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第1話 勇者と魔王が同時に呪われました

初めての長編です。


いかつい勇者と、実年齢20歳外見10歳の魔王娘と、かわいいヒノくんが異世界に行って家族となり、様々な冒険をするお話です。


追記

11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。

いよいよ勇者がやってくる。

歴史は繰り返されている。

そう、魔王は必ず討ち果たされる。

勇者の振るう聖剣エクスカリバーによって!



「いやじゃいやじゃ!」

格調高い魔王の椅子で足をバタバタさせて駄々をこねているのは、10歳ほどに見える少女。

頭に魔王と同じ角が小さいながらもあるからわかるとおり、魔王の娘、魔王女だ。


「魔王様!わがままを言ってはなりませぬ」

それを諌めるのは代々が魔王の側近を務めてきたサキュバスの女王の娘。サキュバスの王女リリカ。


「魔王ではない、わらわは魔王女じゃ!」

「でも、魔王様が失踪されましたので、あなたさまが魔王でございます」

「それなら今迄通りシュリナと呼べ!それにお前の母が悪いのじゃ!わらわの父上と一緒に駆け落ちなどして!」

「母上だけのせいではございませぬ。シュリナ様の父君ちちぎみが、勇者に恐れをなして逃げるなんて言い出したからです!」


そう、魔王は勇者と戦う前に、側近のサキュバスの女王と一緒に姿をくらましてしまったのだ。

ちなみに魔王の妻でありシュリナの母であるアンゼリカはすでに他界している。

そして今は、魔王の娘シュリナ・フィン・ブラスメイザーが暫定の魔王となっていた。


「それというのも、あの勇者のせいじゃ!」


目の前の魔導モニターには、勇者が四天王の三人目と戦っている姿が映し出されている。


「一撃必殺!エクシードカリビアーン!」


勇者は「聖なる大槌(・・)」を振り下ろすと、巨躯で怪力を誇っていた四天王の三人目を武器もろとも潰し、その跡はモザイクが必要な惨状となっていた。


「なぜじゃ!なぜ今代の勇者は、あのようなおぞましい武器を使っておるのじゃ!!」

ガタガタと震える魔王女シュリナ。


「あの者は、あらゆる武器の形を変えるチート能力を持っているそうです。ただ、形状が変わるだけで能力はまったく変わらないそうなので、歴代の勇者の中では最弱とも言われています」

「最弱でも最悪なのじゃ!」


モニターには勝利した後の光景も映し出されていた。


返り血を浴びた勇者が振り向くと、残された部下たちが恐れおののく。

そして次々に武器を捨て、降伏の言葉を口にする。


「貴様ら、全員人間を殺したことがあるな?」

ここでいう「人間」とは、魔王国と戦っているヒューマンやエルフや獣人などを指す。

「い、いえ…」

「俺に嘘は通じない。答えろ。命じられて殺したとか、仲間を殺された復讐のために殺したという奴以外…人間を快楽の為に殺した奴だけ立て」


「は…はい」

立ったのは一人の魔人だった。

意外そうに見上げる仲間たち。

あの非道のゴルザが正直に言うとは。

何か策でもあるのか?


