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不浄者は凶神になり斜めな成長する  作者: ジャック・レイ・パール
凶神発生
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『パトラ』という少女Ⅲ

長かった……後で統合した方がいいかなあ

 少女はそこで死んだ____。


『?』


 少女は死んだが、それでは終わることはなかったのだ。


「あーあ、もう滅茶苦茶だよ。髪とか混ざってるし、因子さえ回収できれば問題はないけど__」


 意識ははっきりとはしていなかったが『父親』がそこにいることは声でわかった。そして、器具から挽肉を丁寧に取り出していることも確認できている。結局、『父親』は少女だった肉を回収すると、さっさと出て行ってしまった。






 残されたソレは考えた。『私は誰だ?』『どうして、私がここにいる?』と父親が回収をしていたものは間違いなく『私』だった。ならば今のこの『私』はだれなのか……。


 胡乱気な思考で思考を巡らせるソレの正体は実は少女の血だまりだった、より正確には少女の血が寄り集まったモノがソレが少女の『人格』を形成していた。

 本来ならば少女の血に自我が宿ることはなく、こんな事態に陥ることはなかっただろうが奇跡的というべき偶然が……この場合は必然というべきものが重なったからなのだ。


 なぜ、こんなことになったのか……。それは少女に組み込まれた粘魔の因子が関係していた。スキル<粘性体>……スライムが、粘魔系の魔物が持つ種族スキルのようなものであるが少女もそのスキルを所持していたこと。そして、自分でも自覚はしてはいなかったが深い負の感情を抱いていたことだ。殺される前には少女は自身の感情を無関心だと思っていたようだがそれは違った自覚もできないほどの怒りに自分自身で感情を処理できていなかったから少女自身は無感情だと思っていただけだったのだ。


 最初は怨念によるアンデット化が本来ならば起こりえる筈だったのだが、肝心な肉体は既に挽肉状態でアンデット化はできようはずがなかったので……スキル<粘性体>の効果により少女の血がスライムとなりえる素質があったことで肉体の代わりに怨念が宿りアンデット化の条件を満たすことができたのだ。つまり、現在の少女の血は少女のアンデット化したものでありながらも魔物としてのスライムでもあった。


 そして『大賢者』を一応の『父親』としてもつ少女は魔力保持量が莫大でそれがアンデット化した後でも確かな思考能力をもったアンデットへとなることができたのだ……本来ならば。


 脳ミソがないスライムにそんな思考能力を期待できるわけもなく魔物となった少女の血が自我を得たあと困惑しているのはそのためだった。とはいえ恩恵もあった、元の体のままだったのならば運動能力が乏しかったために動くこともままならなかったが魔物……粘魔となった今ならば全ての行動は魔力依存となったので、むしろ運動能力は向上した。


 アンデット化したこと完全に粘魔と化したことによる弊害は知能の低下であり、本能的な部分が強く表出するというものではあったが、現在の少女だったソレには好都合だった。ソレは自分が何なのか自問自答を繰り返しながらも粘魔の本能に従い魔力を求めて行動を開始する。


 その時に誰かがその時の光景をみれば、少女の血だまりが平面から立体へと変化し血生臭い臭いをまき散らしながら行動をしていったことを確認できたろう……。


 ソレは部屋に備えてあった流し台に移動してその排水口へと体を突っ込みズルズルと流されていった、その先は大賢者の……『父親』が管理しているダンジョンだった。そこからはダンジョン内の果実や魔物のおこぼれにあずかりながら長い年月を過ごした。そうしているうちに真っ赤な血色(文字通り)だった体は元の少女のものから魔物の方に傾き粘魔によく見られる青色の体色に変化していっていた、それは少女の自我が消えつつある事を示唆していたのだがその頃には少女の自我自体が希薄なこともあってまるで気にしてはいなかったがあることだけを考えていた。


『私は誰なのだろう_____?』


 それだけは限りなく薄くなった自我の中で残っていたことだった。名もなかったゆえの自己への疑問……本能に身を任せていても思い浮かぶ『父親』からも与えてもらえずにあったもの『父親』から禁術で知恵をもたらされた時に唯一欲したもの、それは自己を示す『名』が欲しかった。


 視覚も嗅覚もなく僅かな聴覚と魔力を感知する能力で本能に任せて生きていく日々、血で構成されていた粘魔の体は完全に魔物の青色の体にほぼ浸食された。


 そんなある日、いつもなら何故か足を運んでこなかった濃厚な血の匂いと魔力の気配を感じてその場に向かった。そこには丁度いいサイズの肉片が散らばっており本能的に肉片を取り込んでいると近くに気配を感じた気づいた時には既に気配の主はすぐそこまできていた。


 ソレは魔物の身にやつして初めて思考が止まった、その気配の主の内包する莫大な魔力にそしてそれを本能的に欲したソレは襲いかかるがあっけないほどに捉えることができた。体表からは魔力を得ることができなかった為にソレは捕まえた獲物の内部に侵入しようとした。


「僕はもう疲れたよパトラッ…」


 侵入しようとした時に久しぶりに言葉として伝わってきたそれの最後は『名』だとわかった、それは誰に捧げたものだろう、ここには私と獲物として捉えたものしかいない。



 ならば、その『パトラ』とは『私』のこと_____?


 残った微かな思考がそう結論づけるが本能には逆らえず魔力を欲した体は獲物の体内へと侵入を開始していた。





 そして、ソレが気づくと光無き場所にいた、上も下も右も左もわからない。自分というものが希薄なのに自分がここに存在することは何となくわかる奇妙な世界だ。光はないはずなのに、周りのことは把握できるそんな世界だ。ソレの姿は懐かしき少女の姿であった、何もわからないことが一杯であったが『パトラ』と呼んでくれた人に逢いにいこうと決意した。少女は『パトラ』と自分を決めた、そしてその名付けをしてくれた人に役立ちたいとも思った。そのために『パトラ』となった少女はその世界を周り情報を集めた後、彼に出会った。







 これが、透輝に出会った時にまで遡る『パトラ』についてだった。




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