美しい水
クワィアの動きは、極めてスムーズだった。
──どこかで見たことのある光景! 私には決してできない早業なんだな、これが‥‥。
すると、
「‥‥それはないよ!」
思いがけないクエストの言葉だった。
「‥‥うーん、そうだなぁ‥‥」
カラハンが、腕組みをして考える。
「‥‥確か、契約書にも『年齢・性別を問わず』とあったよなぁ。金貨も、四人で山分けだし‥‥」
──うんうん、そうだ、その調子!
「‥‥世の中には、つぇー女もいっぱいいるしな。ここはひとつ、順番に組んでいくとしようや」
カラハンが、私を見ながら言ったような気がして、ちょっとひっかかるが、目をつぶろう。
クエストは、小さくうなづいた。
そのクエストには見えない角度で、クワィアは、カラハンのことを『キッ!』とにらんだ。
「それなら、そちらのお二人からどうぞ。年長者を差し置いては行けないもの!」
こうして、結局、カラハンと私──嘗ての『1号』と『3号』の二人が、最初に歩き始めることになった。
しばらくは、川に沿って、切り込んだ谷あいの道が続く。
透き通った清流の水は次第に色を変えていき、翡翠のようなうす緑色の流れに、時々、メレンゲのようなまっ白い泡がはじける。
水音だけを聞きながら歩いていると、前を行くカラハンが、急に歩みを止めた。
まるで、立ち上がった大きな熊のように背中を丸めて、身動きもせずに水面を見つめている。
「おーい、旨そうな鮭でもめっけたのか?」
大きく息をはいてから、
「‥‥生まれて初めてだ、こんなにきれいな流れを見たのは‥‥」
カラハンの思いがけない感慨に、何だか、次の言葉が出て来ない。
「‥‥は、は‥‥鮭のシーズンはもう終わってるか‥‥」
苦い汁でも飲まされたような気分で、黙って再び歩き始める。
水と食料と、私の麻袋をも背に負った先導役は、時々流れに目をやりながら、ゆっくりと歩を進める。
「‥‥俺は、砂の国の生まれでな‥‥。砂漠の民にとって、水は、命と同じぐらい大事なものなんだ。俺は、海も見たことがある。でも、大きな、海の水とはまた違う。‥‥‥‥こんなにきれいな水もあるんだなぁ……」
カラハンの言葉が、妙に、心に染み込んでくる。
そう言えば、私は、この男の眉毛ぐらいしか、はっきりとは見ていなかった。
──いったい、彼の瞳はどんな色を湛えているのだろう?
そんなことを考えている自分が、なぜか、少し悔しい‥‥。