「「「あ」」」


見て分かった。こいつ、足はガクガクに震えていてしかも漏らしてやがる。


「よし、ならば転生してやりなおしてこい!」


勇者はもうひとつの武装、「ヒノノ2トントラック転生ハンマー」を異次元箱から取り出して振りかぶると、ゴルザを横なぎに吹き飛ばした。

ゴルザは吹き飛びながら虚空に溶け込むように姿を消した。

こことはまた別の異世界に強制転生させられたのだ。


「さて、正直に言わなかった奴はお前と、お前だな」

聖槌エクシードカリビアーンを振り上げると、それにトゲトゲが生える。

「は、はわわっ」

「お、お許しをっ」

「許しはあの世で殺した者たちに請え」


立て続けに水風船をつぶしたような音が二つ。

そこには血だまりしか残されていなかった。


「わ、我々はどうなるのでしょうか?」

「これは魔族と人間の国と国との戦争だ。だから命じられてやむなく殺した奴やかたき討ちをした奴まで俺は裁かない」

「「おお!」」

「俺が戦争を止める。そして、そのあとお前たちは平和のために力を尽くせ」

「「「ははーっ!!」」」


「シュリナ様!朗報です!きっと代替わりしたばかりの魔王様なら、許してもらえますよ!」

「そうじゃな!そうじゃな!」


「だがな」


重々しい声で勇者はモニター越し(・・・・・)に魔王をにらみつける。


「こんな戦いを命じた奴らには相応の報いを受けてもらわないとな」


「「ひえええええええええええええ」」


恐ろしい死刑宣告にリリカと手を取り合って震え上がるシュリナ。


「もれなく幹部を殺していたのはそのせいじゃったか!」

「シュリナ様!私たちも逃げましょう!」


「それはできないわ」

そう言って王の間に入ってきたのは、四天王最後の一人、ヴァンパイアの真祖であるヴォルカノの娘キャビナ。


「シュリナ様のあとを継ぐ者は居ません。つまり、勇者は地の果てまでもあなたを追い続けるでしょう」

「ならば父上を探して…」

「もうすでにこの世界にはおりませぬ」

「なんじゃと!?」

「宝物庫にあった秘宝を使い、異世界へ旅立たれたそうです。あのサキュバスと共に」

「ならばわらわも!」

「それが最後の2つでした」

「おのれ父上ええええ!!」

シュリナの目の前は真っ暗になった。


「しかし、策はございます」

「なんじゃと?」

「今代の勇者はなぜかたった一人で行動しております。そして、行く先々で人間や魔族を区別することなく、助けて回っていると」


人間の軍が魔王の民衆を虐殺しようとしていたところを救った話もある。


「そこで、我が父が作ったのがこれです!」


取り出したのはなんの変哲もなさそうな「ひのきのぼう」である。


「それがなんなのじゃ?大した力も感じぬが?」

「これは、呪われた武器にございます。しかも、持った者の能力をレベル1にまで下げてしまうのです」

「おお、すごいのじゃ!」

「さすが魔導博士と呼ばれたあなたの父上ですね!」

シュリナとリリカの顔がほころぶ。


「しかしじゃ。嘘を見抜くあの勇者に、この武器をどうやって装備させるのじゃ?」

「それは心配無用です。おい、姿を変えよ、ヒノ」

『うんっ』


「ひのきのぼう」はそう言うと、四歳くらいの子どもの姿に変わった。


「か、かわいいのじゃーっ!」

「シュリナ様!触れてはなりません!」

キャビナがシュリナを遮る。


「なぜじゃ?」

「つかんだり、抱きついたりすると、装備したことになって、呪われますので」

「なんと!」

「せめて撫でる程度にしてください」

「しかたないのじゃ。よしよし」

『えへー』


頭をなでると、ヒノは愛らしい笑顔をシュリナに向ける。


「かわいいのじゃ、かわいいのじゃー」

なでまくりである。


「シュリナ様。勇者が来たら、ヒノを魔物に追いかけさせます」

「なんじゃと!?」

「そして勇者の前に逃がし、魔物に転ばせます。すると」

「勇者がヒノを起こそうとして、その手を掴むわけじゃな!」

「そうすれば勇者はあの聖槌を装備できなくなり、能力もレベル1になります!」

「おお!おぬしの父は天才じゃ!で、その父はどうしておる?」

「それは…」


目の前に新たな映像が映し出される。

そこに映っていたのはヴァンパイアの真祖でありながら完全に消滅させられた四天王最強の男の「跡」だった。


「あわわわわわ」

「…魔王か?つくづくのぞき見が好きな奴だ」


勇者がキッと空間ごしに睨みつけてくる。


「今行く。首を洗って待ってろ」


勇者は大槌で壁をぶちやぶりながらまっすぐ進んでくる。

迎撃もトラップもなにもあったものではない。


「早く、早くヒノを!」

「わかってます!」




「あそこか」


長い通路の突き当たりにひときわ立派な扉が見える。

あれが魔王のいる部屋なのだろう。


すると、その扉がわずかに開いて、小さな子ども、ヒノが走り出してきた。

『いやだよー!たすけてー!』

ヒノの後ろから追いかけてくるのは醜悪なローパー。触手お化けみたいな魔物である。


「なんでローパーなのじゃ?かわいそうなのじゃ!」

「シュリナ様、ローパーが適任なのです。見ていてください」


ローパーは触手を伸ばすとヒノの足に絡める。

『わあっ』


「なるほどのう」


しかし、ローパーは触手を縮めてヒノを引き寄せ、大きな口から捕食しようとする。


「いかん!」

ヒノ自体には悪意がないと、魔族であったとしても状況的に助けることを選び駆け出す勇者。

「勇者が間に合わん!」

そして勇者とヒノの距離がありすぎて、ヒノが喰われてしまうと思って飛び出したもう一人がいた。


「つかまるのじゃ!」

魔王女シュリナだった。


がしっ!


ローパーに食われる寸前にヒノは「両手」を掴まれる。


「ん?」

「ん?」

ヒノの右手にはシュリナ。

ヒノの左手には勇者。


『あなたがたは呪われました。他の武器は装備できません』


「体の動きが鈍い?くっ、レベル1だと?!」

勇者が自分のステータスを即確認し、攻撃をぎりぎりで回避する。

「わらわもレベル1なのじゃ!」

「こっちだ!」

勇者はシュリナとヒノを抱えて廊下を転がって回避する。

知性のないローパーは魔王であるシュリナに遠慮することなく、三人をどんどん追い詰めていく。


「はい、そこまでです」

ローパーは三人の目の前で真っ二つになった。

キャビナの持つ禍々しい黒い剣によって。


「まさかシュリナ様まで呪われてしまうとは」

「解呪はあとにして、とりあえず、弱っている勇者を倒しましょう」

キャビナは武器を手に勇者に迫る。


「俺がレベル1だから倒せると思うのか?聖槌エクシードカリビアーンが使えないから弱いと思うのか?」

勇者は不敵に笑う。その身に纏った闘気に一瞬ひるむキャビナ。


「しかし、我が父から受け継いだ幻霊魔豪剣の敵ではない!」

「おっと」

勇者は最低限の動きで剣をかわすと、身にまとっていた重厚な鎧に剣が触れる。


パキーン!


