透輝爆散す!
死都の前に到着し、透輝とパトラの二人を背中に乗せたセツが寂れた門の前に止まる。
「ここが……入口か……入口でいいんだよな?」
『それであってるよ、不安そうにしないで』
自信がなさげな透輝だったが、門のすぐそばには骸が無数に転がっており中には年端もいっていない子供のものと思われる姿もあった。その骸がいつのモノかは分からないがどれも乾いた肉があり生前の面持ちを残している。
ふと透輝が幾つかの骸に視線を落とすと驚いたような表情をみせた。
「ただの骸じゃない、アンデット化してもおかしくないはずなのにアンデット化していない?」
透輝は、神格『小凶神』を得たことによりアンデットなどの瘴気に関わるものについては本能的に察することができる。その透輝から見て転がる骸に違和感を覚えた。
『アンデット化できる素養があるのに、私達が求めていた瘴気の発生原因が凄まじい思念をもってアンデット化を防いでいる……ってこと?』
「それだけじゃない、この世界からの解脱を防ぎつつアンデット化の素養を持たせながらアンデット化をさせない……なんとも矛盾を孕んだことを俺たちが求めた人物はしているみたいだな」
『何がしたいの?それって?』
物言わぬはずの死体の筈なのに何故か苦痛に満ちた表情を幻視するような気がする。
よくよく見てみれば、どの骸も切り傷などの損傷があり特に男だと思われる死体は両断されていたり四肢のいずれかが切り落とされたのか無くなっているものが多くあった。
(──復讐か?)
よくよく見てみれば殺害のされ方が違う、女性のものだと思われるものは苦しみが少ないように殺されていたが男性は骸の損傷が激しく尚且つそれには子供も含まれているようだった。
「よほど都市の連中が憎かったんだろうな……」
『へー?』
恐らく、いや確実に皆殺しだったのだろう。少なくとも数万人は殺した存在がこの死都の中央にいるはずなのだ。もっともパトラには透輝が考えていることに対して共感はできなかったようだが。
目の前にある門はまるで都市の中央にいるであろう存在の心情を示すかのように堅く閉じられていた。
「っつても俺にはカンケーねえけどなァ!」
脚を振り上げ思いっ切り頑丈そうな門を蹴り飛ばすと爆砕音とともにあっけなく門は門としての機能を果たすことができない欠陥品に姿を変えた。
「見ろよパトラ、この門の無残な姿よぉなぁ(半笑い)」
『すごいね!こーゆうことをする人ってチンピラっていうんだっけ?』
「……」
なぜだろう透輝は無性に土下座がしたい気分になっていた。
それでもパトラの手を握っていたままだったが──。
そもまま透輝はパトラと手をつないだまま、さながらデート気分で死都の探索を開始した。
やはりというべきか、都市内も無数の骸が転がっており女性は即死、男性の場合はなるべく苦しみが続く殺され方をしているようだった。
『よっぽど男が嫌いだったのかな?』
「嫌いだったとかじゃなくて恨んでたんじゃないか?」
死体だらけの場所で平然としている透輝は自分の異常性に気がついていない。
眉を動かすことがないほど感情も動いていない。
『そんなに恨まれるようなことってなんだろう?』
「……そのうちパトラにもわかる時がくるんじゃないか?まあ、わかったら教えてくれ」
『うん?わかった?』
心底不思議そうにしているパトラに透輝はどこかやるせないものを感じたが良くも悪くもそれが彼女の純粋さと考えられると思えば納得できた。
パトラが知っている人は『大賢者』と透輝しかいないのだから人間関係の複雑なものなど彼女にはわかるはずもないのだ。
「死体の損傷が激しくなってきたな……惨殺されてるっていえばいいのか?」
『そうだよ(肯定)』
透輝達が進んで一時間ほど、指は切り落とされ、目は抉られ鼻のない男達の死体が無数に転がっていた、もう既に死都の中央付近まできているが元々あった建物にも圧倒的な魔力でつけられたであろう損壊が見てとれた。
「いいね~、瘴気がバンバンきてますyo!」
『これは……』
場所はかつての広場、当時は活気があったのだろう露店などの残骸も見てとれたが今では面影しかなく視認できるほどの血煙にもみえる瘴気が広場を満たしていた。
<キミ……イナ……イ……ナ……ゼ……オシエ……苦シ……殺シ……アイ……ラ……ユルサ……タスケ……ハズ……ナゼ?……シンパ……カケ?>
──広場の中央にソレはいた、広場のその場所だけ陥没しその陥没した中にだらりと力なく座りこんで干からびた乾いた肉が張り付いている肉体に希望もなく底の見えぬ穴を覗き込んだかのように暗く染まった瞳、ブツブツと喋っていた。
ソレは何かを抱きしめているようで、胸に抱えているのは特徴的な耳から獣人族であること服装と体格から少女であることがわかる。
その周囲は凄まじい負の感情で瘴気が噴き出るかのように周りを濃く覆っていた。
かつては勇者だったソレは<堕ちた勇者>と呼ばれる存在だ──。
「ハハハ、クハッ!素晴らしいィッ!これほどとは思いもしなかった。何故悲しんでいるのか何に絶望しているのかなんてどーでもいいッ!重要なのは瘴気で周囲に影響を及ぼす程の存在っていうことだけだあぁ!」
<堕ちた勇者>を目にした途端に透輝の瞳や髪色が変化しだす……透輝の身体を神のものへと神化させる<凶神化>だ。瞳は紫紺に髪は色が抜け落ちたかのように白髪に、そして血煙のような瘴気が透輝から溢れんばかりに噴き出す。
透輝も感じ取っているのだ目の前の存在が自らが取り込むことができれば神格<小凶神>より上を目指すことができると……。
<堕ちた勇者>と<凶神化>した透輝の瘴気は互いにぶつかり合い混ざることはない、そんな小さなことにさえも大声で嗤いだす透輝、そんな透輝のことをパトラは心配していた、パトラは透輝の変質を望んでいるが今の透輝は<凶神化>の影響を受けすぎている、それはパトラが歓迎できるものではなかった。
「我が糧となれッ<不浄簒奪>!」
『ねえッ!?トウキちょっと待っ──』
<不浄簒奪>は瘴気を持つものから瘴気を奪うスキルだったが透輝がそれを発動される前にパトラはそれを止めようとしたが間に合わなかった。
透輝は木っ端微塵に爆発した




