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Akashic Vision  作者: MCFL
118/266

第118話 変わった世界

「羽佐間由良さん。」

由良が一ヶ月前の出来事を思い出していると悠莉に声をかけられた。

目を向けるとヴァルキリーの全員が由良を見ていて、何か話を振られたらしいことに気が付いた。

「悪い、聞いてなかった。」

「本当に悪いわよ!何のためにヴァルキリーに入れてもらってると思ってんのよ?」

美保は由良が見せた弱みをこれでもかと穿る。

由良は余計な弁解はせず言われるがままだ。

『美保さん。羽佐間さんはまだ気持ちの整理がついていないのでしょう。インヴィが敵対し"Innocent Vision"が解散させられたのですから。』

「余計な気遣いは必要ない。それで何の話だったんだ?」

下手に同情されることを嫌った由良はさっさと話を戻しにかかる。

撫子に目を向けると代わりに葵衣が答えた。

「羽佐間様には引き続きソーサリスとの戦闘に警戒していただきます。現在はジュエルクラブへの襲撃が行われていますがいつヴァルハラを直接攻撃してくるか分かりません。」

葵衣が事務的に説明した内容はヴァルキリーには珍しい守りの作戦だった。

(まあ、それもしょうがないか。)




"Innocent Vision"が崩壊した直後

「敵対宣言上等!たった今ぶち殺してあげるわ!」

「生きてたね、アダマス使い。今度こそプチッと潰してあげる!」

ヴァルキリーの神峰美保とオリビアの軍勢の時坂飛鳥が"Akashic Vision"に踊りかかった。

美保は翠色の光刃レイズハートを陸に向けて放ち、飛鳥のモルガナが海を押し潰さんとする。

だが"Akashic Vision"の面々はまったく焦る様子を見せなかった。

「Akashic Vision。」

陸が静かにその名を口にした瞬間、レイズハートとモルガナは互いにぶつかり合っていた。

モルガナの一部がレイズハートによって壊れる。

「ちょっと、飛鳥のモルガナに何てことするのよ!」

「そっちが勝手に割り込んできたんでしょうが!」

美保と飛鳥が突然喧嘩を始めた。

その言い分はまるで互いのグラマリーが陸への攻撃を妨げたという、たった今目の前で起こった現象とは異なるものだった。

「美保さん、相手は強力なグラマリーを持つソーサリスです。ここでいさかいを起こしてはインヴィの思う壺です。」

「飛鳥も。今一番危険なのは間違いなく"Akashic Vision"よ。」

それぞれが撫子と茜に止められる。

「分かってますよ!」

「飛鳥に指図しないでよ!」

両者は不平不満を口にしながらも矛先を"Akashic Vision"に向けた。

「…。」

その様子を悠莉と葵衣、オリビアが怪訝な様子で見ていた。

その間にもヴァルキリーと飛鳥たちはそれぞれに"Akashic Vision"への攻撃を仕掛け始めていた。

「すみませんがヴァルキリーの理想のため、その力を滅ぼさせていただきますよ。プロミネンス!」

"Akashic Vision"を太陽の炎が囲む。

「回りなさい、レイズハート!」

3つの光刃が

「ボクのも回れ!」

6つになって翠の輪を作り上げる。

「全力の一撃、受けきれるかな、インヴィ?」

良子もエアロルビヌスで赤い光と風を纏い攻撃の時を待つ。

「モルガナ、全部潰しちゃえ!」

「ポアズですべて吹き飛ばす!」

飛鳥と茜はヴァルキリーもろとも滅ぼすために触手を振り上げポアズを広域に展開する。

すべての攻撃準備が整い

「いっ…」

全てが爆発しようとした瞬間、


「グラマリー・ディアマンテ。」


静かに海の口がその名を告げた。

だがそれは誰の耳にも届かない。

否、魔女オリビアと"Akashic Vision"だけはその縛りから逃れていた。

陸たちは時間の消滅した世界を悠々と移動して攻撃範囲から逃れた。

「Akashic Vision。」

そして再びAkashic Visionを発動。

それと同時にディアマンテが解除される。

「…っけー!」

それぞれの攻撃は、"Akashic Vision"ではなくヴァルキリーとオリビアの軍勢、互いを狙って発動した。

プロミネンスも光輪も良子の突撃も全てが飛鳥と茜を襲い、巨大な触手と空気爆弾がヴァルキリーに迫る。

「わーー!!」

「きゃーー!」

双方で爆発が起こり互いに吹き飛んだ。

「お嬢様!」

現象に対して警戒していた葵衣も撫子がやられると思考を放棄して助けに走った。

悠莉はそれを微笑みで見送るとその視線を陸に向けた。

図らずもオリビアも同じようにヴァルキリーではなく"Akashic Vision"に目を向けている。

「結果をねじ曲げたのですか。」

「事象の改竄とはやりおるわ。」

悠莉の歪みきって一周したがゆえの屈強な精神あればこそ蘭の幻覚や陸の運命改変を認識できており、オリビアもまた別種のレジストで認識の書き換えを免れていた。

すでにオリビアの軍勢とヴァルキリーは"Akashic Vision"を放置してにらみ合いに発展している。

「人の心すらも操るとは…Akashic Vision、危険です。」

ジュエルを含めたヴァルキリーの大軍勢と飛鳥、茜を筆頭に据えたオーの大群、その横から虎視眈々と漁夫の利を掠めるために待っているような"Akashic Vision"。

様相を変えて大戦が始まろうとしていた。


キィン


その戦場のど真ん中に震える透明な刃が空から降ってきて突き立った。

「うるせぇ!」

怒号がまるで超音振のように空気を震わせてその場にいた全ての者を動けなくさせた。

玻璃の担い手、羽佐間由良は戦場の中心に歩み寄ると乱暴に玻璃を引き抜き、真っ直ぐ陸に向けた。

「陸、お前が何を考えてるのか分からない。だがお前を待ってた"Innocent Vision"を潰してまでやろうとしてることが正しいとは思わない。だから俺は全力でお前らの邪魔をしてやる。そして絶対に一発殴ってやるからな!」

