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Akashic Vision  作者: MCFL
160/266

第160話 四つ巴

「い、"Innocent…」

「…Vision"。」

それはかつての約束の名。

"無邪気な悪夢"を絆とした魔剣使いの絆の名。

そしてその絆が断たれたはずの名。

だがここに"無垢なる瞳"を持ち、もっとも困難な平和を目指す強き乙女たちの集いの名として新生した。

「叶さん、真奈美、八重花、琴さん。」

陸が複雑な表情で"Innocent Vision"を見ると八重花が腰に手を当てて不敵な笑みで顔を上げた。

「これがりくが私たちとの共闘を拒んだ結果、つまりはあの時に決まった運命よ。」

八重花に続いて叶も決意のこもった目を陸に向ける。

「私たちは陸君とは違う理想を目指します。そして、陸君たちとお話しします。」

この場に似つかわしくないお話しという単語だが誰もそれを指摘する気にはなれない。

懸念してきた最強の集団が明確な意志をもって動き始めてしまったのだ。

「平和への対話のために武力をもって戦うことを厭わない。随分と大きな矛盾を抱いた組織ですね。」

撫子が感心とも否定とも取れない平坦な声で指摘する。

だが八重花は真っ直ぐに撫子を見て首を横に振った。

「矛盾なんてないわ。私たちが望む平和は未来の事。その礎を築くために私たちはこの手に剣を取って戦うのよ。」

それは戦士の言葉。

戦場で戦う兵士は守るべき者のために武器を取る。

愛する者のために敵を倒す。

陸という存在によって"非日常"の世界に足を踏み入れた少女たちは数々の戦いと経験を経て戦士の心を理解した。

「ちっ。相変わらず俺は仲間はずれかよ。」

由良がふて腐れたように呟く。

その横で緑里が不安げな顔をしたのを見て真奈美はフッと微笑んだ。

「八重花が言った通りあたしたちの目的は対話です。だから協力してくれるならいつでも戻ってきてもらって構いませんよ。」

「ふん。」

由良は不機嫌そうに顔を背けた。

少なくとも喜び勇んで"Innocent Vision"と合流するつもりがなさそうな由良を見て緑里はホッと安堵のため息を漏らした。

「叶さんたちが万人にとって平和な世界を作るために尽力するならばわたくしはどこまでもお供します。たとえそれが受け継がれし"太宮様"の意志に反しようとも、セイント・太宮院琴は友との契りに従います。」

