麗菜の違和感
基本的には読み専なんですよね。面白い作品があると見入って更新が滞ってしまいます、どれだけ読み専なのか……下の作者マイページからブックマークを見てみてください。新しいブックマークが登録されていたら更新が遅くなるかもです。
麗菜の違和感は小さなものだ。霹靂神の掲げた聖剣の輝きが少し鈍かったこと……ダンジョンの遠征前に見たときはもっと神々しかったと思ったのだが。麗菜の持つ武具も霹靂神と同じ聖具であったが元々の勇者としての力量の差なのか手にしたときの輝きは違ったのだが、今の霹靂神の持つ聖剣は輝きに翳りが見えたがそれでも麗菜の聖具よりは上だったので見間違いかもしれないと麗菜は思った。
「それにって何か他にあるの……?」
浮かんだ疑惑を振り払い、麗菜は霹靂神の実力でもまだ足りないとはどうゆうことなのか、それが気になった。この国……ストワール王国自体が国民の能力が高い、これはストワール王国の国民に少なからず淫夢族という魔族の血が混じっていることに加えてインキュバスの子である純血に近い先祖返りの<偽純種>のおかげでもある。その中でも貴族ともなれば血統により強さ別格であり、その中でも騎士団長のビュウメスを下せる実力があれども霹靂神の求めるものには足りないらしい。
「奪い取るために……奪われないように……手に入れたものを今度こそ手放すことにならないように……例をあげるならこんなところですかね」
まるで体験してきたかのように、その瞳に恐れを覗かせて霹靂神は麗菜を見ることなく上を仰ぐ。夜空には煌々とした満月が照らしていた。
「…………。」
その霹靂神の表情に何も言えなくなる麗菜だったが、霹靂神は月明かりに照らされたまま動かず勇者二人は無言のままその空間を共有していた。
(き……気まずい。)
麗菜は霹靂神の前から逃げ出すチャンスを逃したようだ……仕方がないじゃないかと麗菜は思う、中性的な顔立ちの美少年が月明かりに照らされていたのだ見入ってしまうこともあるだろうと……正確にはその直後に霹靂神が後ろから来た謎の男に攫われてBL展開にハッテンしたことまでストーリーの構図がでてきてしまったのだ!……もし、日本に戻れたら『先生』に報告しようと思った麗菜だった。
「……峯島君が嫌がる姿が浮かぶよ」
『先生』は透輝の従姉のことだ、BL同人サークルで知る人ぞ知る人気サークルで麗菜は透輝の家にいる『先生』のアシスタントだった。元はと言えば透輝と出会ったことでファンだった『先生』のアシスタントになることができたのだが。招いておきながら『先生』と話している麗菜をみると透輝が苦虫を嚙み潰したような表情を見せるのが『先生』と麗菜の密かな楽しみだ。麗菜は意識せず笑みがこぼれる。
「峯島透輝……ですか」
ポツリと漏らした言葉に霹靂神は反応した、彼の名を霹靂神は言葉にしただけなのに強烈な激情を感じさせる声音に麗菜は態度には出さないものの畏怖を霹靂神にもった。しかし、それも一瞬のことすぐにそれは霧散し麗菜に軽く笑顔で霹靂神は対応してきた。
「随分と彼に入れ込んでいるようですが……ダンジョンでまだ彼が生きていると思っているのですか……?」
笑顔でこんなことを言えるこいつは性格悪いなと麗菜は思う。
「十中八九死んでるでしょう?生きてるはずがないよ?」
なにを当たり前のことをいうのかといった表情を麗菜が見せると霹靂神は絶句しポカンとする。その霹靂神の落差に麗菜が驚くほどなのだが。
「そ、そこは普通は生きてると信じている……とか言うべきところじゃないんですか?峯島君のことを心配しているのではないのですか……?」
透輝が聞いていれば『おめーが原因だろうガオー』ということ間違いなしだが、それでも麗菜が透輝にそんなことを思っているとは思いもしなかったようだ。
「いやいや、あんな雑魚の透輝君が生きてる訳ないって~♪」
右手をひらひらと「やーねー」といわんばかりにしている麗菜に言葉も出ない霹靂神。
「なら……普通は!そんなに平然としていられる訳がないでしょう!ならば何故ッ!?」
混迷とした思考を振り払うかのような霹靂神にむしろ麗菜の方が困惑しているのだが……麗菜にとっては簡単な理由だ。
「蘇るって蘇させるって決めてるからかな……ゴキブリ以上にしぶといから簡単に蘇るだろうなって考えてたら悩んでなくともいいでしょう?」
「馬鹿げてる……。」
突っ込みどころが多すぎて何も言えなくなる、底抜けのバカだ……。霹靂神は戦慄する。
「『俺の女になれ』みたいなこと言っておいて失礼じゃないかな……。まあ、半分は冗談みたいなものだけど……。」
逆に半分は本気ということだろうか……。
「他の理由は……。」
「さて、そろそろ夜風も充分ですから……。おやすみなさい。」
麗菜は霹靂神に被せるように言葉を遮るとそそくさと立ち去ってしまった。霹靂神はそれをただみていることしかできなかったが、麗菜が視線から消えると静かにしかし次第に大きくその体が揺れ笑い声が霹靂神の口から漏れてきた。その口元は自嘲気味になっていた、霹靂神にはあの麗菜の心の支柱がなんなのか、なんとなく予想がついていた。それはかつての霹靂神を支えたものでもあったから……。
「でも、それって案外と脆いものだったりするんだよ……。貴女のその支えがそうでないといいね。」
麗菜が消えた方角に柔和な笑みを浮かべた後、霹靂神は下を向いてニヤリと笑う。
「まあ、それはいいか。目的を忘れてはならないんだから、峯島透輝を……彼を孤立させる、味方が誰一人いなくなった彼はどうなるだろうね。」
暫く霹靂神は笑うと、素振りを再開した。霹靂神の最終的な目的のためには武力も必要なのだ、心置きなく鍛錬できるのは安全なここくらいだろう___。
一時間程の素振りをした霹靂神は部屋に戻る前に『くちゅんッ』とくしゃみをしていた。
次回:忘れ去られた戦士の生還