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第1話 奥様はスライム

     1



「それじゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、ダーリン♪」


 明るい声を伴って送り出してくれる妻の笑顔を受け取り、会社へと向かうこの時間。

 まだ新婚のオレは、こうやって見送ってもらえることに、これ以上ないほどの幸せを感じていた。

 就職のために上京してきてはや数年、ようやく身も固め、ひとり暮らしから解放されたわけだが。

 いろいろと問題は山積ではあるものの、結婚してよかったと素直に思える瞬間だ。


「あっ、ちょっと待って!」


 軽やかな足取りで玄関から飛び出した瞬間、呼び止める声がかけられた。


「ほら、お弁当! 忘れてる!」

「あ……ごめんごめん、ありがとう」


 せっかく作ってもらった愛妻弁当。

 それを忘れるなんて、オレはどこまで抜けているんだか。

 妻が笑顔で手渡してくれるお弁当を、ありがたく受け取る。


 べちょ。


「ちゃんと、残さず食べてね♪」

「あ……ああ!」


 少々、顔が引きつってしまう。

 そんなオレの変化には気づく様子もなく、彼女はさらに手を伸ばしてくる。


「あっ、ほら、ネクタイが曲がってる! まったくもう、しっかりしてよね!」


 べちゃべちゃべちゃ。


 オレのネクタイを直し、満足顔を浮かべる我が妻。


「うん、これでよし! カッコいいよ、ダーリン♪」

「ああ……うん、サンキュッ!」


 もちろんオレもお礼を述べる。ただ、どうしても顔は引きつってしまうわけで……。

 と、気づけば彼女はオレの顔をまじまじと見つめていた。


「もうひとつ……忘れ物があるでしょ~?」

「あ……ああ、そうだったな!」


 オレの答えを聞いて、満面の笑みをこぼす。


「はい、行ってらっしゃいの、ちゅ~♪」


 笑顔は徐々に近づいてきて、そして距離はゼロになった。


 べちょ。ねちょ。ぐちょ。


 朝っぱらから、濃厚なキス。

 玄関先でこんなにいちゃいちゃしている夫婦がいたら、公然わいせつとかになってしまうんじゃないだろうか、などと心配になるほどに熱い口づけを交わす。

 まぁ、玄関先とは言ってもアパートの二階だから、とくに問題はあるまい。


「ぷはっ! これでOK♪ いってらっしゃい!」

「い……行っふぇひまふ……」


 妻の笑顔を残して、オレは歩き始めた。


 口の中は、なにやらネバネバした粘液……というか、ゼリー状の物体でいっぱいになっている。

 だからこそ、行ってきますの声すらまともに発することができなかったのだが。


 直してもらったネクタイにも、ねちゃねちゃした液体がべっとりとこびりついている。

 当然ながら、手渡してもらったお弁当箱や、それを受け取ったときに触れた手の甲も、まったく同じ状況になっていた。


 オレの妻――ぽよ美は、全身が粘液にまみれたスライムなのだ。



     2



 オレは佐々藤泉夢(ささとういずむ)、27歳。

 ごく普通のしがないサラリーマンだ。


 大学を卒業後、東京にある今の会社に就職してはや5年。

 真面目に働いてはいるものの、出世への道は険しそうだと言わざるを得ない。

 とはいえ、やりがいのある仕事ができている上、給料も悪くはない。

 職場のメンバーにも恵まれ、とくに大きな不満もなく働いている。


 仕事だけではなく、私生活も充実している。

 ひょんなことから出会ったぽよ美とつき合い始め、2年の交際を経て結婚。

 新婚ほやほやのオレたちは、ラブラブな日々を送っている……のだが。


 妻のぽよ美は、スライムなのだ。


 スライム――粘液状の体を持つ、不定形生物。

 某ゲームの影響で愛らしい姿を想像する人も多いかもしれない。だが……ぽよ美の実体は、深い緑色をしたゲル状の物体となっている。

 普通の人間の感覚から言って、決して愛らしいと呼べるものではないと断言できる。


 もっとも、ぽよ美本人には、不気味だの気色悪いだの、そんなことは絶対に言えない。

 怒らせたが最後、ゲル状の本体に全身をすっぽり包み込まれ、骨の髄まで溶かされてしまう結果にならないとも限らないからだ。


 2年もつき合っていて、気づかずに結婚したのかとバカにされるかもしれないが。


 ……うん、バカにしてもらって結構だ。

 今になって考えてみれば、自分でもどうして気づかなかったのかと思うし……。


 だが、恋は盲目。

 当時のオレは、ぽよ美の可愛らしい見た目に騙されていたのだろう。


 そう、可愛らしい見た目だったのだ。

 ぽよ美は、人間の姿に変身することができる。

 その容姿は、夫であるオレが言うのもなんだが、とっても素晴らしい。


