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5話  ペアの町の一人少女_2

 ゲートの先には、レンガやアスファルトの道と、いくつかの店の看板・建物などが並んでいた。ほとんどが1階建てだが、稀に2階建ての店もあるようだ。建物同士の間には、しっかりとしたスペースが設けられており、所々に男女のペアが見られる。歩いている男女ペアは、みんなきょろきょろと辺りを警戒しながら、ゆっくりと足を進めている。ペア同士がすれ違いそうになると、どちらのペアも過剰に、飛び退くようにに距離をとる、という行為がそこら中で繰り広げられている。…………わざわざ町中をペアで歩いて、わざわざ命に危険にさらしておきながら、全神経を死なないために費やして、こいつらはバカじゃなかろうか。いやまあ、修行にはなるかもだが。そのとき、背後から、ペアとなっているアメーナが話しかけてくる。


「わー。この町って初めてきたのですが、なんだかみんな楽しそうですね」

「……ここにもバカが1人。おい、周りの奴らの真似をしていたら命がいくつあっても足りん。もうペアになる必要はないだろ」

「んー?そこは、シブイさんのほうが間違っていると思いますよ。シブイさん、周りはペアばかりなのですから、1人でも2人でも、他のペアと接触すれば死にます。でも、2人で警戒すれば、死ににくくなると思いませんか?」

「ん。…………一理あるな。もっとも、お前のドジな接触に、俺が巻き込まれるかもしれないが」

「それはお互い様ですよ。それに私、シブイさんよりしっかりしていますもの」

「ふっ。まあいい。そこの店だが、どうやら民宿のようだ。立て札に、民宿って書いてある。……広さが、一般的な家2件分ほどあるから、民宿によくありがちな、うっかり事故で消滅ということはないだろう。そこにしよう」

「でも、民宿でいいのですか?旅館などのほうが安全だと思いますが。」

「いや、この町なら、むしろ民宿のほうが安全だ。宿主と顔を合わせやすい分、常にペアでいたがるやつらが寄り付きにくい。宿主との遭遇は、デートに水を差すことだろうし、な。……一般常識だが、やる必要もないのに室内でペア行動するっていうのは、バカのすることだ。部屋のドアってのは、スペースの都合上、入り口と出口が統一されている場合が多いだろう。だから、例えば、お前が部屋を出るため、扉を開けようとしているとする。そのとき、反対側、つまりは廊下側の扉の前を、もしもペアが歩いていれば……」

「扉越しに、私たちは消滅してしまいますね」


 そう。だからこそ、店などでは、入り口と出口をわけたりと、人と人との接触には気を使っている。そもそも、屋内というのは、死角がそれはもう多い。壁にもたれているだけで、反対側の壁の人間とペアになることだってある。階段(昇り降り共通)や、曲がり角なども、ペアを作ってしまう可能性が高い。昔は、エレベーターとかいう集団殺戮装置もあったようだが、そんな狂気の処刑道具などなくとも、室内でペアでいれば、普通に人は死ぬのだ。他の客が、室内でペアを作る可能性があるというなら、そんな宿泊施設は避けるに越したことはない。やはり、ペアを作るやつらが集まりにくい民宿にすべきだろう。

 俺は、民宿へと進んでいく。アメーナも、ペア範囲外から俺の後をつけてきている。どうやら俺の話が通じたようだ。


 宿は、窓の少ない大型洋風喫茶店、あるいは、家2件分にまで規模縮小した洋風お屋敷、といえるような外観をしており、2本足の木製の立て札には、民宿と大きく書かれている。扉は、宿の中央から左右に、少し離れて1つずつある。どちらも片開き扉で、正面から見て、左に入り口用、右に出口用というステッカーが貼ってある。ほとんどを建物のスペースに使っているのか、庭と呼べる部分は少ない。

 俺が入り口のドアを開ける。すると、そこには左右に伸びる廊下だの、玄関だの、廊下に面している綺麗な白い壁だのが目に映るわけだが。……俺の目が真っ先に捉えたのは、そんなものではない。何よりも俺の目を引いたのは、木製廊下の上に優雅にたたずむ、人間1人を越えると思われるほど大きく、真っ黒な、猫だった……!


