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Akashic Vision  作者: MCFL
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第194話 討論

日々、着々と準備が進められていく第二次オーオーオー。

そんな中のある放課後、"Innocent Vision"はいつものように太宮神社の社務所にいた。

ちゃぶ台の上にはお茶とお菓子が並び、ちょっと和風なお菓子パーティーのようだ。

「そのような話に賛同できるはずがありません!」

しかし

「それ以外に方法があるなら是非教えてもらいたいわね。」

そのお茶会の場は緊迫した雰囲気の支配する論説の戦場となっていた。

対立するは未来を視る叶の盲信者・太宮院琴 v.s. 第一級インテリ犯罪者・東條八重花。

実況・解説は芦屋真奈美、一応レフリーに作倉叶でお送りしております。

本来なら真っ先に止めに入っている叶も場の重苦しさに耐えかねて昔のようにビクビクしている。

口を挟みにくい理由としてそもそもの口論が始まった原因に関連していることもある。

曰く、

「第二次オーオーオーでは叶に囮役としてオリビアを誘き出してもらうわ。」

八重花が提案したその一言が問題だった。


「叶さんを危険にさらさせるわけには参りません。他の方法を模索すべきです。」

琴の反応は叶の危険性を考えれば至極真っ当なものだ。

いつもの叶贔屓思考を差っ引いても十分に真っ当である。

囮ということは遭遇した場合に叶が1人でオリビアに対峙することになる。

以前殺されかけたことを考えても叶の囮は危険すぎる。

友人の命が危機にさらされるという人としての心配は勿論のこと、"Innocent Vison"リーダーである叶を失うことの重大さは否定をするに足る根拠であった。

ぶっちゃけ今回は琴の意見が正論過ぎるのだが対抗勢力である八重花は余裕を見せていた。

「だったらオリビアを引き出せる餌を他に用意できる?」

今回の第二次オーオーオーは本来なら魔女の根城に突撃して殲滅すべき作戦である。

しかし八重花やヴァルキリーの情報網を持ってしてもオリビアのアジトの所在はようとして知れない。

時間をかけて本格的に探しても見つけられるかわからない状態であり、時間を与えると"オミニポテンス"の戦力が増強されていく危険を孕んでいる。

相手の所在地が分からず、さりとて時間は掛けられない。

その結果行き着いた結論が囮による誘き寄せだった。

「囮を使う方法でもかかるかどうかは五分五分。それ以外の方法は試算することも出来ないわ。私が考え付く以外で他に囮よりも成功率が高くて時間のかからない方法はあるかしら?」

「それは…例えばアジトを人海戦術でしらみ潰しに探すというのは?」

「人海戦術を使うほど"Innocent Vision"には人員いないじゃない。仮にヴァルキリーの要請でジュエルを借り出したとしても当たりもついていないアジト探しをしようとしたら全国各都市から一軒一軒訪ねていくことになるわよ?」

「うわぁ。やりたくないな。」

真奈美が苦笑いで呟く。

「アジトの当たりは壱葉近辺では無いのですか?」

「瞬間移動するような魔女のアジトがその辺のビルに陣取ってると思う?最悪違う次元から来ていると言われても私は否定できないわ。」

確かに神出鬼没な魔女ならばこの近辺で見かけるからという情報は当てにならない。

そんな不確実な情報で探索をしても無駄の方が圧倒的に多い。

「それならこれまでのようにオリビアが出てきた時に作戦を開始するというのは?」

「もしもヘリオトロープを量産するために隠っているとしたら?出てきたときにはオリビアは万全の戦力を整えている。対して私たちやヴァルキリーは不意の遭遇になるわけだから味方に連絡を取れる状況かもわからない。最悪ヴァルキリーはおろか"Innocent Vision"の仲間の助けすら呼べないかもしれない。相手は万全でこちらは1人、果たしてオーオーオーは成功するかしら?」

