戦いにすらならん
助けがきたこと、それが『勇者』である霹靂神だったことは笠松ノブキにとって暗闇を照らす一筋の光明に他ならなかった。もっとも、両脇に抱えた麗菜、憂に関しては普段の彼だったならば「なんで両脇に二人抱えてんだよッ」と言ったであろうが危機的な状況においてはそんなことを考える余裕などありはしなかったため、純粋に助けにきた人数が増えたことでの安心感が勝っていた。
正確には抱えられている二人は一人は顔を青くしながら吐き気を堪え、もう一人は失神からの夢の世界を(ハハッではない)を堪能してたわけなのだが……。生存の危機に瀕していた者は気づきはできないのもしょうがないだろう(慈悲)。
洗脳?状態の斥候部隊の一人を蹴り飛ばした霹靂神は体がボロボロ状態になっているノブキを見て「間に合ったみたいでよかった」と告げるとようやくノブキは助かったと心底思えた。
「保梨奈さん起きてください、ノブキさんが目の前ですよ」
「ふぇ?ってノブキ君大丈夫!?」
霹靂神に起こされた憂はすぐにノブキに近づき治癒魔法で傷を癒していく、憂が霹靂神から離れる際に「B寄りのAだった……?」と小声で戦慄していたが誰も気に留めなかった。ノブキに憂はすぐに治療の為に魔法を発動させる。その様子を見ながら憂を抱えていた方の手を何度か開いたり閉じたりした後、霹靂神は麗菜を離した。
「三月さんは保梨奈さんとノブキ君をお願いします……できますよね?」
「……(コクリ)」
麗奈は無言で頷いた、正直言って喋りたくないし動きたくもないというのが彼女の本音だったが霹靂神に「スンマセン、無理ッス吐きそうッス」なんて意地でも言いたくなかったのだから仕方がない。麗奈は一応、現在治療中の憂、ノブキを守るために近づいた。
「さて、お待たせしたかな?」
柔和な笑顔で憂、ノブキの方へと向かった麗菜を見送った霹靂神は洗脳状態になっている元斥候部隊、そしてその元凶たる存在に目を細めつつ問いかける。『ゥウ……』と喉から低い声を出して警戒する敵に霹靂神はゆっくり近づきその距離が適度になると足を踏み込み一気に加速し、そのスピードに目が追いつかずアホ顔晒している一人を思いっ切り蹴り上げた。
『ギャインッ』
数メートルと吹っ飛び壁に激突し轟音がしたあとピクリとも動かなくなる元斥候部隊の一人、その容赦なさにそれを見ていた三人に怖気が走る。よく見れば脚に魔力を集めて殺傷能力を高めていたのがわかっただろう……一応、斥候部隊もダンジョンに進むにあたって事前に挨拶や顔合わせをしていたので知らない関係というわけではない……にも関わらず致死性の高い一撃を『人』にしかも『元味方』に躊躇なくした霹靂神に絶句していた。攻防などとは言えないただの蹂躙、的確に元斥候部隊を蹴り上げて戦闘不能に叩き込んだ霹靂神は息切れ一つ見せず最後に残った感染源の存在のみが残り、それすらも瞬殺された。
『やれば、返していただけるんですか』
感染源だった存在は悲しそうに最後にはなぜか人語でそう言うと光に溶け込むようにして消えていった。
「保梨奈さん、そっちの人達まだ生かしてるから治療してあげてください」
霹靂神が壁にめり込む斥候部隊の者達に軽く指を振り、憂に治療を頼んだ。三人からすれば壁にめり込むような蹴りをくらえば全身骨折どころか即死しているはずだと思っていたのだが霹靂神が言うにはまだ息があるようだ。
「この程度なら、この世界の連中は死にはしないですよ?だからといって放置したら死ぬでしょうけど……」
「ゆ、憂……俺はもういいから……その人達のことを治療してやってくれ」
ノブキが無理矢理に立ち上がり『自分はもう大丈夫』だと言外にした態度に憂は伏し目がちに「無理したら駄目だからね」と言い残した後、霹靂神にこっぴどくやられて現代アートよろしく壁にめり込んでいた者達を麗菜の手を借りて引きずりだし治癒魔法を発動させた。
「あれ?」
「どうかしたの?」
麗菜が不思議そうにしている憂の顔を覗き込む。
「う~ん、何というか治癒魔法が滲み込んでいかないっていうか何か抵抗感があって治療が上手くいかない……」
ちなみに、そうした憂の経験は透輝が何度も瀕死の重症を負ったことによる学びだった。幾度となく何らかの原因で死にかけ、その度に憂は透輝を治療してきたために治癒魔法とは対象に治癒の魔力をおでんみたく滲みこませることによって対象の治癒力を高めるものだと分かっていたからだ。
それでも流石は適正職『聖女』というべきか斥候部隊の面々の外傷を一通り治療することはできた、しかしながら斥候部隊の者達が目を覚ますことはなく眠り続けていた。
「僕の……治療がうまくいかなかった?」
「そんなハズはねえだろ、俺はこうして無事なんだし……どうして」
憂は自分が悪かったのだろうかと悩み、ノブキは少ない時間だったが行動を共にした斥候部隊が目を覚まさないことに胸をかきむしりたいような思いになる。
そんな二人に麗菜は何とも声をかけられずにいた。
「貴様ら~~ッ!」
怒り狂った猛々しい猛将がそこにいた。
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