 で、でかい、……でかすぎる!黒猫は、どことなく、なんというか異質な感じを放っている。俺は、猫が好きだ。だからこそわかるのだが、この黒猫は、只者ではない……っ!

 ……俺が、子供の頃に見た図鑑に、ライオンという猫が載っていた。そのライオンという猫は、目の前の猫ほどではないが大きく、姿も違っていたが、それでも猫らしい猫だということは、図鑑の挿絵からすぐに感じとることができた。きっと、俺が頭を差し出せば、額をぺろぺろと愛らしい顔で舐め、俺がライオンを抱き上げれば、ライオンは、その細い前足を、俺の首元に優しくおいてくれるだろうと、直感で理解できた。

 ……だが目の前の黒猫は違う。全ての柔らかそうな足を、つけ根の部分からがたがたと震えさせており、それでいて全ての足は直立を維持している。間違いなく、この猫は、全ての足のつけ根を骨折している。……しかしながら、この黒猫は、顔色一つ変えずに、しかしながら喉の奥では、悲痛というか死にそうなほどの声と息を漏らしながら、一切足を曲げることなく、骨折に耐えて立ち続けている。この猫は、孤高なのだ!……俺は、孤高な生き方の猫が好きだ。可愛いし。だが、ここまで俺の心を揺り動かす猫とは、初めて出会った。相当集中しているのだろう、黒猫は一切こちらを気に留める様子なく、根元から震える足を伸ばし続けている。立ち続けている。しかし、骨折しながら立ち続けるのにも、限界が来たのだろう。黒猫の4本の足は、その根元から、それぞれ90度ほど曲がり、ぽっきりと折れてしまった!小さな悲鳴を漏らし、地面へと崩れ落ちる黒猫。


「にゃ……っ」

「く。この……っ」


 俺は、とっさに飛びだし、地面に倒れふす前に、黒猫を抱き支える。……とはいえ、もう手遅れだろう。この孤高の黒猫は、命を取り留めたとしても、2度と今までのような生活をすることが出来ないだろう。この黒猫になにがあったのかはわからない。だが、こいつの孤高な生き様を見届けた俺は、俺よりも遥かにすごい、だが一切の正体を知らない、この黒猫に追いつこうと心に決め、黒猫の背中に顔をうずめた。

 毛深く、それでいて、ほんのわずかな温かみを感じられる黒猫の肌。しかし、よくいる猫にありがちな、猫特有のにおいは一切なく、代わりに少々の埃臭さが目立った。……物置にでも閉じ込められていたのだろうか?場合によっては、この宿は燃えることになるかもしれない。体をもぞもぞと動かし、生きていることはわかった。……そして、見つけてしまった。俺の、鼻先に当たる、黒猫の背に付いたチャックを……!俺は、驚きのあまり、声にならない声を出す。


「ん」

「あいたた、あのさ、助けるならもっと優しくして欲しいんですけどぉー」


 黒猫から女性のような声がする。いや、正しくは、黒猫の中から、だ。この黒の口は動いていない。……動いていない。き、着ぐるみ……だ……!?


「ま、トレーニングで怪我しなかっただけマシですかね。あ、もういいですから。さっさと下ろしてくださいよぉ。ほら、お客さんの腕、お腹のところ圧迫してるんですよ。早く離してくださいよね」

「……な、なんだお前?」


 中から聞こえてくる声は、とてもじゃないが猫ではない。それも、俺の理解が及ばないような人間だ。なぜなら、民宿でリアルすぎる猫の着ぐるみを着ている人間を、俺は見たことがないからだ。まったく、この女の行動目的が予想できそうにない。こいつは一体、なんなんだ?


 




@キャラ情報@

(★=現能力、☆=能力成長性)


名前「宿の黒猫」

戦闘力:

体力 :★★☆

精神力:★★★★★

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