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Akashic Vision  作者: MCFL
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第94話 歪んだ愛の行方

ジュエルでの騒動も"Innocent Vision"には関係のない話であり、今日も叶たちは様々な視線を向けられながら普通の学生として生活していた。

「休み時間に来る人も減ってきたね?」

つい先日まではドアから溢れんばかりの生徒が押し掛けてきていたが今はちらほらと見掛ける程度である。

これは海が乙女会に入らないと宣言したこと、そして海を慕う少女たちに乙女会から有り難い御言葉を伝えてもらったため少女たちが訪ねてこなくなったのが大きな要因である。

今その少女たちは自分の好きなことに一生懸命励んでいることだろう。

女子の覗く人数が大幅に減り、他の理由で見に来ていた主に男子の姿は目立ってしまう。

そうなると人目を気にする思春期男子は近づかなくなり、結果として人の波は引いていったというわけだった。

海はそれを理解していながら首をかしげる。

「何でだろうね?」

別にそんなメカニズムには興味はない。

叶との時間を邪魔されなければ視線などいくら向けられたところで関係ないしそれが男だろうと女だろうと関係ない。

ただ叶が視線に疲れを見せていたことを考えると減ってよかったと思う海であった。

「よかったけど…」

「…そうだね。」

「叶たん。」

「海様。」

周囲の目を気にしない歪んだ愛情の持ち主たちは相変わらず残っていた。

「「はぁ。」」

声をかけるのも怖いのでそのままにしているがそろそろ疲れてきた2人だった。

「意外だね。」

そんな2人の会話に入ってきた真奈美は海に向けて言う。

「ん、何が?」

「あの手の相手に対する対処。飯場は嫌なものは実力行使で排除するタイプだと思ってたからさ。」

グラマリーで消滅させるとまでは言わないが多少強行手段を使って力でねじ伏せて近づかないように脅すくらいはすると真奈美は思っていた。

「あはは、やだなぁ、真奈美ちゃん。」

海はおかしそうに笑う。

「あんなの触らなくてもちょっと他の男子に涙を見せながら助けを求めれば数日後にはいなくできるよ。」

「発言が黒いな。」

だが海の手段は最も実現可能性が高い方法である。

今からでもそれを実行すれば数日と言わず明日にはあの男子たちは姿を見せなくなるだろう。

そうなるとやはり海が排除を行わずに放置している理由は分からない。

「それでどうして?」

真奈美がもう一度尋ねると海は苦笑を浮かべて隣の叶に視線を向けた。

叶が代わりに答える。

「直接何かをされた訳じゃないから何もしないの。もしも何かされたらその時はどうするか考えるよ。」

誰も傷つけたくないという叶らしい意見だった。

少なくとも視線を不快だと感じた時点で何かされたと普通の人は考えるというのに。

「そういうことなら今はいいか。何かあったらいつでも手伝うよ。」

「うん。ありがとう、真奈美ちゃん。」

「うん!ありがとうぉ、真奈美ちゃん!」

「………」

叶の真似をしてぶりっ子っぽく返事をした海を真奈美はとても冷たい目で見た。

海の顔が見る見る赤くなっていく。

「なんか反応してよー!」

「あははっ。」

叶と海の周りは今日も騒がしかった。




「ううん、それは由々しき事態ね。」

一応叶の意見に納得していた真奈美だったがやはり問題がある気がして裕子と久美に相談した。

