私はサライ
『ゴツン!』と大きな音を立てて、浮き輪は橋脚にぶつかって止まった。
水流はだいぶ穏やかになり、浅瀬の白い砂も見えている。
浮き輪を離れ、ようやく地上に引き戻された四人は、思わず顔を見合わせて、一様に大きく息をはいた。
「‥‥なんだ、お前、女だったのかぁ!?」
カラハンが、驚きと失望が混じったような声で叫ぶ。
私の隣にいた小さいのが、自慢げに長い黒髪をかき上げようとした時、やつの指が私を示していることに気がついた。
なんだか、隣の娘がにらんでいるような気がする。
「‥‥だ、誰も、男だなんて言ってないだろう‥‥」
──だいたい、そんながっかりしたような言い方は何だ!
気を取り直して、カラハンは続ける。
「‥‥だからさぁ、名前ぐらい名乗ろうって言ったんだよ。‥‥なぁ、そう思うだろ、若いの?」
そこにいたのは、亜麻色の髪と、ブルーグレーの美しい瞳をした若者だった。
「‥‥クエスト‥‥」
呟くように彼は言った。
「私は、クワィア! よろしくね、クエスト!」
満面の笑みを浮かべて、娘が言う。
まだ二十歳にもならないだろう、大きな黒い瞳の、美しい子だった。
──若いのは、男も女も、どうしてこんなにキレイなんだろう、やんなっちまうなぁ!
ちょっとへこたれそうな気分でいると、
「‥‥だから、お前の名前は?」
「‥‥私は、サライ。旅暮らしのサライ!」
対面から見つめているカラハンの、力強い眉尻のカーブだけが、なぜか妙に目に焼き付く。
不覚にも太眉に気をとられてしまった私は、その時、眉毛の持ち主を見つめている、もう一つの強い目差しに気づかなかった。
「カラハン!」
「クエスト!」
「サライ!」
「クワィア!」
ようやく、旅の点呼が終了した時だ。
『ミソギシュウリョウ!』
「‥‥みそぎ、終了?」
川岸に繋がれた小舟の上から、何とも形容しがたい声がした。
金胡麻をすりこぎでこする時のような、いや、変声期まっ只中のヒキガエルのような‥‥。
「‥‥テプイだ!」
「‥‥勇敢なる伝令だ!」
それまでピクリとも動かずに、小舟とすっかり同化していた伝令の鳥が、バサリと大きく羽ばたいた。