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Akashic Vision  作者: MCFL
113/266

第113話 黒の猛攻

「潰れちゃいなさいよ、レベル10、ハイドラ!」

10本の不可視の巨大な触手が校門前の空間を蹂躙していく。

地面は陥没し、立ち並ぶ木々は薙ぎ倒され、さながら大災害の傷痕のようだ。

だが

「きゃー!」

叶にはその不可視であるはずの猛威が見えており

「少しは知恵を絞ってくるかと思ったら前と同じね。」

海は見えていないはずだが的確にモルガナをブリリアントカッターで切り落としていく。

「同じじゃないわ。モルガン!」

切り落とされた触手は飛鳥の声と共に再び実体化すると先端に牙のついた蛇のような怪物に変化した。

10匹の怪物を従えて飛鳥はご満悦の様子だった。

「うわぁ、趣味悪。」

海はげんなりした様子で呟いた。

確かに表面がヌメヌメしていて赤紫色をした半軟体動物はお世辞でもまともな趣味とは言えない。

「本当にムカつくわね。そっちのセイントを見習いなさい。あんなに震えてるじゃない。」

飛鳥が指差した先では叶が震えながら俯いていた。

もともと叶は飛鳥の力に対して恐怖を持っていたのだからそれが進化したことを恐れるのも無理はない。

(叶ちゃんの手は煩わせないよ。私が全部消し去ってあげる。)

