ストワール王国:王女と女勇者 序章
透輝とパトラが(というか透輝が)引き起こしたダンジョンの閉鎖はストワール王国並びに転移した生徒達に多大なる影響を及ぼすことになった。ちなみに透輝はそのことについて全く気づいていない、元々説明半分で透輝は『大賢者のダンジョン』に来ていたためだ。戦力にはならんから余計な知識はいらんとまったく遠征の意義などを知らず透輝はダンジョンの深層へと堕ちたのだ。
転移した生徒達は透輝の一件で王国側とは不仲になりつつあったが、ヨヨムンド王女が自身の母である王妃に欠損の少ない死体であれば蘇生を複合した魔法で可能だとゆうことをうけて、現在、王国内でも自由に動くことができ尚且つ強力な戦力である生徒達に頼み込んで透輝の回収を願ったのだった。
生徒達のほぼ全てがそれには賛成した。単純に透輝の復活を願う者、異世界での死を恐れて復活という安心を得たい者、探求心から賛同する者(別名:人体錬成とかウホッ勢。それぞれ様々な反応ではあったものの少なくとも透輝の復活をすることについては概ね好意的にとられたということだ。
透輝が行方不明となった初回の遠征では戦闘こそあったが、それは最下級の魔物のスケルトンだけであった。スケルトンは骨だけの魔物だ、生徒達は生き物を殺した経験もなく透輝を目の前で亡くしたわけでもないそのため透輝がほぼ生存が絶望的となっても一時的にこそ生徒達には精神的な負荷はあったものの霹靂神の立ち回りなどもあり比較的にそこまでの精神的外傷はなかったのだ。その為、二度目の遠征には適正職が戦闘職のものは全員が遠征に参加することとなった。
無論その中心となるのは適正職が『勇者』であった二人、霹靂神時雨と三月麗菜だった。
~~~~~~~~
二度目の遠征を目前とする中で麗菜とヨヨムンド王女は二人で話し合いをしていた、これはヨヨムンド王女の方から麗菜のことを誘った形だった。麗菜としてはヨヨムンド王女には聞きたいことがあったために遠征の準備などを蹴って誘いにのった。
「今回は私の我儘に付き合っていただきありがとうございますレイナ様」
「いえ、そこまでかしこまれると私も困ってしまうんですけど……。」
そこで視線を二人は合わせて苦笑する。これまでの透輝が起こしてきた一件で麗菜もヨヨムンド王女も互いに面識があるのに今更かたっ苦しい言い方の対面をしたのがおかしかったのだ。
ヨヨムンド王女の後ろに控えていたビュウメスが『ごほん』と咳ばらいをした後に呆れた視線を向ける。
「そこでお二人が、見つめ合っているとあらぬ誤解を受けそうなんですが……?」
もし、ここに侍女代わりに何故かいるビュウメスがおらず正規の侍女がいれば「騎士団長なのにヨヨムンド王女のことをつきまとって侍女の代わりにまでしてるお前のがよっぽどやべーよ」と物申したであろう。まあ、勇者と王女が互いに見つめ合っていたと文面に書き起こせば恋仲の文章かな、と思うかもしれない、どっちも女性なので有り得ないことなのだが。
「笑えない冗談ですよ、ビュウメス?」
「申し訳ございません。ですがそのままだとお話が進まないかと思いまして……。」
侍女服姿のビュウメスはそう言うと紅茶を淹れて二人の前に置くとヨヨムンド王女後ろに控えた。
「…………ビュウメスさんて騎士団長ですよね?」
麗菜は戦闘の指導をビュウメスにつけてもらっていたためにメイド服でヨヨムンド王女に仕える姿に違和感がビンビンだった。その様子にヨヨムンド王女は困惑顔で麗菜に説明する。
「ええ、騎士団長でもあるんですが私の専属侍女でもあるんですよ……本人たっての強い希望で。」
「問題になってないんですか?」
「問題か問題じゃないかで言えば問題なんですが、一応職務は果たしてますし騎士団長といっても平時はこの国の騎士団長は忙しいわけでもないので黙認されている形ですかね。騎士団長のメイド服がみられるって騎士団員達には人気みたいですし?」
「そうですか……」
どこか釈然としないが、ビュウメスの淹れたての紅茶はいい香りで彼女の腕が非凡であることが容易にわかった。麗菜が同じように淹れてみることは時間がかかることは明白だ。確かにビュウメスは侍女としても職務には手抜きなどはないようだ今もヨヨムンド王女の後ろに控えている姿は専属侍女の名に恥じたものではない。が、それだけに普段稽古をつけてもらった者として心中複雑だ。
「まあ、その話はいいでしょう。今回、お呼びしたのはその件ではございませんし。」
ヨヨムンド王女の言葉にそれもそうだったと意識を持ち直す麗菜。ヨヨムンド王女もそれがわかったのかにこやかな顔で麗菜のことを見つめた。
「そうですね。ちょっとよく理解できていなかったみたいで……」
「仕方のないことだとは思いますけどね、ビュウメスはいろいろと特殊ですから」
「ヨヨムンド王女がそう言ってくれるといくらか気が楽になります」
平静を保つために大仰に呼吸をした後、麗菜とヨヨムンド王女の話し合いは始まった。