話の内容を聞いた裕子は腕組みして難しい顔をしたままそう呟いた。

裕子としても叶の意見と自分が同じことをされたらどう対処するかの間で揺れていた。

「にゃはぁ、男子は怖い。」

久美は塾の件で大変な目にあったせいか叶たち以上に脅えている。

「うーん、叶は優しいから傷つけたくないっていうのは分かるんだけど、何かされてからじゃ遅いんだよね。」

「そうだね。」

真奈美や裕子が心配しているのはそこだった。

歪んだ男子たちのする何かが叶を傷つける可能性がある以上やらせるわけにはいかない。

裕子はグッと拳を握り締めて立ち上がった。

「守るためには時として拳を振り上げ戦いに赴かなければならないのだ!」

「だー。」

拳を本当に振り上げる裕子に続いて久美も拳を突き上げた。

「だーっ!」

さらにもう一声。

「あたしじゃないよ?」

真奈美が首を振り全員の視線が真奈美の後ろに向く。

そこには拳を天に向けた海が立っていた。

「言ってることが違うみたいだけど?」

真奈美が尋ねると海は照れたように笑ったあとスッと目を細めた。

「あはは。…叶ちゃんの手前同調してたけど私としてはやられる前にやる方がいいと思ってる。だからこの話、一枚噛ませてもらうよ?」

言っていることは物騒だが叶のことを考えての行動なので真奈美は反論しなかった。

「飯場さんが加わってくれると心強いね。」

「それは全力で協力するよ。私のため、何より叶ちゃんのために!」

裕子と海はニッと笑い合うと腕を絡ませた。

かっこいい絵面だが女の子は普通あんまりやらない。

「ふっふっふ。」

「あっはっは。」

最強タッグは作戦遂行を考えて悪どい顔で笑っていた。




次の休み時間、裕子と海は1組に向かっていた。

「こっそり顔写真は撮ったけど、どこの誰かも分からないんじゃ攻めようがないわ。ここは参謀の知識を借りるしかないわね。」

そもそも裕子と海はそれぞれ

「ちょっと人目につかない校舎裏に呼び出してねじ伏せた後に説得する。」

「人目がないうちに倒して校舎裏に埋める。」

と直接行動案しか出さなかったため知恵を借りに行くよう真奈美に強く勧められたのだった。

というか海の案は既に犯罪だ。

真奈美が良識ある人物でとてもよかった。

「やっほー。八重花いる?」

1組に到着すると裕子は教室に元気な声を響かせた。

迷惑そうな顔もちらほら見受けられるが全般的には苦笑止まりである。

ちなみに苦笑の方に八重花もいる。

「裕子は淑女レベルが足りないわね。」

「いいよ。私はナチュラル派だから。」

こんなやり取りはいつものこと。

だがそこに日常とは違う海の姿を見た八重花は楽しげに目を細めた。




そして水面下で作戦が進行していることを誰にも悟られることなく放課後を迎えた。

「叶ちゃん、今日の予定は?」

「今日は琴お姉ちゃんに呼ばれて太宮神社に行ってくるよ。なんだか最近私を呼ぶ時の琴お姉ちゃんが妙に必死に見えるんだけどどうしたのかな?」

「なんだろうね?」

海はその理由を知っている…というか自分が原因なのを自覚しつつしらばっくれる。

正直琴の件はどうでもよいが叶が昇降口に向かうのは作戦上好都合だった。

「もう帰るんだ?それなら私も帰ろっと。」

「別にいいけど他の子達ともちゃんと仲良くしないとダメだよ?」

叶はしっかり者の気質の影響か仲良くなると少々お姉さんぶる傾向がある。

今も小さい子を叱るお母さんみたいに真剣な表情で人差し指を振っていた。

(叶ちゃん、可愛い…。)

