聖具とは
聖具……二大神のレイパエルかアースレイヴァーの祝福を受けた装備品のことだ。現存するものは少なく当然ながら希少価値があるが装着するにも資格が必要なため持っていても場所取りのこやしくらいにかならず、永らくストワール王国では日の目を浴びてこなかったが異世界の勇者、聖女に装着できると判明し『まあ、誰も使わないし貸し出しても(場合によっては壊れても)問題ないよ!』と渡されていた。
しかしながら、歴代の聖具を使った者達も聖具を扱えたもののその真の力を解放できたのは『始原の勇者』だけだという……。
「ええ、っとビュウメスさん『始原の勇者』ってなんなんでしょう?」
憂はビュウメスに『始原の勇者』について質問する、憂も聖具を装着しているので他人事ではない為非常に気になった。……憂の聖具はブラジャーなのだが。
「文字通り、一番最初の勇者ですが……これだけでは納得しないですよね。『始原の勇者』についてはわかっていることが殆どありません『彼』なのか『彼女』なのかすら……ただ、世界を救ったこと聖具を使いこなしたこと最期は自らに刃を突きつけたことくらいです」
あまりにも情報が少なすぎると憂、麗菜、涼香の三人は思うが、ビュウメスは苦笑する。
「便宜上は『彼』となっていますが、わからないんですよ。『始原の勇者』の支援国は世界が救われた後勇者を抹殺しようとしていたことがわかっていますが、抹殺後のことを考えてなのか資料が残されていないんです。出身地が勇者にとっての終地でしたがそこも勇者が亡くなった時には既に焼け野原だったことしかわかりませんし……ですが、代わりに『始原の勇者』が扱った聖具については資料があったそうです。」
ビュウメスは淡々とした口調で、『始原の勇者』についてのことを教えてくれたが三人にしてみればこの世界はやはり残酷なのだと思わずにはいられなかった。異世界であるこの場所は生徒達からしてみれば空想の世界を現実化したようなものだが、ビュウメスから語られた世界を救った『始原の勇者』を国が殺そうとしたということは若く、異世界の闇を知らぬ麗菜達からすればとてもではないが理解ができるものではなかった。別に貴族社会の国が多いこの世界では規模こそ違えどもありふれた話ではあったためにビュウメスはたいして情も揺らされず表情も変わりなくに喋っていたのだが、そのせいで麗菜達は余計に恐怖を感じることになった。
うなだれてしまう三人を不思議に思いながらビュウメスは『始原の勇者』によりわかっている聖具のことについて説明した。
「実のことろ聖具は種類としては二つにしか分けられないのだそうで、それが天神の祝福と地神の祝福です。もっとも聖具の多くは天神によるもので地神に祝福されたものは現存するものは片手で足りる程の数だったはずです。現にレイナ殿ユウ殿シグレ殿にお渡しした聖具も天神の祝福をうけたものです。」
無神論者なのかビュウメスは簡単に告げるが彼女に信仰心とかはないのだろうか……聖職者が聞けば怒られそうなものだが、少なくともこの場に注意するものがいないというのは間違いがない。
「それで、その天神の祝福があるとなにかかわるんでしょうか?」
涼香がビュウメスに尋ねる、涼香にとっても憂が聖具を身につけているため全く無関係というわけにはいかなかった。若干、憂が涼香のことを涙目で見ているような気がするが気のせいだろう。
「それなんですが……天神の祝福をうけた武具の真の能力は全てが同じで『始原の勇者』によると天神レイパエルの真名に恥じない能力とのことですがはっきりとはわかっていません。現状、性能がいい武具ということでしかないですかね……まあそれでも一線を画す性能なんですが。」
そう話している時、馬車が止まった。ビュウメスは眼光を強め野獣もかくやといった眼光だ、麗菜達も一体何事か起きたのだろうかと馬車を降りようとするがビュウメスがそれを制止する。
「私が確認してきますので、貴方達は待機です。これは他の馬車でも同じことですからそのままでいてください」
ビュウメスがそう言って、騎士団長の責務を果たすため馬車を降りたが数十分程の時間が経過したが三人が待っていてもビュウメスが帰ってこなかった。これで戦闘音が聞こえれば麗菜達も危機感を覚えたろうが……全くの無音であった。時折、話す声が聞こえるのだがそれだけっだった。
「団長!二週間も放っておかれるなんてひどいじゃないですかあ!?」
「オチツイテ……」
「すまないこちらも緊急事態だったのです」
「そうだったんですか……あ、あともう一週間ここで待機でいいですか?」
何が外でおきているのだろうか……麗菜にはわかんにゃい。とりあえず、危機的な状況ではないようだが誰と話しているのだろうか……?
「大丈夫なのかな……?」
涼香が心配して暫くするとビュウメスが馬車に戻ってきた。無言で三人がビュウメスを見つめて説明を要求する。ビュウメスはバツが悪そうにするがその視線に耐え兼ねたのか説明する。
「前回の遠征でゴブリナと出会ったのを知っているだろうか……」
ゴブリナ、小鬼種でゴブリンの雌個体の総称だがストワール王国では雌しかいない。
「ええ、とりあえず知ってはいます」
「そうか……実はゴブリナに騎士団員を貸し出したのを回収を忘れていて、その彼らが何で放置したんだ詫びとして一週間追加でゴブリナと一緒にいさせろと……。」
その一週間で何をするかといえばナニなわけだが……実のところ悪いことでもないためビュウメスは許可してきてしまったが、彼等のことを完全に忘れていたビュウメスは負い目だった。
「いや、なんか……お疲れ様です」
麗菜はビュウメスにそう言ってねぎらったのだった。




