ペシミスト?
「『勇敢なる伝令』? ‥‥もしかして、あれが?」
思わず、口ばしってしまった時だ。
「はてな?」
「はてな?」
「はてな?」
私たち三人を順番に指差しながら、大きいのがいきなり言ってきた。
「‥‥な、そうだろ? 今、みんな、そう思っただろう?」
敢えて、誰も、返事をしない。
「‥‥俺、人の心が読めると思わないか?」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥みんなの顔に、書いてあっただろうが‥‥」
吐き捨てるように、小さいのが言った。
峠からの下り坂は、どこまでも続く一本道だった。
肩を落とし気味の「風よけ」を先頭に、背の順に並んだ四人が、無言で歩く。
切り立った崖にへばりつくように延びた桟道は狭く、時折足元から転がって行く落石の音は、なかなか返って来ない。
古い木の杭で支えられた、細々としたロープだけが、旅人達の命綱だった。
霧の中を、いったい、どのぐらい歩き続けているのだろう。
急勾配の上り坂にも、あるいは、つま先下がりの坂にも思える道を、もう、まる一日も歩いているような気がする。
もしかすると、深い霧の中で、同じ所をぐるぐる回っているんじゃないだろうか?
今度は霧の中の沈黙に耐えかねたのか、やはり、大きいのが切り出した。
「‥‥なぁ、せっかく道連れになったんだ。お互い、せめて名前と生国ぐらいは名乗ろうじゃないか」
「‥‥」
「‥‥勝手に仕切るな」
「‥‥どうせ、金貨百枚っきりの道連れじゃないか」
落胆の色を隠そうともせずに、大きいのが、
「‥‥お前ら、まさか、ペ、ペシミストとかいうやつらだったのか?」
「‥‥」
「そうじゃなけりゃあ、こんな商売してないだろうが‥‥」
「何でもいいから、番号でも振っとけ!」 「‥‥‥‥一号、二号、三号‥‥‥‥なのか、俺たち?」
ちょっとだけ、声が震えているように聞こえたのは、私の空耳だったろうか。
「四号を、省略するな!」
非難の声は、聞こえていないらしい。
大きいのは、しばらくの間黙りこんだ。