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Akashic Vision  作者: MCFL
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第251話 Akashic Vision、奮戦

土煙の中から現れたオリビアは消沈するソーサリスたちを嘲笑うように高みから見下ろしている。

「妾に攻撃を加えたことは褒めてくれよう。じゃが、神に唾吐く者には罰が下ると知れ!」

土煙を吹き飛ばしたいくつもの糸が無造作に振るわれた。

「うわー!」

「きゃあ!」

呆然と立ち尽くしていた魔剣使いたちは糸に叩かれ、あるいは巻き上げられた瓦礫に巻き込まれて地に倒れた。

明夜と海は気力を失っておらず糸も避けたが、ヴァルキリーや"Innocent Vision"は今までのように後には続かない。

「さっきの攻撃で通用しないとなると、もう一度あれ以上の攻撃なんて無理よ。」

普段は強気な八重花が地面に倒れたまま立ち上がれず弱音を吐いた。

それほどまでに八重花は限界の状態だった。

「強大な魔女の力とセイントの力を内包したオミニポテンス、その力がこれほどとは。」

撫子はアヴェンチュリンを支えにしてどうにか倒れずにいるものの瞳は揺れており立ち向かうだけの力も残ってはいない。

「悠莉、こんなときだけどあたしは…」

「それは死亡フラグか百合フラグっぽいので止めてください。」

良子は悠莉に拒否されて肉体だけじゃなく精神的にも傷付いた。

ただ悠莉じゃなくても最期のお願いなど縁起ではないし、ノーマルならば告白されても困るのだから止めるのは間違ってはいない。

緑里はしゃがんだまま状況の推移に気を配っており、いざとなれば撫子だけでも逃がそうと考えていた。

それほどまでにソーサリスたちの置かれた状況は絶望的だった。

立ち上がれない撫子たちを横目で見た海は肩を竦めると興味を失ったように背を向けた。

「だから最初から私たち"Akashic Vision"がやるって言ってたのに。そうすればそんな傷付くことも絶望することもなかったよ?」

「それは、無理だね。"Akashic Vision"を犠牲にする選択をするくらいなら、あたしはこの力をもっと前に捨ててたよ。」

真奈美が立ち上がりながら海の背中を睨み付けた。

"Akashic Vision"に全てを任せるということは陸の描いた"非日常"の力の消失と"Akashic Vision"の消滅を認めることになってしまう。

仮にそれで世界を救うことが出来たとしても"Akashic Vision"を見捨てたことへの後悔は一生残る。

そんな未来を迎えるつもりはなかった。

そんな真奈美を明夜が見つめる。

「真奈美はすごい。でも、皆が真奈美じゃない。」

振り向くと撫子や緑里が視線を逸らした。

八重花ですら目がわずかに泳いでいる。

自分たちの力では敵わない以上、誰かに任せようとするのはおかしなことではない。

何の保証もない困難に挑んでいけるのは勇気か無謀のどちらかだ。

「約束を果たしてもらうためにさらに大きな壁を超える必要があるならあたしはまだやるよ。」

良子はもうヘトヘトの体に鞭打って立ち上がろうとする。

間違いなくこれは無謀の方だ。

悠莉は声をかけづらそうにしている。

「肉の壁になるのがお好みなら止めないけど。」

「そういう2人はどうなの?」

合流してからは常に最前線でオリビアと戦っていた明夜と海が消耗していないはずがない。

「魔女パワーで元気。」

明夜はよくわからないパワーで二の腕の筋肉を盛り上げて見せた。

海も見た目には疲れは見えず、わずかに考える仕草をすると怪しい笑みを浮かべた。

「もちろん消耗はしてるけど。まあ、いざとなったら死ぬ気でやれば相討ちには出来るから。」

自らの命を投げ出す覚悟を持つ海の言葉に真奈美は反論できなかった。


「そういう計画を変更したから今みんながここに居るんだよ。」


「あ、お兄ちゃん!」

「りく、無事だったわね。さすがは叶ね!」

「あ、いや…」

"Akashic Vision"の2人が決死の覚悟で突入しようとし、それを誰も止められなくなったタイミングで放送局から陸が姿を現した。

不可能な状況を覆してきた陸の出現に絶望しかけていたソーサリスたちの顔にわずかに希望の火が灯った。

陸の治癒で疲れたのか後ろにいる叶は少し青い顔をして俯いている。

「しぶといのう、Innocent Vision。じゃがそちらの戦力では妾に傷を負わせる事は出来なんだ。如何に未来を操る魔眼であろうと妾を滅することは出来まい?」

「確かに。僕のAkashic Visionをもってしても人を消滅させることは出来ないね。ましてや強い力と意志を持つ魔女なんて。」

陸は倒れた仲間たちの間をゆっくりと歩いてオリビアに近づいていく。

明夜と海を追い越したところで立ち止まり、まるで勝利宣言をするようにピースサインを出した。

「でも僕にはとっておきの魔法がもう一つあるんだよ。一つは今世界を救おうとしているジュエルたちを覚醒させる魔法。そしてもう一つがオリビア、貴女を滅ぼす魔法だ。」

7人の魔剣使いたちでも太刀打ち出来なかったオリビアを滅ぼす魔法があると陸は言い放った。

オリビアだけでなく誰が考えてもそれは陸のついた嘘だと思う。

だがその妄言を発した張本人はしっかりと地面を踏みしめて不敵な笑みを浮かべたままオリビアを見上げていた。

見上げられているはずなのにオリビアはまるで巨大な目に見下ろされているような錯覚を覚えて頭を振った。

「そこまで出鱈目な虚言を吐くとはむしろ天晴れじゃ。簡単には殺さぬぞ、Innocent Vision?」

「奇遇ですね。僕も簡単に殺されるつもりはありませんから。」

聞いている撫子たちがハラハラするほど陸の言動はことごとくオリビアの神経を逆撫でしている。

陸とて巨大な空中城オリンピアを生み出し、狂気の黒騎士ヘリオトロープやカーバンクルを造り出し、そして魔女を超えた力を持つオリビアの底知れない強さを知っているはず。

にも拘わらず何故陸はこうも強気でいられるのか?

