第7話 ドラゴン山と新しい仲間を手に入れました
本日2度目の更新ですので、ご注意下さい。
追記
11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。
『いくよー』
角うさぎと対峙するヒノ。
実体化しているその手には小さなヒノから見ても「小槍」と言えるような、青い柄の小さな槍を持っていた。
大人から見たらショートソード並の長さである。
しかし、そんな武器であっても、ヒノはきちんと使いこなす。
突進してくる角ウサギの側面に回り込み、
『こっちだよ』
「ギギャッ?!」
その膝を槍で突き、倒れた角うさぎの首を槍で一突き。
「さすがヒノなのじゃ。あっ!あぶないのじゃ!」
木陰から新たな角ウサギが飛び出し、ヒノに襲い掛かる。
ヒノの小槍は倒した角うさぎにささったままである。
「今行くのじゃ!」
「シュリナ、大丈夫だ」
アキラが飛び出そうとするシュリナを押しとどめる。
『セカンド、きてー』
ヒノが空中にそう呼びかけると、目の前に2本目の赤い柄の小槍が現れて手のひらに収まる。
しかし、すでに角うさぎは至近距離まで迫っていた。
『えいっ』
「グギッ!」
ヒノは角うさぎの角に突かれる前に、それを見切ってあごを蹴り上げていた。
そして一閃。
角うさぎは腹を裂かれて地面に落ちる。
「ヒノ、すごいのじゃ!」
『ゆうべぱあぱにおそわった、キックがやくにたったの』
「ヒノ、よくやったと言いたいが、敵がまだいるかもしれない状況では、槍を深く突き刺してはダメだぞ。次の敵にも対応できるように、急所を切り裂くか、刺してすぐ抜ける程度にするんだ」
『わかったのー』
何匹もの角ウサギを倒している間に、ヒノのレベルが上がった。
名前 ヒノ
レベル 3
槍術 レベル1
棒術 レベル1
拳法 レベル0
「おお!拳法というのも覚えたのじゃな!」
「変だな?」
「どうしたのじゃ?」
「レベル3になったにしては、あっさりステータスが見えすぎている」
「家族だからではないかの?」
「まさか」
アキラは自分のステータスを確認する。
名前 長門アキラ
種族 人間(人外)
レベル3(呪われているため上昇不可)
…
「やっぱりか!シュリナ、これを見ろ!」
ステータス公開でシュリナに自分のステータスを見せる。
「俺のレベルが上がっている!」
「ほんとなのじゃ!って、その人外っていうのはなんなのじゃ?」
アキラはシュリナに看破を使う。
名前 シュリナ・フィン・ブラスメイザー
種族 純魔族
レベル3(呪われているため上昇不可)
体力 19
腕力 15
魔力 33
…
スキル 闇魔術 レベル3(呪われているため上昇不可)
魅了 レベル3(呪われているため上昇不可)
看破 レベル3(呪われているため上昇不可)
「シュリナも上がっているぞ!」
「本当なのじゃ!って、だから種族は人間なのに人外っていったい…」
「つまり、ヒノのレベルに合わせて俺たちのレベルも上がるんだ!」
「なんじゃと!!」
一つの武器に込められる呪いの『強さ』には限度がある。
魔宝石などを埋め込んだりミスリルの武器なら、強い強化をかけたり、逆に強い呪いをかけることもできる。
しかし、「ひのきのぼう」みたいなものでは、そんなに強力な呪いが付与できない為、呪いの内容に制限をかけるしかない。
よって、レベル1であったひのきのぼうやと同じレベルに、装備した相手のレベルを落とすという仕様にしてあったのだ。
「これからは家族で一緒にレベルアップできるんだな」
『うれしいのー』
「それもうれしいが、今度は何分実体化できるのじゃ?」
「1日4回。30分ずつだな」
「かなり増えたのじゃ!」
「この分だと、もう少しで、日常活動くらいの実体化が出来そうだな」
「それなら、冒険者登録もできるのじゃ」
『ヒノもぼうけんしゃになれるの。うれしいのー』
町の食堂にて。
「軍は帰ったようじゃの」
「そうらしいな」
「なんだか、活気を感じるのじゃ」
「よっぽど迷惑かけていたんだな、あの軍は」
「わらわがそのうち締めてやるのじゃ」
「そうだな」
「駄目なのじゃ!」
「ん?」
「わらわがそういうことを言って、止めるのがアキラの役目なのじゃぞ」
「そうか。わかった。じゃあ、俺は抑える役に回ればいいんだな」
「そうじゃ」
「でも、たまには同意させてくれよ」
「もちろんじゃ」
そんな話をしていると、周りの声もいろいろ聞こえてくる。
「なあ、俺はまだレベル低いから迷惑だろ?」
「心配ないぜ。これからパワーレベリングしてやるからさ」
「ぱわーれべりんぐ?」
