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Akashic Vision  作者: MCFL
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第39話 オーオーオー

琴がコスプレ(させる方)に目覚めかけ、叶が心にダメージを負った日から数日、"Innocent Vision"とヴァルキリーでそれぞれに動きがあった。

"Innocent Vision"は「オーオーオー」、ヴァルキリーはジュエル指導旅行である。



叶は1人で買い物に出ていた。

作戦の決行を前に鋭気を養う意味で建川に出向いたが気に入った洋服が見つかったので上機嫌だった。

「今日は良いことありそう。」

その良いことがオーの捕獲なのか襲ってこないなのか。

「それにしても八重花ちゃん、私は参加しなくていいなんて。これでも私、"Innocent Vision"のリーダーなのに。」

戦力にあまりなっていないのは自覚しているがそれでも"Innocent Vision"としての活動で蚊帳の外にされると落ち込んでしまう。

特訓はいまだに続けているものの成果が出ているのかどうかは戦っていないので分からない。

「やっぱり私、お荷物なのかな?」

叶は気持ちが沈みかけたが首をブンブンと振って気合いを入れる。

手に持ったお気に入りを見ていると元気になれた。

「うん、駄目ならこれからみんなの役に立てばいいんだよね。」

気持ちを入れ換えた叶は軽い足取りで家路に着いた。


…はずだった。


気が付けば叶が立っているのは建川であって建川ではない場所だった。

夕日に染まった風景は間違いなく建川なのだがそこにあるべき人の姿が叶を除けばどこにもない。

「結界!?それじゃあこれは…」


「オーーッ!!」


叶の疑問に答えるようにオーの雄叫びが空間に木霊した。

「"太宮様"の占いは時間までは指定されなかったけど、夜だと思ったのに。」

しかしよくよく考えれば明夜が自発的に遭遇した深夜以外はすべて夕方の時間帯だった。

逢魔が時に魔が寄ってくるのは今も昔も変わらない。

「私1人でもやらないと。オリビン、お願い。」

叶が買い物した袋を道の端に置き、祈るように両手を組むと右目が青く輝き手のひらの間には灯火の光が現れた。

握り込めばそれは短剣の形を成す。

「…すぅ…」

叶はオリビンを右手で構えると軽く腰を落として息を整える。

今までならさっき聞こえた声を頼りに視線をさ迷わせてオーを探していただろうが琴の特訓を受けた叶はひと味違う。

戦闘に際した叶への命令コードはズバリ「専守防衛」。

叶自身は動かず常に周囲を警戒するだけに止め、攻撃された場合にのみ応対し逃げる相手は追わない完全な守りの型だった。

人のいない世界は耳が痛くなるほどに静かだ。

自分の呼吸すら聞こえる。

ザッ

なればこそ微かな異音にも神経を研ぎ澄ませていれば聞き取れた。

「!」

音源は右後ろ、叶は左足を軸に円を描くように右足を後ろに引く。

それにより体勢を崩すことなく向きを変えた。

オーが屋根の上なら飛び込んでくる。

右足をさらに後ろに引いて半身になる。

右腕を突き出して飛び込んでくるオーに叶はオリビンの刀身を当て、受け流した。

オリビンの反発によりオーは速度を殺すこともできず叶から離れて店の壁に激突した。

それを見届けた叶は

「で、でき、ました。」

自分でやったことに自分で驚いていた。

受け身の次に教わったのがとにかく逃げずに相手の動きを見ること、そしてオリビンで受け流すことだった。

限界まで集中力を高めてどうにか一撃凌いだが少し気が緩むと足が震え出した。

「あはは、やっぱり全然駄目だよ。」

それでも逃げ出すわけにはいかない。

結構な勢いで追突したように見えたオーだったが特に損傷した様子もなく立ち上がった。

ただオリビンに触れた右手の指からは黒い煙が上がっている。

「諦めては、くれませんよね。」

叶はため息のように大きく息を吐いて再びオリビンを構えた。

琴の教えは十分に戦力になるとわかった以上あとは使いこなすだけ。

「それなら私が上手くできるようになるまで付き合ってもらいます。」

「オーッ!」

その言葉に怒ったようにオーが叶に襲いかかった。



キン、キン

「はっ、とおっ。」

「オーッ!」

叶はオー相手に善戦していた。

オリビンの高い防御能力に助けられている感はあったがそれでも逃げずに受け流していく。

オーの爪は攻撃する度に傷を負っていき、すでに指先は消滅している。

それなのにオーは痛みを感じないのか絶えず叶に襲いかかってくる。

(何なの?怖い。)

