わいるどれぼりゅーしょん
頭のおかしな作品再びですね。
是非是非読んで下さい。大自然で暮らしたい。
「おーい! ったく……また寝やがって。ほら、起ーきーろ!」
パタパタと教科書で僕の頭を叩く古典のナカジマが、嫌いだ。
真面目に授業を聞いてる隣のメガネも、嫌いだ。
偉そうに人生語る大人が、嫌いだ。
嫌い嫌い嫌い。何よりつまらない日々をただ消化している自分が嫌いだ。
眠気の残る目を擦り、辺りを見渡す。
周りには人、人、人。机、机、机。椅子、椅子、椅子。
「何ぼーっとしてんだ。おい、加賀! ほんとにお前は駄目人間だな!」
うるさいなぁ。
面倒くさいなぁ。
かつて自分が夢見た高校生ってこういうものだったか、もう昔の事すぎて忘れてしまった。しばらく見ないうちに、輝く目を持った自分はどこか行ってしまったようだ。
「聞いてんのか! 加賀ぁ!」
クラスメイトがちらちらと僕の顔を横目見る。さっさと謝れよという意味合いで間違いないのだが、これは期待の眼差しなのだ、と僕は考える事にした。これから始まる僕のショーへの期待だ。
望み通り、見せてやろう。
今日、僕は変わる。
脱力していた体を起こして、机に足をかける。そのままナカジマに向かって仁王立ちだ。
聞こえてるよ。
僕はそう言った。
「……加賀君?」
「そんなキャラだったっけ?」
「どうした? 狂った?」
「いきなり何事だよ」
ざわざわと波紋が広がっていく。そしてそれは、向けられた本人にも。
「……降りろ、加賀。何の真似だ」
ナカジマは怒りと驚きでわなわなと震えていた。でも僕は止まらない。誰にも止められないんだ。大自然の、呼ぶ声がした。
教室内に狼の遠吠えが響き渡る。
「おいっ! 静かにしろっ! ふざけるなっ!」
ダンッとひとっ飛び。机を蹴る。
慌てふためく人間共に捕まる気など毛頭ない。そのまま廊下へ。
走れ、走れ、走れ。駆け回れ。
脳内のハイエナは目覚めたみたいだ。笑いが止まらない。前方に数学教諭のタニカワ。右折して階段を昇る。
「何やってるんだ! 止まりなさい!」
後ろから聞こえる。僕は御構い無しに再び遠吠えをした。
気持ちがいい。とても、凄く、僕は今自由だ。
気づけばたくさんの教師が僕を止めようと追いかけてきていた。
叫べ。走れ。咆えろ。燃やせ。羽ばたけ。さらけ出せ。逃げろ。生きろ。
全身が心臓になったみたいにドクドクドクドク。大自然の声もさっきより鮮明だ。
「何やってるんだっ! んはぁ……はぁ……屋上なんかまで走ってきて……散々騒いで、どれだけ迷惑かけたと思ってる!」
息切れなんかして、みっともないな。まあショーはクライマックスだ。見届けてくれよ、諸君。
「うおぉぉぁおぁおあぉぁおあ!」
一際大きな雄叫びを上げて、飛ぶ。空中が僕の自由を飲み込んで、さらなる高みへと連れて行ってくれる。
大口を開けて見守る人間共。結局何も出来なかったな。せいぜい教育委員会に報告するがいい。
さながら鷹のように、両腕を大きく広げる。
ああ……なんて、『自由』なんだろうか。これぞまさにーーーー、
「加賀、起きろ。いつまで寝てんだ」
クスクスと教室内に不協和音が響く。嫌な音だ。
僕はまだ眠気の残る目を擦り、教科書を開いた。もちろん大自然何ぞの呼び声は、聞こえてくるはずもなく、いつも通りの日常をただただ無力に、過ごすしかないのだ。
僕の野生は静かに溜息をついた。
読了感謝です。