表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

猿橋

 半日近く歩き続けただろうか。

 少しずつ霧が晴れてきた。る

 久々に顔を出した太陽に元気づけられてしまったのか、大きいのが、突然、ガバリと振り返った。

 「危ない!」す

 「急停止禁止!!」

 「ふざけるな!!!」

 三人の猛抗議にも屈せず、大きいのは続ける。

 「な? な? やっぱり知っとくべきだろ、名前ぐらい?」

 むさ苦しい上に、しつこいときてるんだろうか、この大きいのは?

 やつは、お構いなしにまくし立てる。

 「例えばだぜ、霧の中で仲間を見失っちまった時なんか、どうする?」

 「『‥‥オーイ、オーイ、1号やーい?』なんて叫んだって、誰のことだか、ピンと来ないってもんだろう?」

 ──『‥‥お前と、仲間になんかなった覚えはない!』 小さいのなら、間違いなくそう言うだろうな。

 後ろにいる、しんがりの顔を思い浮かべると、思わず吹き出しそうになってきた。

 「‥‥それから、まだあるぞ。こんな危ない崖っぷちの道で、天から、大岩でも落ちて来たらどうする?」

「‥‥‥‥」

「そんなきわどい場面で『2号、危ない!

!』なんて言うか、普通?」

 ますます大声になってきた。

 「とっさに名前を呼ぶだろう? 『2号、あぶなーい!!』なんかじゃなくて──」


 なんだか、崖の上から、パラパラっと不気味な音がする。

 『危ない、1号!!』

と叫ぶ暇もなく、轟音とともに、頭の上から無数の石の群れが降ってきた!

 とびきり大きい固まりが、1号の鼻をかすめて落ちた。

 不運にもバランスを崩して、長身が宙に舞った時、細長い腕が彼の左手を掴んだ。

 私も、反射的に右手を出してしまった!

 意外にも、しんがりの右手は私の片足をつかみ、左手で桟道のロープを握りしめている!


 ちなみに、はたから眺めれば、間違いなくこれは、深山幽谷の『猿橋』の図だ。

 大小四匹の猿が梯子のように繋がりあって、ぶらーり、ぶらりとしなやかに谷を舞っている。


 ‥‥しかし、そんな優雅な時間は一瞬だった。

 桟道のロープが、ミシリと音を立てて切れ始めている!


 「‥‥手を離せ!」

 「嫌だ!!」

 2号の声は、思いもよらず大きかった。

 「‥‥えっ、放さないの?」

 「‥‥う、うっそでしょー!?」

 ロープはあっけなく切れ、幽谷の猿橋は、散り散りにほどけた。


 「俺の名前は、カ、ラ、ハ、ン、だーーー!」

 すっとんきょうに叫びながら、大きい猿がまっ先に落ちる。

 亜麻色の髪をなびかせながら、手足の長い猿が、美しく落ちる。

 意味もなく両手で空気をかき回しながら、中太の猿が、バタバタと落ちる。

 そして、かすかな花の香りとともに、小柄な猿がゆっくりと落ちる。

 その胸元で、何かが光った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