今更だよッ!!
短めです
透輝とパトラは地上にでるために『大賢者のダンジョン』のコントロールルームへと向かっていた。最初は今すぐ地上に戻るぜ!と息巻いていた透輝に対してパトラは『計画性がない』とか言っていたのだが結局、透輝の勢いにのせられてすぐにコントロールルームに行くことになっていた。
『トウキは強引……。』
「そう言うな、俺も気分はパトラみたいな美少女が隣にいるせいかデート気分だ。」
『本当に強引……。』
並んで歩く二人は初々しいカップルのようにお互いに顔を見ないようにしながらもお互いがうれしさを隠せていなかった。もし、現在の透輝を異世界転移前の透輝が見たら喜んで「キサマのヨウナ、リア充はこうしてやる~」とBL同人の餌食にしただろうほどのリア充っぷりだった。
居住区を抜けコントロールルームに進むため訪れたそこは、まるでまさに実験場といったようなつくりとなっていた。映画やアニメのようにそこかしこにガラスの牢獄があり、その中には歪な形の生き物などが実験体として培養液とも称すればいいだろう液体の中にいた。
「一応、聞いてみるけどパトラここは実験体の保存とかのエリアなのか?」
透輝は立ち止まって数あるガラス実験槽の一つに触れて中身を見てみるとそこには額に一本角をもつ獰猛そうなクマさんがいた。既にクマさんには意識がないのか全く反応を示すことはない。
『そう、大賢者の集めた実験体だよ。』
「なるほどね~、道理で物珍しいわけだ。って異世界だからなんでも珍しんでした~恥ずかしッ!」
『えっ?異世界ってなにどうゆうこと?』
「あっ(察し)」
透輝とパトラ……。出会って暫くたっているがお互いの経歴などは知らないのだった。透輝は聞かれなかったので説明なんてしなかったし、パトラのことを聞くのは嫌われたらヤダんと思い聞けないでいたのだ。それから、透輝はパトラにここまでの来歴をパトラに話して事情を今更ながら説明するのだった。
「なんで、今更こんなことしてんだろうなあ……。」
『気づいたら、一緒にいるのが当たり前になってた……。』
透輝はいつの間にかパトラと一緒になっていたし、パトラは気づいたら透輝に取り込んでいたようなものだったのでお互いのことを話していくということに気がついておらずこんな現状に至るのだった。透輝はここまでの経緯を簡単に説明し、今度はパトラのことについて尋ねたのだった。
『私について……か、説明できることは少ないんだよね。』
パトラはそう透輝に前置きすると、あるガラスの実験槽の前へと移動してそれに触れた。
『ここがね、私が生まれた場所……。』
「生まれた?」
『うん、わたしが『大賢者』の実験体なのは教えたよね?』
そこからパトラは自身の考えも含ませつつ透輝に出会うまでのことを話し始めた。
透輝に『パトラ』と名付けられた少女の原初の記憶は、あまりいいものではなかった。少女の自意識が目覚めた時、既に世界は狭い実験槽の中で完結していたのだから……。
パトラの前にはいつもある男が毎日訪れていた、彼女は本能的にその男が自分の『親』であることを見抜いていたが、それはパトラに組み込まれた親を強く認識する魔物の因子によるものだったがそれに気づくことはなかった。
少なくとも血統上の『父親』は毎日パトラの元を訪れ、彼女のことを観察しそしてうなづくようにして彼女から離れていく、それがパトラの日常だった。幼いパトラにとって、『父親』がなにをしているのかはわからなかったし彼女との接点もそれだけだった。
それから、パトラの精神と肉体がある程度成長した時『父親』がいつもと違う面持ちでパトラの元を訪れた。いつもなら簡単にガラスの実験槽を回って見ていただけだったのだが、その日はパトラのことを正面から見据えていた。




