第9話 ヒノもZだった。
ヒノの冒険が始まります。
そして出入り自由な天界で、ヒノはとんでもないものを授かります。
いよいよ、ヒノの冒険者デビューだ。
ギルドに行き、受付のエリスを呼ぶ。
「お待たせしました、アキラ様、シュリナ様。おや?そのお二人はもしや?」
「ああ、新しい仲間だ。獣人のカナデと息子のヒノだ」
「息子さんっ?!」
エリスは俺とカナデを見てからヒノを見て、再びカナデのネコ耳を見てからヒノを見る。
「ヒノはわらわの息子じゃ!」
それを見ておかんむりのシュリナ。
「ネコ耳が無いからそうかと思いましたが、でも、シュリナさんってまだ」
「もうハタチなのじゃ」
ざわっ!
ギルドがざわめいた。
「ん?なんじゃ?ハーフエルフだから別に珍しくなかろう?」
「まさか思い違いをしていたか?」
アキラはしまったという顔をしている。
この世界のハーフエルフは魔族と同じく、二次性徴が10歳くらいからで、結婚が許されている12歳でも子供を産むことはできる。
しかしその二次性徴は人間と違い体つきは女性らしくならない。
母乳で子供を育てられる成熟した体になるのはハーフエルフの三次性徴が始まってからで、個人差はあるがだいたい18歳前後。
つまり12歳での結婚は認められているが、すぐに子作りをしないことが多いのだ。
ヒノは見るからに4歳か5歳。
三次性徴が始まっていないような体つきの少女を妊娠させたと。
「(ぼそっ)マッスルロリか」
「(ぼそっ)幼女と野獣だな」
ハーフエルフの性徴のことを手短にカナデから耳打ちされたシュリナは真っ赤になる。
「そそそそそそ、それはじゃの!わらわが無理に迫ったのじゃ!わらわの体がいつまでも…」
「もういい。俺は別にどう思われてもかまわん」
「わ、わかったのじゃ」
「べ、別に法に触れるわけではありませんから、大丈夫ですよ。それにたまにあることらしいですから」
と多少ひきつった笑顔になったエリスがフォローをしてくれる。
まず、モンスターを倒した報告をする。あまりに大量のモンスターの死体やマウンテンジャイアントは、ギルドの中庭に出すこととなったが。
「凄い数を狩って来られたのですね。それ以前にこんな異次元箱の容量がある人なんてそうそう居ませんよ」
とはいえ、初見ではないらしく、異世界チート定番の、異次元箱の容量で驚く様子は無かった。
もっともアキラの異次元箱の容量は定番の驚き方をするくらいに大きいのだが。
「では、査定している間に、登録をしますね」
「そういえば、5才でも冒険者登録できるのじゃな」
「保護者が付いているなら可能です。よほどの才能持ち以外は、採取依頼しか受けないことが多いですけどね」
「なるほどなのじゃ」
「ヒノちゃんはお名前書けますか?」
『うん!』
実は今朝になってから受付で名前を書くことを思い出して、朝ごはんのあとでヒノに名前の書き方を教えておいたのだ。
『ひー、のー』
ヒノはペンを受け取ると、名前をなかなか可愛い字で書く。
続けてカナデも名前を書く。
「承りました。…え?あの、また?」
出来上がった冒険者証を見て、以前に見たような表情で硬直しているエリス。
「あ、まさか?」
アキラはそれを見て思い当った。
「また相談室、借りられるか?」
「はい、そうです。相談です。はい」
エリスの言葉が色々おかしくなっているが仕方がない。
なにしろ、また「例のもの」が見つかったのだから。
7番の相談室にて。
前と同じく副ギルド長のシトリーが入ってきた。
「何回もお呼び立てしてすみません」
「いや、俺もその可能性を考えておくべきだったな」
「なんのことなのじゃ?」
シトリーはシュリナの目の前に新しい冒険者証を並べる。
カナデ ランク F
ヒノ ランク Z
「ヒノがZじゃとおっ!」
「シュリナ、声が大きい。まあ、ここでの声は外には漏れないだろうが」
「どうしてじゃ?どうしてヒノがZなのじゃ?」
「おそらく、俺の4つのZは俺の世界のもので、この前の世界の分は入っていなかったようだ」
「ということは、前の世界をヒノが救ったことになっているのじゃな?」
「そうだ。俺たちをこの世界に飛ばしたという行為でな」
それにより、人間と魔族の戦いは終結し、世界は救われたということなのだろう。
「ヒノさんは幼くて経験が少ないでしょうから、偽装でFにしておくのをお勧めします」
「そうじゃな。ヒノ、一緒に頑張るのじゃ」
『うん!』
「ところで、先程伺ったのですが、ヒノちゃんはお二人のお子さんだそうですね?」
「そうだ」
「事情は人それぞれでしょうが、さすがにあのように目立たれますと、依頼に差し障りがあるかもしれませんよ」
少女に手を出す筋肉男。確かに、外聞は悪そうだ。
「そこで、こういものを使ってみませんか?」
シトリーがテーブルの上に置いたのは、短い魔法の杖。
