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7話  ペアの町の一人少女_4

 開かれたドアからは、バスタオルで身を包み、またバスタオルを首にくくりつけ、タオルを頭に巻いた受付少女が、こちらを見たまま立ち尽くしている。少し口を開け、驚いた表情をしている。……俺は、布団から上半身を起こし、なぜ受付がこんな姿でこの部屋にいるのかを考える。1秒で思いついた。ここが、受付少女の部屋だったのか……!俺はてっきり、奴がトレーニングをしていたことから、筋トレ道具のある向かいの部屋が、受付少女の部屋なのだと思っていたが。…………少しの膠着の後、先に動き出したのは受付少女だった。受付は少女は、部屋に入ることなく、開けたドアをそのまま閉めた。


「出て行ったか」


 俺は、誰に言うでもなく呟く。てっきり物でも投げられ、赤面した受付少女が暴れ狂うとでも思っていたが、……ふっ、人間が出来てるじゃないか。俺は、再び体を休めるために、布団に横になる。受付が風呂から出たということは、俺かアメーナがそろそろ入れるということだ。受付のやつも、冷静さを取り戻せば、風呂の時間を伝えにここに戻ってくるだろう。……ただ、冷静になりすぎて、宿泊代の話が先に出なけりゃいいが。もち合わせはそれほど多くない。キャンセルするにしても、風呂だけは先に入っておきたいものだ。俺が天井を眺めながら考えていると、再びドアが開かれる。視線をドアのほうへ向けると、アメーナがこの部屋に入ってきた。アメーナの後ろには、服を着た受付少女もいる。2人の距離はペア範囲外のようだ。アメーナが俺に近寄り、俺のペア範囲内に入ってくる。


「シブイさん。あのですね、このお部屋なのですが、カラさん、……この宿主さんのお部屋らしいです」

「なに?……その受付、宿主なのか」

「はい。先ほど、武器を探しに、私のいた部屋にきたのですけれど。事情を説明したら、他の部屋の大掃除をしてたのを忘れていたらしくて」


 ああ、だから他の部屋がガラクタの山になってたのか……。ということは、そこに飾ってある黒猫の着ぐるみも、大掃除中に見つけて、ついつい休憩がてら試してしまったのだろう。着ぐるみ、埃っぽいにおいしてたし、足の部分が棒だから、じゅうたんや畳で使うと痕が残る。ある程度広さのある玄関廊下は、あの器具を試すにはちょうどいいって訳だ。俺が納得している間にも、アメーナは、話を続ける。


「それで、カラさんが、シブイさんに部屋を移って欲しいといっていますけど」

「別に、寝られれば構わないが。アメーナのいた部屋でいいんだな?」

「はい。片付けが進み次第、客室を使っていいそうです」

「ふん、雑な経営だ。……そもそも片付けで、なぜガラクタを客室に集める?やり方が悪いな」

「あ、それ、私も聞きました。どうやら最近、1人の偽人間が、盗みを働いているらしくて。外の物置は狙われるから、大掃除のついでに、室内に物品を避難させたのだとか」

「ふ、客より物か」

「お客さん、ほとんどいないみたいですよ。受付する前に帰っちゃうらしいです」

「……だろうな」


 なにせ、受付があれだからな。カラ、だったか。カラのやつには宿主の才能がまるでないと思う。ただの会話で挑発してくるからな。そういう性質なのだろう。……客商売がまず向いてないんじゃなかろうか。アメーナは、俺座っている布団を、指差しながら話す。


「その布団ですけど、汚いから洗っておけと言ってましたよ。あと椅子に置いてある、着替え用の衣服には触るな、と。……どうですシブイさん?」

「安心しろ、触る以前に、まったく気づかなかった」


 ちらりと椅子の上を見てみると、確かに女性用と思われる衣服が置いてあった。机が邪魔になって気づかなかったようだ。ちっ、俺が何とかしてあの衣服に気づいていれば、カラの部屋だという可能性に気づいて、こんなにも気まずい雰囲気にはならなかったというのに……!というか、俺に布団を洗えというのか?俺が色々と悩んでいたが、1つだけ言うことにした。