「んとね、えっとね、レベルの高いあたちたちが強いモンスターをしばき倒してね」
「お前のレベルを強引にあげてやるのさ」
「おお!」
「お前の職業は貴重な戦力になるからな。レベル上がったら期待してるぜ」
「まかせとけ!」
「パワーレベリングじゃと?」
「ヒノにはやらないつもりだったが、一応説明しておこうか」
「なんじゃ、もう考えてあったのじゃな」
「そりゃあな。世界によって違いはあるが、前の世界もこの世界も、パーティを組んでさえいれば、直接戦闘参加しなくても経験値が手に入りレベルアップする」
「アキラがドラゴンを倒したら、一気にヒノがレベル10とかになるのじゃな」
「そうだ。しかし、欠点もある」
「なんじゃ?」
「一気にステータスが上がってしまい、それに慣れるのに時間がかかることがある。また、そればかり続けていると、実戦経験がレベルに追い付かない」
「それはまずいのじゃ」
「そういうこともあって、パワーレベリングをしないつもりだったのだが」
「だったというと?」
期待と不安の混じった眼でアキラを見るシュリナ。
「思った以上にヒノの物覚えがいいのと、そろそろ冒険者登録をさせてやりたいから、一気に上げようかと思っていたところだ」
「おお!やったのじゃ!」
がしっ!と机の上のアキラの手をにぎるシュリナ。
『わーい。ぱわーれべりんぐだー』
姿を現して、喜ぶヒノ。
「わ、わっ、ここで出てきてはダメなのじゃ!」
慌てて手を放そうとするシュリナの手をアキラがつかむ。
「待て、周りを見てみろ」
「何じゃ?」
誰も机の上に浮いているヒノのことを気にも留めない。
「まさかわらわたち以外には見えておらんのか?」
「見られないように苦労していたのが徒労だったか」
『ほんとだー、見えてないー』
ヒノが隣の人の目の前で手を振るが、全然気づいていないようだ。
「ともかく、明日は倒しやすそうなモンスターを見つけて俺がどんどん倒す。シュリナはヒノを守っていてくれ」
「わかったのじゃ。楽しみなのじゃ」
「おそらくレベル10にもなれば、半日以上は実体化できるだろう」
「やったのじゃ!」
『やったのじゃー』
相変わらずシュリナの話し方をまねるヒノが可愛らしい。
翌日。
どこにどんなモンスターが居るかの情報収集をしっかりした後、アキラとシュリナはドラゴン山と呼ばれる山にやってきていた。
ドラゴン山という名前は、山頂の火口付近に古龍が住んでいるからである。
「だからって、山の名前がそのまま過ぎるのじゃ!」
この山の裾のにはそれなりに強いモンスターがいる。
「ここでパワーレベリングをするのじゃな」
「そうだ。ここのモンスターはあまり集団にならず、俺一人でも戦いやすい」
「ヒノは任せておくのじゃ。それにいざとなったらわらわも手伝うのじゃ」
「さて、まずは山の主にあいさつに行くか」
「なんじゃと?!」
「今からかなりの数の動物を狩るからな。ダンジョンと違ってフィールドのモンスターはリポップしない」
「リポップとな?」
「魔王なら知っているかと思ったが。ダンジョンとかで倒したはずのモンスターやボスが、時間がたつと復活してくる仕組みのことだよ」
「あれはリポップというのじゃな?初めて聞いたのじゃ」
「それで、古龍がもしこのあたりのモンスターを狩りの対象にしていた場合、あまりやりすぎると怒られると思ってな」
「さっきギルドで聞いたじゃろ?別にここでモンスターを倒しても古龍は相手にしない、山頂に近づかなければ良いと言われたのじゃぞ」
「そうだが、別の理由がある」
「別の理由じゃと?」
「単に、古龍に会ってみたいだけだ」
「危険じゃぞ!レベル3のわらわたちでは勝てぬぞ!」
「だから挨拶に行くのさ」
「な、何かあったら」
「ちゃんとシュリナとヒノは俺が守るから」
「当然なのじゃ」
不安だが、守ると言われて嬉しそうなシュリナ。
そして、シュリナはもし戦いになってもアキラが勝つのではないかとすら思っていた。
そう思っていたのだが、
「でかすぎるのじゃー!!」
目の前で眠っている古龍は100mくらいの大きさであった。
とても勝てる相手に見えない。
「ぐっすり眠っているのじゃ。起こしたら怒られそうなのじゃ」
「そこで、これだ」
アキラは異次元箱から酒樽を取り出す。
「なんなのじゃ?」
「『銘酒ドラゴンバスター』だ」
「名前が危なすぎるのじゃ!」
「鬼殺しだって、鬼を殺すほどの酒と言うだけで、本当に殺したわけでもないわけでもないのだがな」
「どっちなのじゃ!」
「酒で酔わせて殺したって話もある」
「ドラゴンを怒らせるようなものは駄目なのじゃ!」
