諦めないでくれ
意識が戻った時から違和感を酷く感じていた。
覚えがあるのはこうなる前に自身の体が破裂したことでバラバラになったこと、そこからの記憶はなかったがこうして意識があるのだから生きてはいるにだろうと透輝は思った。
こうしているわけにはいかない、目的がある約束したことだし覚悟を決めたことでもある。自分自身が造ったであろう殻を突き破らねばッ。
「ンアッー!」
バリバリッと和紙を裂いたような音とともに身体を拘束していたものを再生した腕で内側から自らを封入していた繭を突き破り透輝は再誕した。
透輝は自身に残っている最後の記憶から自分が破裂しバラバラになったことを覚えている、今自分が肉体を再生できているのが<新生>のスキルのおかげであろうことも。
『トウ……キ?トウキッ!?よかったぁっ』
「は?(困惑)」
<新生>での脱皮のため上半身裸の透輝にパトラが抱き着いてきたことに驚く透輝、もっとも透輝自身に破裂した記憶もあるのでパトラの心配してくれていたことは嬉しいことでもあった。
ついでに上半身が裸なのでパトラの胸の感触もダイレクトである、といってもパトラはエルフ?の血統のせいか胸は控えめなのだが……。
「あ~、パトラ心配かけたみたいなんでごめん、とりあえず俺のことを離して反対側を向いてくれるとありがたい」
透輝がそう言うとパトラは表情が歪みその双眸を潤ませたところで透輝は慌てた。
何かを勘違いしている透輝はそう思ったが、ことの原因の透輝の破裂……透輝は気にしていないが元々はパトラが透輝に瘴気を吸収させようとしたのだ、しかしそれによって透輝は爆発、彼女のとっては嫌われても仕方がないと考えてしまうには充分すぎることだろう。
「ちょっと待て何かを誤解してるって、完全に脱皮して服を出したいんだよッその後でちゃんと話し合おう、なッ!?」
『わ、わたしのことキライになってない?』
縋るように透輝を見つめるパトラに透輝は罪悪感がこみ上げてきた。
大切な彼女をここまで心配させてしまったのだと……そう認識させるには充分すぎることだろう。
胸が締め付けられるような思いだったが、パトラは不安からなのか普段よりその容姿が幼く見える見える……。
「嫌いになるって……ええ……?どうして?」
『だって!わたしの……せいで──』
パトラは俯いたままで最初は強い思念が透輝に伝わり最後には受け取ることが難しいくらいの小さな思念だった。
恐らくパトラは自分の目的の為に透輝が瘴気を集める羽目になり、その結果として今回の透輝の破裂が起こったことに対して自分のせいで透輝が怪我(という範囲でないが)したことに耐えられなかったのだろう。
「気にしてない」
『…………』
パトラは俯いたまま顔をあげることはなかった。
まるで幼子が親に咎められた時のように今は顔をあげることはできないと固くそう思っているようにも見えた。
「──パトラの目的、いやパトラが求めているものは俺もいつかは授かりたいと思ってるんだ。今はそんな覚悟なんてないから少し情けないかもしれないっていうか情けないんだけど。それでもそれを理由に後回しにしたくはないし準備っていうのもしておかなければならないものだろ。……俺は諦めてなんかないし今回のことは気にしてない、だから酷いかもしれないけれどパトラにも諦めてほしくないんだ。」
パトラは俯いたままだったが、その肩はビクッと揺れた。
透輝の言葉に噓偽りなどはなく本心だ、そしてそれはパトラに想いは伝わってくる。透輝が『凶神』として不安定だった頃にはパトラは透輝の思考さえ覗くことができたのだ。
透輝が伝えたことはパトラの胸に重くのしかかる(といってもパトラは微乳だから物なんて乗らないケド)。
『本当に……あきらめなくてもいいの?』
パトラの表情はこわばっていて、何かの拍子に崩れて哀しみに染まってしまいそうな薄氷の如き脆弱さを感じさせるものだった。
「当たり前だよなぁ?どうして俺が諦めるって証拠だよ。幸いというかなんというか俺は凶神だから簡単に死んだりしないし退屈もしたくない。だからパトラ……不安にさせたみたいだけど、もう一度言うぞ『諦めないでくれ』」
呆気にとられたようなパトラに透輝は一応は安心かなと胸を撫で下ろす思いだったがパトラの瞳から涙が零れた。




