灼熱
再び歩き始めてからも暑さはますます募り、皮袋を背負って前を行くクエストの足どりも、重くなっていく一方だ。
高熱にうかされている時のように、とりとめのない思いが、あとからあとから浮かんでは消えていく。
『‥‥こんこんちき‥‥こんこんちき』
頭の中で、謎めいた言葉がぐるぐと渦を巻く。く
──とうとう私も、赤い大地に呪われてしまったのだろうか?
「‥‥暑い‥‥暑い」
何だか、不思議な感じだ。ずいぶんと久しぶりに、母さんの顔が浮かんできた。
太陽が、目の高さあたりに下りてきた頃だった。
「‥‥熱い、熱い‥‥」
クエストが、とうとうその場に崩れ落ちた。
真っ赤な顔をして、苦しそうにあえいでいる。冷静沈着なこの若者が一度も見せたことのない、苦痛に満ちた表情だった。
「どうした、クエスト!?」
「‥‥熱い、熱い。‥‥燃えている、空が燃えている‥‥」
クエストは、目を開けていることができなかった。
「クエスト、しっかり!!」
私が掴んだその手は、燃えるように熱かった。
「‥‥熱い、背中が熱い‥‥」
気づくと、クエストの背中の皮袋が、異様に熱を帯びている。触るとやけどしそうなぐらいだ。
皮袋を下ろさせようとすると、
「‥‥嫌だ、今日は僕の番だから!」
クエストは頑なに抵抗した。
「ダメだよ、クエスト! ここで倒れてしまったら、私たちは任務を果たせなくなるんだよ」
無理やり皮袋をひっぺがして、土の上に転がした。クエストの上着の背中には、うっすらと茶色い跡がついていた。
私がしょっていた食料袋にクエストの頭をのせ、横にならせた。それから、外套で頭部の日差しを遮り、わずかに残っていた水を口に含ませる。
──クエストの心の中で、何が燃えているというんだろう?
放り出された皮袋に、気休めとは思いながらも、砂をかけて冷してみる。
本当に、この中にはいったい何が入っているんだろうか‥‥。
一時ののち、クエストは、まだ赤い顔のまま、気力を振り絞って立ち上がった。
「大丈夫?」
「‥‥うん。ここで倒れ込んでしまったら、どの道、おしまいだからね‥‥」
私たちは、皮袋の背負い紐を両方から一本ずつ持って、また、焼けつく道を歩き出した。
クエストは、自分を鼓舞するかのように話し始める。
「‥‥僕はね、あのジャングルの金鉱では、『クエス』と呼ばれていたんだ。行く先々で、名前を変えさせられることはよくあったけどね‥。どういう意味だと思う?」
「‥‥クエス?」
ややあって、彼は静かに答えた。
「‥‥どこから来たのかも分からない。何を考えているのかも分からない。『クエスチョン』っていう意味さ!」
「『クエスチョン』なんて、ひどいじゃないか!!」
「‥‥僕自身、語るべき何物も持ち合わせていなかったからね。それに、いちいち争う気にもならなかった。小さな金の粒を掘り当てられるかどうかは、全くの運次第! 皆、その日暮らしの一匹狼ばかりさ‥‥。そのうちに、『クエスチョン』じゃ長いから、『クエス』でいいだろうっていうことになった。名前まで、省略されちゃったっていうわけさ‥‥」
ふらつく足取りとは裏腹に、クエストの言葉には鬼気迫るものが感じられた。
──その苦しい記憶を、高熱とともに全部吐き出してしまえ、クエスト!
「‥‥ある晩、金鉱は突然大混乱になった。金の違法な採掘を取り締まるための、軍隊の一斉突入だ。証拠を消すために、元締めは施設に火を放った。怒号と銃声の中、炎をかいくぐって僕らも逃げたよ」
クエストは、流れ落ちる汗を拭いながら話し続けた。
「‥‥例によってぐでんぐでんに酔っぱらっていたゼファーは、真っ先に足を撃たれた。肩を抱いて逃げようとする僕に、彼は言うんだ。『ダメだ! お前一人で行け!!』ってね。僕が『絶対に嫌だ!!』と言った時、思いっきり頬をぶたれたよ。初めて、ゼファーに殴られれた」
クエストの瞳には、その時の衝撃と絶望が甦っているかのようだった。
「‥‥ゼファーは、確信を持って言った。
『‥‥いいか、俺は、捕まっても絶対に死んだりなんかしない! 地べたを這いつくばってでも、生き延びてみせるさ。‥‥だから、お前は自由に生きろ!──そうだ!! お前はもう、クエスチョンの『クエス』なんかじゃない。たった今から、お前の名前は『クエスト』だ! 自分自身で、人生を切り開いていけ!!』 ──ゼファーの目は、ジャングルの夜空を焦がして燃える真っ赤な炎よりも、ギラギラと強く輝いていたよ‥‥」
熱にうなされている、普段は物静かな若者のどこから、こんな激しい思いが涌き出てくるというのだろうか。
「‥‥最後にゼファーはこう言ったよ。『いつか最期の日が来たら、俺の魂は、この世で一番高い山のてっぺんに還って行くんだ。‥‥クエスト、お前は、その目で世界中を見て来い! 絶対に後ろを振り返るんじゃないぞ!』ってね‥‥。それから、僕は、裸足で、真っ暗なジャングルを一晩中走った。どこまで走り続けても、恐怖と悲しみが追いかけてくるんだ。果てしなく続くこの熱い大地のようにね‥‥」