「これは大丈夫、ただのうまい酒だ。何しろドラゴンの杜氏が作ったのだからな」
「とうじ?」
「酒を造る職人のことだ」
「ドラゴンの杜氏の酒だと?!」
あたりに地鳴りのような声が響いた。
「おっ」
「あわわわわ」
見ると、眠っていたはずのドラゴンが首を持ち上げていた。
「ここを護られる偉大なる古き龍よ。眠りを妨げて申し訳ない。わたしはアキラ、この者は妻のシュリナ。ここの裾野で少しばかり派手に狩りをしたいので、あいさつに参りました」
「なるほど。それで、その酒が挨拶の品というわけか。しかしその程度の」
「これは、ただの目覚まし用です。場所をお借りします」
アキラは異次元箱から「大きな」樽を3つ取り出した。
「なんなのじゃこれはっ!!」
シュリナは仰天する。
なにしろ、その樽は直径30m、高さも30mくらいあるのだ。
「おお!」
「魔法で作られた樽なので、開けと命じると上が開いて飲めます」
「開け!」
すると、上の部分が開いた…らしい。
はるかに上なので、アキラ達には見えない。
しかし、ドラゴンが首をつっこんで飲み始めたのを見て、蓋が開いて酒が見えているのだなとわかる。
「…ぷはあ!なんと、この姿で飲める酒に出会えるとは。しかもなんといううまさだ!」
「気に入っていただけて光栄です」
「いったい、どこのドラゴンが作ったのだ?」
「前の世界に居たドラゴンで、シュピゲール・ジュラウン殿です」
「なんと!その様な者が異世界におるのか!つまりおぬしたちは異世界の者どもじゃな」
「はい」
「そうなのじゃ」
「よし、しばし待て」
ボンと小さな音を立てて、ドラゴンは姿を消すと、そこには長いひげを蓄えた偉丈夫が立っていた。
見た目は50代くらいのナイスミドルといったところか。
眼光は鋭く、非常に顔立ちが整っている。
そして服装は貴族の服の仕立てのようであるが、宝石などの装飾品は無く、真紅の布地に金糸銀糸の刺繍が施されている。
「うわ、渋いのじゃ。格好いいのじゃ」
「なるほど、細身でありながら見事な筋肉だ」
「やっぱりそこを見るのじゃな」
「久しぶりに喜びを覚えたぞ。我に捧げものとして酒を持ってくる人間はいるが、どれも量が少なく、この姿になって味わうしかなかった」
「同じことをシュピゲール殿もおっしゃっていました」
「それでこれほどの大きさの酒樽を作ったわけか。まさかドラゴンが杜氏をするとはな」
「いえ、最初はわたしがやっていたのですが、その様子を見てシュピゲール殿が酒作りに興味を持たれまして。時空間操作の魔法などを駆使して、これだけの量を楽々と作っておられました」
「なんと!ぜひ会いたいものだ」
「会いに行けるのですか?」
「我も時空間操作はできる。だが、手がかりなしでは難しいな」
「それなら、これを」
アキラは水晶玉のようなものを取り出した。
「シュピゲール殿から別れ際に渡していただいた通信用の宝珠です。時空を超えていても通信できるとのことです」
「おお!それを預かってもよいのだな?」
「シュピゲール殿が、自分の作ったお酒を気に入ってくれるドラゴンに出会ったら、これを渡してほしいと頼まれました」
「感謝するぞ、人間よ!」
「それで、ひとつお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「うちの子のパワーレベリングをしたいので、この山のモンスターをたくさん狩る許可をいただきたいのですが」
「それなら、今すぐ我は異世界へ行くから、好きなだけ狩るが良い」
「ありがとうございます」
「それでその子とやらは連れてきておらぬのか?」
「いいえ」
アキラはシュリナと手をつなぐ。そしてヒノが姿を現す。
『ドラゴンのおにいさん、こんにちはー!』
「おにいさん?」
『違うの?』
「おじさんでかまわんぞ。ほほう、利発そうな良い子だ」
「(ボソッ)どこぞの女神様とは違うの」
「(ボソッ)その女神さまが実際どんな外見か知らないからなんとも言えないけどな」
「そういえば、実体化していないヒノが見えているのじゃな」
「古龍だからだろうが、おそらくSランク以上の冒険者やモンスターにも見られる可能性はあるぞ」
古龍はヒノをじっと見ると、
「そうか、魂牢で、女神の祝福で、なるほどなるほど」
「全て見透かされているようなのじゃ」
「では、許可しよう。我が戻ってくるまで、ここの土地を預ける」
「えっ?!」
「なんじゃと?!」
目の前の巨大な酒樽が全て消える。
古龍が自分の異次元箱に取り込んだのだ。
そして古龍は元の巨大な龍の姿に戻った。
「100年もしたら帰ってくる。それまでは預かってくれ」
