旅客戦闘機マツナガ
他サイトと同時掲載です。
ん〜、一体どんなとこからこのネタ書こうと思ったんだっけなぁ?
メモの中にタイトルだけ書かれてました(笑)
内容はタイトル見て思い出したのですが。
とにもかくにも初のバトル物(笑)です。
「嘘だろ、おい」
機内に甲高いアラーム音が鳴り響く。フロントガラスから見えるその異形はまるでカラスだ。真っ黒に塗りつぶされていて、無駄に威圧感がある。
「ふむ、どうやら見つかってしまったようだな」
「ちょっ、何落ち着いてるんすか、マツナガ先輩! 戦闘機っすよ! 狙われてるんすよ!?」
「はははっ、いつも元気だな、ナガミネ君は」
最悪だ。ついてない。
まさか副パイロットとして乗った飛行機が初日から狙われるなんて誰が思うだろうか、いや思わない。
だが現実とは残酷なものだ。本来あり得ない事象が平気で起こるのだから。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。
なんて現実逃避も束の間、例の戦闘機がぐるぐると俺達の乗る旅客機の周りを飛び始める。
「やばいやばいやばい! これ明らかに威嚇でしょ!」
「やれやれ、仕方ないなぁ」
マツナガ先輩は溜め息を一つだけついた。
え、それだけ?
普通はもっと焦るもんじゃないの?
俺の怪訝そうな目もどこ吹く風。マツナガ先輩は機内アナウンスのスイッチを入れる。
「乗客の皆様にお知らせいまします」
「そっか、お客様に心配かけちゃいけないですもんね。俺も落ち着……」
「これより当機は戦闘に入ります。多少の衝撃と揺れが予想されますので近くのものに掴まって備えて下さるようお願いいたします」
「けねぇよ! え、何? 戦う気? ってか、衝撃と揺れ多少かよ!?」
ツッコミが全く追い付かない。
いや、そこじゃねぇだろ俺!
ここはマツナガ先輩を止める場面だろう!
とここまで考えたところで一人の女性が駆け込んできた。CAの雪さんだ。
「機長!!」
良かった。雪さんが説得すればマツナガ先輩も考え直すだろう。考え直すとも! ……考え直すよな?
期待半分、不安半分で見つめていると彼女は親指を立てて一言、
「グッドラック」
「なんでやねん! 止めろよ止めるだろ止めるとも!」
「騒がしい人ですね」
「え? 俺が悪いの? 悪くネェよ!」
「あっはっは、君は本当に愉快だね。……とは言えそんな場合じゃなくなってきたよ?」
マツナガ先輩のその言葉で慌てて戦闘機を探すが見当たらない。さっきまでは俺達の視界に入る位置にいたはずなのに。
ってことはまさかもう見逃してくれたり!
「後ろに回られたね」
ですよねぇ。
いや、分かっちゃいましたよ?
でもちょっとくらい夢見たっていいじゃないですか。
「雪くん、客室は任せたよ。さぁ、戦闘開始だ!」
雪さんはマツナガ先輩に言われるまま、運転室を出ていった。おそらくパニックが起こらないように乗客をなだめに行ったんだろう。
先輩は舌なめずりしながら瞳を爛々と輝かせ、これからの戦闘に胸をときめかせている。
「さぁて、まずは機銃とミサイルどっちだぁ?」
「ちょ、二択!? 外れたらどうするんすか!?」
「なぁに、その時はその時さ。ところで君はどっちだと思う?」
「しかも俺が決めるんすか!?」
「自分の決断が乗客を救う。燃えるシチュエーションじゃないか。ちなみに僕はミサイルだと思うんだけどねぇ」
なんとなく、本当にただなんとなく嫌な予感がした。
別に予知能力やらなんやらがあるわけじゃないが、多分正しい。マツナガ先輩のこの選択は間違いだ。
「……機銃で様子を見てきます」
「随分はっきり断言するんだね」
「ミサイルじゃ……多分旅客機を一発で沈めるなんてできませんから」
「成程ねぇ。納得。……さすがネズミだ」
「え、何か言いました?」
先輩の最後の一言が聞こえなかった。
聞き返しても先輩はニマニマと笑うだけで答えてくれない。
それどころか更に無理難題を吹っ掛けてくる。
「それじゃあ機銃のタイミングもお願いしようか」
「はぁ!? 無茶言いなや!」
「だいじょぶだいじょぶ」
こんな状況でも先輩は楽しんでいやがる。
多分俺が何を言おうと聞き入れるつもりはない。
……覚悟決めるしかないか。
「どうなっても知りませんからね!」
「そうこなくっちゃ」
先輩の軽口を黙殺し、全神経をとにかく生き残る為の直感に集中する。
高校受験やパイロット試験ですらここまで集中したことはない。
不意に尋常じゃない寒気が俺を襲った。
「き、来ます!」
その不気味さについ口走ってしまった。
馬鹿野郎ぉぉぉ!
