峠の四人
峠の突端には、下界を見はるかすように、平たい大きな岩が突き出していた。
岩の上に並んだ大きいの、小さいの、細いの、そして中ぐらいの、いや、少々重めのこの私。
皆、着古した外套の襟を立て、フードを目深にかぶって、ものも言わず、まさに年齢・性別不詳の一団だ。
眠りに落ちる前よりは、雲が少し晴れてきたような気もする。
林立する巨岩のあちらこちらに立つ木々は、ほとんどが葉を落とし、わずかに残った楓の深紅の色が、風の冷たさを身に染みさせるようだった
峠の沈黙に耐えかねたのか、しばらくして大きいのが口火を切った。
「早いとこ、出立しようじゃないか。冬はすぐそこに迫ってるぜ。」
「それなら、お前が先頭に立て!」
小さいのが、少し甲高い声で言い放った。
「なんで、俺が先頭なんだ?」
「そのでかい図体なら、風よけぐらいにはなるだろう。」
『コクリ!』
『コクリ!』
細いのと私は、大きく首を縦に振る。
「‥はぁ?」と言いながら、大きいのがしぶしぶ歩き出そうとした時だ。
『求む、運び人!
報償は、四人一組で金貨百枚‥‥‥‥。
‥‥契約書熟読のこと!
サインののち、巻物を空に投げよ』
よく透る声で、細いのが、さらりと全文をそらんじた。
まさかこいつは、約款を全部読んだんだろうか?
なんというまめまめしさ! いや、むしろ、なんという記憶力?
暗唱の響きがまだ谷に残る中で、巻物が大きく空中に投げ上げられた。
その時、切れ切れの雲の間から一羽の鳥が現れ、鉤型の大きなくちばしで、巻物をガッツリとくわえこんだ。
「‥‥ずいぶん太ったカラスだな。」
「‥‥いや、カラスにしちゃ、頭が白いぞ」
「‥‥どちらかと言うと、猛禽類‥‥にしては、かなりの体脂肪率!」
ちょっと太めの猛禽類は、鋭い目付きでこちらを一瞥した後、悠然と、雲の間に飛び去った。
「‥‥契約書が飛んでっちまったぞ!」
「‥‥そう言えば、雇い主は現れないのか?」
「‥‥いったい全体、どこへ向かえって言うんだか‥‥」
てんやわんやの三人を尻目に、細いのが、再び唱え始める。
『志ある者、勇敢なる伝令、テプイに続け!』