4話 ペアの町の一人少女_1
俺たちは、色鮮やかなイルミネーションをまとった壁、そんな壁に守られている町の入り口・出口にやってきた。入り口・出口は、壁にきれいに空いている穴らしく、人1人ずつしか通れないほどの大きさだ。1人ずつ入る造りになっているのだろう。入り口・出口の穴には、それぞれ腰ほどの高さほどの木製ゲートがあり、その前には、ガードマンらしき屈強な大おばさんが仁王立ちしている。で、でかい、な……!俺の頭が、大おばさんの腹筋くらいの位置、だな。身長の高い大人でも、あの大おばさんと比較すれば、胸筋くらいの高さでしかないんじゃないか……?俺は、アメーナに待っているようにいい、仁王立ちする大おばさんに近づいていく。……すごいプレッシャーだ。奴、大おばさんのペア範囲に入るには、相当度胸がいるな。
「いらっしゃい。一応、確認事項だから聞いとくよ。あの嬢ちゃんが、坊やのペアだね?」
「…………ん?何を言ってるんだ?どうみても、ペアはお前だろう?」
「………………ほほぅ。その年で、あたしを口説き落とそうとはいいセンスだ」
「は?……え?」
「だがな、あんたがあたしに一目惚れしたら、あそこで待っている女の子はどうするってんだいっ!こんの、浮気もんがぁ!」
大おばさんは、いきなり俺の両肩を掴み、そのまま俺を真下へと押し倒す。そして、ぐぐぅ~っと、俺の目の前まで顔を近づけ、俺の両肩をバンバン叩き、涙とつばを飛ばしながら叫びたてる。
「浮気なんて!彼女を捨てての恋を選ぶ男なんて、あたしゃねえ!あたしゃぁーねえぇぇ……!大っ好物なのさあああぁっ!」
「うぐぉああぅ……!」
「さあ来い!あんたは彼女を捨てたんだ、あたしも勤務なんか捨ててやるよっ!あたしに告ったからにゃぁ、町ひとつくらいは貢ぐんだろうねぇ~!?」
「お、おぃ!ご、……誤解だ!よせっ!」
その後、大おばさんに拉致されそうになりながらも、10分間の抵抗と説得の末、なんとかこの怪物を落ち着かせることに成功した。アメーナは、照れくさそうに顔を赤くしながら、口元を両手で覆っている。今の大激戦のどこに、照れる要素があったのだろうか……?まさか彼女という言葉に照れ、……いや、ペアじゃないやつに声が届くわけない。それにだ、どちらかといえば、ドキドキハラハラのスリル感に近かっただろう。見ている側からしても、怪物と人間の戦いにみえるだろうし。
…………ああ、でも、なんかあれだな。あんなのに襲われた後だから、例えアメーナでも、比較的可愛く見えてくる。って、何をバカなことを、俺は……!アメーナのここまでの仕打ちを忘れたというのか?というか、そもそも女性が可愛いとか、そういうのはないっ。孤高マスターであるこの俺が、女性にうつつをぬかす?ふっ、ないない。どきどき。
「なんだいなんだい、言葉のあやだったかのか。ここでは、ペアって言葉は、恋人くらいの意味だと思っておきな。くくく、そっちのガールフレンドに、愛想尽かされたくなけりゃね」
「ふん、あれはただの連れだ」
「そうなのかい?狙ってるわけでもなく?へえぇ、わざわざこの町にデート目的以外で来るなんてねぇ。……もしかして、この町について何も知らないのかい?」
「……この町の入り口なら、仲間をさがす旅人に会えるかも、とはいわれたな」
「ああー、えらく古い情報掴まされたね。そうさねぇ、昔は、シティへ行く仲間を探すためって理由で、ゲート前に居座る旅人がよくいたもんさ。これでも、シティ端にある4つの町からは、一番近い商業町だからねぇ」
「今はいないのか?」
「ああ。そいつらのせいで、出会いの町、恋人の町なんて呼ばれちまっててさぁ。町のみんなで、便乗しようってなって、ペアでしか入れないなんて決まりを作って、デートスポット化したんだよ。30年は昔の話さ」
「ペアでしか入れない、だと?」
ペアでしか入れない。それは俺にとって、仮に、入り口だけの制約だったとしても、とても耐え難い条件だ。この町に着くまではまだいい。俺が1人、旅をしているところに、アメーナが勝手にストーキングしてきたというだけのことだ。道中では、ペアになって、守ったり、おぶったりもしたが、それはやむ得ない状況だったからノーカウントだろう。だが、こんなペア専用の町に一緒に入っては、それこそ、まるでカップルだとか仲間のようじゃないか……!孤高の権化ともいえる俺にとっては、まさに生き地獄そのものだ。…………だが、汗かいたから風呂に、そろそろ入りたい、が、ペアが、……どうしたものか。
「ああ。ペアで町に入ることは、この町の決まりだ。入ってからは自由さ。……恋仲なら、3人以上になって死ぬかも、というつり橋効果があるから、ペア行動がおすすめだがねぇ。とりあえず、連れの子と一緒に入ったらどうだい?あたしんとこの民宿、告白と勘違いしたお詫びに安くしとくよ」
「…………待っていろ」
俺は、大おばさんのペア範囲から離れ、アメーナのほうへと歩いていく。俺が結構な間、大おばさんと話していた(というか俺が襲われていた)にもかかわらず、アメーナは、ほとんど動かずに待っていたようだ。のほほんとした顔をしており、俺が近づいていくと笑顔になる。……別に、小石なり何なりを投げて、状況を聞いてこようとも構わなかったのだがな。とりあえず、現状を話すために、アメーナのペア範囲に入る。
「おい。残念ながら、旅人が来るという話は昔のことらしい。そしてだ。今では、……なんか、デートスポット、……らしいな。この町は」
「そうなんですか?家電妖精さん、ああみえて、結構なお年だったのですねー」
「……ああ。だが、まだある。この町は、どうやらペアでしか入れないそうだ」
「わ、それは素敵ですね。……シブイさん、私、この町を見てまわりたいです。この辺りでは、結構有名な町ですから、きっといい物が売っていると思います」
「そ、そうか。なら、勝手についてくることだな」
「あれ?シブイさんが、そんなにもあっさり……?わ、わーい」
「お前、俺をなんだと思っているんだ……?」
不思議そうな反応を示すアメーナに背を向け、俺は、町の中へと向かっていく。アメーナは、すぐに俺の後ろから、俺のペア範囲へと入ってくる。大おばさんは、それを見るや否や、ゲートの前から横に移動して、楽しんで来いというように親指を立てている。俺は、木製のゲートを押し開けて、ペアでしか入れない町、名前を覚える気もないが、そんな町に入るのだった。
…………待てよ。この辺で有名な町ってことは、アメーナは、元々この町のことを知ってたんじゃ?アメーナのいた町とは隣町だし。………………それより風呂、早く入りたいなぁ。
@キャラ情報@
(★=現能力、☆=能力成長性)
名前「大おばさん」
戦闘力:★★★☆
体力 :★★
精神力:★★★