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Akashic Vision  作者: MCFL
200/266

第200話 Mission name: BBQ

立案から約一週間、

「それではこれから"Innocent Vision"とヴァルキリー・ジュエルの親睦バーベキューパーティーを始めます。」

ついにバーベキューの日がやって来た。

場所は様々な組織からの襲撃を想定してセイントやジュエリストの性能が効率的に発現する太宮神社の敷地内が選ばれた。

こんな親睦の日はオリビアも空気読んで休んでもらいたいが、だからこそ狙ってくる可能性もあると八重花が懸念したからだ。

本来は両組織で均等に食材の確保などの役割を決めて持ち寄るはずだったのだが、そこは既に社会人であり将来花鳳家を担うお金持ちの撫子と生きた精密機械のような万能使用人の葵衣。

食材の購入から機材の準備まで全部受け持ってしまった。

これは積極的に友好関係を築こうというアピールをする思惑もある。

そのため総勢19人のうちほとんど学生のパーティーにしては整った設備をしていた。

「さすがに高級ホテルのシェフまで連れてくるのはやりすぎじゃないかしら?」

八重花もある程度撫子たちがやってくれるだろうとは予想していたが些かオーバーしている。

撫子は首を横に振って微笑んだ。

「折角の親睦の場で食べ物の用意のことを考えていてはゆっくり話も出来ませんから。」

「あ、それはそこに置いておいてもらえれば。あ、そんな、私たちでやりますから。」

「…うちのリーダーはこんな状況でも用意の心配をしているけどね。」

シェフやらウェイターが搬入作業しているのを指示しようとしている叶は対処が追い付かずにグルグルし始めている。

それを真奈美が止めて下がらせていた。

「八重花さん、そろそろ準備が終わるそうですよ。」

悠莉が全体を見回して言った。

参加者は既に全員集まっているし料理も作り始めているようでいい香りがしてきている。

「それなら開会の言葉は…花鳳先輩に任せます。」

八重花は一瞬叶に目を向けたがすぐに撫子に向き直った。

撫子は苦笑するものの否定はしない。

叶の性格を皆よくわかっている。

撫子が少し離れた場所に移動するとヴァルキリー・ジュエルはたちまち静かになり、叶たちも注目した。

「本日は"Innocent Vision"の方々からの提案でこうして食事を共にする場を用意していただきました。この場にいる方々は既にご承知でしょうがこれは来るオーオーオーにおいて"Innocent Vision"とヴァルキリーが協力し魔女オリビアを打倒するための親睦会です。対立する組織ではありますがこの機会に自分たちが戦っている相手がどのような人物だったのかを知ってください。それではグラスをご用意ください。…オーオーオーの成功を願いまして、乾杯。」

「「かんぱーい!」」

太宮神社の境内に乙女たちの楽しげな声とグラスの甲高い音が響き、食事会の始まりを告げた。




バーベキューが始まったからすぐに皆が打ち解けて談笑し合う…さすがにそんなに都合よくはいかない。

八重花と悠莉のように旧知ならばすぐに話もできるだろうが"Innocent Vision"とヴァルキリーでさえせいぜい顔見知りでちゃんと話した機会など数えるほどという程度の知り合いだからなかなか仲良く会話というわけにも行かない。

ジュエルたちに至っては"Innocent Vision"だけでなくヴァルキリーやジュエルですらほとんど知らない相手なので警戒というか尻込みして飲み物や食べ物に張り付いていた。