琴は遂に自らがセイントである事を明かし、琴個人として戦うことを宣言した。

「"Innocent Vision"に再び未来視の力が備わったということですね。」

「八重花たちの戦力に未来視の予言なんて、こりゃとんでもないチームが出来上がったもんだ。」

「なに暢気なこと!?太宮院の巫女さんめ、うちらが誘ったときは嫌がったのに。」

「あれ、神峰先輩、怖いんですか?」

"RGB"と紗香はこんな状況でもいつも通りだ。

それが彼女たちの強みである。

「対話など不要じゃ。その力を妾に明け渡すのが賢き選択と知れ。」

「だったら私は馬鹿でいいです。陸君たちとは違うけど、強い力を求めるだけなら、私たちはその心を断ち切ります。」

「ならばやってみせるがよい!ネフロス!」

オリビアが手を掲げた瞬間、空間に細く細かい糸が雪のように出現した。

それはハラハラと地面に降ってくる。

だが叶は捕われた恐怖を振り払ってしっかりと顔を上げる。

「琴お姉ちゃん!」

「見えていますよ。」

「真奈美ちゃん!」

「あたしにも分かるよ。」

2人のセイントとその力に連なるジュエリストの輝く青き目が魔力の隠る無尽の糸をしっかりと捉えていた。

「フェルメール、この手に。」

琴が無手のまま弓を構えるとその手に群青の弓と瑠璃色の矢が現れた。

「清めたまへ。」

ヒュンと放たれた矢は光の尾を引いて空を駆け、ネフロスを巻き込んで虚空へと飛んでいく。

広域に広がっていた糸が矢に引っ張られることで集まっていた。

「次はあたしだね。アイリス、ビフレスト!」

真奈美はすかさず左手のアイリスを放り上げると両手で光のバット・ビフレストを握り大きなスタンスで体を捻った。

「いっけー、スターフォール!」

真芯で捉えた光球は矢に追い付き、爆発した。

光の礫は飛び散って周囲の糸を消滅させていく。

降りしきる光はまるで流星群のようだった。

散り散りになった糸の真下にはすでに叶が駆け込んでいた。

手にしたオリビンを胸に当て、その手を大きく突き上げた。

「聖なる光!」

オリビンから放たれた強力な光がネフロスを作り上げる見えざる繭を消滅させた。

「くっ、セイントの力がここまでとは!」

光の中でオリビアの苦悶の声がした。

近くにいたオーは強すぎる聖の輝きに消滅していく。

光が晴れたとき、糸は1本たりと地面に落ちてはいなかった。

「妾のグラマリー・ネフロスをいとも容易く。」

「魔女の力がいかに強力であろうと聖の力を持つ3人が相手では厳しいのではないですか?」

琴が上品な笑みを浮かべながら新しい矢をつがえる。

オリビアは答えないが魔の力を扱う魔女や魔剣使いにとってこの3人との戦いは鬼門である。

接近戦闘の真奈美に回復と防御の叶、遠距離射撃の琴で形成される陣形はどの距離でも攻撃が通らず一方的に攻撃される事になる。

オリビアは飛鳥たちを使ってどうにか叶たちを分断しようと考えていた。

「それと、わたくしたちにばかりかまけていて良いのですか?」

ドォン

「ッ!」

琴の指摘と同時にオリビアの背後で爆炎が上がる。

「受けなさい、カペーラ!」

カペーラの担うジオードが真っ赤な炎を火炎放射のように放出し、カペーラが神速の斬撃を放つ。

炎の渦は引き延ばされてしなる長大な太刀となり一撃で群がっていたオーを灰にした。

「トパジオス、わたしにお姉様たちと一緒に戦う力を貸してください!」

紗香が長柄の槍を天に向けると紗香の体が電撃を纏った。

周囲を囲んでいたオーは戦き距離を取る。

「グラマリー、旋閃!」

トパジオスの末端を握り締めた紗香が全力で振り回すと電撃を纏う槍は触れるものすべてを消し炭に変えていく。

「いくぞ、超音破!」

「全力、マルスハンマー!」

あちこちで圧倒的な力で一騎当千の働きをするソーサリスたちがバッタバッタとオーを薙ぎ払っていく。

その光景はなんとか無双のゲームのデモを見ているような状態だった。

武装したオーは生み出すための労力が大きく、それ故にグラマリーとまではいかなくても強力な能力を持つ。

それを木葉の如く薙ぎ倒していくソーサリスたちを見てオリビアは唖然としてしまった。

「茜と飛鳥は何をしておる!?」

周囲を見回せばジュエルの撫子や海原姉妹、美保も連携してオーを狩っている。

そしてその向こうでオリビアの駒は"Akashic Vision"と戦っていた。

「ヒュドラ、アダマスのソーサリスを押し潰せ!」

「オリビア様の援護に!行って、フェムトポアズ!ガンマルミナ!」

飛鳥たちは最初から全力。

九頭の黒光りする怪物が鎌首をもたげ、光を放つ無数の泡が空間に満ち始める。

それでも"Akashic Vision"のソーサリスを相手には役不足だ。

「そんな泡なんてランには…」

「封じなさい、コランダム。」

蘭がオブシディアンを構えて前に出るより早く泡が広がろうとする空間を青い壁が覆い、泡をまとめて閉じ込め茜の斬撃を受け止めた。

