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Akashic Vision  作者: MCFL
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第169話 運命を屈服させるために

超音破により意識を刈り取られた暴走ジュエルやオーの間を飛鳥が歩いてくる。

進路はまっすぐで邪魔するものは踏みつけていく。

その目には由良しか写っていないようだった。

「殺す。殺してやる。ソーサリス。」

「とうとう狂ったか?いや、最初からこんなだったかもな。」

由良は玻璃を構えて警戒しつつ後ろ手に回した左手を動かしてジュエルたちに逃げるように伝える。

今の飛鳥ならジュエルになど興味は無さそうだし、ソーサリス同士の本気の戦いとなれば由良も周りを気にしていられる余裕はなくなる。

ジュエルたちは由良を1人残して逃げることを迷ったが結局由良の邪魔をしないことが一番の助けになると気が付いて静かに移動を開始した。

由良は目の端でジュエルたちの離脱を確認しながら本格的に戦闘体勢に意識と体を持っていく。

「わざわざ東北まで出向いて一騎討ちだ。そろそろ決着をつけようってか?」

「そうだ!ソーサリスを見ていると飛鳥は、飛鳥はぁー!」

飛鳥は発狂したように体を震わせながら天を仰いで吼える。

玻璃とよく似た黒い魔剣・モーリオンのみならず全身から噴き出した黒い闇は九頭の蛇の化け物となる。

「スペリオルグラマリー・ヒュドラ!全部全部、押し潰せぇ!」

「ちっ、いきなり全開だな!?」

重く硬い体を持ちながらも本物の蛇のようにしなやかにうねる9つの蛇が訓練所の中をところ狭しと蠢いて由良に襲いかかってくる。

ハイドラの見えない触手も脅威だったが視覚的に圧倒される巨大な怪物に襲われるのもまた精神的にも肉体的にも危険だった。

「音震波!」

迫る巨体をかわしながら音震波を撃つ。

顔面に直撃したはずだったが何事もなく動いている。

「見た目は蛇みたいだが目や口はフェイクか。まあ、意思があって動いてるようには見えないが。どのみち硬くてダメージが通らない。」

左右同時に襲ってきた頭を後ろに跳んでかわし、その二頭で隠された正面から鎌首をもたげた蛇の牙も避ける。

「踊れ踊れ!疲れて死ぬか、ヒュドラに潰されるか好きな方を選びなよ!」

「どっちもごめんだ!」

由良は空中で3方向からの攻撃を防ぐために球状の超音壁を展開した。

ガツンと激しい衝撃が来てゴルフボールのように弾き飛ばされる。

それが狙いであり、地面に落ちると同時に超音壁を解除して着地し飛鳥から距離を取った。

「相変わらず"化け物"だな。慣れてはきたが。」

「何で死なない!?さっさとプチッとトマトみたいに潰れちゃいなさいよ!」

飛鳥が苛立たしげにモーリオンを振り回すと呼応してヒュドラが荒れ狂う。

その余波から逃げながら由良は首を傾げていた。

(あそこまで殺す殺す叫ぶ奴じゃなかったはずだ。魔女に頭ん中弄られたか?だとしたら何が仕掛けられてるか分かったもんじゃないな。)