かすっただけで薄い氷が砕けるように粉々になる鎧。


「見たか、この剣は触れたものを、ものを、きゃああっ!」


上半身が裸になった勇者を見ておののくキャビナ。

その裸に驚いたのではない。


ムキッ!

モリッ!

ビシィ!


勇者の隠されていた筋肉に驚いたのだ。


「ふん!」


キャビナがひるんだ隙に勇者は素早く移動し、武器を持っているキャビナ手をひねりあげ、さらに全身の固め技へと移行する。


「カイザー厳牢固め!」

「ぎゃああああああっ」


全身の骨が折れる音がし、気を失うキャビナ。


「あいにくだが、俺はこっちへ転移する前から強いんでな」


ルールの無用の地下プロレス全戦無敗、帝王と呼ばれた男。

その名もマッスルカイザー長門アキラ。


三十三歳のある日に、忽然と姿を消したが、その名前だけは語り継がれているだろう。




「お、おのれ。シュリナ様を守らねば!」


勇者はレベル1でも強かった。

だから女神からもらったチート能力は武器変形だけだったのだろう。

しかし、まだ勝てる可能性がなくなったわけではない。


「それならステータスの解析を!」

リリカはあらゆるものを見通す魔眼の力を使い、勇者アキラのステータスを見る。


「能力だけでなく、弱点すらも全て見通して…きゃああああっ!」

泡を吹いて卒倒するリリカ。


「リリカ!いったい何を見たのじゃ?」

「おそらく俺の所持しているスキルを見たのだろう」

「まさかおぞましいスキルでも持っておるのか?」

「いや、そんなものはない。ただし」

「ただし?」

「俺が持つスキルの数は一万以上」

「なんじゃと!」

「不用意にレベルの高い看破や鑑定を行って全てを見ようとすると、その情報量で頭が混乱するらしいな」

「なんでそんなにスキルを持っておるのじゃ?!」

「それは『託された』からだ」


勇者の持つスキル『託された想い』。


その効果は、望んだ相手からスキルを受け取るもの。

相手が心の底から望まないと使えず、しかもそのスキルはレベル1になるため、すぐ役立つことはほとんどない。

そのため、歴代の勇者はほとんど使わなかったし、使えなかった。


「おぬしは、人間だけでなく、我が国の民からも想いを託されていると言うのじゃな」

「そうだ。そして、『託された想い』の真の効果は、スキル1つにつき、体力と耐久力が1上昇する」

「それではますますわらわに勝ち目がないではないか!」


へたりこむシュリナ。もう味方はいない。

相手は筋肉の化身バケモノ

もはや覚悟を決めるしかなかった。


「さて、お前が魔王の後を継いだという娘だな?」

するどい眼光でシュリナを睨むアキラ。

「ひゃ、ひゃいっ!」

アキラの顔立ちは整っているほうだが、その筋肉と眼力めじからのせいで恐怖しか感じない。


「先代の魔王はどうした?」

「い、異世界ににげみゃひた!」

かみかみで答えるシュリナ。


「すると、責任を取れるのはお前だけということだな?」

「ひゃ、ひゃい!でも、まだ何もしてないでしゅ!」

「父親が逃げて跡を継いでから、この戦争を止める命令を出したか?」

「…」

無言は肯定。嘘を見抜く力がなくてもわかるほどであった。

「それならば同罪だ」

アキラはまさしくハンマーのような拳を振り上げる。

「ひいっ!」


『ぱあぱ、だめ。まあまをいぢめちゃ、だあめ』


くいくいと、アキラの鎧の裾をひっぱるヒノ。

その目は涙でうるんでいた。


「まさか、わらわたちが助けたので、両親のように思っておるのか?」

「はあ」


毒気を抜かれたように、腕を下すアキラ。


「た、助かったのかの?」

「いや、魔王は戦争を始めた責任を取って消えてもらわねばならない」

「ひえええええ!」


目の前に現れたのは「ヒノノ2トントラック転生ハンマー」。


「異世界に消えてもらう」

「そんなもので殴られたら、死ぬのじゃ!」

「死んで転生するだけだ。新たな人生をやり直してこい。ん?」

なぜかハンマーを握ることが出来ない。


「そうか、他に武器を持てなくなったのだな。この呪いはレベル1では解除できないか」

「助かったのじゃ!」

「いや、こうする」

アキラはチート能力でハンマーを変形し、小さなピコピコハンマーにする。


「よし、お前、代わりにママを叩け」

『えー、やだよう』

「これはただの遊びだ。これなら叩いても全然痛くないからな」

『ほんと?』


ぴこっ


「あ」

「あっ」


ヒノはピコピコハンマーで自分の頭を叩いた。

すると、ヒノはそのハンマーに宿る転生の力でこの世界から姿を消した。


呪いで結びつけられていたアキラとシュリナと共に。


三連休は連続更新します。

次は10月12日22時更新です。

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