由良の感情の昂りに玻璃が激しく震える。

激情の言葉をぶつけられても陸は薄く笑っているだけだった。

由良は奥歯をかみ締めると玻璃を槍投げの形で握り大きく振り被った。

「宣戦布告代わりだ。持っていけ!」

投石機で打ち出したような速さで放たれた玻璃を

「由良ちゃん、怖い!」

蘭がオブシディアンを前に押し出して防ごうとする。

「あ、蘭さん。それ…」

陸がちょっと慌てた様子で声をかける。

「え、何、りっく…」

ん、と同時に玻璃がオブシディアンに接触し、直後そこから広範囲に超音振が放たれた。

~~~~~~~

音すら飲み込む竜巻のような衝撃が空間を破壊していく。

ヴァルキリーもオリビアの軍勢も、"Innocent Vision"さえ巻き込んだ震動が収まったとき、"Akashic Vision"は姿を消していた。

あれほど溢れていたオーたちもいなくなっている。

由良は膝をついて地面を殴る。

「…ちくしょう。」

その拳の上で一粒の涙が弾けた。




悠莉と由良の証言で自分たちの意思すらねじ曲げられていたことを知った撫子たちは"Akashic Vision"を恐れ、結果として攻勢に出られずにいた。

『本日は少し時間が空きますので夕食を摂りながら今後の方策を細かく練っていこうと思います。何か予定のある方はいらっしゃいますか?』

「別に俺に気を使って飯にまで呼ばなくても構わないぞ?」

方針自体は"Akashic Vision"の出方を窺うという保守的な作戦で決定しているのでは?と由良はほとんど表情を変えずにわずかに首を傾げた。

だが葵衣はそのわずかな変化すら見逃さず常の真面目顔の真面目度を割り増しして立ち上がった。

「羽佐間様には必ずご出席いただきたいのです。予定している議題は極力誰の耳にも入れられない内容…ヴァルキリーの理想に矛盾しかねない内容です。」

重々しい葵衣の言い回しにヴァルキリーの面々も否応なしに緊張する。

寒風が窓を揺らす中、葵衣はその議題を口にした。

「"Innocent Vision"が実施したソルシエール復活計画、それがヴァルキリーに必要かを見定めるための会議です。」




太宮院琴は制服を着て学校に赴いていた。

立場上は学生であるためそれが当然なのだが琴はまったく授業を聞いていない。

一応申し訳程度に開いた教科書の上には"太宮様"の占いを書き綴る折り畳まれた和紙が置いてあった。

周囲の学生はもちろん教師ですら琴が内職しているのは分かっていたが誰も声をかけない。

それは琴の顔が劇画風になるくらい真剣と書いてマジと読む程度だったからだ。

(いったい、何なのでしょうか?)

琴の抱いていた感情を要約すると困惑だった。

だがその中に怒りやら悲しみやら様々な成分が溶け込んでいるため真剣に見えていた。

"太宮様"の卜占には、流れなど無視したハチャメチャな予言が記されていた。

(壱葉高校の校庭に隕石が降ってくる。建川では突風で屋根が飛んで道路に突き刺さる。倉谷モール炎上。)

どう見ても不幸な内容ばかり。

しかもこれはよく見れば占いですらない。

ここに記されている内容の全ては"過程"ではなく"結果"、起こることが確定した形で表記されていた。

(これではまるでInnocent Visionではないですか。)

まだその結果が起こったわけではないので荒唐無稽な嘘である可能性も否定はできないがそれはそれで"太宮様"が異常を来したことになり問題となる。

そしてもしこの卜占が真実となるなら"太宮様"の在り方、もしくはより大きな世界の在り方自体に看過出来ない変化が起こったとも考えられる。

