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第二幕:それでも俺は悪くない

 御天は走るのが嫌だった。基本的に疲れるのは嫌である。

 今日は朝っぱらから父親と取っ組み合いをして今日一日分くらい疲れたので、これ以上疲れるのはゴメンだった。

 よって、学校が始まる八時半まで残り三分を切るという危機的状況下に置かれていても、彼は悠然と通学路を歩いていた。学校までは歩いて十五分。普段から歩いて通っている。

 そもそも、御天が気まぐれて朝食を作るのを手伝って足を引っ張り、そして朝食前に父親と並んで正座させられて、妹であるはずのさくらから説教を受けてしまったので、余計に時間がなくなってしまった。


「全面的に親父が悪い。俺はいたいけな幼女が親父の毒牙にかぶりつかれてしまうのを未然に防いだだけなんだ。だから、お小遣い抜きは親父だけに……せめて俺のは半分、いや、三分の二くらいで勘弁してくれないか」

「駄目。喧嘩したらどっちも悪い。お兄ちゃん、お父さんをコテンパンにしてるじゃない。治療費のこと考えてよね?」

「正当防衛だ。親父から先に非常にキモい顔で飛びかってきたんだ。アレはキモかった。そのキモさと言ったらそれはもうさくらが卒倒してしまってついでに軽く三日くらい連続で夢に出そうなほどの尋常じゃないキモさだった。でも俺はキモ死にする危険を孕んだ親父に勇敢に立ち向かった。……それにこれくらい唾付ければ治る」

「はいはい頑張ったね。えらいえらい。……頭割れて血が出てるよ? ひょっとしたら頭蓋骨骨折してるんじゃない? バカ騒ぎした二人が悪いんだよ、これは。お小遣いから天引きするのは当然だと思うんだけど?」

 さくらは御天の武勇伝を軽く受け流し、御眼我の様子を見ながらそう言った。

 そう。御眼我の頭から現在進行形で結構な量の出血が。本当ならば救急車を呼ばなくてはならないのだが。決して、唾付ければ治るレベルの傷口ではない。

「なあ、さくら……私はいつまでこうして正座していればいい? そろそろ目の前が真っ暗になってきて、ついでに過去の楽しかった思い出が走馬灯のように……ああ、母さんが川の向こうで手を振ってる……」

「んもうっ! 大人なんだからしっかりしてよねお父さん!」

「いや……しっかりするにも限度と言うものが……」

 結局救急車を出動させて御眼我は病院へ。さくらと御天は時間が無いことに気づいて朝食を掻き込んで学校へ向かったわけである。


 御天はやはり何も気にせずに歩いていた。頭にあるのは、どうやって今月のお小遣いを算段するか。それだけである。下手なことをしたら来月のお小遣いまで抜きになってしまう。

(やはりさくらもまだ小学生……古典的であるが、おだてまくっていい気にさせるのが一番か……?)

 悶々と悩みまくる御天。まるで頭から紫色のオーラでも出ているんじゃないかというくらいの悩みぶりである。考えていることは小学生と同じレベルであるが。

(アイツも結構抜けてるところあるからな……。よし、この作戦で行こう。後はいかに自然におだてまくるかだが……)

 そもそもおだてまくる時点で不自然である。そこに気づかないあたり、御天も結構抜けていたりする。

(料理を褒めるか? アイツの料理は旨いからな。……でも今まで普通に食ってたのにいきなり褒めても怪しまれるしな……)

 さくらは料理にかけては天才的である。

 御天とさくらの母親が病死して一年ほど、御眼我がいわゆる“男の料理”を作って飢えをしのいでいたのだが、正直美味しくなかった。その反動で当時僅か五歳だったさくらが開眼。テレビの料理番組やレシピ本で勉強し(御眼我と同じ異常な頭脳をしているためか、簡単な漢字くらいならば既に読めるようになっていた)、小学校に上がるくらいには一般的な主婦を追い抜くくらいの料理の腕になっていた。

 最初は御天も褒めていたが、それが日常化すると褒めることも無く、普通に黙々と食事をするようになった。今更突然褒めるのもどうかと思う。

(顔を褒めるか……? お前よく見ると結構かわいいなとか……)

 事実、さくらは可愛い。親馬鹿ならぬ兄馬鹿なのかもしれないが、そのじょそこらの同年代の子供に比べると遥かに可愛いと御天は思う。

(うーん……これは候補に上げておくか……。でもこれだけじゃあパンチが弱い……)

「いっけなーい! 遅刻しちゃーう!」

 と、悩みながら歩いていた御天が小さな交差点に差しかかろうとした時、一人の少女の声が結構近くで聞こえた。

「……え?」

 そして――

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