 オレより2つほど年下だというぽよ美。スライムの年齢が人間と比較してどうなのかとか、細かいことはよくわかならいが。

 ともかく、年齢よりも若く見える童顔で、大きな瞳がチャーミング。小柄な身長も、少々幼く思われる所以か。

 長い髪の毛を頭の後ろ側で束ね、真っ赤なリボンで留めているのも、可愛らしさを強調している。


 ぱっと見の幼い雰囲気と相反して、ぼんっ、とその存在感をこれでもかと主張している豊満な胸は、思わず目を奪われてしまうほど。

 当然ながら、それが好きになった理由というわけではないのだが。

 一緒になったひいき目を差し引いたとしても、グラビアアイドルでも充分に通用しそうな容姿と言ってしまって構わないだろう。


 綺麗な嫁さんをもらって羨ましいな! と昔からの友人たちにはよく言われる。

 そうだろうそうだろう、とオレも自慢顔で答えはするのだが、どうしても顔は引きつってしまう。

 妻が実はスライムだ、なんて誰にも話していないからだ。……もっとも、話したところで信じてはくれないと思うが。


 実際にスライム形態のぽよ美に会わせれば、さすがに信じてもらえるはずだが、それはそれでなんだか嫌だ。

 愛する妻の裸を他人に見せるようなものだし、ぽよ美本人も恥ずかしがるだろう。

 それ以前に、ぽよ美とふたりだけの秘密、という状況に酔いしれている、といった思いもあるのかもしれない。

 まぁ、同じアパートの隣人なんかには完全に知られているのだが。


 ところで、人間に変身できるということは、可愛らしいぽよ美の姿は単なる偽りの見た目でしかない、とも言える。

 それでも、変身する姿は精神構造によって無意識に形勢されてしまうようで、自分で好きな姿になれるというわけではないらしい。

 つまり、あの容姿こそがぽよ美の本質であり、同時に彼女の内面の美しさをも表している、と考えられるのだ。


 ぽよ美が直してくれたネクタイに、そっと手を触れる。


 べちょ。


 うん、今日もいい感じに、ねちょねちょしている。

 ぽよ美が健康な証拠だ。……たぶん。


 なお、キスによって口の中いっぱいに流し込まれた粘液やらゼリー状の物体やらはすべて飲み干したあとだ。

 微妙に青臭い味がするのだが、吐き出すわけにもいかない。

 なんたって、愛する妻の一部分なのだから。

 ……微妙に変態っぽい気がしなくもないが、オレは気にしない。


「さ~て、今日も1日頑張るぞ! 愛するぽよ美のために!」


 気合いの声を響かせる。

 突然の大声で、周囲にいた人たちが何事かと視線を向けてきていたが。

 そんなことも当然、オレはまったく気にしないのだ。



     3



「おっ、佐々藤は今日も愛妻弁当なんだね。さすが新婚! ひゅーひゅー!」


 今どき、ひゅーひゅーなんて冷やかしの文句を使ってくる奴がいようとは。

 時は昼休み、自分の机に弁当を広げたところだった。

 声をかけてきたのは、同期入社の海端(うみばた)だ。


 海端は普段、昼休みになるとすぐにオフィスを出ていってしまうのだが。

 昼前から激しい雨が降っているため遠出するのは諦めたのだろう、その手にはコンビニ弁当の入った袋がぶら下げられている。

 そしてフタを開けたばかりのオレの弁当箱をひょいっとのぞき込むと、海端はさらなる冷やかしのセリフを続けてきた。


「ほ……ほうほう、なかなか可愛らしい感じじゃないか! 男としては弁当箱がちょっと小さいかもしれないけど!」


 若干引き気味なのが伝わってくる。

 そんな状態ではあっても、海端はそれこそ重箱の隅をつつくようにオレの愛妻弁当の美点を探して褒めたたえ、冷やかしの気持ちを止めないようにしていた。


「おかずはちょっと、冷凍食品とかが多めかもしれないけど……そういうのだって美味しいもんな! レイアウトも若い女性らしくてグッドだよな!」

「うん、まぁ、そうだな」

「それから、他には~……」


 小さな弁当の隅々にまで視線を巡らせ、必死に言葉を続けようとするものの、どうやらそろそろ限界といった様子だった。

 それじゃあ、反撃させてもらおうか。


「少し食べるか? ……とくに、この辺りの緑色のとか」

「い……いやいやいや、遠慮させてもらうよ! ハッハッハッハ!」


 渇いた笑いを響かせながら、オレが箸を伸ばして食べ進めるのを、引きつった表情のまま眺めるだけの海端。

 もし食べると言われても、分けてやるつもりなんてなかったのだが。

 だいたい海端にしたってコンビニ弁当を用意しているのだから、見た目で引きつるようなぽよ美の手作り弁当なんて、食べる必要はないだろう。


 はっきり言って、ぽよ美は料理が下手だ。

 スライムということで、味覚が違うとか好みが違うとか、それくらいは想像できなくもないと思うが。

 実際には、それ以前の問題かもしれない。精神構造も身体構造もまったく違うのだから。