「とりあえず、布団を洗うつもりはない。……そもそも俺は、少し汗をかいているだけで汚れてはいない。自分の服は洗濯するがな」

「あ、そこは大丈夫です。元々、布団は私が洗うつもりだったので。というか、シブイさんの衣服も洗おうかと思ってました。洗濯、できるんですね」

「ふっ。甘く見るな。……旅をする以上、料理・洗濯は、そこらの一般人よりも手馴れているつもりだ。ライターと水、その辺のものが使えれば、まあ旅をする上で困りはしない」

「旅人っぽいですけど、現代人っぽくはありませんね。……あ、布団洗っておきます」

「おっと」


 俺は、布団から出て、部屋の端へと移動する。旅人っぽい、か。実はそうでもないのだがな。例えば、持っていると最も便利なのは、金だと思う。これは、俺の旅の経験上、間違いない。……俺は手軽なのが好きだから、旅をする際には、ほとんど物を持ち歩かない。なにか家電製品を買っても、使い飽きればすぐに捨てて、必要になればまた買う。その程度には、金に頼った生活をしているのだ。……俺が昔読んだ本の1つに、常日頃からサバイバル生活をする冒険者の話があった。その話の旅人に比べれば、俺の生活は旅行客レベルだろう。少なくとも、俺は、今の生活が旅人らしくないと思う。だが、憧れてはいるのだ。本で読んだ、冒険者や旅人のような生活に。だが、現代社会でそれをするには、というか俺がそれをするには、相当な覚悟やきっかけ、あるいは半強制的にそうせざるを得なくなる必要がある。…………俺が、シティ脱出を目指しているのは、そういったきっかけになれば、という思いも込められている、かもしれない。俺は、自分の推測についつい笑いが出てしまう。


「くく。なにをバカな。……ただ、死ぬのが怖いだけさ」

「……あの、1人で、なに言ってるんですかね。いつまでこの部屋にいるのですか?」

「はっ。お前は、……受付嬢」


 いつの間にか、アメーナがペア範囲から、いや、この部屋からいなくなっている。そして代わりといわんばかりに、受付少女、もとい宿主であるカラが、俺のペアになっていた。……アメーナは、どうやら布団の洗濯に行ってしまったらしい。宿主少女のカラは、こちらを見ず、どこか遠くを見るように、壁のほうを向いて話す。ちなみにカラの視線は、たまにこちらをちらちら見ながら話している。


「どーも、カラっていいます。……私の部屋が、居心地いいなんてわかりきっています。あなたは、居心地のいいこの部屋を、追い出されてしまいますね?私は、この部屋に居続けますが……」

「居心地はともかく、そうだな」

「ふっふっふ、思う存分、この部屋の快適さを感じていくことですねー。行き先の部屋は、むさ苦しいったらありゃしませんから。……あ、でもさっさと出てってください。あなた汗臭いんで」

「ああ。……俺は風呂にいく。案内」

「案内なんてやです。ふ、自分で探しもしないんですかぁ?」

「……ふん、案内だと?そんなものは必要ない。できそうなやつもいないことだしな」

「……なんて酷い人なのでしょう。私が、せっかく親切で案内しようとしていたのに……!」

「よせ、カラ。……お前には荷が重い。お前に案内など無理だろう。いや、無理だね。俺は、お前に恥をかかせようという気など毛頭ないんだ。お前はなんら恥じることなく、自分に案内できる力を、と願い続けていれば、いつかきっと」

「しつこい死ねバカぁっ!」

「ぐおはぁ……!」


 宿主少女であるカラの拳が、俺の腹へと打ち込まれる。その拳は中々に鋭く、俺は腹を押さえて2、3歩ほど後ろに下がる。そんな俺を、カラは押しのけて、そのまま扉の外へと走り去ってしまった。……く、拳を見切ることはできなかったが、勝った……!正直、俺はクールで紳士ではあるが、そろそろ殴ってやりたくなってきていた。が、相手の得意そうな言葉でねじ伏せてやったのだ。ふ、完全勝利だろう。いてて。……これは、大人気ないかもしれない。だが、売られた口げんかは、理不尽であれば、理不尽さの分も上乗せして罵倒するのが俺の主義だ。これでいい。……俺は、殴られた腹をさすりながら、風呂に入るため、風呂場へと向かっていった。






@キャラ情報@

(★=現能力、☆=能力成長性)


名前「カラ」

戦闘力:★★

体力 :★★☆

精神力:★★☆☆☆

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