ただ、この世界や前の世界でよく見るような実用重視のデザインではなく、どちらかというと子どものおもちゃのようなカラフルな見た目である。
「可愛らしい杖なのじゃ」
「これはまさか…」
アキラはそれに見覚えがあった。
これは、アキラが居た世界で言うところの、あの、
「ご存じでしたか?これは『魔法少女の変身ステッキ』です」
「やっぱりか」
「なんなのじゃ、それは?」
シトリーはそれを手に取ると説明を始める。
「これを使うと『魔法少女』というヒロインに変身できるのです。そして、自分が望んだ年齢の姿で戦うことが出来ます」
「なんじゃと!ほしいのじゃ!」
それがあれば、ヒノを生んでもおかしくないくらい成長することが出来るし、このアイテムを「あらかじめ持っていた」ということにすれば、先程の誤解も解ける。
「だが、ずっと変身していられるわけではないのだろう?」
「なんじゃと?それでは意味がないのじゃ」
「いえ、この変身アイテムにはレベルがあって、レベルが上がれば1年くらい成長したままの姿でいられます」
「1年あれば十分なのじゃ。さっそく、それをわけてほしいのじゃ」
「ごめんなさい、これは他の人のものなのでお渡しできません。でも、同じものを手に入れられる場所ならお教えできます」
「どこなのじゃ?」
「ハニード山麓の奥地にある『魔法の国ミラクリーナ』です」
「カナデ、知っているか?」
「この町を挟んで、ドラゴン山と反対側にあるのがハニード山麓です。ミラクリーナという国は聞いたことがありませんが」
「地図はこれです」
シトリーは異次元箱からスッと地図を取り出した。
「ハニード山麓の真ん中に『入口』とあるな」
「そうじゃが、山の洞窟の中にでも魔法の国が有るのかの?」
「いえ、そこの入り口から、時空の狭間にあるミラクリーナに行けます」
「なんじゃと!」
ミラクリーナは魔法がとても発達した国であり、あらゆる世界の平和の為に魔法少女を輩出している。
そのため、他の世界とつながっている時空の狭間に国があるのだ。
「ただでそんな大事な情報を教えてくれるわけじゃないよな?」
「アキラさんがいぶかしむのも当然ですが、これはギルドとして冒険者のためにすることですので」
「そんな簡単に入口とかを教えていいのか?」
「信頼できる人なら」
「俺たちはここにきて数日だぞ」
「人を見る目はあるつもりです。それに、誓約書にサインをしていただきます」
そういって誓約書を取り出す。
そこにはミラクリーナの場所を他人に教えないとも書いてあった。
この誓約書は依頼が終わってからも有効なタイプで、約束を破るとこの誓約書にそれが表示されるようになっている。
「そうか、それならいい」
「アキラがいいと言うなら、わらわもいいのじゃ」
『ぼくもー』
「私もアキラ様に従います」
ギルドを出て、準備のために宿に戻るとシュリナが口を開いた。
「アキラよ。おぬし、何か気づいたことが有ったのじゃろう?」
「ん?わかるのか?」
「なんだかそんな気がしたのじゃ。当たっていたのなら、う、うれしいのじゃが」
無論、アキラにとってもシュリナが自分の考えに気づいてくれることはうれしいことだった。
「この依頼は、世界を合わせて5回も救っている俺たちに、その国の問題を解決してほしいってことだ。依頼という形にしないのは、ギルドに記録を残したくないとか、何か理由があるのだろう。変身アイテムの情報が報酬みたいなものだしな」
「なるほどなのじゃ」
「あと、もしかすると他の世界から侵略を受けているのかもしれないな」
「魔法のステッキを欲しがっている世界があるのかの?」
「いや、それがほしいくらいで征服まではしないだろう」
「じゃあ、どうしてじゃ?」
『そこからあちこちのせかいに、じゆうにいけるからかなー』
ヒノの発言にアキラとシュリナとカナデが固まる。
「ヒノ、今なんと言ったのじゃ?」
『うんとね、そのくには、あちこちのせかいにいけてべんりだから、ほしいのかなって』
「賢いのじゃ!ヒノは神童じゃったのじゃ!」
「さすがアキラ様と奥様のお子なのです!」
なでなでなでなでなで
なでなでなでなでなで
二人に撫でられるヒノ。
「ヒノ、侵略とかいう言葉の意味わかるのか?」
『うん、えっとね、くにをせめて、じぶんのものにすることなの』
「すごいのじゃ!5歳とは思えないのじゃ!」
「5歳といっても見た目だけの話で、中身はまだ生まれて数日のはずなんだが…。よし、ヒノ、『河童の川流れ』って意味わかるか?」
『んーーーと、かっぱっていう、およぎがとくいなひとでも、おぼれてながされることがあるってことなのー』
「あっておるのか?」
「ああ、だいたい合ってる。しかも『河童』は前の世界やこの世界には無い言葉だと思うのだが」
「もしかして、キャビナの父親が使った人化の術のせいかの?」
「単純に標準的な人間の子どもにするのではなく、パラメータを自由に設定できるタイプの人化なのだろうな。それで知識にステータスを振ってあるのかもしれない」
