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2話 アメーナとの出会い_2

 俺は立ち上がり、他の偽人間がいないかと周囲を見回す。……ふむ、どうやらいなさそうだ。さっきの偽人間は、単体で動き回っていたらしい。そんな風に安堵していると、焦ったようにアメーナが駆け寄ってくる。俺はペア範囲に入られないように後ろに飛び退く。が、アメーナはそんなことお構いなしに俺のペア範囲に入り込み、そして俺の両肩を掴んで、涙でも流しそうな顔と声で叫んだ。


「どうして、どうして撃ったんですか!あの人、……みたいななにかさん、敵意があったようには見えませんでした……!」

「人間だと?あれが?……おい、よく聞け。あれは人間ではなく偽人間だ。数で群れることを好む、数に憑かれたやつらさ。名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「あらら?偽人間?あれがそうなのですか?宇宙人とかモンスターではなくて?」

「うちぅ……そんな物騒なのがいてたまるか」

「私、初めてみました。偽人間……、とてもよさそうな耳でしたね。ああいう可愛いお耳、私も欲しいです」

「…………そ、そうか」


 まさか引き千切るつもりなのだろうか。それはともかく、こいつが偽人間について詳しくないとなると、今後色々と不都合が出てくるな。偽人間どもは、人間のペアに混じりたがる。アメーナのように、ところ構わずペアを作りたがる人間は、いとも容易く偽人間によって3人組を作られ、そして消滅する。そのときのペアは、俺かもしれない。……ちっ、不本意だが仕方ない。アメーナには、安全な場所に着いたときにでも、偽人間について説明するしかないようだ。嫌になるぜ。


「おい、今はペアでいると危険だ。さっさと離れろ」

「はい……。今度会ったら、また、撃つのですか?」

「そうだ。でなければ、奴らはこちらもろとも自滅する」

「そんな……。彼らは、ただただ…………きっと、頭がよろしくないのですね」

「うん」


 俺が同意すると、アメーナは、いつの間にか足元に落ちていた銃弾を拾い上げる。そして、近くの庭まで駆け寄っていき、土を掘り、小さな穴を作っていく。俺が何事かと近づくと、アメーナは、作った穴に銃弾を埋めて、地面に「ばか」と刻んだ。……どうやら墓とバカを掛けているらしい。最後に手を合わせると、アメーナは立ち上がった。


「これで少しでも、さっきの偽人間さんが報われるといいのですが」

「本気か?」

「はい。……それとその、私、シブイさんのお墓は、作りたくありません」

「俺も、絶っ対、お前に墓を作らせはしない」


 死ぬ気などない。……が、それ以前にだ。アメーナはきっとろくな墓を作らないだろう。現に今、庭の持ち主らしき二人組が、家の中から怪訝そうにこっちをみている。……これじゃあさっきの偽人間も、安らかに眠れはしないだろう。


「ふふふ。お互い、がんばって旅をしましょうね」


 ほんのりとした笑顔を見せるアメーナ。よく、偽人間とはいえ、生物が目の前で死んでこんな顔ができるものだ。俺でさえ、まだ胸が完全に晴れていないのに。……というか、さっきの墓をみて、むしろ胸が重くなったような気さえする。だが、俺は孤高の一匹狼だ。こんな、仲間といたいなどと抜かす奴に、メンタル面で負けるわけにはいかない……!


 俺は、強い意志でいやな気分を追い払い、シティ中心部方面の道を歩きだす。アメーナも、ペアの範囲外から後をつけてくる。特に、行き先などを聞いてくる様子はない。俺に行き先を任せて、とことん付いてくるつもりのようだ。……今から向かう町は、ここのように一軒家ばかりなので旅人はほとんどいない。なのでこいつと別れることは難しいだろう。だが、その次に向かう予定である町ならば、商業町だし、武器などを売っているから旅人がよく来る。こいつを拾ってくれる旅人もいることだろう。ふ、アメーナ、お前との縁も2つ先にある町までさ。


「……結局、この町の端にある壁にも、シティの外へつながる抜け穴はなかったな」


 このドーム状のシティを抜け出すことはできないのか?ならば、やはり、消滅の原因であると噂されるシティ中心部に行くしか解決手段は……。そんなことを考えていると、後ろからふと誰かがペアの範囲に入ってくる。アメーナだ。そしてアメーナは、俺の服の袖を引っ張り、泣きそうな声で話しかけてくる。


「シブイさん……」

「……なんだ。というかペアは危険だと」

「もしよろしければ、その、おんぶか抱っこで運んでいただきたいの、ですが」

「あああ?」

「いえあの。実は、先ほどシブイさんに突き飛ばされたとき、足を、痛めてしまいまして」


 アメーナはズボンのすそ上げる。どうやらひざを擦ったらしいが、こいつは、俺と同じく長ズボンをはいているのだ。よって擦った痕はあっても、傷らしい傷にはなっていなかった。というか、擦った痕もほんのわずかである。仮病だ。


「おい」

「シブイさん。私、責任問題だと思うのです。さあ、お馬さんスタイルでもいいので……」

「お前、本当に動けなくして」

「シブイ、さん。う、うぅ」

「……」

「う、うっ、暴走族スタイルでも、いいので……っ」

「それは断る」


 その後、3分間に及ぶやりとりの末、俺はアメーナをおんぶするということになった。こいつ、銃でも引きはしないし、無視して先に行くにしても、俺の服やズボンを掴んで離しやしないのだ。俺が、クールで紳士な精神の持ち主でなければ、きっと殴っていただろう。……とにかく森を急いでぬけるとしよう。今の状況、偽人間とは遭遇してはならない。……いや、死にそうになれば、いくらメンタルの強いこいつだろうと俺から離れるだろう。


「うふふ、とても心地いいです。ずっと乗っていたいくらいに」

「……」

「あ、心配いりません。大した傷ではありませんし、100時間も経てば歩けるようになりますよ、きっと」

「……ぐ、いつか鬼のような心を手に入れてやる……!」

「いいえ。そんなものなくても、今のシブイさんはとっても素敵ですよ。……私は、いまのシブイさんのままでいてほしい。私は、優しいシブイさんに、ここにいてほしいです」 

「だろうな……」

「あら、森が見えてきましたね。森の景色をゆっくり楽しめるといいのですが……」


 そうこうしている間に、アスファルトの道路は土の道へと変わり、奥には緑色の葉に覆われた森が見えてくる。俺たちが通る森は、シティの中では小さな森であり、町の住民が家電製品などを捨てるために使っている。さっきの町に行くために一度通ったが、落ちてる電化製品やゴミのせいで歩きにくい。そう、他人をおんぶして渡ることが、想定されていない森なのだ……。


 


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