「ぐ…くぅ。」

琴は呻いて首を捻るが妙案は浮かばない。

そもそも八重花が淀みなく答えられているのは既に想定して試算する価値がないと切り捨てたからだ。

八重花が何日も頭を捻って考えて、結局行き着いたのが叶の囮だった。

「もういいですよ、琴お姉ちゃん。」

「うう、叶さん。」

琴が涙を浮かべて申し訳なさそうな顔をするが、叶は優しく微笑んで首を横に振った。

「多分八重花ちゃんもいっぱい考えて結局これしかうまくいきそうな作戦がなかったんです。そうだよね?」

「叶には叶わないわね。さすがはリーダー。」

明言はしなかったが叶は正しく肯定と受け取った。

そもそも言動のせいで誤解されやすいが八重花は仲間想いだ。

親友であり仲間である叶の囮にする案は最初に考えたとしても最後まで保留にしていた。

叶は八重花の性格をよく知っているだけだった。

「オリビアは私の力を欲しがっていた。だからきっと出てくると思う。」

叶は胸に手を当てて頷いた。

若草色の小さな光が灯る。

八重花も真奈美も頷き、最後に琴も涙を拭いながら頭を縦に振った。

「ヴァルキリーの横槍の手筈も整ったわ。後は決行のタイミングを図るだけ。またあちらと調整しておくわ。」

オリビアとの決戦が近づいてきたことに決意を込めた様子で頷く叶、真奈美と諦めたように嘆息する琴。

「あ、言い忘れていたけど琴も囮として動いてもらうからそのつもりでよろしく。」

買い物の食材の追加を頼むような口調の八重花が軽く挙げた手を琴はがっしと掴んで詰め寄った。

「そうです。わたくしもセイントでした。ならばわたくしが囮になれば叶さんを危険な目に遭わせずに済むではありませんか。どうして先に言わないんですか?」

自分で気づかなかったことを棚に上げてと叶ですら思ったが可哀想なので突っ込まない。

それくらい琴は必死の様相だった。

だが八重花はその手をあっさりとすりぬける。

「以前からオリビアは琴ではなく叶を狙っている。力に優劣があるのかわからないけどせっかくやるなら確率の高い方がいいじゃない?魔女に嫌われた己を呪うことね。」

「うう、良いことのはずなのに何故か素直に喜べません。」

琴がとうとう床に手をついてずーんと落ち込んでしまい叶が慰めだした。

「作戦の初手から大博打なんて随分と面白いことになりそうね。」

八重花は意地悪く笑っていたが瞳は真剣だった。




"Innocent Vision"が討論をしていた頃、ヴァルハラのヴァルキリーも同じように論争の最中にあった。

議題はオーオーオーにおいてヴァルキリーがどう挑むべきかというものだ。

「お嬢様が"太宮様"より賜った卜占によれば今回のプロジェクトは戦力不足に陥るとの事です。ならば見込みあるジュエル数人を選出して紗香さんのような特訓を施しグラマリーを獲得させて戦力の増強を図るべきでは無いでしょうか。」

葵衣は足りない戦力をジュエルの強化で補う案を提案した。

ジュエルがグラマリーを獲得した例は少ないが2件ともソーサリスがジュエルを直接指導することで得られていた事実から各々のソーサリスが指導することでその発生確率を増やそうというものだった。

問題としては不確定要素が多いことと時間的猶予がないこと。

しかしそれもやってみなければわからない。

葵衣の案は珍しく博打めいていた。

「ジュエルのグラマリー発現の確率は高くありません。それならば不確実な戦力に頼るよりも確実かつ強力な戦力との融和を図るべきです。将来的な対話も考えて"Innocent Vision"との親交を深めるのはどうでしょう?」

冗談のようで本気の悠莉の案。

実は一番現実的だったりする。

今回のオーオーオーは横槍参入とは言いつつ実質的には共闘であることはトップの方々には周知の事実。

"Innocent Vision"との連携が上手くなればそれだけ作戦の成功率が向上する。

さらに全てが上手くいった後、"Innocent Vision"と親密になっておくことで妥協点の采配が甘くなるという若干の打算が入っている。

悠莉の案は安全・安心・確実の信頼性だった。

「ジュエルや"Innocent Vision"に頼るなんて他力本願だ。あたしらはヴァルキリーなんだから自分達の力をもっと引き出す特訓をしてオーオーオーに備えるべきだ。」

