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Akashic Vision  作者: MCFL
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第54話 驚愕の進展

"Innocent Vision"とヴァルキリーの面々はその後も交戦を警戒していたがジュエルが動くこともなく…


修学旅行は表面上問題も無く無事に終わりを迎えた。

裏であった数々の戦いの痕跡などまるで残さずに。



修学旅行の翌日は振り替え休日になっており、"Innocent Vision"は太宮神社に集合していた。

琴が全員にお茶を振る舞い、席についたところで八重花が口を開く。

「ここ数日間でいろいろとあったわ。今日はその報告と今後の活動についての話し合いよ。」

八重花や由良、明夜、そして琴は確かにいろいろがあったので黙ったままだったが叶は首をかしげた。

「いろいろって、裕子ちゃんが食べすぎて倒れて芳賀君にお姫さま抱っこされてたこととかかな?」

「…その話は後で詳しく聞くとして、今回は"Innocent Vision"に関してのことよ。」

叶は明夜のソルシエールの事を思い出して得心しポンと手を打った。

「わたくしもお話しすることはありますがどちらからにしましょうか?」

「私から話すわ。1つは私と由良、明夜のソルシエールが復活したことね。」

"Innocent Vision"のメンバーは当事者だったり見ていたためもう驚かないが琴は目を丸くして驚いていた。

「ソルシエールの復活ですか。それはまた大事ですね。見せていただけますか?」

「そうね。百聞は一見にしかず、見てもらった方が早いわ。」

八重花に合わせて由良と明夜も立ち上がった。

「起きなさい、ジオード。」

「来い、玻璃。」

「オニキス、起動。」

3人が左手を突き出して名を呼ぶと左目が朱色に輝いてソルシエールが顕現した。

刀にも似た赤と青の炎を押し込めて叩き上げたような紫の片刃の剣・ジオード。

槍とも杭とも剣とも言える穢れのない透明な剣・玻璃。

手の甲から指先の方へと向けて伸びる何処までも深い漆黒二対の刃・オニキス。

それは見迷う事なき美しき魔剣の姿だった。

久しぶりのソルシエールの威容に叶と真奈美は魅入られる。

ただ琴だけが表情を変えないままじっとソルシエールを見つめていた。

「以前に感じた力と比べ、随分と落ち着いた印象を受けます。」

琴は3人のソルシエールを見てそんな感想を漏らした。

「やっぱりそうか。」

叶には何を指しているのかよく分からなかったが八重花や由良はむしろ納得したように頷いていた。

「八重花ちゃん、どういうことなの?」

「明夜はわからないようなのだけれど私と由良のソルシエールは前よりも性能が悪くなっていたのよ。今のところドルーズが使えないわ。」

「俺の方は全体的に威力が落ちてる感じだったな。」

長きに渡り相棒として振るってきたソルシエールの調子なのだから2人が間違うはずもない。

叶たちは疑う様子もなく納得していた。

「いったい何が原因だろうね?」

「その代わりと言っちゃなんだが衝動の感覚自体はかなり薄まった感じだったな。」

ソルシエールの原動力は究極的には相手を殺したいという衝動に集約される。

魔女ファブレはそれを利用して八重花の精神を一時的に操作したり由良を暴走させたりした。

「つまり、衝動が弱まった分威力も落ちてしまったものの御しやすくなったということですか?」

「今のところはそれが妥当な見解ね。ただ復活して間もないからもう少し様子を見ないと分からないわ。」

何はともあれソルシエールは復活し、"Innocent Vision"の戦力は大幅に増大した。

オーやヴァルキリーに数では劣るものの個々の戦闘力では上に当たり、勢力図が大きく揺らぐことが予想された。

八重花たちはソルシエールを消して席につく。

「とにかく今のが1つ目。それで2つ目なのだけど、オーを操っていると考えられる人物がほぼ特定できたわ。」

「………。」

ソルシエールの事以上に驚くことはないだろうと高をくくっていた琴及び"Innocent Vision"の面々はゆっくりとその言葉の意味を理解していき


「「ええっ!?」」


盛大に驚いた。




八重花は慌てず注目を集めるように立てた人差し指を振る。

「今回私と由良は京都でオーとヴァルキリーの襲撃を同時に受けたわ。」

「ああ。ジュエルが襲ってきたときに偶然オーが結界を張りやがったな。」

「そうね。でもあれが偶然じゃなかったらどうかしら?」

八重花の示す答えに一同息を飲む。

真奈美が恐る恐る尋ねた。

「それはつまり、八重花たちのクラスにオーを操る人物がいるってこと?」

「あるいは2組にね。私たちのクラスの行動を知っていてあの時京都にいたのは1組と2組だけ。さらにジュエルの行動に合わせて結界を張ったとなれば近くで見ていなければならないはずよ。その点から1組、2組の生徒が怪しいわ。その中で真奈美が見た背格好の女子生徒は2人だけ。このどちらかがオーの主格よ。」