 鍋を焦がしたりといった可愛げのある失敗は、オレには失敗とすら思えない。

 鍋を爆発させるなんてのも、マンガなんかだとよく見る光景だが、それだって大した問題とは言えない。

 ぽよ美は……鍋を溶かしてしまったことまであるのだ。それも、食材もろとも。


 それなのに、なぜか料理は完成していて……。

 目の前に出されたのは、深緑色と紫色のまざったようなゲル状のおぞましい物体で……。


 さすがにオレが料理をすると言ったのだが、これは主婦の仕事だからと、ぽよ美は譲らない。

 オレは仕方なく、調理道具の使い方を懇切丁寧に叩き込み、食材やレシピなんかもしっかりと教えた。

 そこまでしてやっても、根本的に味覚の違うぽよ美には、レシピがあったとしても美味しい料理を作るのは難しい。

 そのため、なるべく冷凍食品を使わせる方法を採用するに至ったのだ。


 問題はまだ他にもある。

 ぽよ美が料理をすると、ネバネバした粘液やらゼリー状の物質やらがべったりとついてしまうことだ。

 かといって、手を触れずに料理するというのは無理だろうし、手袋をして料理してくれと言うのもなんか悪いし……。


 そんなわけで、オレは毎日、ぽよ美の手料理をたいらげている。


 それにしても……。

 朝、ぽよ美が言っていた、「残さず食べてね♪」というのはやっぱり、『これら』も含めてなのだろうか……。


 オレは、緑色でゼリー状の物体を箸でつまみ上げる。


「……弁当なのに、メロンゼリーが入ってるのか? デザートがあるのはいいかもしれないけど、ご飯の上にしっかり乗っかってるよな、それ……」

「ん……もごもご、味は青汁っぽい感じかも」

「デザートじゃない!?」

「おかずにもならないけどな」


 文句を言いながらも、オレは手を止めることなく食べ進める。

 ぽよ美が愛情を込めて作ってくれた弁当なのだ。本人から言われるまでもなく、残したりするつもりなど毛頭ない。

 家に帰って空っぽの弁当箱を渡したときのぽよ美の笑顔を想像しただけで、思わず顔がにやけてしまう。


「結婚するって大変なんだね」

「大変ではないよ。オレは幸せだし」

「そんなもんかねぇ」

「そんなもんだよ」


 躊躇することなく答え、すぐにゼリー状の物体を頬張るオレを、海端は首をかしげながら眺めていた。



     4



「ただいま~」

「あっ、ダーリン、お帰りなさい♪」


 帰宅したオレを出迎えてくれたのは、ソファーにべっとり(丶丶丶丶)と寝っ転がる、ぽよ美だった。

 新婚なのにすでにだらけきっていて、オレの存在なんて関係なくごろごろとした生活をしている、というわけではもちろんない。

 専業主婦のぽよ美は、料理の腕は少々アレだが、家事はしっかりとこなしてくれている。


 今日もすべての仕事を終え、ゆっくりとソファーに身を預けつつ、テレビを見ながらオレの帰りを待っていてくれたはずだ。

 それが証拠に、ぽよ美はすでにソファーから起き上がり、キッチンへのそのそ(丶丶丶丶)と向かっている。


「夕飯はできてるから、準備するわね~!」

「うん、ありがとう」


 妻がキッチンでエプロンを身につけて料理してくれている後ろ姿。

 普通なら、とても温かな気持ちなるものだろう。

 だがぽよ美の場合、なんとも複雑な気分に陥ってしまう。


 炊飯器での米の炊き方くらいはどうにかマスターしてくれたし、冷凍食品や出来合いのお惣菜なんかを使っているだけだから、そうそう失敗なんてしないとは思うが。

 それでもいつ鍋を爆発させたり融解させたりしないとも限らない。といった心配も、あるにはある。

 ただ、それ以上に気になってしまうのは、その後ろ姿そのもので……。


 ぽよ美が人間の姿に変身できるというのは、以前にも言及したとおり。

 しかし、変身していると非常に疲れるらしいのだ。

 さすがに外出するときにはずっと変身し続けてもらっているが、それを家の中までは続けられない。


 というわけで、家の中では常に、スライムとしての本来の姿――ドロドロでぐじょぐじょな深い緑色のゲル状物体となっているのだ。

 さっきまでぽよ美が寝っ転がっていたソファーも、粘液でべちょべちょになっている。


 その状態で、器用に手(?)を伸ばし、お皿に惣菜類を盛りつけていく。

 健康のために麦芽米をまぜたご飯を茶碗によそい、インスタントの味噌汁も用意する。


 サラダ用のキャベツなんかは、自ら包丁を握って千切りにしているようだ。

 小気味よくまな板と包丁でリズムを刻む音が響く中、ときたま微妙に鈍い音がまじったりもする。

 おそらく、手を切ってしまっているのだろう。


 どうもスライムという生物は、部分的に千切れたりしてもなんの問題もないらしく、ぽよ美が包丁を使うと必ず、手(と呼んでいいのかわからない、ゲル状の体)の一部が切れて、料理に混入したりする。