思わず抱き着きたくなる可愛さだったが今後の作戦行動のために涙を飲んで自重する。

「昇降口まで一緒に行こうよ。」

「うん。でも本当に仲良くしないと…」

2人は並んで教室から出ていく。

普段は放課後も教室に残っていることが多いため男子たちが教室に近づいてきていたが帰ろうとしている2人を見つけて進路を昇降口に変更した。

「第一段階成功ね。」

「出来ればあたしとしてはこの段階で失敗してほしかったよ。」

何の躊躇もなく付いていった男子たちへの落胆の溜め息をつく真奈美の隣で裕子と八重花はやる気だった。

「あれがりくと生物学上同じ種類の生物だと考えると消し炭にしてしまいたくなるわ。」

「にゃはは、やえちん過激。」

「ちなみに対象が八重花で相手が半場くんだったときは?」

「…体が火照るわ。」

無茶苦茶自分勝手なことを言う八重花は廊下を曲がって見えなくなったターゲットを追い始めた。

「さすが八重花だわ。」

裕子が妙な感心の仕方をしながら続き真奈美と久美も後に続いた。



「あ、いけない。今日出た宿題のプリント忘れてきた。」

昇降口近くまで来たところで海が焦った様子で声をあげた。

「え?あの宿題明日までだよ?」

「結構問題数あったよね?家でやらないと厳しいかな?」

足を止めて悩む海は教室に戻ろうとするため叶は別れの挨拶をしようと手を上げようとした。

ガシッ

「あれ?」

その手が掴まれる。

「叶ちゃん、教室に戻ろう。」

「あれれ?」

そして叶が言う前に海は手を引いて踵を返した。

後をつけていた男子たちは慌てて隠れる。

周囲から見ればかなり怪しい光景だった。

叶と海はそれには気付かず通りすぎていった。

「強引だよ、海ちゃん。」

「1人にしないでぇ。」

じゃれ合いながら2人が階段を昇っていく。

段差を昇る度にスカートがヒラヒラと揺れた。

男の性なのか他の男子も通りすぎた叶たちを目で追っており、後をつける男子たちは微妙に鼻息が荒かった。

「ほらほら、用事があるなら早くしないと。」

「わーん、海ちゃんのせいなのに!」

3階に上がると海は手を繋いだまま駆け出した。

叶もつんのめりながら走り出すが少しだけ海の方が速くてバランスを崩しかけていた。

「海ちゃん、ちょっと待って…」

「ん、なに?」

いっぱいいっぱいの叶の願いを海は正しく聞き届けた。

慣性を無視したかのような急制動で

「待った。」

「え?」

だが車も叶も急には止まれない。

握っていた手がスポッと抜けると支えを失った前傾姿勢の叶を支えるものは何もなく

ドテッ

「むぎゅう!」

叶は前のめりに転倒した。

受け身も取れずヘッドスライディングを失敗したみたいな格好でお尻をつき出して倒れている。

「あの、叶ちゃん、大丈夫?すごい声が出てたけど。」

海も予想以上に盛大な大転倒に冷や汗を流しながら声をかけた。

打ち所が悪ければこれだけで死んでしまうこともある。

「うー、痛い。」

だが叶は丈夫な子だった。

鼻の頭を擦りながらのそりと起き上がる。

「あははー、ごめんね。教室で痛い痛いの飛んでけしてあげるから。」

「そんな子供じゃないもん。」

拗ねる叶を海が宥めつつ教室に入ってドアを閉めた。



「それで、どこをぶつけたの?」

「ええと、鼻と胸と膝。」

「ふふ。」

「(ゾクッ!)」

「まずは鼻だね。ちょっと赤くなってるような気もするけど平気だね。」

「トナカイみたいにならない?」

「あはは、大丈夫。なっても可愛いよ。」

「それ、ならないって言ってないよね!?」

「はいはい。次は胸ね。それじゃあちょっと前開けて…」

「絶対ダメ!」

「えー、女同士だしいいじゃない?」

「こんな所じゃ…恥ずかしいよ。」

「ふむ、それなら叶ちゃんちのベッドで胸は診察してあげよう。」

「しないからね!?」

「むー。それじゃあ胸は保留にして膝、と。ちょっと擦りむいてるかな?」

「ひゃ!?な、撫でないでよ。」


………


教室内で百合色のパラダイスが展開されているのを男子たちは聞き耳を立てていた。

「もう我慢ならない。少しだけなら…」

その中の1人がドアを開けようとする。

同志は止めようとしたが男は制止を振り切って取っ手に手をかけ


「そこまでよ。」


八重花たちが止めた。




八重花たちに絶対零度の視線で睨まれて男子たちは怯えながらも平静を装おうとしていた。

「僕たちはただ2人を見ていただけだよ。」

男たちが同意する。

「叶たちの後をつけ回して、ね。」

「!?…何のことかな?」

男たちは目をそらしてはぐらかす。

「昇降口で折り返した2人から隠れるときの怪しい動き。私たちだけじゃなくたくさん見られてるわよ?」

あれだけ目立つ場所での動きだっただけに下校途中の多くの生徒たちも目撃していた。

言い逃れのできない状況に追い込むと男たちは顔を歪ませた。

「ぐっ。僕たちじゃどうせ2人とは釣り合わない。だからせめて遠くから見つめて思うくらいいいじゃないか。2人はアイドルみたいなものなんだから。」

「そうね。でもあなたが言った通り2人はアイドルみたいなもの、偶像(アイドル)として思われることを仕事としている人とは違うわ。あなたたちがやっているのは普通の女の子をつけ回して辱しめるただの変態行為よ。」

「そ、それはさすがに言い過ぎだ!」

怒る男子たちだったがそれを封じるように突き出された携帯に言葉を詰まらせる。

「階段で下から覗こうとした奴が2人。」

「!!」

携帯のカメラにはその2人の画像が映っている。

「さらに転んだ叶を後ろから写真に撮っていた君の写真だ。」

「解像度を最大にして撮ったからちゃんと見れば携帯がカメラモードだったかわかるはずよ。」

決定的な証拠を突き付けられて男子たちが魂の抜けたようになる。

「女は怖いものよ。今後も続けるようなら学校にいられなくなるかもしれないから気をつけなさい。」

崩れ落ちる男たちを冷たく見離して八重花たちは去っていった。

「それじゃあ海ちゃん、急ぐから。」

「ばいばーい。」

治療が終わった叶は琴との約束があるため廊下を駆けていく。

「叶たん…ガクッ。」

男子は手を伸ばすが叶には気づいてすらもらえず、手を落として真っ白に燃え尽きた。

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