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3話 森の家電妖精

 1時間。……そう、俺たちが森に立ち入ってからそろそろ1時間が経とうとしていた。だが、おかしい。俺は、一度この森に入ったことがある。だがそのときは、割とあっさりとぬけられたはずだ。なのに、なぜ、こんなにも森をぬけるのに時間が掛かるのだ?などと考えていると、背中に乗っているアメーナが話しかけてきた。


「シブイさん、……大丈夫ですか?ペース、落ちてますけど」

「はぁ、ふぅ。……人を1人、おぶっていれば、ペースは、……落ちるっ」

「やはり、大丈夫ではないのでしょうか?」

「……くっ!俺が、大丈夫じゃ、ないとでも思って、いるのか……!」

「あ、別に走らなくても。ふふ、でもやはりシブイさんは旅なれていますね。ずっと私を背負っているのに、まだまだ元気で。熟練の旅人って感じです」


 ああ、やはり、この背中に乗せているアメーナが原因だ。こいつが森をぬける時間と体力を大きく削っているのだ。それに、このアメーナって女、最初はちょっと年上かもと思ったくらいには身長がある。俺と同じくらいか、俺より高いかもしれない。……重いとは思わないでおいてやるが、ずっと背負っているのは、……辛い。


 ぼおっとした意識の中で、俺は、……いや、おそらく俺の本能が、家電のそばにいる人影をとらえた。孤高を好む俺にとって、普段はみたくもない人影である。が、今ばかりはなぜか人と出会えたことに感謝したい気分だ。敵なのか、あるいは一般人なのかはわからないが、いや、敵で可能性があるからこそ、警戒……できるのだ……!


「おい降りろ。あそこに人影が見える」

「あら、本当ですね。一般人の方でしょうか?」

「……ふん、どうかな。とにかく3人集まれば消滅してしまう。ペアでいるのは危険だ。お前の怪我のために、命を捨てるつもりはない」

「はい。シブイさん、お気をつけて」


 アメーナは、俺の背中から降りると、近くにあった切り株の上にちょこんと体育座りをする。俺がほんのしばらく、呆れた気分でアメーナを見ていると、笑って軽く手をふってくる。どうやら全部俺に任せるつもりらしい。……だが俺には、アメーナや、敵かもしれない人影に構っている暇などない。俺は、誰もいない方向へと走り出した!


 俺は、走って走って走り続ける。別に、あのアメーナといることに、俺のメンタルが耐えられなかったわけではない。ただ、あいつのために、俺の時間をやたらと使うわけにはいかないのだ……!決して、あんな奴に俺が参ってしまったなどということはありえはしない。その気があれば、あと、5000年は余裕で耐えられたのだ。

 ここまでの体力消費が酷かったからか、3分も走れば、どんどんと疲れがでてきた。休憩のために、俺は、休むのに適してそうなひらけた場所に向かう。少しずつ走る速度を下げていき、そして木々の少ない場所で立ち止まった。


「あ、おかえりなさい。……シブイさん」


 ……聞き覚えのある声が、足元から聞こえる。はっ!と俺は目線を下げる。そこには、切り株で体育座りをしながら、俺に背を向けて座る、……アメーナの姿があった。アメーナは、明るい笑顔を浮かべながら、ゆっくり、ゆっくりと、体と顔をこちらへと向ける。……ば、ばかな。俺は、ついに方向音痴でも身につけてしまったというのか?

 アメーナは、俺の言葉を待っているのか、じーっと、一見明るそうな表情でこちらを見ている。……いや、実は、本当に明るいのかもしれない。俺は、悪いことなどしていないのに、なんとなく後ろめたい気分を感じている。……その後ろめたさこそが、この、仲間がほしいなどとぬかすアメーナを、妙に威圧感のある存在へと変えているのだ……!く、孤高の戦士である俺が、まさか後ろめたさを感じていたとは……。思わず俺は、自分のお人よしっぷりに、ため息のような呆れた笑いがでる。


「ふっ。………………いい準備運動だった」

「え、準備運動してたんですか?ここまで私を運んだあとに……、シブイさんって、本当にたくましいお方ですね」

「……ああ。……ああ」


 俺は、力なく首を縦にふる。休めそうな場所に駆け込んだというのに、休めそうにない。……む。そういえば、さっき見かけた人影がいなくなっているな。どこへ行った?


「彼女を追いていっちゃ、ダメだよー」

「……っ!いつの間に!」


 俺の背後から、何者かが声をかける。俺が飛び退くと、いつの間にいたのか、俺の腰くらいの身長しかない女の子が立っていた。……俺の、ペア範囲内に!これで、俺と話していたアメーナと、後ろから声をかけてきた女の子の、合計2人が、現在俺とペアになってしまった。俺は、ただいまをもって消滅する!