オリビアが自分の駒を大事にするようには到底見えない。

最悪人間爆弾のように特攻させるのに利用しそうだ。

「だったら、さっさと決着つけようぜ!」

由良が足を止めた。

すかさずヒュドラが接近し由良を押し潰さんと上からのし掛かる。

「死ねぇー!」

ザシュッ

ドォンいうと轟音と共にヒュドラが地面に落ちた。

その首は綺麗に両断されて頭と胴体が分離していた。

「よくも、よくもぉ!」

飛鳥が口から泡立った唾を飛ばしながら吠える。

ヒュドラの切断点に立つ由良の手には静かに震える玻璃が握られていた。

「スペリオルグラマリー・Xtal。さあ、全部切り落として丸裸にしてやるよ。」

その姿は怪物に挑む勇者、いや、ダークヒーローのようだった。




オーと暴走ジュエルの襲撃でヴァルハラの扉が吹き飛ばされた直後、撫子と葵衣は迷うことなく窓から外に飛び出していた。

撫子のようにグラマリーで広範囲を攻撃できるなら閉所よりも効率的に敵を排除できるし、葵衣のエアブーツにしても広い場所の方が翻弄しやすい。

それはその場で考えずとも常にどういった状況で戦うのが有利なのかを考えている2人なら自然と答えを導き出して行動できるのである。

だが、時に最善を求める思考は相手に読まれる危険性を孕んでいる。

校庭に飛び出した2人を待っていたのは闇に紛れるように存在する無数のオーと特別病棟から抜け出してきた盛岡ジュエルたちだった。

つまりドアの演出はパフォーマンスであり、実際は2人を校庭に誘き出す作戦だったのだ。

校庭の中央から見回せば紅色の瞳が怪しく輝いている。

そして暴走した盛岡ジュエルたちの手には真っ黒い歪な形をした剣が握られていた。

「してやられたと言うべきね。」

「しかしオーが周到な罠を用意できるとは思えません。魔女かソーサリスが近くにいると考えられます。」

少なくともわらわらと溢れている闇の人混みの中にその姿はない。

撫子はアヴェンチュリン・クォーザイトを両手で握り構えを取った。

「ならば黒幕がいるのかどうか炙り出すまでのこと。葵衣?」

「了解致しました。しかし、お気をつけください。暴走したジュエルは魔女ファブレのデーモンと同等の戦闘能力を有している模様です。」

葵衣もセレスタイト・サルファーを構えるが柄を握る指はいつもよりほんの僅かだがきつくなっていた。

「ソルシエールではそれほど脅威に感じなかった相手ではありますが、ジュエルでどこまで太刀打ち出来るか。」

「お嬢様は傷付けさせません。」

葵衣が全方位に知覚を広げるエアコートを発動した瞬間

「ソニック!」

「オー!」

グラマリーと漆黒の弾丸が殺到した。

グラウンドに着弾して盛大に土煙が上がる。

視界が悪化しオーと暴走ジュエルが対象の消滅を確認すべく待っているとふわりと風で煙が揺れた。

スパン

「オー!?」

違う。

風のような速さで駆けた葵衣が一刀でオーを両断していた。

黒の群れに飛び込んできた獲物に瞬時に照準が向けられるが

「サンライズ!」

ダダダダダダ

陽光の弾丸がその横合いから殺到した。

圧縮された高エネルギーの弾丸はオーの肉体を焼き、暴走ジュエルの張る振動の壁、グラマリー・シェルをもってしても防ぎきれず次々に倒れていく。

撫子の背後を狙う敵は葵衣が飛び込んで陣形を乱し、その隙を撫子のグラマリーが狙って倒していく。

しかし、いくら葵衣の対応が早いと言っても複数の方位からの同時攻撃は対処しきれるものではない。

第3の方向でオーが砲身を構えて発射体勢に入っていた。

「オーッ!」

撫子は気付いたが葵衣が応じる間も無く漆黒の弾丸が放たれた。

カキーン

その弾丸は校舎を越える特大ホームランで打ち返され、結界の張られた黄昏の空に消えていった。

オーや暴走ジュエル、さらには葵衣まで攻撃の手が止まって呆然と弾丸の行方を見送った。

撫子はルビヌスの光を発しながらバッターよろしくアヴェンチュリン・クォーザイトを振り抜いている。

「ルビヌスの身体能力強化はあのスピードに対応できるのですね。行ったことはありませんがバッティングセンターというもののようです。」

撫子のスイングはどちらかと言えばゴルフに近い。

上流階級のたしなみでやったことがあるからだ。

「とは言え、これはスポーツではなく戦闘です。葵衣、何を呆けているの!?」

撫子の一喝で敵味方が動き出した。

担う魔剣がジュエルであってもヴァルキリーの2人は押されることなく有利に戦いを進めていた。

(いえ、やはりジュエルでは…。ならばこれは。)




名古屋ジュエルでもジュエル対オー・暴走ジュエルの戦いが繰り広げられていた。

だがそれは

「きゃあああ!」

「くそう。隊列変更、陣形を立て直して!」

明らかな負け戦の様相を呈していた。

すでにジュエルたちの半数以上がどうにか立っていられる状態で数人に至ってはグラマリーにやられて倒れて後方に寝かされていた。

「ボクのベリル・ベリロスとデュアルジュエルじゃこの数は捌けない!」

鉄塊を動かしたカボションは高い精神集中が必要なため戦闘中には不向きであり、式と光刃は3つずつまでしか発動できないため数十の敵を相手にするには圧倒的に手数が足りなかった。

それでも緑里の活躍で命に関わるような致命傷を負ったジュエルはいない。

「危ない!」

ジュエルの1人に向けて放たれた漆黒の弾丸に緑里が光刃を向かわせる。

(届け!)

ギリギリのタイミングで弾丸と光刃がぶつかり合って砕け散った。

「あ、ありがとうございます!」

緑里は返礼をする間も無く周囲全体に意識を広げ、ジュエルクラブ内の全ての動きを捉えようとする。

(分かる。ボクの後ろにいるジュエルたちの動きが…ボクたちを狙うオーと暴走したジュエルの攻撃が…感じられる。)

それはカボションの物体認知の応用。

(だけど、ベリロスのジュエルにこんな能力があるなんて聞いてない。)

もちろん未解明な魔剣解析の分野だがジュエルは極力判明している部分を用いて開発されている。

目を開けていながら部屋全体の物体の動きを見ている緑里は突然世界が朱色に明滅する感覚に襲われた。

「うっ!」

「緑里様!?敵にやられましたか!?」

緑里が左目を押さえると近くにいたジュエルが心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫、だよ。」

緑里の動きが鈍くなったのを機にオーと暴走ジュエルが攻撃の手を強めてきた。

「きゃあああ!」

「すみません、…緑里様…」

次々に倒れていくジュエル。

数が減ればそれだけ1人が相手にすべき敵の数は増えて被害は加速度的に早まっていく。

(くっ、また!?)