俺の判断ミスが全て死に繋がるっていうのに!
「すみません! 今のは」
「いやいや、ドンピシャだよ」
そう言って先輩が機体を傾けた瞬間、すぐ横を黒くて小さい何かが通り過ぎた。
「……銃弾!?」
「それ以外の何があるのかな。それより次の手は?」
「よ、避けられたことに腹を立ててミサイルを打ち込んできます!」
「了解! チャフグレネード散布!」
「なんであるねん!?」
こんな状況ですらツッコミを忘れられない自分に呆れつつ、後方から訪れた爆音と衝撃に耐える。
なんとか敵の攻撃をかいくぐったことに安堵する。が、それまた早計だった。
「先輩、前! 積乱雲ですよ! それも超弩級!!」
「お、ついてるねぇ」
「どこがですか! このまま突っ込んだら雷の餌食ですよ!」
「でもこのままだと敵の餌食だよぉ」
まさに前門の虎、後門の狼。絶体絶命。出前迅速、落書無用。
いや、最後の二つは関係ない。脳がとんでもなくパニックを起こしている。
「このまま突っ込んで雲の中で宙返り。敵の後ろを取るよぉ。行けそうかい?」
「は、はい! 大丈夫だと思います!」
先輩は宣言通り機体を雲の中に突入させ急上昇。運良く雷に当たることなくそこから一回転して急降下。
そのまま雲を抜けると目の前にはあの漆黒の敵機がいた。
「せ、先輩。早く撃ち落としてください!」
「そんな武装はないねぇ」
「んなっ!」
言葉を失う。
なら何をしたところで同じではないか!
絶望感が体を満たす。
もう、駄目だ。
「っと諦めるのは早すぎるなぁ」
「でももう……」
「最後の一手! ニトロブースト!!」
カバーで覆われたボタンを拳で押し込んだ。
瞬間、急加速。
「こ、これなら逃げられ」
「るわけないだろぉ。でも……チェックメイトだ! 後は頼むよ、雪くん!!」
敵機のすぐ傍を通り過ぎる。と同時にパンっと言う軽い破裂音。
拳銃の音だと気付いた直後、そんなものとは比較にならない爆音が響いた。
慌てて窓から後ろを確認するとそこには黒煙に包まれて墜ちていく物体があった。状況から見て恐らく敵機なのだろう。
「……うそん」
呆然としていると、雪さんがまるで一仕事終えたとでも言わんばかりに(小さな)胸を張って入ってきた。
ちょっ、睨まないで。小さいとか言ってないし。てか人の心覗かないで。
「さすが雪くん。エンジンを一発だったね」
「いえ、機長の運転技術があってこそです」
「後、彼の危機関知能力もね」
「…………」
言葉がない。
呆れとか恐れとかなんやかや混じって、何も出てこない。
二人は黙ったままの俺をじっと見つめている。
「……」
「……」
「…………いや、ツッコミ待ちしてんじゃネェよ!!」
「くっ、ここに来て時間差ツッコミですか。なかなかやりますね」
「ははははっ、どうだ、愉快だろう」
何故かマツナガ先輩が誇らしげにしている。
……なんでやねん。
とにかくもう嫌だ。こんな奴等と一緒にいられるか。目的地に着いたら絶対こんな飛行機降りてやる。
「あ、そうそう。僕は狙った獲物を逃したことってないんだよねぇ」
「なんでこのタイミングで言うんだよ! 人の心読んでんじゃネェよ! 脅すんじゃネェよぉぉぉ!!」
前略、地元のお父様お母様、先立つかもしれない不幸をお許し下さい。
「勘弁しろよぉぉぉ!!」
読了ご苦労様です。
いかがだったでしょうか。
ちなみに初の名だし作品です。
自分の経験からいうと、ナナシの方が感情移入しやすいので基本的に名前を出さないのですがね。
今回は挑戦してみることにしました。