そして良子は全ての不確定要素を排除してヴァルキリーの力でオーオーオーを乗りきろうという案を出した。

難しいことを考えて悩みたくないという背景がちらついているがシンプルで一番よく知っている力なので安心感がある。

戦力不足の部分の補強が特訓というのもいかにもスポコンな良子らしい。

良子の案はここにいるメンバーのやる気の問題だ。


こうして出された葵衣案、悠莉案、良子案で採択を取ることになった。

撫子はまだ仕事中なので保留とした結果

「うーん、やっぱりヴァルキリーの将来を考えるとジュエルの育成は大事だと思う。」

「さすがは姉さんです。よくわかっています。」

緑里は葵衣案。

「確かに"Innocent Vision"と交流しておくのは手だな。あいつらが後ろから撃ってくることはないだろうがフォーメーションとかがあると楽だ。」

「元お仲間が恋しくなりましたか?」

「馬鹿言え。」

由良は堅実に悠莉案。

「ヴァルキリーの敵は全員私たちのソルシエールで蹴散らしましょう、お姉様!」

「その通りだ、紗香。あたしらが勝者だ!」

もう妄信的とも言える師弟の絆で紗香は良子案。

結局見事に別れたままだった。

そうなると当然撫子の票の取り合いになる。

「私の案はお嬢様の出されたものです。」

「そうですけど私たちの案を聞いて心変わりされる可能性もあります。決めつけで誘導されるのは戴けません。」

「ああ、てっきり撫子先輩は葵衣の所だと思ってたけどそうか。ずるいぞ、葵衣!」

「ずるいですよ!」

「…等々力先輩は素直な方ですね。」

「その生暖かい笑顔は絶対にいい意味で言ってないよね!?」

結局方策が決まらずギスギスというか良子のせいでグダグダになりつつあるヴァルハラ。

葵衣は懐から懐中時計を取り出すとじっと文字盤を見詰めていた。

「葵衣、この後用事?」

「…」

緑里が尋ねるも反応なし。

騒いでいた他のメンバーも葵衣の動きを気にして静かになっていく。

1人、由良は大あくびをして退屈そうにしているだけだったが。

「保留なら保留でお開きでいいんじゃねえか?」

「うん、そうだね。それじゃあ葵衣…」

「お嬢様が小休止に入られた頃合です。すぐにご連絡致します。」

葵衣は懐中時計をしまうと同時に携帯を繋いでいた。


「お嬢様、申し訳ありませんがテレビ電話の前にお移りください。」

電話が繋がるとすぐに用件だけを伝えつつ空いた手でリモコンを操作してヴァルハラをテレビ会議モードに切り替える。

画面の向こうでは撫子が慌てて席に着こうとしている姿が映っていた。

『会議が終わって席に戻ったところでしたが、何事です?』

姿勢を正すとすぐに威厳が現れる撫子も流石だが全員の視線は葵衣に向けられていた。

そして皆の心は一つになった。

(何者!?)

主の休憩時間まで把握しているスーパー使用人…ではさすがに説明がつかない。

実際は撫子の思考や会議に参加する人物の特性を調べて時間を予測したにすぎない。

言ってみれば撫子限定の高確率で的中する洞察眼といったところである。

「昨日お話しされていたジュエルの扱いの件からプロジェクトまでのヴァルキリーの活動方針を話し合っていました。」

皆の視線が集まっていることは自覚しつつ畏怖されているとは思っていないようで普通に話を進める葵衣。

表情と一緒で無感動なのか意図的に遮断しているのか。

葵衣案、悠莉案、良子案を聞いた撫子は暫し熟考し

「その案を全てを行いましょう。」

全部やるというある意味第4の案を可決させた。




「葵衣も大概だけど花鳳先輩も豪快だよね。」

良子と悠莉、紗香は3人で帰路についていた。

"Innocent Vision"との交渉は悠莉がやりたがったが今回は"Innocent Vision"側から見た信頼感の高さという判断で由良が執り行うことになった。

「あれがカリスマでありリーダーの資質です。そういう意味では等々力先輩もありますよ?」

「悠莉もね。」

ヴァルキリーのメンバーはなんだかんだ言ってカリスマ性を持っている。

紗香も既に数人のジュエルに慕われ始めている。

それくらいの人物でなければ人々を率いていくことなど出来はしない。

「それじゃあオーオーオーとかいう作戦が始まるまではジュエルを育てながら特訓をして"Innocent Vision"と仲良くなるってことですね?」

「そうなるね。どっかに紗香みたいな有能なジュエルはいないかな?」

良子は周囲をキョロキョロと見回す。

その辺に強力な野良ジュエルが転がってるなら苦労はしない。

悠莉と紗香は子供みたいな良子の行動に苦笑を浮かべ合っていた。

「ん?」

良子が先を見つめたまま止まった。

「どうかしましたか?」

「良子お姉様?」

その表情が急速に真剣さを増していくのを見て2人はバッと視線を表面に向けた。

そこには夕方の茜色にぽっかりと生まれた暗闇が存在していた。

車が通りすぎたが気にした様子はない。

その闇からゆっくりと人の姿をしたものが現れた。

「みんな揃ってるわね。」

闇から歩み出てきた人物に良子と紗香が身を固くして絶句した。

そして

「誰でしたっけ?」

悠莉はそんな言葉を口にして小首を傾げた。

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