本当にオリビアを滅ぼすまさに魔法の力が存在するのではないかと思わせた。

「今のままだと僕が荒唐無稽な戯言を言ってるように聞こえるだろうね。だから少し、僕の力を示すよ。」

陸が左目に手を当てて半身に構えた。

「1人で妾を相手にするつもりかえ?」

「無茶です、半場さん!わたくしたちが束になってかかってもオリビアに傷を作ることも出来なかったのですよ?」

撫子が声を張り上げて止めようとする。

陸の能力を疑うわけではないが相手はオリビア、せっかく見えた希望が無惨に散らされてしまうかもしれないのを黙って見てはいられない。

「僕の力じゃどうやってもオリビアを攻撃することは出来ない。だから1分間あらゆる攻撃を無効化して見せようか。」

「半場さん!」

まるで撫子の声が聞こえていないように陸は話を進めていく。

「ほう?妾の前に1分も無防備に身を晒すとな?」

「ちゃんと死ぬ気で避けるから無防備じゃないよ。」

もはや決定したとばかりに陸は1人でオリビアの方に歩き出した。

力ずくで止めるために立ち上がろうとした撫子を八重花が止めた。

「このままでは半場さんが…」

「止めても無駄よ。それに、何か考えがあるんじゃないかしら?さすがにこんな無駄な力の誇示をする必要は無いもの。叶、何か聞いてない?」

オリビアに悟られないように小声で話しながら叶に話を振るとまだ俯きがちな叶は小さく頷いた。

「とりあえずりくの策にかけてみるしかないわ。」

言葉とは裏腹に八重花は不安げな目で陸の背中を見つめていた。




「それでは見せてみよ、未来視の力をのう。」

オリビアが両手を広げるといくつもの糸が浮かび上がった。

それがまるで波のように揺らぎながら陸に迫る。

「今度こそその心の臓を貫き、じわじわと血を抜いていってやろうかのう?」

陸は触れれば絡む糸の波に対して進む。

波の振幅と歩行速度が合致して陸は波の最高部の下を歩き、糸が先に尽きた。

陸は何事もなかったかのように前に進み出した。

「次はこれじゃ。」

幾本もの糸が鞭のようにしなりながら振り下ろされる。

叩きつけられた地面は微塵に分断されて粉塵を巻き上げる。

「のらりくらりと歩いておればバラバラになるぞ?」

荒々しく振るわれる極細の鞭に対しても陸の動きは変わらない。

まるで小石を避けて歩くように少しずつ体をずらすと次の瞬間に元いた場所が切り裂かれていく。

「くっ、ならば隙間など無き雨に刺し貫かれよ!」

陸の上空に糸が末端を下に向けて並ぶ。

それが釣天井か豪雨のように一斉に地面へと落ちた。

「もうちょっと右かな?」

陸が足を止めて半歩右に移動した直後に糸は地面に到達しカーテンのように陸の姿を覆い隠した。

「さすがにこれは逃げようがあるまい。」

オリビアはそう確信しながらも腑に落ちない顔をしている。

本当に陸が貫かれていれば地面に血が広がるはずだが待ってもその兆候はない。

「まさか…」

オリビアが糸を引き上げるとカーテンの向こうからは無傷の陸がマネキンのような格好で立っていた。

「あり得ぬ!何をした、Innocent Vision!?」

「僕は何もしていませんよ。強いて言うなら同じ糸で色々な動きをさせ過ぎましたね。一ヶ所だけ糸が絡まってますよ。」

「!?」

陸の立っていた場所だけ針の穴が空いておらず、確認すると確かに糸が絡まっていた。