 もともと全身を覆っている粘液が、ぽよ美の触れた食材全体にべっとりと付着するのは、すでに全然気にしていないのだが。

 もし普通の人間だったら、指が一本、丸ごと料理の中に切り落とされているようなものかもしれない。そう考えると、いくらオレでもちょっと食べるのを躊躇してしまう。


 いや、まぁ、それでも食べるのだが。

 愛するぽよ美が一生懸命用意してくれた夕飯なのだ。食べないわけにはいかない。

 食べなかったら泣いちゃうし……。

 そんでもって、泣きながらオレの体を包み込んで、溶かそうとまでしてくるし……。


「用意できたわよ~」


 ぽよ美(スライム形態)が、お盆に味噌汁の入ったお椀を乗せて歩いてくる。

 文字どおり、ぷるぷるしながら料理を運ぶ姿は、見るからに危なっかしい。


 たとえそんな状況であっても、オレが代わりに運ぶ、というわけにはいかない。

 仕事で疲れて帰ってきたんだから、家事は全部任せてほしい、と言われているからだ。


 物を運ぶなら、人間の姿に変身すればいいのに。そう思わなくもないが。

 ぽよ美はぽよ美なりに頑張ってくれているのだろう。


 そんな健気な彼女だからこそ、オレはこうして一緒に暮らしているとも言える。


「きゃっ!?」


 不意にぽよ美がつまずいて転んだ。

 ゲル状でドロドロなスライム形態なのに、どこにどうやってつまずいたんだかわからないが。

 べしゃっ、と潰れるように倒れ込む。

 当然ながら持っていたお盆もひっくり返り、味噌汁も周囲にぶちまけられてしまった。


「あう……ごめんなさい……」

「大丈夫だから、気にするな」


 オレは素早く立ち上がり、台拭きを水に濡らしてくる。


「あたし、ダーリンに迷惑をかけてばかり……」


 涙まじりで謝罪の声をしぼり出すぽよ美は、スライム形態から人間の姿へと変わっていた。

 楽だからと本来の姿で家事をしていて失敗した。今さらながら、それを悟ったのだろう。

 もっとも、人間の姿になっていたとしても、つまずいて転んでしまう可能性はある……というよりも、慣れない姿だから、余計にその可能性は高まる気もするが。


 なお、人間の姿になるときは、服も着るように言ってある。

 最初に目の前でスライム形態から人間の姿へと変身するのを見たときには、完全にすっ裸で焦ったものだが。

 どうやら服は本人がイメージしたとおりに形成することが可能らしい。なんとも便利な能力だ。


 オレと一緒に、床に飛び散った味噌汁の具を処分し、スープを拭き取ったあとも、ぽよ美はしょぼんと落ち込んだ表情を崩さなかった。


「ほんとに、ごめんなさい……。あたしって、どうしてこう、ダメな子なんだろう……」

「いいから、気にするなよ。ぽよ美は頑張ってくれてるよ。だからこそオレも、留守を任せられるんだしさ」

「でも……」


 慰めてみるも、ぽよ美の気持ちは沈んだままだった。

 よし、こういうときは……。


「愛してるよ、ぽよ美」

「…………あたしも……」


 オレの言葉で、ようやく立ち直ってくれたようだ。

 少々単純すぎる気もするが……それもぽよ美のいいところ、と言っていいだろう。


「これからもよろしくな、ぽよ美」

「うんっ!」


 思いっきり飛びついてくるぽよ美。

 オレのほうも彼女をしっかりと受け止め、強く抱きしめる。


 べちょ。


 ぽよ美の全身を覆う粘液が絡みついてくる。

 この感触には、なかなか慣れないな……。

 そんな感想を抱きながらも、愛する妻のすべてを包み込む。


 こんなぽよ美との日常は、普通とは違ったハラハラドキドキが味わえる、とても充実した新婚生活だ。

 ……そう思い込もうとしているだけ、という部分がまったくないとは言いきれないのだが。


「あっ、台拭き持ったままだった! ダーリンのお洋服、汚れちゃってる~! ごめんなさい!」


 慌てたぽよ美は、味噌汁を拭いた台拭きで、オレの服をごしごしと拭き始めた。

 当たり前だが、汚れは広がるばかり……。


 ま、オレはもう、この程度で動じたりはしないのだ。


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