王城出立前夜2
サクサク進んだ、ちょっぴりシリアス?
勝俣の衝撃真実が発覚し、誰にも言えない秘密を抱えた俺は意識を真なる混沌の渦へと投下する為に我が棺へと戻った。要約:いい夢見たいからベットに横になった
そうして考え事をしているとようやく睡魔と共に心地よいまどろみの時がやって…。その時睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。
またか!今日は何なんだ睡眠妨害の日かなにかですかあ、そう思いながらドアを開けると立っていたのは
「あの、透輝ごめんね…こんな夜中にでも話たいことがあったから」
訪ねてきたのは保梨奈憂だった、なぜ俺の部屋に憂が一人で?……なるほど夜這いか
「とりあえず、中に入るよ?」
「あ、ああどうぞよろしくお願いいたします。」
いや、ちょっと待てよ憂は男だった今聖女シリーズを身につけていて完全に美少女でしかなくとも憂は男なんだ。となると夜這い以外の目的ってなんだ?そう考えているうちに憂は椅子に座ってしまったので俺もその対面に座る。
「最近、透輝が自分体調おかしいの気づいてる?」
「!?、一体なんのことだ?」
「気づいてなかったんだね」
憂の言葉の意味が分からない、俺の体調がおかしい?全くそんなことは無かったと思うんだが、思い当たる節はない体調はおかしいところなんて無いのだ。
「今日の食事思い出してよ……」
「今日の食事だと、あーおかずばっかり食べてたな主食食ってないなそれがどうかしたか?」
「それがどうかしたかじゃない!!おかしんだよ……こっちに来た当初は凄く美味しそうにいっぱい食べてたのに今じゃあ味見程度じゃないか!」
憂にそう怒鳴られた、ひどく心配している様子だがなんとかえしていいか全くわからない最近はそんなにも食事の量が減っているだろうか……。
「いや、ほらアレだよダンジョン遠征に参加ってことで緊張してるんだよ……多分」
憂が俺のことを本当にそう思ってるの?と言わんばかりに見ている。しかし、俺個人としてはこれくらいしか思い当たるものがないのだ。
「もし、そうだったとしても少し体調がおかしくなったりちょっと痩せたりするのに透輝にはそれもない、加えて普段もお腹が減った様子が全くなくなってるんだよ?本当に大丈夫なの?」
「…………」
「ごめん、もう自分の部屋に戻るね……おやすみなさい透輝」
憂はそう言って自分の部屋に帰ってしまった。
俺のことを考えてくれているのは嬉しい、自分の些細な変化に気がつくことができたからだ。食欲が最近ないことについてはいつか反動がくるだろうと簡単に考えてきた。だが、人から指摘されてみると改めて異常性があることに気づいた。
一体いつから俺の体に変化があったのか、その原因は何なのか思い返してみるが明確な変化があったのは最後の教会に行ったあとだ。しかし原因はまったくわからない、この体の変化は好ましいものなのかそれとも忌み嫌うべきものなのか、思考がグルグルと回りいつの間にか俺は睡魔に落とされていた。
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ちょうど、透輝と憂が話し込んでいた頃透輝の部屋より少し離れた所、三月麗菜は透輝に会おうと透輝の部屋を目指していた。最近は透輝と接する時間も少なく王城出立すれば自分とはまた別の攻略班になるためもっと時間が減ると考えたためだ。
ここまでくればわかるかも知れないが、三月麗菜は透輝に対して好意をもっている。しかしながら彼女と透輝の関係性は歪だ、なので三月麗菜は関係が変化することを恐れ透輝に想いを伝えることはできていなかった。
しかし、異世界に来て透輝を取り巻く環境は変わったヨヨムンド王女や騎士団長のビュウメスといった綺麗どころが透輝の周りにいるのだ、そしてあげくには透輝とヨヨムンド王女の結婚をほのめかされる始末だ。
そこで、彼女はもうやけくそで一転攻勢として透輝に想いを告げようと考えたのだ、元々、透輝の従姉には透輝への想いを告げておりその時には「アイスティーにでも睡眠薬を入れて襲っちゃえばいいよ、大丈夫!透輝に責任は取らせるから」などと言われているので少なくとも透輝の従姉には認められている。そして、透輝の父親、母親共に顔合わせは透輝の従姉のアシスタントをしていた時にしている、その時には嫁に来てくれれば~なんて会話をしていたとは透輝は知る由もない実質もう既に透輝は逃げ場などなかったのだ。
実際、日本であのまま暮らしていれば透輝は三月麗菜に襲われて家庭を持つことになっていたことだろう、拒否しようにも周りは敵だらけの状態だったろうが。
