヒノ!エネルギー溜まったから運転教えるぞ!」

『わーい!』


「あ、逃げたのじゃ」

「奥様、何かうれしそうですね」

「わかるかの?アキラをちょっとやりこめたからの」

「それはそれは」

「わらわたちはお茶でもしていようかの」

「はい、奥様のお菓子、またいただきたいです」

「カナデのれるお茶もうまいから頼むの」

「はい」


こうして1日目の移動は、特に戦闘もなく過ぎていった。



その夜のこと。

トレーニングルームにて。


「泊まるのもここなら楽じゃの」

「なあ、シュリナ」

「なんじゃ?」

「あの黒い翼は魔族特有のもので、スキルじゃないよな?」

「空を飛ぶためにスキルのような働きがあるが、本当の翼なのじゃぞ」

「つまり体の一部なのか」

「ほれ」


シュリナは黒い翼を生やした。

近くで見るとすごく艶やかで美しく感じる。


「こんな風に、自在に動かせるのじゃ。ほれほれ」

シュリナは翼の先でアキラの鼻先をくすぐる。

「こら、こらっ、やめろっ」


がしっ


思わずシュリナの翼をつかむアキラ。


「ひゃうん」

「あ、すまんっ」


慌てて手を離すアキラ。


「すまん、感覚もあるんだな」

「…おかしいじゃ」

「何が?」

「おかしいのじゃ。今まで、誰に触られてもこんなふうには…」

「こんなとは何だ?」

「ええーい、何でも無いのじゃ!それより、そろそろ夜ご飯なのじゃ」

「わかった、ここを点検してからすぐ行く」


シュリナがトレーニングルームを出ると、目の前にカナデが立っていた。


「き、聞こえていたかの?」

「壁が薄いですので」

「別に何でもなかったのじゃぞ」

「奥様、ドラゴンにも同じような翼がございます」

「そうじゃったな」

「普段は戦いにも使えるほど強い翼ですが、弱くなるときがあるのです」

「なんじゃと?」

「好きな相手と戯れている時です。その時、翼を触られるととても心地よくなるそうなので、おそらくは奥様も…」

「んなっ(ぼっ)」


真っ赤になったシュリナを見て、カナデはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「食事の支度は終わっておりますので、アキラ様といらしてください」

「そんなこと聞いたら、アキラの顔を見られないのじゃ!」

『じゃあヒノがぱあぱをよんでくるねー』


いつの間にか近くにいたヒノがそう言ってトレーニングルームに入っていく。


その食事の間はシュリナはかなり口数が少なかったが、不機嫌ではないのは誰が見ても明らかだった。

お読みいただきありがとうございました。

次回は今夜18時に更新いたします。

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