エレギー(挽歌)
「貴方たちこっちに来なさい、話があります。」
シスターはそう言うとまだ若干呻き声の聞こえる部屋へと消えた。俺たちは仕方がないのでビクビクとお化け屋敷に入るような感覚で部屋へと入った。
てっきり拷問道具でもあるのかと思ったが、そこは普通の部屋だった。
ただ一つ気になるのは、全身を包帯で覆った少年がこちらを睨みつけるように凝視していた。
俺たちは当然驚いたがシスターはまったく気にしている様子はなく引っ張るように廊下に連れ出し、空いている部屋に連れ込んだ。
「そこに座りなさい。」
俺たちはしぶしぶとおのおの椅子にすわった。
…それにしては椅子の数が多いな
人数の倍の分はあるぞこれ
「…それで貴方達はあの子を見てどう思った?」
突然の問いに俺は口を噤んだまま、黙り込んだ。俺だけじゃないみんな
…………
しばらく静寂が続いた
…………
重苦しい空気
不意に静寂を破ったのは意外にもシスターのほうだった。
「あの子は天性の病気で生まれつき肌が弱かった、弱いどころじゃないわね、それこそただれるくらい。」
そのことを聞いてショックを受けたのは俺だけじゃ無いだろう。
「そのことが理由で親に捨てられたことも、本人にはきつすぎる運命だった。」
俺の仲間の中にはなかなかに辛い経験をしているやつもいたが、その人も含めて辛そうな顔をしていた。
きっと俺があいつらの視線から見ても俺は同じ顔をしているだろう。
「でも、あの子はそれでも必死に生きているのよ…それでも人に見られるのはとてつもない苦痛なの、分かってあげて、あの子に悪気はないのよ。」
シスターの言っている言葉は自分に言い聞かすように小さくなって行ったが、その言葉の重みはしっかりとここにあった
そして思う、さっきの俺たちの行動はどれほどあの少年を傷つけたのだろう。
自分のしたことに恥ずかしくなってくる
この時には既に泣いている奴も多くなりみんなが自責の念を持っているように見えた。
その様子を見てシスターは優しく微笑み特に泣いている奴を撫で始めた。
10分くらい経った頃ほとんどみんな落ち着いたようだった。
シスターに諭されながら元の建物に戻る時に誰かが訊いた。
「なんでシスターはあの子をかくすの?」
それは俺も気になったことだった。
「それはね、中途半端に理解されるのが怖かったからよ。」
「なんでこわいの?」
「例えば、悪い子がその子の見た目だけを知っていて、その子の痛みを知らないとするでしょう?」
「うん…」
「もしその悪い子が肝試しみたいに見に行ったとすると。」
「ふぇ…」
「なんとなくわかったかな?悪い子がその子を虐めるのは目に見えるでしょ、もっとひどい場合殺されるかもしれないわね、実際……いや、そうよ危ないのよ、分かった?」
「うん!」
「そう、よかったわ。」
その夜はなかなか寝付けなかった、シスターの言いかけた言葉がもやもやするが気ずかなかったことにしようとした。
…いや、気ずきたくなかっただけだ、今はそう思う。
その日の夜は長かった。