(原因は一つしか考えられませんね。よもや陸さんの持つ魔眼が世界を変容させ得る可能性を有していたとは、わたくしも気付けませんでした。こんなことならいっそのことファブレとの戦いで亡き者にしておけば…)

「…フフ、フフフ…」

「た、太宮院。すまんが静かにしてくれるか、怖いから。」

「…コホン。失礼致しました。」

内なる悪意が面に出ていたことを恥じた琴は簡単に謝罪をして深呼吸を繰り返した。

(すでに陸さんが生き延びた未来を歩んでいる以上、過去の分岐点について悔やんでも仕方のないことです。)

琴が友である陸、そして叶のために救いの道を作ったことに正直悔いはない。

憎まれ口を叩いているが何だかんだで陸が目覚めたことは喜ばしいことだと思っている。

問題はAkashic Visionの魔眼と陸の思想の変化である。

琴は距離が離れていたり破魔の術を施していたためAkashic Visionの効力が効かず、世界改変の姿を屋上から見ていた。

(Innocent Visionの魔石が陸さんの精神を侵食したのでしょうか?しかしあの宣言は極端ながら平和を願う者の言葉。)

少なくとも"Akashic Vision"の告げた魔剣や聖剣が無ければ平和になるという話は大局的に見れば正しい。

すでに魔剣を担う者たちは世界人口に比べれば微々たるもの。

最悪その者たちすべてを殺しジュエルの元凶であるヴァルキリーとソルシエールを生み出す魔女を根絶出来れば世界は陸の言うように見えないところで人が消えていくようなことのない平和になる。

(わたくしも"非日常"に位置する存在の1人。"Akashic Vision"が出てくる前からちょっかいをかけてきたのはヴァルキリーに協力させるためでしたか。)

解散することが決まっていた"Innocent Vision"ではなくヴァルキリーに協力させることでジュエルであるという能力の欠点を底上げさせてオーと対抗させようとした、琴はそう感じた。

そこまで考えて琴は表情を暗くした。

(叶さん。陸さんが目覚められた直後に決別を宣言されてお可哀想に。)

しかも仲良くしていた海も実は"Akashic Vision"の一員だった。

同時に陸と海を失った叶のショックは大きいようで一月経った今もまだ腑抜けてしまっている。

叶や真奈美を狙っていたオリビアが今のところ表立った動きは見せていないのは救いだが、今狙われたら叶は魔女の手に落ちてしまう。

(…少しおかしいですね。叶さんたちを狙っていた魔女が一月も手を出してこないとは。何らかの妨害があるのか、あるいはセイントの力よりも欲するものが見つかったのか。わたくしは叶さんが無事なら構わないですけどね。)

どこまでも叶本意の琴は"Innocent Vision"が解散したことは友として気にはするものの特に再結成を促したりはしない。

ただ叶の心の傷が癒え、願わくは戦いに関わらない平和な人生に戻ってくれればと考えていた。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴った。

結局1時限分丸々考え事をしていた琴は俊敏な動きで荷物を片付ける。

このあと叶を昼食に誘いに行こうと考えていた。

(傷心の叶さんの周りには今は誰もいらっしゃらない。久住裕子さんたちは原因を知らないがために救いの手を差しのべることは出来ない。ならば今叶さんを救えるのは事情に精通しかつ特定の組織に属さないわたくしだけ。これを機会にさらに叶さんと親密になれれば…)

「…クフ、フフフ…。」

「太宮院、病院を紹介してやろうか?」

教師に本気で心配された。

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