声には出さず行動の指針を決定した海はアダマスを構え直して


「いーやーーー!!」


突然の叶の大絶叫にタイミングを逸した。

「な、何?」

飛鳥ですら何事かと目をぱちくりさせている。

叶は本気で泣きながらオリビンを振り回していた。

「わた、私、そういう虫とか駄目なんです!」

「虫!?失礼な!これは蛇…」

「いやー!!近づけないでくださーい!」

寄っていったモルガンがオリビンにズパッと斬られた。

いくら耐久力が上がったとはいえシンボルの攻撃に耐えられるわけもなくモルガンは消滅した。

「何するのよ!?モルガン、まずはあのセイントをやっちゃって!」

いきなりモルガンがやられたことで怒った飛鳥は残り9匹のモルガンを叶に向かわせる。

「きゃわーー!!」

ニュルニュルヌメヌメが大挙して押し寄せてくる光景に叶の理性が崩壊した。

窮鼠猫を噛むが如く出鱈目にオリビンを振り回しながらモルガンの中に自ら突っ込んでいく。

「いーやーーー!!」

セイントの高い防御フィールドと垂れ流される聖なる光でモルガンの動きを封じてはなます斬りにしていく。

「嫌なら近づくんじゃないわよ!」

飛鳥は正論を叫ぶがテンパった人間に理屈は通用しないのである。

「こーなーいーでーー!」

来るなと叫びながら自分から突っ込んでいくバーサーカー叶。

「私の決意と出番は?」

それを海は呆然と見つめていた。


「うえーん、怖かったよ。」

「あーよしよし。」

叶が泣きながら地面に座り込んでしまった時、周囲には一匹のモルガンも存在していなかった。

恐るべき聖剣の力だがどっちかというと叶がすごいように思える。

「こっちの方が怖かったわよ!」

そしてせっかくの新グラマリーをズタズタにされた飛鳥も怒りより止まった事への安堵の色が強かった。

まだぐずる叶を撫でた海が立ち上がって飛鳥にアダマスを向ける。

「せっかくの新技だけど叶ちゃんが怖がるから無しね。」

「…飛鳥だってあそこまで一方的にやられるのを見たら出せないわよ。」

泣き叫ばれるわ惨殺されるわではトラウマになりかねない。

飛鳥は再びモーリオンを振り上げるとモルガナを出現させた。

叶は怯えを見せたものの錯乱まではしなかった。

「いい加減新しい技とか見せてくれないかな?」

「ブリリアントしか使わないやつに言われたくない!」

本当に反りが合わないらしく言動一つ一つで口論している海と飛鳥。

いつもは怒りに任せて飛鳥が攻撃を仕掛けているところだが今日はフフンと得意気に笑った。

「別にモルガンだけじゃないし。見せてあげようじゃない、新しい技。」




「オーッ!」

「あんたらは"Innocent Vision"を攻撃してなさいよ!」

「邪魔だ、殺すぞ。」

由良と真奈美、"RGB"、そしてオーの三つ巴は黒い波の中だった。

見た目以上にオーが大量に待機していたのだ。

それを暴れさせてしまったため周りはオーだらけになっていた。

「スピネル、蹴散らすよ!」

光を纏った剣の義足スピネルが上段蹴りで放たれ、その軌線上にいたオーが分断されて消滅していく。

オーに対しては真奈美のセイバーの力が圧倒的に優位に働いていた。

魔法の杖を振るかのごとくオーが消えていく。

そしてちゃっかり悠莉が真奈美の後ろという安全圏を確保している。

「別にいいんだけどヴァルキリー的にいいの?」

「構いません。美保さんの行動のとばっちりを受けるのは嫌ですから。」

一応真奈美の背後をコランダムで守っているのでギブアンドテイクの関係は成立しているが

「悠莉!こっちに来なさいよ!」

美保がオーを蹴散らしながら怒鳴っていた。

「悠莉は相変わらず世渡り上手だな。」

「感心してる場合ですか!あー、オー邪魔!」

「まったく余計な事しやがって!」

怒鳴り声の会話はされているがオーが多すぎて相手の顔が全く見えていない。

声のする方角に攻撃しても聞こえてくるのはオーという悲鳴だけだった。

「あーもー!誰かこの状況を一発でぶっ飛ばせるグラマリーはないの?」

美保がいつまで経っても減らないオーの対応に焦れて叫んだ。

だがソルシエールのスマラグドならまだしもジュエルのスマラグド・ベリロスではレイズハートの数が足りず、真奈美のスピネルや良子のラトナラジュ・アルミナは単体攻撃力重視、悠莉に至っては攻撃は実質的にはない。

