みそぎの橋
清流にかかる橋のたもとには、大小幾つもの舟が繋がれ、ラクダやラバをひいた、様々な装束の旅人が行き交っている。
食料や旅の品を商う露店が立ち、人々の往来で賑わうこちらの岸に比べて、橋の向こう側はしんとしずまり返っていた。
テプイはと言えば、『みそぎの橋』と大きく彫られたプレートの上から、ふんぞり返って見下ろしている。
「‥‥テプイー、こんな厳しいみそぎって、ありィ?」
クワィアの甘ったるいブーイングなどお構いなしに、彼は、威厳たっぷりに唱え始めた。
『約束ノ地ハ、トコハルノ国。
ナンビトモ、荷ヲ開ケテハナラナイ!
ナンビトモ、荷ヲ傷ツケテハナラナイ!
橋ヨリ先ハ、人外ノ地。
契約ハ、命ヲ以テモ、コレヲ果タスベ シ!』
『‥‥エーッ、キイテナイヨー!!!』
悲鳴にも似た声で、この旅で初めて、四人はハモった。
──ああ、姉さんがいつも言ってたのに‥‥。
『契約書にサインする時は、よーく考えて、考えて、考えて‥‥最後に三分間待つんだよ』って‥‥。
『‥‥ドウシヨウ!?』
皆が、頭を抱え込む。
「‥‥巻き物は、谷に飛んで行っちゃったし‥‥」 とクワィアが言うと、
「‥‥一旦契約完了ののちは‥‥‥‥」
クエストは、途中で言葉を呑み込んだ。
伝令は、何の感情移入もなしに、橋の向こう側へ飛んで行った。
「‥‥で、荷物はいったい、どこなんだ?」
考えるよりも先に走り始めていたカラハンの能天気さが、この時、少しは救いだったかもしれない。
テプイを追って走り出した時、四人は既に、橋上に足を踏み入れていた。