これまで正体不明だったオーの軍勢のボスの正体にいよいよ近づいてきた。

その人物を倒しさえすればオーを抑えられ、ヴァルキリーへの対応に専念できるようになるため俄然やる気が出るというものだ。

「少しずつだけど着実に進んでるね。」

「ああ、とりあえずオーのボス退治だ。」

すっかり盛り上がるメンバーの中からスッと手が上がる。

「琴お姉ちゃん?」

「そろそろわたくしの報告をさせてもらって構いませんか?」

八重花の衝撃の告白ですっかり琴の話を忘れていた面々は恐縮した様子で座り直した。

琴が礼をして居住まいを正す。

「皆さんが修学旅行に行かれている間、わたくしの下にヴァルキリーが襲撃してきました。」

「…。」

「…。」

八重花がほら見なさいというようなちょっと冷たい視線を由良に向け、由良はばつが悪そうに視線を外した。

「大丈夫でしたか、琴お姉ちゃん!?」

そんなやり取りが行われているとは知らず叶は琴を心配する。

「大丈夫ですよ、叶さん。擦り傷切り傷は多少受けましたが致命傷はありませんでした。」

「よかった。」

叶はほっと胸を撫で下ろすが他のメンバーは今の言動に眉を潜めた。

「残っていたヴァルキリーは4人。社会人で動きが制限される花鳳を外せば3人か。そいつらに襲われて擦り傷切り傷ってのはおかしいな。太宮院、どんな手品を使ったんだ?」

この場合の手品は言葉通りではない。

事実、八重花や由良、真奈美の琴を見る目は若干険しく、不審の色が見えた。

それでも琴は怯えも戸惑いも見せはしない。

「わたくしはただの可憐な巫女ですよ。」

「少なくとも自分を可憐と言う人間は信用ならないわ。」

冗談を八重花が笑いもせずに一蹴するので琴は悲しげだった。

「…皆さんと肩を並べて戦えるような能力は無いことは誓います。」

それは暗にそれ以外の能力があることを示しているがこれ以上は質問の意図から外れるし琴が答える気がなさそうだったので由良はそれ以上追求しなかった。

代わりに真奈美が手を挙げる。

「太宮院先輩が普通の人と同じだとしたらいったいどうやってヴァルキリーを追い払ったんです?」

今度は叶の視線も含めて全員の真剣な目が琴に向いた。

脱線ばかりの会話に少しばかりの疲れを感じてため息をついた琴は背筋を伸ばして告げた。

「わたくしは窮地に追い込まれ、死を覚悟しました。それを、デーモンによって救われました。」

「…………。」

ソルシエールの復活よりも、オーの主よりもすごい情報なんてあるわけないと考えていた一同は言葉の意味を理解できなかった。

「あ、あの、こ、琴お姉ちゃん?デーモンって悪魔のことですか?」

「神社の巫女が悪魔契約…世も末ね。」

「そういうことか、焦ったぜ。」

「…。」

「動揺されるのはわかりますが事実です。わたくしは陸さんが命名したデーモン、ジェムによって命を救われたのです。」

「…………。」

再び沈黙、そして


「なんだってーーー!?」


本日2度目の絶叫が社務所を揺るがした。




同じ頃、ヴァルキリーもまたヴァルハラに集合してテーブルを囲んでいた。

だがどちらかと言えば和やかだった"Innocent Vision"とは違い、こちらはピリピリとはりつめた空気に満ちていた。

「それでは再確認させていただきます。大阪ジュエルによる"Innocent Vision"非武装員への襲撃は罠を張られ失敗。後日ジュエルインストラクター神戸の独断による再度の襲撃に美保様と悠莉様が加わるも"Innocent Vision"がソルシエールを復活させたためまたも失敗したということですね?」

事情を聞き、それをまとめただけなのだが葵衣が責めているように聞こえて美保は目尻をピクリとひくつかせる。

バンとテーブルを叩いて立ち上がった。

「そうよ、何か悪いって言うんですか!?」

「美保さん、落ち着いてください。」

同じく失敗した側の悠莉に宥められて釈然としない美保はふんとそっぽを向いてしまった。

「責めているように聞こえたのでしたら申し訳ございません。今回の件は不確定要素が多いため確認させていただいただけです。」

「不確定要素?」

「確かにあたしらの方でもデーモンが出てくるなんておかしなことになってるけどソルシエールが問題なんじゃないの?」

緑里と良子の疑問に答えたのは悠莉だった。

「なぜ"Innocent Vision"のソルシエールが復活したのかは問題ですが、それ以外にもおかしな点があります。さきほど葵衣様も言っておられましたが2日目の襲撃は私たちではなく神戸さんの独断、言い換えれば命令違反です。それにそのジュエルの襲撃に合わせてオーが結界を張ったというのも不可解な点です。」

