12話 ペアの町の一人少女_8
シティの太陽電気が消灯している中、ペアの町のイルミネーションが、俺たちの視界内をわずかばかりに照らしている。町を歩くペアたちも眠いのか、大通りの人通りもなくなってきた。そんな中、俺たちは立ち止まり、偽人間の泥棒についての情報を話し合っている。アメーナは、俺たちの追っている、ターゲットの情報について話し始める。
「泥棒の偽人間さんという確証はないそうですが、先ほどの偽人間さんは、心当たりを知っていました。……さっきの偽人間さんと女性のペア。彼女らがよく行く店に、毎週、同じく偽人間と人間のとあるペアが、よくきていたそうなのです。ですが、泥棒の偽人間さんが現れ始めた頃から、そのペアはすっかり姿を現さなくなったとか」
「ほう、……とても怪しいな」
「はい。しかもですよ、シブイさん。その犯人候補の偽人間さんのペアだった人、人間の男性だったそうですが、事故で消滅したとお店で噂されていたらしいです。お店でよくみる人たちが噂していたって」
「ふーん。常連が。……ふ、どうやら店の近くで事故が起きたようだな。あるいは店内だろう。話が聞きやすい店のようだが、飲み屋か?」
「サウナだそうです」
「ああ、店内事故だな。食事の店は、席の間隔やテーブルでなんとかなってるが、サウナやカラオケは、個室に大人数だから事故が多いんだとか。……確か、テンションの上がり下がりも、事故率を上げる要因だと新聞に載ってた」
「へー、豆知識ですねー」
しかし、どうしたものか。仮に、この話の偽人間が、ターゲットの泥棒だったとして、どうする?偽人間とペアになっている人間が死んだということは、恐らく、食糧事情とかの関係で泥棒しているのだろう。偽人間を雇うなんて、一般人からすれば殺人癖があるようなものだから、誰もやらないし。……となると、根本的な解決方法は2つしかない。消滅させるか、誰かに養わせるか、だ。消滅した男の財産を使えれば、しばらく生活もできるだろうが……。俺が。解決策を考えているのを他所に、アメーナは話し続ける。
「それにですよ。その犯人候補の偽人間さん、サウナからこの大通りのほうに向かっていたらしいです」
「……ああ。そうなのか」
「そうです。きっと、この辺に住んでいるのでしょう。……シブイさん、この辺を張り込んで、ペアのいない偽人間さんが来るのを待ってみませんか?犯人候補さんには、かつていたペアが今はいません。きっと1人で、この辺りを歩いている偽人間がいれば、その人でしょう」
「…………ん?ああ、ペアがいない偽人間か。……探してみるか」
「眠そうですね、すごく」
アメーナの話に乗り、偽人間が現れるのを待つことにする。俺たちは、大通りにある路地の陰で、身を潜めて待機する。大通りの人通りがまったくなくなるまで、そう時間は長く掛からなかった。…………人通りがなくなって、2時間は経過しただろうか。いや、眠いから、ほんの30分くらいを長く感じているのかもしれない。路地から見える大通りの道を、1つの光が通り抜けていく。発光している塊、あれは、偽人間だ……!俺は、すぐさまアメーナに呼びかける。
「おい、今の光を」
「あああ、ちょっと待ってください。あと1コマだけ……!あと1コマで、超大作の4コマ漫画が完成するんです……!」
「……なら、ここにいろっ」
アメーナのほうを見ると、石を使って、壁に漫画を刻み込んでいるようだった。肝心の内容は、別に興味があるわけでもないのだが、暗くてよく見えなかった。超大作らしいので、あとでどの程度のものか見てみるとしよう。
俺は、路地裏を抜け出し、すぐに大通りを疾走している発光体を追いかける。……が、徐々に俺と偽人間との差は開いていく。奴は、足が速いようだ。仕方ないので、俺は銃を片手に構え、偽人間に狙いを定めて発砲する。
[ずどぉーん!]
暗闇と静寂に覆われたこの町に、1発の銃声が響き渡る。……いや、街灯やイルミネーションだらけ、だな。暗闇ではない。なんとも闇夜の銃声らしさを感じさせない町だ。…………ところで、シティの外には、星という天に輝く粒があるらしい。俺が、ついさっき天に解き放った銃弾は、きっと何もないシティの天井に、1つ輝く星となって残ることだろう。それはきっと、偽人間の体内に弾を撃ち込むことより、よほど有意義な1発だ。あえて、といっても過言ではないだろう。俺が、銃弾を、偽人間に飛ばさなかったのは……。
俺が、黙って弾の行方を目で追っていると、偽人間がこちらに振り返る。奴との距離は、小さな店が4件ほど間にあるので、飛び掛られる心配はない。偽人間は、近くに刺さっていた小さな立て札を抜き、それを持ったまま、近くの路地裏へと入っていく。……大したもの盗んでないんじゃないか?俺は、路地の直前まで駆け寄り、そっと中の様子を伺う。すると、路地の中には、即席で設置したと思われる立て札が手前にあり、奥には、捨てられていたと思われる布切れで、上半身を覆い隠してしゃがみこんでいる偽人間がいた。