「あー!悠莉ちゃん、ひどいー!」

「良いではないですか。たまには私も半場さんにアピールしておきたいですから。」

蘭が子供みたいに頬を膨らませて文句を言うのを悠莉は微笑んで受け流す。

蘭様への畏れは大分薄らいできたようだった。

泡が邪魔でコランダムによる異界の形成は成らないが茜の動きは一瞬で封じられた。

押せば引かれ、力を緩めようとすれば迫ってくるコランダムを相手に砕くこともできず歯噛みする茜を見て陸は肩をすくめた。

「お見事。ソルシエールが復活して力を増したみたいだね。怖い怖い。」

「ふふ、これが半場さんの仕組んだ運命だと言うのなら惚れ直してしまいますよ?」

「まさか。僕はそんなに万能じゃないよ。」

「ふふっ。」

陸の言葉が謙遜か本気か、悠莉はどちらにしても微笑むだけ、その真意は青い境界に守られて見えはしない。

「大変!お兄ちゃんが悪女の毒牙にかかろうとしてる!」

「よそ見をするな、アダマスのソーサリス!」

陸と悠莉のやり取りに意識を向けていた海に向かって飛鳥はヒュドラを振り上げる。

シュン

飛鳥の頭数センチ上を光が走りヒュドラの胴体に線が走る。

「あ?」

ハラリと飛鳥の髪が落ちるのと同時にドォンと激しい音を立ててヒュドラが地面に崩れ落ちた。

「どんなに大きくなろうと固くなろうと、ブリリアントを避けられないグラマリーなんて私の敵にはなり得ない。それすら理解が出来ないなら考えるだけ無駄だから今すぐ消滅させてあげるよ?」

無造作にアダマスを振り回して九頭を消滅させると海は興味を失ったように真の敵に向かって行った。


戦いはオリビアの軍勢とヴァルキリー、"Akashic Vision"、そして"Innocent Vision"の乱戦のはずだったが各組織は結託する会話をする事もなく自然とオーを倒すために協力しあっていた。

オリビアは歯噛みして顔を歪める。

そのオリビアの前に2つで1つのソーサリス、柚木明夜がゆっくりとやって来る。

「柚木、明夜…。夜明けの名を持つ者よ。なぜ妾の邪魔をする?」

「魔女は"人"の世に干渉すべきではない。オニキスはその抑止力。」

「"人"は妾の家畜じゃ。統治せし者が干渉して悪しきことなどあろうはずもない。」

もはや語らう口は持たないとばかりに明夜とアフロディーテが鏡合わせのように構えを取る。


ドゴォーン


戦場の真ん中から爆音が響き渡り、ガシャンガシャンとガラスが割れるような音がした。

それはコランダムが崩れる音だった。

「まさかこれほどの大技を隠していましたか。」

悠莉はとっさに自身の前に新たにコランダムを形成して爆風から身を守っていた。


「スペリオルグラマリー・ダイアスポーラス!」


ドドドドドド

コランダムを突き破った茜はもはや体が泡になったかのように全身に泡を纏っている。

違う。

これまでポアズはダイアスポアから発生していた。

しかしダイアスポーラスは茜の体からも大量のフェムトポアズを吐き出している。

その生成速度は凄まじく瞬く間に火葬場を埋め尽くしていく。

「オリビア様、ここはお引き下さい!」

茜が全身を震わせて叫んだ。

返事を待たず近くにいた悠莉にガンマルミナで斬りかかる。

悠莉は受け止めたが気迫がそのまま力になっているかのようにギリギリと押し込まれる。

「Innocent Visionの運命の中にあるこの戦いに意味はないと言うかのう。妾に背を向けて逃げよと?」

オリビアは苛立ちを隠せない様子だ。

それが駒に指示されたことに対してか、その意見に従おうとしていることにか。

「オリビア様は大願成就のためになくてはならないお方、このような場所で死なせるわけには行きません!」

「ふっ、よくぞ言うた。ならば後詰めは任せる。」

オリビアは戦意を解いて出口に向かう。

「逃がさない。ここで倒す。」

明夜が斬りかかるが

「させない!」

茜が飛び込んできてガードする。

「飛鳥、オリビア様をお願い!」

「くそー!ソーサリス、絶対にみんな殺すからね!」

ヒュドラを地面に叩き付けて目眩ましにして飛鳥とオリビアは撤退していった。

「げほっ、オリビアは逃がしたか。おい、陸たちはどこ行った?」

「半場さんだけでなく"Akashic Vision"もいませんね。撤退したのでしょう。」

「ちっ、相変わらず神出鬼没だな。」

由良は舌打ちをして周囲を巡らすがやはり"Akashic Vision"もいつの間にか姿を眩ませておりどこにも見当たらなかった。

しかし追いかけるわけにもいかない。

抜けるべき道の先に泡の壁が形成されている。

そしてその前にはただ1人残った茜がダイアスポアを手に"Innocent Vision"とヴァルキリーの面々を威嚇していた。

「ここは絶対に通さない、絶対に!」

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