美保が何か思い出したように頷く。

「そう言えば大阪のジュエルに神戸の事を聞いてみたら初めは敵討ちを止めようとしてたけど途中から人が変わったようにやる気になったって言ってたわ。」

「それはまた、変な話だね。まるで江戸川蘭のゲシュタルトみたいだ。」

その名を聞いて葵衣と緑里が目を落とす。

戦闘の結果とはいえ蘭によって精神を犯され殺人を犯したことを忘れることなど出来はしない。

「神戸さんがオーに操られた可能性もある。オーがそのような知性を有する可能性があるということですか?」

"Innocent Vision"とは違う視点でヴァルキリーもまた今回の事件に疑問を抱き始めていた。

「インストラクター神戸は命令違反で現在勾留中です。」

葵衣が穏やかでないことを淡々と語る。

巨大組織へと成長しつつあるジュエルを統括するためには不穏分子は排除しなければならない。

だが神戸は捕縛後から一度も目を覚まさず現在は快復を待っている状況だった。

「私のソルシエールがあればコランダムでの尋問が出来たのですが、残念です。」

それは真相を聞き出せなくて残念なのか、尋問が出来なくて残念なのか微妙な言い回しだった。

悠莉が"Innocent Vision"のソルシエール復活を思い出させる言動をして美保の機嫌を悪くさせる。

「何にしても"Innocent Vision"がこれまでみたいにいつでも倒せるから放っておいていい相手じゃなくなったね。」

良子は話題を変えようとした訳ではないが結果的に美保の機嫌をわずかに和らげた。

「つまりヴァルキリーが攻撃を仕掛けていいってことね。悠莉も今さら止めたりしないわよね?」

「仕方ないですね。」

口ほど抵抗が見られないのは由良との戦闘でソルシエールとジュエルの性能の違いを実感したからだ。

「オーもヴァルキリーにちょっかい出すようになってきたし、ボクたちも本気で動く時かな?」

緑里の言葉に少し前までのヴァルキリー優位の思いはない。

オーと"Innocent Vision"、どちらも対等の敵として扱っていた。

そこにヴァルハラの扉が開く音がした。

ヴァルハラは基本的にヴァルキリー以外不可侵の領域なため、自然と全員の目がそちらに向く。

そこにはスーツ姿に身を包んだ花鳳撫子が微笑みを浮かべて立っていた。

「撫子様!」

「お嬢様、業務はどうされたのですか?」

「休憩よ。それよりも話は聞かせていただきました。」

撫子はテーブルの前に歩み出ると全員を見回した。

それだけで言葉は消え、耳を傾ける姿勢に変わる。

やはり誰とは言わないが仮初めの会長とは違うカリスマ、威厳に満ちていた。

「オー、そして"Innocent Vision"はヴァルキリーの恒久平和に対する最大の障害です。私たちは一致団結して事に当たらなければなりません。どんなに強大な敵であろうとわたくしたち6人と数多のジュエルの力を集結させて成し得ない事はありません。」

ヴァルキリーの戦乙女たちは示し合わせたわけでもなくスッと立ち上がった。

「"Innocent Vision"のソルシエールの復活、いまだに正体や目的が掴めない異形の闇オー、そして魔女ファブレの撃退により消滅したと思われていたデーモンの出現と情勢が入り乱れて予断を許さない状況にあります。ですが彼らの暴挙を止め、人々を導くのはわたくしたちヴァルキリーです。」

ヴァルハラが朱色の光に染まる。

ラトナラジュ・アルミナ。

スマラグド・ベリロス。

サフェイロス・アルミナ。

ベリル・ベリロス。

エルバイト・エア。

アヴェンチュリン・クォーザイト。

人の造りし魔剣を天へと掲げ、かち合わせる。


「"Innocent Vision"、オー。殺し甲斐があるわ。」

美保が嗤い、


「いいね、この高揚感。試合の前みたいだ。」

良子が燃え、


「ふふ、楽しみですね。」

悠里が微笑み、


「ソルシエールよりジュエルの方が優れてるって証明してあげるよ。」

緑里が意気込み、


「お嬢様、お願いいたします。」

葵衣が促し、


「それではこれより、サマーパーティの準備を始めましょう。」

撫子が新たなる戦いを宣言した。

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