気配の世界を見ているとまた朱色に光り、左目に痛みを感じた。

振るっていた光刃が制御を失って消え、ブレードを備えたオーが斬りかかってきた。

「このぉ!」

咄嗟にショートスマラグドで受けるが、もともとグラマリー用に作られたデュアルジュエルは振動剣を受けきれず砕けた。

その瞬間、気配認知の感覚が格段に跳ね上がった。

「ッ!」

緑里は飛ばしていた式を一枚空中で鶴の形に瞬時に折り、緑里に迫っていたオーを背後から貫いた。

式で折られた白い鶴は緑里に寄り添うように滞空している。

「緑里、様?」

ジュエルたちが緑里の気配の違いに躊躇いがちに声をかけた。

「…ごめんなさい、撫子様。」

緑里は手にしていたベリル・ベリロスを投げ捨てた。

敵味方全員が目を見開いて驚く。

それはジュエルを捨てたからではない。

「でも、ボクは…」

緑里の周りにはどこから来たのかいくつもの折り鶴が浮かんでいた。

「皆を守るために、ボクはまた"化け物"になる!来るんだ、ベリル!!」

緑里が左手を前に突き出すと左目が朱色に強く輝きを放ち、手には最初から存在していたようにソルシエール・ベリルが現れた。

ふわふわと漂っていた白鶴がピタリと動きを止め緑里の指示を待つ。

「舞えよ、白鶴!白鶴乱舞!」

十の白鶴が視認するのと遜色ないほどにクリアになった知覚領域の中を縦横無尽に駆けた。




壱葉での戦いはジュエル2人を相手に倒しきれないと悟ったらしく代えの利くオーを前面に、暴走ジュエルを援護にする陣形に変化していた。

「お嬢様、オーを指示している存在を感知しました。屋上です。」

葵衣の言葉に視線を上げると屋上にはオリビアが佇んでいた。

肉眼でかろうじて確認できる状態なので戦闘中に探すのはかなり難しそうだった。

「よく気付いたわね。」

「エアコートの知覚が広がって…っ!」

葵衣が突然左目を押さえて顔をしかめた。

撫子は驚かない。

堪えていたが撫子も同じように左目に痛みを覚えており、体の中から焼けるような熱さを感じていた。

(視界に広がる朱色。これは、やはりソルシエールの力。目覚めようとしているのですか。)

撫子たちの力の増幅を感じたオー・暴走ジュエルの攻撃がいっそう激しくなる。

滞空させて防御に用いたサンスフィアが弾けて消えていき、背中から撃たれることも厭わずオーがブレードを震わせて斬り込んでくる。

「お嬢様、これ以上は!」

葵衣が自らではなく撫子の身を守るために言わないと決めていた言葉を口にしようとする。

撫子は目線を交わしただけで葵衣の言いたいことは分かった。

「ソーラークルセイド!」

撫子が空中に十字を刻み、サンスフィアをばら蒔く。

再び粉塵が舞い上がり撫子たちの姿を隠した。

「…これがわたくしたちの歩む道。そのなんと困難なことですか。」

煙の向こうから声がする。

オーが弾丸を放つがチュインと音がして反対側から真っ二つになった残骸が飛び出してきた。

「これもまた運命なのでしょうか?」

「そうかもしれないわ。ならば今度こそわたくしたちはその運命を屈伏させましょう。その為に必要だと言うのならば!」

煙からゆっくりと空へと昇る太陽。

その真下から風が巻き起こる。

「再びこの手に忌まわしき魔剣を担いましょう。アヴェンチュリン!」

「ヴァルキリーの、お嬢様の理想を実現するために今一度力を、セレスタイト!」

吹き荒れる暴風はオーの接近を許さず、夜空に浮かぶ太陽は大きくなっていく。

「ヴァルキリーに背いたジュエルにはお仕置きが必要ですね。」

「はい。粛清は秩序を守るために必要です。」

もはやオーや暴走ジュエルは攻撃をすることもできず神々しさすら感じる2人の姿に魅入られていた。

葵衣が腰溜めにセレスタイトを構え、空気の鞘で刃を走らせて振りぬく。

「グラマリー・ジンプウ!」

空気の刃が離れたオーを両断する。

「受けなさい、コロナ!」

そして第二の太陽が爆発したように破壊の光を放出して世界を陽光に染め上げた。

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