「そんなことをする意味があったとは思えないのじゃ。いや、今となってはありがたいのじゃが」
「ではヒノさん、12912掛ける5763は?」
「カナデ、それはいくらなんでも無理なのじゃ!」
『えーっと、んーっと、えーっと、7、4、4、1、1、856なの』
「カナデ、合ってるか?」
「はい、当たっています」
「ヒノ、どうやって計算しておるのじゃ?」
『えっと、いくつかなーってかんがえると、ぽわぽわってこたえがうかんでくるのー』
眼を見合わせるアキラとシュリナ。
「謎のスキルかもしれないな」
「そうじゃな。でも、賢いに越したことは無いのじゃ」
「話がそれてしまったが、とにかくミラクリーナに行くことにする。だが、危険と思ったら逃げるぞ」
「わかったのじゃ。無理はしないのじゃ」
「がんばりましょう」
『ヒノもがんばるのー』
実体化のスキルの制限時間が過ぎてヒノが姿を消した。
アキラとシュリナはすぐに手をつないだが、ヒノは出てこない。
「ヒノ?どうしたんじゃ?」
『きゅうけいちゅうなのー』
ヒノの声だけアキラとシュリナの頭の中で聞こえる。
「休憩とかいるのかの?」
「長時間実体化すると疲れるのかもしれないな」
「ならゆっくり休めばいいのじゃ」
その頃天界にて。
白い世界にヒノが姿を現した。
『こんにちはなのー』
「ヒノちゃん!おかえりなさい!はい、おやつがあるわよ」
満面の笑みで出迎える最高神代理女神エリオス。
『さっきはありがとうなの』
「いいのよ、どんどん頼ってね」
そう、さっきヒノが色々答えられていたのは、ヒノが心の中で女神に聞いて、女神がそれを調べてヒノに教えていたのだ。
ただ、ヒノにも分かるように言わなければならないので、大体の意味になったり、大きすぎる数字をヒノに伝えて言わせるのは難しい。
数字を一桁ずつ言っていたのはそのためだ。
『ねえねえ、ヒノはおべんきょうがしたいのー』
「いい子ね。じゃあ、ここに居るときは、私がお勉強を教えてあげるわ」
『わーい』
「ほら、お口の横にお菓子が付いているわよ」
『えへへ、ありがとうなの』
「ああん、かわいいのお」
そう言ってくねくねしているエリオス。
とても他人、いや、他神には見せられない。
「それで、何の勉強をしたいの?」
『まほうのくににいくから、ヒノもかっこいいまほうをつかいたいのー』
「そう、でも、ヒノはまだマジックポイントが低いから、そんなに大した魔法は使えないわね」
『そうなのぉ?』
悲しそうな顔をするヒノ。
「で、でもねっ、そこは最高神におまかせよっ!」
代理だが、仮にも最高神である。
ヒノのマジックポイントを増やすくらいは楽勝であった。
「最高神の祝福をヒノに!かの者の、魔力を上げよ!」
『わあああああああ』
「ああっ、ヒノちゃん、大丈夫?痛かった?ごめんね、ごめんね」」
『ううん、びっくりしたけどだいじょうぶなのー』
「良かったわ。これで魔法の勉強をしても、ちゃんと魔法を使えるだけの魔力が身に付いたわよ」
『ありがとうなのー』
「…というわけで、はい、やってみて」
『うん、ぶらすとさいくろん!』
しーん
『でないのぉ』
「もう一度教えるわね。魔力をぎゅっとしぼって、ざっと手に集めて、ゴゴゴって炎を巻き起こすの」
エリオスは教えるのがめちゃくちゃ下手だった。
なにしろ、神の魔法は成長とともに勝手に身についていくものなのだから。
『やっぱりできないのー』
「困ったわね、どうしましょう」
『ぱあぱが、やりのつかいかたをおしえてくれるときは、ヒノをもっておしえてくれると、うごきがよくわかるの』
「それだわ!ねえ、ヒノちゃん、ひのきのぼうになって」
『うん!』
ヒノは淡い光に包まれ、ひのきのぼうになる。
エリオスはそれを掴むと、最高神の祝福を与える。
「私の魔法を発動できる強さをここに!」
『わあああああ』
「ごめんなさーい!!」
『だいじょうぶ、なの』
さっそく、エリオスが魔法を使ってみる。
「『爆炎圏』!」
ヒノの体を魔法の発動元として、最高神の魔法が行使され、目の前に炎の嵐が吹き荒れた。
「どう?」
ぽんっ!とヒノが人の姿に戻る。
『わかったのー。ぎゅっで、ざっとして、ごごごっと「ぶらすとさいくろん」!』
目の前にすごく小さな炎の嵐が巻き起こった。
「成功ね」
『でもちいさいのー』
「本来の大きさだと狙いがつけられないからみんなが危なくなるわよ。だから、ヒノちゃんが魔法を使う時は、自然と力がセーブされるようにしておいたからね」
『わかったのー』
それでも明らかに上級魔法を凌駕する威力を秘めていることに気付くのは、ヒノがそれを実戦で使ってからだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は10月22日12時更新です。