「……消滅、しないだと?」

「ふふふ、驚いているなぁー?教えてしんぜよう。私は、この森に住む、家電の妖精さ」

「妖精だと?ばかばかしい」

「シブイさん。彼女はきっと妖精ですよ。さっき、……あの、女性でも男性でもないことを、確認、しましたし」

「家電妖精の十八番、脱ぎ芸しましたぁ~!信じてくれないんだもんよぅ。あ、兄ちゃんも見てくかい?」

「いらん。……だが、男でも女でもない、か」


 心当たりがある。偽人間以前に流行っていた機械技術に、アンドロイドという人型マシーンがあったと、いつだったかに読んだ、日記を自称する妄想本に書いてあった。昔の人間は、男女ともに、人間よりもアンドロイドを恋人・伴侶にするケースが多かったとか。そのような、今では考えられない話が日記には多かったから、……まさか、本当に存在しているとは思わなかった。……いや、本当にそうなのかはわからないが、妖精よりはありえる、と思う。


「妖精くらい信じがたい話だが、お前、アンドロイドじゃないのか?」

「そうである。なんだ、まだアンドロイドを知ってる人間がいたとはねぇ。……誰もアンドロイドを信じないからさ、忘れ去られたと思ってたし、脱ぎ芸が十八番になっちゃったよ」

「……妖精さん。そんな可愛らしい外見なのですから、むやみに人前で脱いでは、悪質な人間にさらわれてしまいますよ」

「んー?ああ、だから妖精なのさ。君らのような子供の前でだけ脱いでるの。……ふ、安心してくれたまえ。アンドロイドゆえ、法に触れるようなことはなにもしていないよ」


 えらそーに胸を張るアンドロイド。なるほど、家電妖精だとかいって、子供たちに電池やら家電を運ばせて、そこからエネルギーを得ているわけか。周りをよく見ると、うっかり踏んでしまいそうな、小さな家電が多いことがわかる。……歩きにくいと思っていたんだ。

 にしても、あれだな。3人で話をするっていうのは、どうにも落ち着かないものだ……。なんというか、相手が2人いるとだな、俺自身が話すときの、文字数だとか、表情、目配せなどの配分が気になってしまう。……まさか、孤高をいく俺が、平等主義にでも目覚めてしまったというのか……?などと考えながら、俺は森に詳しそうなアンドロイドに道をたずねる。


「ところで、シティ中心部はどっちだ?方向がわからなくなった」

「中心部?だったらあっちさ」

「あっちか。……あと、アメーナ……、こいつを拾いそうな旅人ってこの辺りにいるか?」

「私、みんなで仲良くがいいです。旅は道連れで、シブイさんも一緒に」

「やだ」

「こっちの町の入り口、くらいかなあ。この辺、中心部から遠いからなー」


 む、まさか本当に、この辺まで来てる旅人がいるのか。ふん、好都合というものだ。アメーナ、二度と会うことのない別れの闇は、すぐそこにまで迫っている……!そして俺は、再び、何者にも縛られることなく、孤高に生きていくのさ。…………ふっ。では、すぐにでも旅人のいるかもしれない町へ行こう。俺は、先ほどの話の、最後に出てきた町のほうに、一歩踏みだす。


「ならば話は早い。アメーナを拾いそうな旅人に会いにいく。……着いてこい」

「おいおい!あっちだっていってんだろー?君、なんでわざわざ指差してるのに、別のほうに歩いていくのさ?」

「…………ふ、言われるまでもない」

「それでは家電妖精さん、お元気で」

「おうさ。ま、君ら人間にとっては大変な世の中だが、楽しくやるこったね」


 アメーナは、アンドロイドに手をふりながら、俺の後を着いてくる。どうやら、今回は背中に乗るつもりはないらしい。それに、ちゃんとペア範囲外を維持したまま、後をつけてきている。……ようやく、俺からどれだけ迷惑がられているのかを理解したのだろう。……それに、アメーナは、他の旅人との合流には積極的な様子だった。あのアンドロイドと話をすることで、俺という孤高の男との相性が、いかに悪いかということに気づいた、というところか。あのアンドロイドはノリというやつが軽いようだからな。ふふ、アメーナよ、俺たちは元々水と油なのさ。


 森の出口が見えてきた。出口の奥からは、色とりどりに輝く光が、何度も何度も発せられている。どうやら、これから行く町は、点滅ライトを身にまとった壁に覆われているようだ。……しかし、俺は、この辺りで立ち寄りそうな町については、大体覚えてきたはずなのだが。どうにも記憶にない町だ。一体、どのような町なのだろうか……。






@キャラ情報@

(★=現能力、☆=能力成長性)


名前「家電妖精」

戦闘力:

体力 :★★★

精神力:★★

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