「わかってはいましたがこれでは食事会の意味がありませんね。」

「時間も限られております。このままですと本当に食事をして終わりになってしまう可能性が濃厚です。」

撫子の呟きに葵衣が料理を取り分けながら答える。

そういう葵衣だって撫子に張り付いていて誰とも話していないのだから人の事は言えない。

周囲を見回してみると

「美味ー!」

良子は怒濤の勢いで料理を食べているし

「由良ー、カッコつけてないでお話ししようよー。」

「うわっ、緑里、酒飲んでないか!?」

緑里は赤い顔で由良に絡んでいるし

「やはりわたくしは日本茶が一番です。」

「あ、この羊羮美味しい。」

叶と琴は縁側でのんびりしているおばあちゃんたちみたいになっている。

要するに各自思い思いにしていた。

「人見知りする叶が積極的に声をかけるとは思わなかったけど、あれは逆に目立ってるね。」

実際琴が持ち込んだ甘いお菓子類には参加者の皆が興味を示している。

必然的にそれをおいしそうに食べている叶は注目というか羨望というかちょっと嫉妬されているわけだ。

「真奈美先輩、こんばんは。」

叶たちを見て笑っていた真奈美が声をかけられて振り向くと響が頭を下げた。

「ああ、響か。それに綿貫さんとジュエルの子かな?」

「こんばんは。あまり話す機会はありませんでしたね。」

「こ、こんばんは。」

紗香が挨拶して美由紀も頭を下げる。

そんな美由紀を紗香はジッと見ていた。

その不躾な視線に美由紀は睨み返す。

「な、何よ?」

「私の前では強気っぽい言動が多いですが、意外と気が弱いんですね。」

「う、うるさいわね!」

確かに紗香には言い返すが真奈美とは距離を取っている。

こうしてみると紗香になついてるのがよくわかった。

「あれ、八重花が何かやるみたいだよ?」

さっき撫子が挨拶した場所に今度は八重花が立った。

撫子の時よりも静かになるのは遅いがそれでも暫くすれば収まった。

「このまま思い思いに談笑していても埒が明かないわ。早速企画を始めるわよ。タイトルは乙女だらけの大ネルトン!」

ババーンと宣言する八重花だったが反応は鈍い。

「八重花ちゃん、ネルトンって何?」

叶の質問にほぼ全員が頷いて八重花を見る。

悠莉はわかってるのか八重花が頭を抱えているのが楽しいのか微笑んでいるだけだ。

「もうそういう世代じゃないのね。私も歳ね。」

フッと重い吐息を吐きながら遠い目をする八重花に真奈美を手を横に振ってツッコむ。

「いやいや、同い年同い年。それで、何するって?」

「さすがは真奈美、いいツッコミとアシストよ。特別にアシスタント役を任せるわ。」

「まあ、いいけどね。」

真奈美は肩を竦めて前に出た。

補佐に真奈美を得た八重花は若干引き気味の全員を見回して頷く。

「簡単に言えば見ず知らずの相手と仲良くなるために強制的に話す機会を作るのよ。だけどまずは軽く全員自己紹介をするわよ。」

八重花は真奈美にハンドライトを手渡すと叶を指差した。

意図を読んだ真奈美がそのライトを叶に向ける。

完全人力のショボいスポットライトだ。

突然向けられた叶は腕で顔を覆って縮こまっている。

「まずは人数が少ない"Innocent Vision"から行くわよ。リーダー、頑張りなさい。」

「うう、八重花ちゃん強引だよ。」

全員の視線に怯える叶だったが少しすると落ち着いたのか一歩前に出た。

「"Innocent Vision"のリーダーをやってます作倉叶です。えと、よろしくお願いします。」

「実に平凡な自己紹介ね。これ以下は却下にするので心するように。」

「えーん、酷いよ、八重花ちゃん!」

八重花の辛辣な意見に叶は涙目で抗議する。

"Innocent Vision"のリーダーがどういう人物かよく分かる自己紹介だ。

ジュエルたちは揃って唖然としていた。

一応顔くらいは知っている者もいるとはいえヴァルキリーの恐れる"Innocent Vision"のリーダーがここまで普通の女の子だとは思わなかっただろう。

「次はこの義眼義足の助手。」

「芦屋真奈美です、よろしく。"Innocent Vision"の一番槍になるのかな?義眼からビームが出たりはしません。義足はセイバーにギミックするけどね。」

ちゃんと八重花の紹介を拾って自己紹介する真奈美に八重花は満足げに頷いた。

「次、この場所の提供者。叶狂信者…もとい叶教信者、太宮院琴。」

「何をどう言い直したのかはわかりませんがわたくしの信仰対象は"太宮様"です。」

琴は立ち上がらず不満げに頭を下げた。

ジュエルたちは"Innocent Vision"の他のメンバーは知っていても琴を知らない者は多い。

とはいえすぐに理解されるのだから神社の巫女のインパクトはやはり大きいようだった。

琴の反応に少々不満げな様子の八重花は自分の胸に手を当てた。

「そして私が…」

「"Innocent Vision"の暗部。かの未来視Innocent Visionにも匹敵する知略で数々の問題を解決し、同時に起こしてきた"Innocent Vision"の異端児、東條八重花さんです。」