つまりさっきの言葉はただ1人に向けられていたに等しい。

「なんだ?超音振ぶっ放していいのか?」

由良の持つソルシエール・玻璃の広域殲滅グラマリー・超音振を使えばこれだけの密集状態を一撃で吹き飛ばすことは可能だ。

だがそれはオーだけでなく"RGB"、果ては真奈美まで巻き込む結果を生む。

時坂飛鳥という本命がまだ残っている現状で真奈美を失うのは戦力的に…というか仲間をぶっ飛ばすのは人道的にまずい気がした。

「駄目だけど、これはさすがになんとかしないとさすがにヤバイわよ!」

自分で撒いた種に絡め取られかけている美保の言うように溢れ出したオーは本格的に皆を飲み込もうとしていた。

もはや相手をしているのは1匹1匹ではなくオーという群体と言えた。

それは黒きアメーバが餌として由良たちを飲み込もうとしている姿に似ていた。

「確かにこれじゃあまともに身動きも取れやしないな。だったら皆、俺のところに集まれ!」

「何か手がおありのようですね。芦屋さん、行きましょう。コランダム、ブレイク。」

悠莉が展開していたコランダムを爆砕させて周辺にいたオーを退ける。

わずかに空間が開いた隙間を足場に真奈美は飛び上がった。

「スピナアロー!」

低空の流星は光の尾を引いて由良への道を切り開いていく。

悠莉はそこをゆっくりと歩いていく。

「その道、貰った!」

悠莉の横を赤い閃光が駆け抜けた。

オーとおしくらまんじゅうしていた良子が作り上げられた道に飛び込んできたのだ。

と思ったら急停止して戻ってきた。

悠莉の後ろにあった道はすでにオー埋め尽くされている。

「お客さん、乗ってくかい?」

「それではお願いします。」

良子は悠莉をお姫さま抱っこすると細くなった光の道をデュアルジュエル・エアロルビヌスで突き抜けた。

良子から降りた悠莉はわずかに乱れた髪を直しながら由良に微笑みかけた。

「これで全員ですね。」

「ちょっ、悠莉!?」

オーの海の向こうから非難の声が聞こえてきたような気がしたが悠莉は取り合わない。

「あちゃー、こりゃ悠莉、オーにちょっかい出したこと怒ってるね。」

「うふふ、何の事でしょう?」

悠莉は微笑んでいるが微妙に目が笑っていない。

「別に俺はどっちでも構わないんだが、いいんだな?」

「はい。」

「良くないわよ!」

美保は叫ぶだけで全然近づいてこない。

弾数制限のあるレイズハートではオーの大群の怒濤を押さえきれないため前に進めないのである。

「それじゃあ行くぞ、横震波!」

由良が大きく玻璃を半円を描くように振るうと眼前の空間が震えてオーが動きを止めた。

空気の密度の違いでドーム状の空間が見え、オーはそこに閉じ込められる形になっている。

由良は突きの構えを取る。

振動の方向が普段と違うため、さながら玻璃が鼓動しているように断続的な震えを見せる。

「はっ!」

玻璃がその空気のドームに突き立てられる。

「ぶち壊せ、超音破!」

玻璃から縦震波が叩き込まれた直後、ドームの内部には縦波と横波が同時に襲いかかる超分子振動の空間が生まれた。

ギャギャギャギャと空気が軋むような音を響かせて空間が暴れ、内部にいるものが突然崩れ落ち、弾け飛んだ。

高エネルギーを内包した振動が体組織を崩壊させていく。

「-----!!」

断末魔の声すら空気の支配された空間では許されずただ消え行くのみ。

超音破が消滅した時、あれだけ埋め尽くすように存在していたオーの黒は綺麗になくなっていた。

パキン

そして、3枚のコランダムで守られていた美保は極度の恐怖か超音破の影響か目を回して気絶していた。

「これで少しは懲りてくれると良いんですが。」

「それでオーはいなくなったわけだが2対2でやるか?」

由良が玻璃を肩に担いで問う。

悠莉が目を向けると良子は肩を竦めた。

さすがに今のを見せられた後に真奈美込みで戦う気はないらしい。

「オーがあれだけ存在しているということは他の方々も苦戦しているはずです。救援に向かいましょう。」

「そういうことにしておくか。」

由良たちはすぐに校門前に向かっていき悠莉は美保の頬を叩いて起こしていた。




「はあ、はあ。」

茜はダイアスポアを支えにして立ちながら荒い息をしていた。

「強い。まだドルーズが復活してないのに、どうして…」

まだ本調子に戻っていないジオードとは違いダイアスポアはソルシエールの力を発揮している。

だというのに優勢なのは八重花だった。

八重花は赤い炎を体の周りに帯のように纏いながら冷たい目を茜に向ける。

「確かにそのソルシエールは強力ね。だけど魔剣に振り回されている相手に後れを取るほどソーサリスは落ちぶれてないわ。」

八重花を含めた"Innocent Vision"やヴァルキリーのソーサリスたちは手に入れた魔剣の力を引き出すために様々なグラマリーを編み出した。

そして"Innocent Vision"は力の低下したソルシエールで戦うためにより有効なグラマリーの使い方を考案してきた。

それが由良の超音破や八重花のバックドラフトとして表れている。

だが茜はソルシエールを手に入れて日が浅いのか強力なグラマリーを扱うだけ、強い力を振り回しているだけで魔剣に振り回されていた。

「その程度で私を倒すつもりだったのかしら?」

茜がキッと八重花を睨む。

「誰もソルシエールを使い方を教えてくれなかったから!」

ヴァルキリーを辞めた八重花への批難を孕んだ言葉だったが八重花はむしろ目の冷たさを増した。

「ソーサリスは皆自分で自分の力を開発しているのよ?誰かに教えてもらおうだなんて、ジュエルの気分が抜けてないんじゃない?」

ソルシエールは個々の個性を反映した魔剣。

体系的な制御を目的としたジュエルとは似て非なるもの。

「殺す、絶対に殺して八重花さんを超えたことを思い知らせてやる!」

殺されたら思い知れないとのツッコミは止めた。

今の茜は魔剣の衝動に取り込まれて殺すことを前提にしか物事を考えていない。

八重花は以前葵衣がセレスタイトで使ったように炎を鞘に見立てて腰だめに構えた。

「超えてみなさい。そうしたら名前を覚えてあげるわ、オーのソーサリス。」

「わああああ!」

遂には名前すら呼ばれなくなったことに茜は絶叫して光を宿したダイアスポアを振り上げ

「フッ!」

それよりも早く八重花はジオードを鞘走りさせて振り抜いた。

距離にして1メートルはあった普通なら当たるはずのない斬撃。

ガクッ

だが茜は崩れ落ちた。

「頭に血が昇りすぎよ。酸欠注意。」

八重花は炎の燃焼で酸欠にさせて茜を倒した。

気を失った茜を見下ろす八重花の目は優しい。

「そのうち助けてあげるから、死ぬんじゃないわよ?」

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