第三幕:曲がり角と転校生
転校生。それは必ず美少女でなければならない。
転校初日に通学路の曲がり角でぶつかり、同じクラスで尚且つ隣の席に座り、教科書が揃うまで教科書を共有することは大前提。
必ずではないが、家のお向かいに引っ越してきた方が望ましい。家の隣にツンデレ幼馴染が住んでいたりすると更に好条件である。いつか三角関係フラグが立つ事は確実である。この場合、転校生はヤンデレである可能性がある。最終的に殺されてしまう可能性があるので注意されたし。
なお、転校生とは実は幼い頃に結婚の約束をし合った仲で、親の転勤で離れて再び戻ってきたという可能性もある。記憶を掘り起こし、その心当たりがある場合は更に殺される可能性が高まるので、下手に刺激してはならない。
以上の注意を守って、楽しい転校生ライフを送ってもらいたい。
――――五十嵐御眼我著『萌える転校生理論』(自費出版)より
曲がり角から現れた少女が、御天のすぐ後ろを猛スピードで通過した。そこで曲がり、そのまま御天を追い越して駆けていく。
後姿を見ると同じ学校の制服を着ているが、見ない顔だ。おそらくは学年自体が違うのだろう。いや、友達が少ない可愛そうな学生の御天にとっては同学年であっても見たことも無い生徒も多いだろうが。
(……何だアイツは。あんなことを大声で言って。自分が時間にルーズであるということを公言しているだけじゃないか。愚かしい行為だ。しかもトーストを口にくわえていたではないか。走りながら物を食うことはほぼ不可能であろうに。パンのカスがダイレクトに喉を直撃するではないか。そんなことも分からないとはちょっと頭がおかしいんじゃないのか? しかもこの時間にこの位置。間に合うわけは無いだろう。あと三十秒しかないぞ)
世の中そんな上手いこと出来ているわけじゃない。
例えばあの子が御天にぶつかって怪我したりなんかして慰謝料をたんまり請求してお小遣いに充てたりだとか。
もしくはあの子が転校生でしかも同じクラスに転校してきたりして、何故か御天の隣の席が偶然空いてたりして、そこから弱みを握ったりなんかしてそれをネタに脅して十八歳未満お断りな学園“性”活を謳歌してみるだとか。保健室至上主義。体育倉庫万歳。
そんな都合よく漫画やゲームのように世の中が進むと思ったら大間違いである。
転校生と曲がり角でぶつかる確率など、ほぼゼロに等しいのだ。
(……これじゃあ考える事が親父と同じじゃないか。危ない危ない)
跳躍しすぎていた思考を引き戻す。
何かと言って御天も御眼我に毒されている。基本的に常識的な思考が出来ないのは御眼我譲りでさくらと同じく。時折、御眼我をも凌ぐ斜め上の変態度を示すこともあったりする。しかしまだ御天には強い理性と言うものがあって、学校では浮かないように注意している分、まともな人間と言えるだろう。
「……あ、チャイム鳴った」
とりあえず学校が終わったら遅刻の最大の原因を作った御眼我を殴っておこうかと思う。自分のことは全部棚に上げて。