だがそれを視認して見極めることなど出来るわけがない。

ましてや糸に干渉してその部分だけを都合よく絡ませるなどあり得ない。

つまり陸は最初の攻撃の時からここで糸が絡まることを知っていたことになる。

そして今この瞬間から先のオリビアが考えうる攻撃手段さえもすべてを知っているかもしれなかった。

オリビアの攻撃の手が止まる。

何をやっても当たる気がしなかった。

そのオリビアの心情さえも知っているかのように陸は口の端をつり上げた。

「どうしました?早くしないと1分経ちますよ?」




陸の奮闘振りを"Innocent Vision"とヴァルキリーの面々は見守っていた。

察知されないように弱めの癒しの光を使って全員集まって纏めて回復している。

速効性の回復力はないが体の中からジワジワ暖まる感じは入浴剤やマッサージチェアの効能のようだ。

事実、良子は極楽気分で

「あー、効くわー。」

とか若干年寄り臭い呟きを漏らしていた。

「相変わらずりくの戦いは凄いわね。聖だろうが魔だろうが当たらなければ意味がないもの。」

「あれで何度精神的に追い詰められたことでしょうか。」

ヴァルキリーとしてはそれをやられた機会の方が多いのでオリビアに同情すらしそうだが、今は味方で実に心強い。

始まる前の不安はほとんどなく安心して見ていられるほどだった。

しかし悠莉と緑里は釈然としない、難しい顔をしていた。

「おかしいね。」

「緑里先輩もそう思いますか?」

「…確かに言われてみると変ね。」

悠莉たちの反応に改めて見た八重花もその違和感に気付いた。

「半場さんはAkashic Visionであのブリリアントの軌道すらねじ曲げていました。ですが今の半場さんは未来視による回避しかしていません。」

ファブレとの戦いで陸は消滅の光ブリリアントを運命改変の力で当たらないようにする荒業を見せていた。

それに比べれば簡単に誘導できそうな糸を陸は未来予測による回避で凌いでいる。

それすら十分に驚異的な能力なのだが、その上を知る者たちにとっては疑問を抱いてしまう。

「陸君は…」

癒しを続けていた叶がポツリと呟いた声に真奈美が反応した。

「叶は何か知ってるの?」

確かに叶は陸の治療のために放送局の中で二人きりだった。

そこで何か気付いたことがあっても不思議ではない。

だが叶は口を開くのを戸惑っていて要領を得ない。

「そう言えば出てきた時から様子がおかしかったわね。陸に押し倒されそうになった?」

自分で疑問を投げ掛けておいてちょっと不機嫌になる複雑な乙女心の八重花だったが、叶の反応は薄く首を弱々しく横に振るだけだった。

そうなるとますます叶の反応の理由に検討がつかなかった。

真奈美が安心させるように叶の肩を抱く。

「何かあったなら言ってみな?」

「…うん。」

ようやく顔を上げた叶の瞳を見て全員が息を飲む。

その瞳には困惑や深い悲しみが浮かんでいた。

かつて"Akashic Vision"に拒絶されて沈んだ時の叶を見ているようだった。

「陸君は…」

そこまで口にして叶は言葉を詰まらせた。

今にも泣き出しそうな叶は見ているだけで痛々しい。

それでも叶はみんなを見回してその言葉を口にした。


「陸君はもう、死んじゃってるのかもしれない。」

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