「わかりました。お任せください」
「我の名は、ギルザーブ・シュタリオン。この土地を所有する証をお前たちに託そう。さらばだ!」
そう言って、古龍ギルザーブは1つの護符を残して姿を消した。
「異世界へ旅立ったか」
「すごい体験だったのじゃ」
「まさか、山を預かることになるとは思わなかったな」
そう言って護符を拾おうとすると、それが空中に浮かびあがった。
「なんじゃ?」
「おおっ?」
護符はそれに付いていた赤い宝石を中心に人型に再構成され、女性の姿になった。
メガネをかけた知的美人な秘書と言った風の女性で、服装もそれらしくタイトスカートのスーツだ。
なお、胸はかなり大きい。
「ご主人様の命により、この土地の守護の補佐をさせていただく、カナデと申します」
「さっきから驚いてばかりなのじゃ」
「カナデさんは、」
「カナデとお呼び下さい。領主代行様」
「領主代行は長いから、アキラと呼んでくれ。それでカナデは何が出来るんだ?」
「アキラ様がこの土地を治めるための手伝いです。土地の状況やモンスターの状態を調整可能です」
「モンスターの状態じゃと?」
「リポップの速さや種類を選べます」
カナデは空中に大きなウインドウを開くと、そこにある様々な調整用のメニューを表示する。
つまり、ここはダンジョンと同じようなことができるということだ。
「つまり、どんなモンスターをどれだけ出すか決められるわけか」
「はい。この場所に適応したモンスターに限られますが」
「すごいな、最上位のダンジョン並の管理性能だ」
「そうなのかの?」
「シュリナはダンジョンの管理者には会ったことは無いのか?」
「あいにくと無いのじゃ」
「ダンジョンの管理者はいろいろな方法でダンジョンを制御しているが、全て自由にできるってわけではない。だから、これはすごいぞ」
「ご主人様は、人間の冒険者たちのために、今の状態を設定されていました」
「ほどよく経験値が稼げるところから、レベルが高くないと難しいところまでバランスよくあるわけだ」
「優しいのじゃな」
「ご主人様は、人間が好きでしたので」
ともあれ、ヒノのためのモンスター狩りの開始だ。
なのだが、なぜか4人パーティになっている。
「どうしてカナデがいるのじゃ?」
「アキラ様のお側でお仕えさせていただこうかと」
「火口に屋敷があったではないか。そこの管理がいるのじゃろう?」
「そこは私の妹たちが管理しております。私は、この山の領主代行であるアキラ様にお仕えするよう、ご主人様に命じられておりますので」
「それはわかったのじゃが、何かいやなのじゃ」
「奥様、何かお気に障りましたか?」
「お、奥様?べ、別にかまわんのじゃ。じゃがな、その、もしこの4人でギルドに行ったとするじゃろ?」
「なるほど、そういうことか」
アキラは納得する。
カナデが妻、ヒノが息子、シュリナはおそらく娘に見えてしまうだろう。
「それでしたら、姿を変えます」
カナデはあっという間に、シュリナより少し背が低い少女の姿になった。
「それで、どうしてわらわより胸が大きいのじゃ!」
「これは制御用の宝珠です。胸の真ん中についているのですが、小さくはできないのです」
大きい宝珠が胸の真ん中についていることで、服を着ているとシュリナより胸が大きいように見えてしまう。
「ちゃんと胸そのものは奥様より小さくしております」
「それでも見た目ではわからないからいやなのじゃ!」
「カナデ、犬や猫にはなれないのか?」
「なれますが、飛んだり走ったりする時に宝珠が地面に当たりますので」
『それなら、ぎるどにいた「ねこなひと」になれば?』
とヒノ。
「そうか、獣人じゃな?!」
「なるほど、獣人ならここでは珍しくもないし、ヒノが人間であることを見れば、カナデの方が母とは思わないだろう」
『可能です。お待ちください』
先程よりは少し時間をかけて、カナデは姿を獣人に変えた。
『これでいかがでしょうか?』
先程の秘書のような姿をベースに、猫耳と尻尾を付けて、鋭い爪や小さめの肉球がある手をしている。
服装はスーツのままなので、タイトスカートから尻尾が生えている。
そして胸はとても大きい。宝珠はその間にはさまっているのだろう。
「これならカナデが妻とは間違えられないのじゃ」
シュリナはふうと胸をなでおろした。
しかし、この外見ではシュリナもアキラの妻に見られないであろうことをすっかり忘れているのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
今夜22時に3回目の更新を行います。