あぶくの世界
着水までの時間は、思ったよリも短かった。す
衝撃波とともに突入した水の中の世界は、なぜか、スローモーションの映像のように映った。
皆が皆、初めて海に放り込まれたれた小亀のように、ジタバタと大きく手足をばたつかせ、口からモコモコとあぶくを吐き続ける。
衝撃のあまり、時間軸さえ歪んでしまったかのように、自分が水中にどのくらいいるのかさえも分からなくなってきた。
どこか遠くで、バサリ、バサリと、重た気な音が響いている。
──あぁ、ここが天国だとしたら、なんて無粋な音なんだろう‥‥。
‥‥‥‥ごぼごぼ、ごぼごぼ‥‥‥。
‥‥それでも、無意識のうちに手を伸ばし、光の指す方に這い上がろうともがく。
‥‥‥‥ごぼごぼ、ごぼごぼ、ごぼ‥‥‥‥。
『‥‥ぶあっふぁーーっ!!』
大きなしぶきを飛び散らせて、四人は、わずかな時間差で跳ね上がった。
──果たしてここは、ヘル・オア・へヴン?
そんなことよりも、今は空気が先なのだ。
息も切れ切れの面々は、今度、アマゾンのピラニアのように大口を開けて、新鮮な大気をむさぼり尽くす!
しかし、息つく暇もなく、さかまく急流が押し寄せる。
──あぁ、やっぱり、天国かどうか確認しておくべきだったのだ!
‥‥流される、流されるーーー!!
渓流を漂うもみじのように──いや、そんな風情のある絵がらではない!
不運にも洗濯機に呑み込まれてしまった?なけなしのお札のように──キリキリと三回転半ばかり揉まれ時だ。
『ふわり!』
上から、大きな輪が降ってきた!
「‥‥あぁ、神様!!」
感極まったように、カラハンとやらが叫ぶ。
四人は、真っ白い浮き輪に飛び付いた。
「‥‥今だけは、お前の暑苦しい言葉も許せる気がする」
「‥‥」
「‥‥確かに‥‥」
浮き輪を握りしめている両手以外は、全身から力が抜けていく。
ちょっと傾き気味の重そうな鳥が、頭上を低くかすめて行った。
もしかして、あれは、勇敢なる‥‥?
──あぁ、もう、瞼を開けてはいられない‥‥。