叶はオーの在り方を恐れた。

生物にとって痛みは危険を知らせる大切なシグナルだ。

それが働かないオーは生物として生み出されなかったということになる。

ただの駒として命尽きるまで活動を続ける、それは歪な命の使い方だ。

(命をこんな風に扱う人に、負けられない。)

叶の瞳にオーの主に対する反抗心の炎が点る。

オーの爪を弾き、がら空きになった胴に向けてオリビンを振るう。

リーチの長さが足りず回避されたが追撃はなく、オーは大きく後ろに跳んで警戒を強めた。

(やっぱり攻撃に出ても避けられちゃう。)

それに攻撃に移った瞬間、一瞬無防備になったのを叶は自覚していた。

(心を落ち着けて…守ることに専念する。)

再び初心を取り戻して構えを取る。

徐々にだがオーの戦力は削れている。

対して叶は集中による気疲れはあるものの体力的にはまだ余裕であり傷も受けていない。

このまま戦い続けていれば先にオーが消滅するのは目に見えていた。


「オーーッ!」


オーにもそれが分かっているのだろう。

雄叫びを上げると全身を弾丸とするように一直線に叶に向けて突っ込んできた。

「っ!」

叶は怯えて固まりそうになる体を意思の力で動かして右手のオリビンを強く握った。

突撃してくるオーに逆らわず半身になった体をそのラインからわずかにずらし、急速に近付いてくるオーの眉間にオリビンを突き立てた。

勢いで右腕が後ろに持っていかれそうになったが

「オーーッ!」

そうなる前に突き刺した場所からオーが消滅を始めていき、通りすぎる前に消え去った。

「…。はぁ、はぁ。」

オーが消えてからしばし警戒を続け、完全にいなくなったのを確認してから叶は大きく息を吐いた。

「…勝てたんだ、私。」

ペタンと地面に座り込んでしまいそうな脱力感とわずかな達成感に震える叶は歓喜の声を上げようとして


「「オーーッ!!」」


複数聞こえた叫びに笑みを凍り付かせた。

今度こそペタリと地面に座り込んでしまう。

1体を時間をかけて倒すのがやっとだった叶に複数の相手を同時に処理できるわけがない。

今の叶には目の前の敵に集中するために周囲への警戒が疎かになる欠点があった。

「でも、やらないと。」

今の状況は戦わなければ生き残れない。

ならば泣き言を言う前にできることをやるべきだ。

叶は足に力を入れて立ち上がりオリビンを構えた。

暖かな光に勇気を貰い相手を探す。

優位な状況だと認識しているのかオーは隠れることもなく正面と左右からゆっくりと出てきた。

3対6つの紅色の瞳が叶を見ている。

「…。」

3体に気を配るがどれか1つが動くと意識がそちらに集中してしまう。

オーに口は無いがニヤニヤと弱者を追い詰めるような目をしてジリジリと距離を詰めてくる。

「っ!」

とうとう叶は逃げ出した。

「オーッ!」

オーもその後を追いかける。

特訓で体力がついたとはいえ人外相手に戦えるような肉体強化はされていないのでぐんぐん距離が縮んでいく。

叶は後ろに目をやると急カーブして近くの狭い路地に飛び込んだ。

人が1人通れるくらいの路地にオーも駆け込んだ直後

「えい!」

先頭のオーの胸にオリビンが突き刺さった。

「オー!」

叶は必死に考えて狭い路地で戦うことを思い付いたのだ。

そうすれば敵は正面からしか襲ってこれず前だけに集中できる。

前を走っていた仲間が消えたことで後続のオーはゆっくりと路地に入ってきた。

これでまた1対1。

しかも前方からの敵に対応すればいいという叶に有利な状況だった。

「オー!」

オーが爪を振ってくるのをオリビンで受け流す。

突進とは違い体勢はあまり崩れないがタイミングはずらせるので連続攻撃を受けにくくなる。

攻めの戦い方ではないが確実に叶が押していた。

(大丈夫、私、戦える。)