八重花の自己紹介を遮るように悠莉が説明をすると"Innocent Vision"とヴァルキリー双方から納得のあーとかおーが聞こえてきた。

八重花は悠莉を睥睨するが当人は素知らぬ顔で微笑みを浮かべている。

「と、"Innocent Vision"はこんなメンバーだね。次にヴァルキリーとかの方は下沢にお願いしていいかな?」

険悪になりそうな空気を読んで真奈美が悠莉にバトンを投げ渡した。

今の微妙な状況を察していた人たちは真奈美に対しておーと感心している。

「お願いされました。このまま私からでは芸がないですし今回はヴァルキリーとジュエルは一括りですから纏めて…え、下からですか?」

司会進行の途中で葵衣からハンドサインの指示が出た。

カンペじゃなくハンドサインをする葵衣も葵衣だがそれを理解できる悠莉も色々おかしい。

ただ葵衣の提案は撫子を最後にしようということなので演出的にも理に敵っている。

「そういうわけだそうですからまずはとどろ…」

「まずはわたしたちが行きますよ、響、美由紀!」

「わっ、紗香ちゃん!?」

「ちょっ、まだ心の準備が!」

悠莉の危ない発言を察知した紗香は2人のジュエルの手を取って前に飛び出した。

当然全員の視線が集まり美由紀は軽く魂抜けた。

「ふふ、紗香さんは目立ちたがりですね。」

「もうそれでいいです。ヴァルキリーの一番下の綿貫紗香です。ジュエルはこの2人になりました。」

紗香が一歩下がって背中を押すと美由紀は一瞬尻込みをした。

その隙に響が頭を下げる。

「浅沼響です。どれくらい役に立てるかわからないですけどまずは紗香ちゃんを支えられるようになりたいです。」

「またあんたはそうやって抜け駆けを…。工藤美由紀です。紗香を追い抜くつもりで頑張ります!」

美由紀が自棄っぽく宣言してさっさと戻っていった。

紗香たちに面白くしようとする流れを見事阻まれた悠莉は嘆息一つですぐに気持ちを切り替えた。

「それでは次は…羽佐間さんでしょうか。」

「本来は俺が最初だったな。行くぞ久保田。」

「はい、由良様!」

「はい、十分にお二人の関係性は理解できましたので次にいきましょう。」

「おい、これで終わりかよ!?」

由良は文句を言っていたがあっさり流された。

まあ、由良は今更自己紹介するまでもなくどちらにも知られているし、久保田の由良への心酔っぷりはしゃべらせると面倒そうだったので仕方がない。

騒ぐ由良を適当に放置して悠莉はコホンと小さく咳払いをした。

「私は下沢悠莉です。ですが私など今回は前座、真の主賓は私のジュエルです。」

悠莉が宣言するとそう言えば悠莉のジュエルは誰だと皆がキョロキョロし出した。

悠莉はスッと人気が少ない明かりの弱い方を指差した。

「いつまで隠れているつもりです、岩手さん?」

全員の視線が集まった先には闇にひっそり隠れるように岩手が立っていた。

隠密スキル持ちかと思うくらいに誰も気づかなかった。

「よろしくお願い、します…。」

「岩手!?だって東北ジュエルは"Akashic Vision"にジュエルを…」

「ッ!」

「まあ、私が育てたいと思ったんですからいいではないですか。」

緑里の指摘に岩手は沈痛な面持ちで俯いてまた暗闇に引っ込みそうになったが悠莉がさらりとその話題を流した。

驚きはしたものの特に反対する者もなく岩手はすっと悠莉の陰に移動した。

「続いて等々力先輩。」

「はいよ。あたしは九州の福岡ジュエルの長崎だね。やっぱり何度か行ってたから紗香以外だと長崎が一番よく知ってるし。」

「光栄です。皆さんの剣と盾になれるよう頑張ります。」

体育会系のノリで元気の良い挨拶に岩手の時の暗さは払拭された。

「どんどん行きましょう。緑里様。」

さっき指摘を受け流されたせいか緑里は不満げにジュエルを伴って前に出た。

「ボクは海原緑里。それでジュエルは良子とおんなじでよく通ってた中部の愛知ジュエルインストラクターの豊田だよ。」

「こ、こんばんは、豊田です。お役に立てるか自信はありませんが精一杯頑張ります。」

緑里に伴われて前に出た豊田は恐縮した様子で何度も頭を下げた。

小動物っぽい保護欲を掻き立てられる様子に何人か興味を抱いた様子だった。

「葵衣様。」

「はい。」

葵衣は頷くだけで挨拶を終えた。

その後ろから袴姿の女子が出てくる。

「"Innocent Vision"の方々と見えるのは久方ぶりだ。今回は敵ではないということだが…いずれあの時の借りは変えさせてもらいたいものだ。大和と申します。」

大和は建川ジュエルのインストラクターであり、"威乃戦徒美女ん"に襲撃を受けたジュエルだった。

"Innocent Vision"の黒歴史を知る人物の登場に叶と真奈美は見るからに真っ青でどんよりとしており、八重花は無言で目を瞑り、何故か由良だけおかしそうに笑っていた。

「締めの前になにやら盛り上がりすぎてしまいましたが最後に花鳳様よろしくお願いします。」

撫子は頷くとゆっくりと前に歩み出た。

その後ろに立つ村山もまるで執事のように斜め後ろについて歩いていく。

「そこまで持ち上げられても何もありませんが、花鳳撫子です。皆さん、共に戦い勝利を掴んで我々の未来の礎を築きましょう。それではわたくしのジュエルを紹介致します。壱葉ジュエルインストラクターの村山さんです。」

「ご紹介に預かりました村山です。このような重要な役割に選んでいただき光栄の極みです。粉骨砕身ヴァルキリーのために尽力させていただく次第です。」

そこかしこで海原葵衣が2人いるとの呟きが聞こえてきた。

「これにてヴァルキリーとジュエルの自己紹介を終わりにします。スタジオにお返ししますね、八重花さん。」

「どこがスタジオよ。」

司会のバトンを受け取った八重花は会場を見回す。

明らかに自己紹介前よりは和やかな空気になっていた。

「とにかく全員の名前は知れ渡ったわね。それじゃあくじを引いてネルトン開始よ!」

いつの間に用意したのか穴の開いた箱が出てきて順番にくじを引いていく。

「さあ、運命の相手は誰かしら?」

全員が引き終わり、八重花の掛け声で一斉にくじを開いた。

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