しかし、今は異世界だ。そして透輝の傍には自分ではない女性の影がちらついている。だから麗菜は透輝に想いを告げて彼の中の自分という存在を大きくする必要があった。そのため、透輝の部屋を目指していたのだが……。
「やあ、三月麗菜さん奇遇ですねこんな所で会うなんて」
「霹靂神時雨……。」
「霹靂神で結構ですよ、三月さん?」
そう、麗菜が鉢合わせしてしまったのは麗菜と同じ適正職である『勇者』でありながらも戦闘では麗菜を大きな実力差がある霹靂神時雨だった。しかし、彼女が用があるのは霹靂神ではなく透輝だ霹靂神を無視して通り抜けようとすると霹靂神に止められてしまった。
「どこへ行こうとしているんですか?ここから先は男子の自室となっている場所です夜中に貴方が訪れるべきではないでしょう。」
正論ではあった、夜分遅くに男の自室に訪れることは問題視されてもおかしくはない。だが、今日この時を逃せば透輝に想いを伝えることは随分と先になることだろう、ここで引き下がる訳にはいかなかった。
「貴方には関係ないでしょう?」
そいって無理やりにでも霹靂神のことを避けることに決めた麗菜だったが霹靂神の一言に動きを止める。
「峯島透輝君に会いに行くんですね」
ピタリと麗菜は動きを止めた、しかしそれは失敗だった。それではまるで彼に正解だと告げるようなものだ。
「どうして……。」
「どうして分かったのかですか?これでも私は人の機微には敏いつもりです、貴方をみていれば誰に恋慕しているのかくらいのことはわかりましたよ」
だんまりとするしかない麗菜だったが、ここで霹靂神が思いもよらないことを言い出した。
「三月さん、透輝君を諦めて私のものになりませんか?」
「ハア……?」
「ですから、私の女にならないかと聞いているんです。少なくとも透輝君よりは随分と優良物件のつもりですよ。日本に帰ることになっても貴女を不自由にさせることは無いと思うんですが?」
「ふざけないで……透輝君は貴方にはないものをもっているわ」
そう答えると霹靂神が不思議そうな顔を浮かべた、麗菜の言葉が余程意外だったようだ。
「へえ、それは何だか教えてもらいたいですね私にはなくて彼にあるものですか……。」
「簡単よ、溢れ出る小物臭のことなんだから」
麗菜は霹靂神に露骨に視線で貴方には出せないでしょう?と語る。
「……凄くビックリしています、貴女はそれを彼に求めているんですか」
麗菜としても先程の言葉は半ばでまかせだったのだが不思議としっくりきた、彼女が深層心理で求めていたものだったのかもしれない。
「ええ、きっと透輝君はどれだけ偉くなっても強くなっても絶対に小物だと思う私はそんな彼がいいの。だからね貴方は遠慮したいの」
霹靂神は降参というかのように両手をあげた、自分では麗菜を現状、口説けないと分かったのだろう。
「なるほど、ですがそれなら余計に貴女を峯島透輝に合わせる訳にはいきませんね」
「……どうするつもり?」
麗菜の言葉が霹靂神に投げかけられるが霹靂神は余裕の笑みだ。
「簡単なことです、貴女が告白する時に男子全員で押しかける……みなさん心良く協力してくれるとおもいませんか?」
「……。」
確かに麗菜に大勢の人の前で告白をする勇気なんてなかった、それに霹靂神のことだ必ず言ったことは有言実行するだろう。そう考えれば今回のことは諦めるしかなさそうだった。
「なに、別に告白するチャンスは今後もあるでしょう今回は邪魔者がいたそれだけのことなんですから。なんだったらダンジョン遠征中にしてはどうですか…邪魔しないとは確約しませんがね?」
もう、今回は透輝に想いを伝えるのは無理だろう麗菜はそう思った。ここで引くのは惜しいが他にもチャンスはくるはずなのだ麗菜は自分にそう言い聞かせて最後に霹靂神のことを睨み付けたあと自身の部屋に戻っていった。想いを伝えることができなくてモヤモヤするような、次に持ち越しで安堵するような複雑な気持ちだった。
しかし、麗菜は透輝に想いを伝えるべきだった例え恥ずかしくともそれが透輝に想いを伝える最後のチャンスだったのだから。
三月麗菜が自室へ戻るのを見届けた霹靂神は透輝のいる部屋へと視線を向けた。
「やはり、峯島透輝は私のために殺すしかないようだな……。」
そう言っている霹靂神の表情は今まで誰にも見せたことがないほどに酷く澱みをもった目でその表情に憤怒をたたえていた。
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