攻撃する度に手を削っていくオーを見て叶はやれると確信した。

その叶の上に影が落ちる。

受け流したわずかな隙で上に目を向けると飛び上がったもう1体のオーが落下してこようとしていた。


叶の策は正しかった、普通の人間が相手ならば。

だが誤った、相手が人間の常識に囚われない"化け物"であることを。



「くぅ!」

そこから先は防戦一方だった。

1体が地上、もう1体が上空から攻め立てる連続攻撃は叶の能力を上回り後退を余儀なくさせる。

だがここは結界。

無限に続く道に果てはなく叶の救いはどこにもない。

「はあ、はあ。」

オリビンの重ささえ辛くなってダラリと下がりそうになる腕を持ち上げる。

オーは止めを刺すべく飛び上がり、駆け出した。

叶の目に涙が滲む。

今まで押さえていた言葉がとうとう涙と共に溢れ出そうとしていた。

助けて、と―


地と空からオーが爪を振り上げて迫る。

言葉は声にならず叶はギュッとオリビンを握って身を縮こまらせた。


狂気の爪が迫り


「叶、癒しの光!」


「ッ!」

突然、声が聞こえた。

言われるままに傷と体力を癒す光を放つ。

攻撃でないもののオーにとっては不快な力。

戸惑った様子で攻撃の手が止まる。

そこに


「よくやった、カナ!」

「由良お姉ちゃん!?」


路地の上から由良が降ってきた。

手には鉄パイプ。

それを空中で体勢を崩したオーに向け、全力で振り下ろした。

ガイィン

とんでもない音を響かせてオーは地面に落ち

「オッ!」

由良はその上に着地した。

「由良、お姉ちゃん。」

とうとう叶の目から涙が溢れ出した。

助けに来てくれた。

それだけで満たされる思いだった。

「おっと、俺だけじゃないぞ。」

そう、さっきの声は由良ではなかった。

路地の入り口からは八重花が腕を組みながら笑みを浮かべて入ってくる。

「明夜、真奈美、やっておしまい。」

「アイアイサー。」

「待ってて叶。すぐに済むから。」

八重花の左右をすり抜けるように飛び出した明夜と真奈美。

真奈美はすでにスピネルを付けており、明夜は両手に木刀を握っていた。

「オーッ!」

由良に押し潰されたオーが吠えて飛び上がり、もう1体が真奈美たちに向かって襲いかかる。

明夜はそれを見るとあろうことか壁を足で蹴って上へと飛び上がっていく。

「こっちの相手はあたしだよ。」

波状攻撃を警戒して顔をあげたオーが声に気付いたときにはすでに真奈美が眼下にまで飛び込んできていた。

そのまま大地を切り裂くようにして光の刃が走る。

「アルファスピナ!」

「オーッ!!」

真下からの斬撃にオーは分断されて消滅した。

さらにもう1体も

「逃がさない。」

三角跳びで上昇した明夜が驚くオーを木刀で叩き落とし、

「待ってたぜ!」

由良が落ちてきたオーに向かって鉄パイプをフルスイングして壁に叩きつけた。

ピクピクと痙攣する姿はいっそ可哀想に思えるくらいに哀れだった。

「ええと、ごめんなさい。」

叶がオリビンを突き刺すとむしろ救われたような顔をして消滅していった。

すべてのオーが消えたらしく結界が消滅する。

路地には叶を優しく見守る"Innocent Vision"の仲間たちが集まっていた。

叶は涙を浮かべながら精一杯微笑む。

「みんな、ありがとう。」



「実は礼には及ばないわ。」

「え?」

キョトンとする叶の前で八重花はあらかじめ作っていたらしい紙を取り出した。

『プロジェクト・オーオーオー ~叶を囮にして~』

いつの間にか作戦名に不穏当な文字が増えていた。

「叶が頑張ってくれたおかげで叶のデータも含めてオーの情報が掴めたわ。生け捕りは無理だったけど上出来よ。」

「まさかあいつら、捕まえたら自害するとは思わなかったな。」

「びっくり。」

どうやら裏でも戦闘があったらしいが叶はそれよりもまず重大なことを聞かなければならない。

「もしかして…初めから見てたの?」

「そうよ?」

八重花は何を今さらと言わんばかりにあっさりと答えた。

ガックリと崩れ落ちる叶を真奈美が支える。

「でなければあんなヒーローみたいなタイミングで助けになんて入れないわよ。それができるのは本物だけね。」

あり得ないと失笑する八重花は別種の不敵な笑みを浮かべて砕け散った結界の夕日から紺色に切り替わった空を見上げた。


「"Innocent Vision"の理想を叶えるためにそろそろ反撃に移らせてもらうわよ。」

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